「経営者は孤独」とよく言われます。
中小企業の経営者は最終的な意思決定を自身で行うため、ある程度この言葉は真実でしょう。
一方で「経営相談をできる相手」がいるか否かで、経営者の孤独の大きさもだいぶ違ってくるのではないでしょうか。
さらに経営相談を行っている会社とそうでない会社では、経営状況にも差が出ていることを示すデータもあります。
この記事では、中小企業における経営相談の効果をお伝えした上で、経営課題別に適する相談相手は誰なのか、また経営相談相手を選ぶポイントや方法もお伝えします。
中小企業の経営相談の効果とは?
経営相談あり企業の方が増益
そもそも、経営相談をする効果はあるのでしょうか?
より具体的には、以下のグラフの通り
経営相談「あり」の企業が「なし」の企業と比べて「増益傾向」と回答した企業が5ポイントほど高く、
「減益傾向」と回答した企業は10ポイント以上低い、という結果でした。
※n=7856、うち経営相談ありの企業n=2836, 経営相談なしの企業n=5020
(中小企業庁委託「中小企業の経営者の事業判断に関する実態調査」(2011年12月)より経営者コネクト作成)
なお、このデータは2011年12月のもので、リーマンショック後・東日本大震災が発生した年の厳しい事業環境下であることも影響して、減益傾向の企業が多い印象です。
やや古いデータですが、新型コロナインフルエンザの影響が経済にも強い現在も、企業にとって厳しい環境であることは共通しており、「不況下でも経営相談を行っている企業の方が、経営が向上している」点が参考にできそうです。
「経営相談先は必要」が過半数
では、中小企業の経営者は、実際に「経営相談」を必要と考えているのでしょうか?
ある調査によれば、経営者が外部のパートナーに相談をしたいと考えている割合は、「ぜひ相談したい」「何か解決できないことができたら相談したい」を合わせて50%を超えています。
(n=376)
(マネジメントクラブ調査結果より経営者コネクト作成)
中小企業経営者の1/4が「外部専門家を最も信頼」、1/3は「相談相手がいない」
一方で、経営者は実際には誰に相談しているのでしょうか?
経営者・自営業者の「会社経営における最も信頼できる相談相手は誰か?」についての調査もあります。
これよれば、外部の専門家を「最も信頼できる相談相手」と回答した経営者は26%と、1/4強でした。
外部の専門家の中では税理士・会計士が圧倒的に多い15%、それ以外では弁護士、経営顧問やコンサルタント、金融機関、商工会などが相談相手とされていました。
一方で、信頼できる相談相手が「いない」と回答した経営者も1/3もいます。
かなり多くの経営者が、自分一人で意思決定をしていることがわかります。
また専門家以外の相談相手として、家族や社内、経営者仲間なども比較的大きな割合を示しています。
これらの回答者の中にも、信頼できる専門家を見つけられていない経営者が多く含まれるでしょう。
(n=376)
(マネジメントクラブ調査結果より経営者コネクト作成)
経営課題ごとに適する相談相手は?
ここまでで、中小企業の主な経営相談先が、税理士や弁護士、経営顧問やコンサルタント、金融機関、商工会などがであることがわかりました。
それでは、どんな時にどのような相手に相談すればよいのでしょうか?
ここからは、経営者が抱える課題別に、適する相談相手を紹介していきます。
中小企業の重要な経営課題とは?
そもそも、中小企業にとって重要な経営課題とは何なのでしょうか?
日本能率協会の調査によれば、中小企業の「経営課題」ランキングは
1位:人材、2位:売上・シェア、3位:新事業、4位;収益性、5位:技術・研究でした。
(n=98、2018年調査)
出典:日本能率協会調査より経営者コネクト作成
中小企業の経営課題1位は、採用・教育を含めた人材の強化という結果でした。
この調査は2018年時点のものであり、採用面で人材の売り手市場であったことから、中小企業にとっては採用課題が特に大きく感じられた面もあるかもしれません。
それでも中小企業は、雇用条件、認知度、経営の安定度等の面で、大企業に比べて採用競争力を持たないことが多く、人材の採用・育成が重要な課題であることは間違いありません。
2位は売上・シェア拡大に向けた販路開拓や、
3位の新製品・新サービス・新事業の開発を通じた下請構造からの脱却・経営安定化も
多くの中小企業で、常に非常に重要なテーマとなっています。
業種別に重視される経営課題は異なるのか?
中小企業の業種によって、特に重視する経営課題に違いはあるのでしょうか?
