資金繰りに困った時の選択肢として「融資」を思い浮かべることが多いと思いますが、借入実績のない企業がいきなり民間の金融機関からの融資を受けるのは、難易度が高いものです。
特に業歴が短く、業績があまり良くない状態だと、返済できない可能性があるかもしれないという懸念から融資を断られる可能性が高くなります。
しかし、事業規模が小さく業績が良くない場合にも利用できる「マル経融資」という融資制度があります。
商工会議所の経営指導を受け、推薦を得た場合に申し込める融資となるため、一般的な融資よりも審査に通りやすい傾向にあるのです。
この記事では、マル経融資のメリットや利用できる条件、申し込み方法をご紹介します。
マル経融資のメリット
マル経融資とは日本政策金融公庫による「小規模事業者経営改善資金融資」の通称です。
マル経融資の最大のメリットは「融資を受けやすい」こと「金利が低い」ことです。
以下で具体的に紹介していきます。
小規模事業者かつ、次に紹介する要件を満たす場合に融資を受けることができます。
貸付限度額は2,000万円
マル経融資の貸付限度額は2,000万円です。
運転資金として借入を行う場合の返済期限は7年間で、据置期間は1年以内であれば設定できます。
また、設備資金として借入を行う場合の返済期限は10年間で、据置期間は2年以内を設定できます。
保証人・担保は必要ない
マル経融資では、保証人や担保を設定する必要がありません。
民間の金融機関からの融資においては、小規模事業者であれば必ずと言って良いほど不動産や定期預金などの担保の差し入れが必要になります。
そのため業歴が短く、所有する資産がない場合でも借入ができるのはありがたいポイントです。
また、保証協会の保証も必要ないので、保証料を支払う必要もありません。
赤字でもマル経融資は利用できる
一般的に赤字の企業に対する融資は非常に厳しいものです。
しかしマル経融資は、のちほどお伝えする通り「経営指導員の指導のもと経営改善に取り組んでいる企業に対する融資」のため、赤字でも融資を受けられることがあります。
足元の赤字は一過性のものにすぎず、黒字化できる計画があることをきちんと説明することで融資が受けられる可能性が上がるようです。
たとえば、販路拡大などで売り上げアップの見込みがあり黒字化を見込んでいる、経費削減などを行い黒字化できるなどです。
融資を受ける場合には、将来的に黒字化してそれにより返済原資ができるという証明をすることが大切なのです。
金利は非常に低い
マル経融資の金利は、日本政策金融公庫の設定する「特別金利F」が適用されます。
この特別金利Fの利率は、令和2年6月1日現在で年利1.21%です。
小規模事業者が無保証・無担保で利用できる融資としては非常に低い金利水準といえます。
マル経融資を利用できる条件
このように、保証人・担保が必要なく低い金利で融資を受けられる「マル経融資」ですが、受けるには一定の条件を満たす必要があります。以下でその条件を見ていきます。
対象となる「小規模事業者」とは?
