大規模成長投資補助金とは(2026年)― 賃上げと投資が牽引する成長型経済に向けた制度整理

なぜ今、大規模な成長投資が求められているのか

政府の経済政策や予算方針では、近年、
「賃上げと投資が牽引する成長型経済への移行」**が重要な柱として位置づけられています。

物価動向や国際環境の変化を背景に、
企業の付加価値創出力や生産性を高め、
その成果を賃金や雇用の改善につなげていくことが、
日本経済全体の持続的な成長にとって不可欠である、
という認識が繰り返し示されています。

また、政策文脈では、
国内投資の拡大による生産性向上や供給力の強化が強調されています。
人手不足や供給制約が多くの分野で顕在化する中で、
省力化やデジタル化を含む投資を通じて、
経済の基盤そのものを強化していく必要性が意識されています。

さらに、サプライチェーンの安定性や経済安全保障の観点からも、
国内の生産・供給体制を強化することが、
中長期的な政策課題として位置づけられています。

こうした考え方のもとで、政府は、
民間企業による投資を起点として、
生産性の向上、付加価値の拡大、賃上げを一体的に実現する

という方向性を、経済対策や予算を通じて示しています。

大規模成長投資補助金は、
この流れの中で設計された制度の一つです。


大規模成長投資補助金とはどのような制度か

(2026年・第5次公募ベース)

大規模成長投資補助金(第5次公募)は、
中堅・中小・スタートアップ企業が、持続的な賃上げを目的として、
省力化等による労働生産性の抜本的な向上と事業規模の拡大を図るために行う
大規模な設備投資を支援する制度
です。

対象となるのは、工場や生産拠点等の新設・増設、
それに伴う機械装置やソフトウェアの導入など、
一定規模以上の成長投資です。

制度の主な枠組みは、次のように整理されています。

  • 補助上限額:50億円
  • 補助率:1/3以下
  • 補助事業期間:交付決定日から最長で2028年12月末まで
  • 対象者:常時使用する従業員数2,000人以下の中堅・中小・スタートアップ企業
    (※みなし大企業は対象外。一定の条件を満たす場合、複数企業によるコンソーシアム申請も可能)

投資額については、
原則として20億円以上(補助対象経費ベース)が求められています。
ただし、「100億宣言企業」については、
15億円以上とする特例が設けられています。

また、本制度では、
賃上げに関する要件が明確に設定されている点が特徴です。

補助事業完了後の3年間において、
対象事業に関わる従業員等1人当たり給与支給総額について、
年平均5.0%以上の上昇が求められます
(100億宣言企業の場合は、年平均4.5%以上)。

これらの要件を満たさない場合には、
補助金の返還が求められる可能性があることも、
制度上あらかじめ示されています。


国は、この制度を通じて何を実現しようとしているのか

大規模成長投資補助金は、
単に大きな設備投資を支援するための制度ではありません。

政府の経済対策や経済産業省の予算資料では、
投資を起点として、複数の成果が連動して生まれる状態をつくることが、
制度設計の前提として示されています。

具体的には、

  • 付加価値の拡大による 売上や収益力の強化
  • 省力化やデジタル化を通じた 労働生産性の向上
  • 成果の一部を原資とした 賃上げや給与支給総額の増加
  • 投資を通じた 地域経済への波及
  • 国内の生産・供給体制の強化による 供給力・経済安全保障の向上

といった要素が、
個別ではなく、一体として実現されることが想定されています。

補助金は、こうした成果そのものを直接生み出すための目的ではなく、
企業が踏み込んだ成長投資を検討・実行しやすくするための
後押しの手段として位置づけられています。

そのため、本制度を理解するうえでは、
「補助金額」や「要件」だけでなく、
どのような成長の姿が政策として描かれているのかを整理することが、
重要な視点になります。

審査では、どのような点が重視されているのか

大規模成長投資補助金の審査では、
投資額の大きさそのものよりも、
投資によって企業や事業がどのように変わるのかが重視されています。

公式資料では、審査項目として、

  • 経営力
  • 成長性・先進性
  • 投資規模や費用対効果
  • 地域経済や雇用への波及
  • 計画の実現可能性

といった観点が示されています。

これらを整理すると、審査の中心にあるのは、

この投資が、売上・生産性・付加価値・賃金の向上に
どのようにつながっていくのかを、
第三者である審査員が理解・納得できる形で説明できているか

という点だと捉えることができます。

設備やシステムの内容そのものよりも、
投資の前後で、事業や経営の前提がどう変わるのかが、
一貫したストーリーとして整理されているかどうかが問われています。


採択データから見える「目標水準」の考え方

事務局から公表されている採択データ(第4次公募)には、
採択企業と申請者全体の指標を比較した 中央値データ が示されています。

これらの数値は、
「この水準を満たせば採択される」という基準を示すものではありません。
一方で、

制度として、どの程度の成長を見込む投資が想定されているのか
審査員が、どのような水準感で計画を読んでいる可能性があるのか

を理解するための参考資料として位置づけることができます。

以下は、採択企業と申請者全体の中央値を比較したものです。


指標採択企業の中央値申請者全体の中央値
全社年平均売上高成長率17%/年14%/年
全社売上高増加額+61.3億円+38.5億円
補助事業年平均売上高成長率26%/年22%/年
補助事業売上高増加額+53.5億円+31.3億円
補助事業年平均労働生産性伸び30%/年25%/年
補助事業付加価値増加額+21.1億円+12.9億円
年平均従業員目標賃上げ率6.5%/年6.5%/年
従業員給与支給総額の増加額+2.9億円+2.0億円
補助金額に対する付加価値増加額割合209%169%
ローカルベンチマーク得点22点22点

(出典:大規模成長投資補助金 第4次公募 採択者指標・中央値データ)


このデータをどう読むべきか

この表から分かるのは、
単に「売上が大きい企業が採択されている」ということではありません。

採択企業の計画では、

  • 投資対象事業において、
    数年単位で売上や付加価値が大きく伸びる前提が置かれている
  • 生産性についても、
    段階的ではなく、構造的に改善する前提で整理されている
  • 賃上げについては、
    制度要件を満たすだけでなく、
    事業成長と整合する形で給与支給総額の増加が説明されている

といった傾向が見て取れます。

重要なのは、
これらの数値そのものではなく、

なぜ、この投資でこれだけの成長が見込めるのか
その前提に無理がないか

を、審査員が理解できる形で説明できているかどうかです。


問われる「ストーリーの一貫性」

大規模成長投資補助金では、
比較的高い成長目標が計画上置かれる傾向があります。

ただし、それは
「高い数字を掲げればよい」という意味ではありません。

  • 投資によって、どの工程や機能がどう変わるのか
  • それが生産能力・生産性・付加価値にどう影響するのか
  • その成果が、売上や賃金にどう波及するのか

こうした流れが、
一つのストーリーとして無理なくつながっているかが重要になります。

審査では、
個々の数字よりも、
数字同士の関係性や前提の整合性が見られていると整理できます。


本制度と向き合う際の考え方

大規模成長投資補助金は、
単に補助金を活用することを目的とした制度ではありません。

  • 自社の事業や供給力を、どのように変えたいのか
  • その変化を、売上・生産性・賃金とどう結びつけるのか
  • その説明を、第三者が納得できる形で整理できるか

こうした点を考えること自体が、
制度を検討するうえでの重要なプロセスになります。

採択されるかどうか以前に、
この投資が、自社の成長戦略として妥当かどうか
を整理することが、結果的に最も重要になります。