業種別に重要な経営課題をたずねた調査では、以下のように、業種によって多少の順位の差がみられました。
(先の日本能率協会の調査とは、質問対象や選択肢が異なっています)
- 飲食業、建設業、運輸業、福祉業など・・・「人材」が最重要
- 製造業、小売業、卸売業、医療業など・・・「顧客開拓」が最重要
労働集約的な事業構造の企業ほど、人材の課題がより重要であることがわかります。
これらの「中小企業が重視する経営課題」を踏まえて、課題別に相談すべき外部専門家を紹介していきます。
「人材の管理・育成」の経営相談なら「社労士・人事系コンサル」
経営課題ランキングでも1位となることの多い「人材」の課題は、誰に相談すべきでしょうか?
大きく分けて「採用まで」の課題と「採用後」の課題に分かれます。
「採用後」については、以下のようなテーマについて、相談相手・サポート担当が必要となります。
- 入社退社手続き
- 人材育成
- 人事制度作成
- 給与計算
- 労務、社会保険手続き
これらの専門家としては、まず「社労士」が頼りになります。
社労士の専門範囲は多岐にわたりますが、特に以下の2種類の業務は、社労士のみが行える独占業務です。
- 労働諸法令に基づき提出が義務付けられている各種申請書などの作成・提出(1号業務)
- 労働者名簿や賃金台帳等の帳簿作成(2号業務)
これら1号・2号を除く、労務コンサルティングや人事諸制度設計などについては、
人事コンサルティング会社や中小企業診断士などもそれぞれの視点からサポートしています。
一方で、就業規則の改定などの社労士独占業務とセットになることの多い「人材関係」の各種コンサルティングは、
これらの分野に強い社労士に頼むことができれば、効率的・効果的に行うことができるでしょう。
ご相談の方は、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
また、社労士に依頼できる内容の詳細や、社労士を選ぶ方法については、こちらの記事も参考にしてください。
社労士=社会保険労務士には何を頼めるの?依頼内容や依頼先の選び方も紹介
また、「人材の採用」の相談なら、ハローワークや人材紹介会社を活用するのが一般的ですが、これら求人すべき人材像の明確化や自社紹介のアピールポイントの検討は非常に重要です。
これらについても社労士や人事コンサルタントに相談することで、求人から社内での育成まで、一気通貫した取り組みで「人材強化」を実現できます。
「売上拡大・販路開拓」の経営相談なら「商工会・メインバンク」
「人材」の課題と並んで、多くの中小企業が重要な課題と考える「売上拡大・販路開拓」は誰に相談すべきでしょうか?
中小企業白書が、「営業・販路開拓」についての中小企業の相談先を調査しています。
これによれば、専門家や支援機関における営業・販路開拓の相談先は以下の順位で多いそうです。
1位 メインバンク(9.4%)
2位 商工会・商工会議所(9.1%)
3位 経営コンサルタント(8.2%)
(n=667、複数選択式)
出典:中小企業白書
経営コンサルタントはもちろんですが、金融機関や商工会などの、普段付き合いのある機関への相談も有効そうです。
一方で、営業・販路開拓については「同業種の経営者(25%)」や「取引先(29%)」へ相談している経営者の方が、専門家や支援機関へ相談している企業よりずっと多く、外部専門家への相談がそれほど活発ではない分野とも言えそうです。
「資金調達・収益改善」の経営相談なら「金融機関・税理士/会計士」
企業経営に「お金」の課題は常につきまといます。これらは誰に相談すべきでしょうか?
先ほどと同じ中小企業白書の調査によれば、「資金調達」の相談先は以下の順で多いそうです。
(n=663、複数選択式)
出典:中小企業白書
顧問税理士であれば、会社の財務状況・経営状態をよく分かっているため、相談をしやすく、また適切な回答をもらえる安心感がありますね。
また融資の相談であれば、メインバンクをはじめとする金融機関への相談は必須です。
一方で、中小企業の資金調達方法には、融資以外にも補助金・助成金など、様々です。
また補助金・助成金は、申請して採択される必要がありますが、返済の必要がないという大きなメリットがあります。
【ものづくり補助金まとめ】制度概要や申請方法、採択結果などわかりやすく解説【2021年度版】
感染症拡大による経済社会の変化に対応するため、新分野展開や業態・事業・業種転換等を検討される企業様は、ぜひ次の記事もお読みください。
【事業再構築補助金まとめ】制度概要や申請できる企業、申請方法、採択結果などすべて解説
銀行融資以外の資金調達については、以下の記事でも詳しく説明していますので、関心のある方は参考にしてください。
中小企業の資金調達の実態とは?銀行以外の資金調達方法も紹介!