マル経融資の対象となる小規模事業者とは、常時使用する従業員が20人以下(宿泊業と娯楽業を除く商業・サービス業にあっては5人以下の法人・個人事業主)の場合を指します。
商工会議所の指導を半年以上受ける
マル経融資を利用できるのは、最近1年以上、所属する商工会議所地区内で事業を行っている場合に限られます。(商工会地区の方は「商工会地区内」)
また、商工会議所の経営・金融に関する指導を原則6か月以上受けており、事業改善に取り組んでいる必要があります。(商工会地区の方は商工会の経営指導となります)
経営指導員は、各商工会議所などに採用された職員で、税理士・中小企業診断士などの資格保有者が選ばれることが多いようです。
この経営指導は無料で受けることができます。
経営指導を無料で受けることができ、さらにメリットの大きな融資を受けられる可能性が高まるので、経営状況を改善したい小規模企業には魅力的な仕組みかと思います。
税金の完納
税金(所得税、法人税、事業税、都道府県民税等)を完納しているというのも要件となります。
もし税金を滞納をしている場合は納税を完了させてから申し込みをしましょう。
また、日本政策金融公庫の非対象業種等に属している業種の事業を営んでいる場合は対象外となります。
参考:日本商工会議所|マル経融資(小規模事業者経営改善資金融資制度)の概要
マル経融資を受けるまでのステップ
このように、マル経融資を利用には、商工会議所の推薦を受けた後に政策金融公庫の審査を通る必要があります。
このための具体的な流れを説明していきます。
商工会議所に入会する
マル経融資を利用するには、まず商工会議所へ入会する必要があります。
商工会議所法という法律に基づいて設立された地域総合経済団体です。
地域経済のリーダーとして、国・県・市などへの提言・意見活動を行ったり、会員に対しての経営相談や情報提供を行います。
国内には515か所の商工会議所が存在し、総会員は約125万人です。
会員の72.2%が小規模事業者で、さまざまな業種の会員が入会しています。
参考:日本商工会議所
※商工会議所は、原則として市の区域にあります。主に町村の区域に属する場合は、商工会が同様の役割を担います。本記事では、商工会議所と記載しますが、町村地域で事業を営む方は、商工会と読み替えてください。
入会するためにすることは、資料請求を行い、入会申込書に記入して商工会議所へ送付するだけです。
入会の承認を出れば、入会金・年会費を支払うことでサービスを利用できるようになります。
入会金は、各商工会議所によりますが、3千円ほどに設定されている場合が多いようです。
年会費は、法人であれば資本金の金額によりによって会費が異なります。
個人事業主の場合は1万5千円ほどに設定されていることが多いです。
商工会議所に融資を受けたい旨を相談し、経営指導を受ける
入会後に「マル経融資受けたい」旨を、自分が所属する商工会議所に相談をしましょう。
マル経融資を利用するには、商工会議所の経営指導を原則6か月以上受ける必要があるので、相談後はこの経営指導を受けることになります。
商工会議所から推薦を受ける
マル経融資を利用するには、商工会議所の金融審査会による審査に通理、商工会議所の推薦を受ける必要があります。
この金融審査会では経営指導員が作成する推薦状が必要です。
経営指導員に良い内容の推薦状を書いてもらうためにも、日頃から前向きな姿勢で経営指導を受けることが大切といえます。
日本政策金融公庫の審査を受ける
商工会議所の推薦を受けた後、日本政策金融公庫の審査を通過して初めて、マル経融資を受けることができます。
マル経融資は、商工会議所からの推薦もあり、一般的な融資に比べると融資が受けやすくなりますが、最終判断をするのは日本政策金融公庫です。
日本政策金融公庫とは、100%政府出資の政府系金融機関です。
民間銀行などの金融機関を補完する役割を持ち、国の政策に則った固定金利、長期の融資制度が利用できます。
そのため、民間の銀行では融資が難しい「創業したばかりの会社」や「業績が悪化している会社」でも融資を受けやすいのが特徴です。
日本政策金融公庫の業務は、事業規模などに応じて国民生活事業・中小企業事業・農林水産事業の3つに分かれています。
この中で個人事業主や小規模事業者向けに小口の融資を行うのが国民生活事業です。
マル経融資で必要になる資料
マル経融資を受けるにあたり用意すべき資料は以下の通りです。
※こちらは東京商工会議所の場合ですので、各商工会議所により若干異なることがあります。
詳しくは自身が所属する商工会議所へお問い合わせください。
法人の場合
- 前期・前々期の決算書および確定申告書
- 決算後6か月以上経過の場合は最近の残高試算表
- 法人税・事業税・法人住民税の領収書または納税証明書