「事業承継・M&A」の経営相談なら「税理士・金融機関・M&A支援企業」
事業承継を考えた経営者は、以下の通り、税理士や金融機関に相談をするケースが多いようです。
出典:中小企業白書(2017)
事業承継の前に会社の財務状況を把握は必須であること、事業承継時には納税の問題が必ず関わってくることから、顧問税理士への相談は必須と言えるでしょう。
また、銀行から融資を受けている際には、事業承継の方法によらず、取引銀行との調整も必ず必要になります。
一方で、事業承継を親族内承継や社内承継ではなくM&Aによって行う場合には、仲介業者やアドバイザリー企業と言ったM&A支援企業への相談が必要になるケースが多くあります。
そこで、どのようなサポートを受けられるのか、仲介会社とアドバイザリー企業の役割の違いが何なのかを理解することは重要です。
この記事でも説明していますので、参考にしてください。
https://keieisha-connect.com/dev/2020/08/13/%ef%bd%8d%ef%bc%86%ef%bd%81%e3%81%ae%e4%bb%b2%e4%bb%8b%e4%bc%9a%e7%a4%be%e3%82%84%e3%82%a2%e3%83%89%e3%83%90%e3%82%a4%e3%82%b6%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%81%ae%e5%bd%b9%e5%89%b2%e3%82%84%e9%81%95%e3%81%84/
事業承継の方法や後継者が決まっていなくても、まずは無料相談が可能です。
お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
中小企業が経営相談先を選ぶポイント
経営相談先を探すときに重視すべきポイント
では、中小企業の経営者は何をポイントに相談先を選んでいるのでしょうか?
中小企業白書で調査された「経営者が相談先に期待する能力・素養」は以下の通りでした。
1位 専門的な知識・ノウハウ(51%)
2位 財務・会計の知識(49%)
3位 信頼感・秘密保持(44%)
4位 幅広い人脈やネットワーク(42%)
5位 具体的な提案能力(42%)
(n=727、複数回答式)
出典:中小企業白書より1部抜粋
専門分野的なスキルを満たした上で、信頼感や人脈、提案力といった基礎スキルも持った相談相手が求められていることがわかります。
中小企業の経営者が相談相手を探す方法
さらに、中小企業の経営者が相談先を探す方法を、以下にまとめました。
知人・専門家経由で紹介してもらう
知人の経営者が経営相談を行っていたり、すでに自身に別分野の相談相手がいる場合には、必要な専門家を紹介してもらえることがあります。
特に経営コンサルタントは知人経由で探すことが多いようです。
税理士や弁護士等の士業の方から紹介してもらえるケースもあります。
商工会・商工会議所に相談する
商工会議所に相談したい場合、各地域の商工会議所には相談窓口が設けられています。
創業、事業承継、法律、海外ビジネス、IT、融資等、多岐にわたって相談できる内容があり、相談料も無料〜手頃なことが多いため、経営課題がある場合には調べてみましょう。
例えば東京・大阪の商工会議所であれば、下記から各々のHPを見ることができます。
また、各地方自治やその連携機関でも無料の相談窓口が設けられていることもありますので、調べてみましょう。
金融機関に相談する
メインバンク等であれば、取引の担当者がいることが多いので、その担当者に相談してみましょう。
担当者への相談が行いにくい場合や、取引をあまり行っていない金融機関については、経営相談や経営診断窓口を設置しているかどうか、調べたり問い合わせてみることをお勧めします。
ネットで探す
インターネット検索やSNS等でも、様々な専門家を探す方法もあります。
専門家の紹介サービスも多数あり、以下などの有名どころを試してみるのも良いでしょう。
まとめ
この記事では、以下についてお伝えしてきました。
- 中小経営の経営者にとって経営相談は効果的
(経営相談を行っている企業の方が増益しているケースが多い) - 中小企業経営者の過半数が「経営課題の相談相手が欲しい」と考えている
一方で、1/3の経営者には信頼できる相談相手がいない - 中小企業の経営課題別に、以下の専門家・機関への相談がお勧め
●人材関連なら「社労士、人事系コンサル」
●売上・販路拡大なら「商工会・メインバンク」
●資金調達・収益改善なら「金融機関・税理士/会計士」
●事業承継・M&Aなら「税理士・金融機関・M&A支援企業」 - 経営相談先を選ぶ際は、専門分野的なスキルだけでなく、信頼感や人脈、提案力といった基礎スキルも要確認
- 経営相談先を探す際には、様々な方法がある
●知人・専門家による紹介
●商工会や金融機関の担当者・相談窓口
●インターネットによるSNS・紹介サービスの利用
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