- 商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 見積書・カタログ等(設備資金の申込みの場合)
個人事業主の場合
- 前年・前々年の決算書(または収支内訳書)および確定申告書
- 所得税・事業税・住民税の領収書または納税証明書
- 見積書・カタログ等(設備資金の申込みの場合)
参考: 東京商工会議所 (東京都の場合)
特例的な優遇が受けられるケース
低金利・据置期間が長い新型コロナウイルス感染症の特例
マル経融資の融資限度枠は2,000万円ですが、今回の新型コロナウイルス感染症の影響を受けて別枠で1,000万円の借入が可能となりました。
最近1か月の売上高が、前年または前々年の同期と比較して5%以上減少している小規模事業者の方が利用することができます。
また、この別枠の利率は、日本政策金融公庫が用意する特別利率Fが利用されます。
令和2年6月1日の基準でこの特別利率Fは1.21%となっていますが、当初3年間は通常の貸付金利から▲0.9%引下げされた0.31%で融資を受けられます。
返済不要の据置期間についても運転資金が3年以内、設備資金が4年以内に延長されました。
参考:日本政策金融公庫|マル経融資(小規模事業者経営改善資金)
災害型の「マル経融資」もある
令和元年台風第19号等関連、平成30年7月豪雨関連等の災害枠もあります。
このような制度があることを頭に入れておけば、いざという時に役に立つでしょう。
災害枠の場合は、新型コロナウイルス感染症の場合と同様、特別利率が適用され低金利で融資を受けられます。
例えば、令和元年台風第19号等関連の場合、融資限度額は、通常の融資枠2000万円 + 別枠1,000万円となります。
利率は、直接被害を受けた場合、当初3年間は特別利率-0.9%(別枠の1,000万円以内、間接被害を受けた場合、当初3年間は特別利率-0.5%となります。
マル経融資以外の資金調達方法
小規模企業でも利用しやすい融資制度は、マル経融資以外にもあります。
ここでは2種類紹介します。
限度額の大きな「小規模事業者経営発達支援資金」
小規模事業者経営発達支援資金も日本政策金融公庫の融資制度です。
持続的に事業の発展に取り組む小規模事業者が融資の対象です。
融資限度額は7,200万円で、その内運転資金として利用できるのは4,800万円と、マル経融資より高額の融資が可能な制度です。
融資の返済期限は設備資金が20年間、運転資金が8年間です。
この返済期限の内、2年以内(従業員数5人以下の場合は3年以内)であれば返済の必要がない据置の対応も可能です。
保証人・担保については相談に乗ってくれます。
経営発達支援計画の認定を受けた商工会議所・商工会から事業計画の策定・実施の支援を受けていることが要件となります。
無利子の「小規模企業者等設備導入資金制度」
小規模企業者等設備導入資金制度とは、創業5年以内の小規模事業者に対して設備資金を貸付する制度です。
この制度では無利子で借入ができるという点で、大きなメリットがあります。
返済期間は7年間で、保証人または物的担保が必要です。
設備資金貸付の融資金額は4,000万円が限度で、所有している資金の½以内に抑える必要があります。
参考:中小企業庁
マル経融資のまとめと準備すべきこと
マル経融資は、業歴が短く事業規模が小さい企業でも、商工会議所の経営指導員の指導を受けるなどの要件を満たし、審査に通れば借入ができる制度です。
マル経融資を利用するメリットは以下の通りです。
- 無担保・無保証でも利用できる
- 低金利
- 足元の業績が悪くても黒字化を説明できれば利用できる
融資額は2,000万円ですが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている場合には別枠で1,000万円も利用できます。
ただし、マル経融資は商工会議所に入ってすぐでなく、経営指導員による指導を6か月受けた後に受けられるものです。
商工会議所への入会、日本政策金融公庫での融資の審査にも時間がかかる場合があります。
マル経融資について、詳細を知りたい方、相談したい方は、早めに地域の商工会議所に相談してみましょう。
資金調達や経営計画の策定でお悩みならご相談ください!
『経営者コネクト』にご相談いただければ、資金調達についての知識や経験が豊富な中小企業診断士や元外資系戦略コンサルタントといった専門家が親身にお話を伺います。
資金調達の準備に必要な、経営戦略、事業計画、資金繰り表の策定、マーケット調査、新規事業の検討のお手伝いもさせていただくことが可能です。
『お問い合わせフォーム』よりご連絡いただければ、無料でご相談をお受けいたします。
資金調達にはどうしても時間がかかります。相談できる専門家を早めに見つけて、必要なタイミングで速やかに融資を受けられるよう準備を十分に行っていきましょう。