中小企業の事業承継といえば、これまでは親族内承継で行われることがほとんどでした。
事業承継は単なる家庭内問題と捉えられることが多かったため、外部の意見を参考にすることなく経営者の独断で行われ、その結果成り行き任せの事業承継となってしまうケースが多々ありました。
また中小企業には「自分が働けるうちは働く」と考える経営者の方が多かったため、事業承継のための準備がつい先送りになってしまい、最終的に後継者不在のまま廃業を選ばざるを得ないケースも少なくありませんでした。
しかし現在では事業承継を巡るさまざまな制度が整備され、若い経営者が積極的にM&Aを活用して事業譲渡を行うことも珍しくなくなりました。
このように事業承継は、今や世代を問わずあらゆる経営者にとって身近なテーマであり、いつでも考えておくべき課題の一つとなりました。
しかしその手続きや流れは煩雑で、「いったい何から手を付けて良いのか分からない」という声をよく耳にします。
そこで本日は、事業承継の方法ごとに、メリットデメリットやその手続きのほか、後継者育成・個人保証や自社株算定と言ったきになるポイントを取り上げ、誰でも全体像が把握できるように解説します。
「事業承継の方法にはどのようなものがあるのか?」から「方法別のメリットや気をつけておくべき点」まで、専門用語の使用をできるだけ控えて解説していきたいと思います。
事業承継とは
事業承継とは、会社の資産・負債だけでなく経営権や企業理念も含めた有形無形の全てを次の経営者に引き継ぐことをいいます。
事業を承継する相手は現経営者の親族だけでなく、当該企業の役員や従業員、またM&Aを活用した社外承継など多種多様です。
事業承継で引き継がれるものとは
なお事業承継に引き継がれるものは、大きく分けると「資産および負債」と「人およびノウハウなど」になります。
資産および負債の承継
資産および負債の承継とは、事業承継の対象となる企業(もしくは個人事業)が所有している事業用の資産及び負債を次の経営者に承継させることをいいます。
一般的に中小企業の経営者は、個人資産と法人(もしくは個人事業)の事業資産が混同されている場合が多く、例えば個人所有の土地の上に会社の建物が立っていたり、また社長の自宅が会社の資産になっている場合などがあります。
このような状態を放置したままで相続が発生すると、次の経営者に事業を承継しようとしても相続財産の分割により事業用の資産まで分割されてしまう恐れがあります。
そのため、このようなトラブルが発生しないように、事前に準備をしておくことが大切です。
人およびノウハウの承継
人およびノウハウの承継とは、企業経営者がこれまで築き上げてきた技術や知識、人脈や経営理念など、決算書上では数値化できないノウハウを次の経営者に承継させることをいいます。
中小企業の経営者は、経営上のみならず実務上も会社の顔として企業をけん引している場合が多く、このような無形財産を次の経営者に伝えることこそが事業存続の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
そのためには十分な時間と準備を行い、これらを次の経営者に承継させなければなりません。
事業承継が経営者と社会に必要な理由
そもそも、どうして事業承継が必要なのでしょうか?
事業承継で問題となる中小企業に的を絞り、事業承継の必要性について「社会的必要性」と、経営者の「個人的必要性」に分けて整理してみましょう。
事業承継の社会的必要性
2019年度版の中小企業白書によると、日本にある全企業のうち中小企業が占める割合は、企業数で99.7%、従業員数で約70%、付加価値で約53%となっており、中小企業が日本経済の根幹を支える存在であることは誰の目にも明らかです。
いっぽう、今後10年の間に70歳(平均引退年齢)を迎える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、そのうち約半数の127万(日本企業全体の約3割)が後継者未定となっています。
そのため、現状を放置すると中小企業の廃業が急増することは避けられず、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用と、約22兆円のGDPが失われる可能性があります。
出典:「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」経済産業省
また、休廃業・解散企業の約5割が最終事業年度の決算が黒字であった(*)ことから考えると、地方経済の再生と持続的発展には中小企業の事業承継問題の解消が必要であることは間違いありません。
(*)「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」平成29年10月 経済産業省
経営者にとっての事業承継の必要性(事業存続・相続トラブル・金銭的メリット)
このような事業承継の社会的意義とは別に、経営者個人として考えた場合、事業承継を行う必要性にはどのようなものがあるのでしょうか?
①事業を存続させるため
どのような経営者も、必ずいつかは引退しなければならない時がやって来ます。
その時に事業を引き継いでくれる人がいなければ、せっかくこれまで長い時間をかけて築き上げてきたものが全てなくなってしまいます。
また、これまで支えてくれた従業員の雇用は失われ、懇意にしていた得意先も悲しませることになってしまいます。
事業を経営者の引退後も継続するには、何らかの方法で事業承継を行うことが必須となります。
②相続でのトラブルを防ぐ
事業承継を済ませないまま経営者が亡くなってしまった場合、事業を継ぐ・継がないに関わらず、相続人は株式(個人事業の場合は事業用資産など)を相続することになります。
黒字企業であればある程その株価は高く評価されるため、高額な相続税が課税される可能性があり、相続人のうち誰が相続するのか、また高額な納税資金の捻出はどうするのかを巡り、相続人同士が株式(個人事業の場合は事業用資産など)を押し付け合うような事態がおこる可能性があります。
このような負担を親族にかけないためにも、経営者は早めに事業承継を考える必要があります。
③「のれん」の現金化ができない
長い間事業を営むことができた会社には、必ず何らかのノウハウやブランドがあります。
このように、決算書上では数値化されていない無形の資産を総称し、「のれん」といいます。
「のれん」は企業収益の源泉であり、本来価値のあるものですが、事業承継を行わず廃業を選んでしまっては、この「のれん」を現金化することはできません。
親族内や親族外への事業承継なら後継ぎがこの「のれん」の価値を享受して事業を続けられますし、M&Aを活用して第三者へ事業譲渡をすることができれば、この「のれん」代を対価として受け取ることができます。
「のれん」の算出方法や取り扱い方については、こちらの記事で詳しく説明しています。
M&Aにおける「のれん」とは?その算出方法や償却、税効果までを徹底解説!
以上のように、事業承継を行わない場合、社会的損失が発生するだけでなく、経営者ご自身にとっても多くのデメリットが発生する可能性が高くなってしまいます。
事業承継の方法は3パターン
事業承継は大きく3つのパターンに分けることができます。
割合として一番高いのが経営者の親族に承継させる「親族内承継」で、次に従業員や役員、また社外の優秀な人材に承継させる「親族外承継」。そしてその2つのどちらでもない「M&A」です。
2018年に日本政策金融公庫が発表したレポート(「親族外承継に取り組む中小企業の現状と課題」)によると、親族内と親族外(M&Aを含む)の比率は以下のようになっています。
- 小規模事業者・・・親族内承継64.9%、親族外承継35.1%
(内部昇格 23.8%、外部招 へい 5.0%、出向 3.9%、買収 2.3%) - 中規模企業・・・親族内承継42.4%、親族外承継57.6%
(内部昇格 33.0%、外部招へい 9.1%、出向 14.0%、買収 1.5%)
これら3つのパターンにはそれぞれにメリット・デメリットがあり、また注意すべき点があります。それでは1つずつ、詳しく見ていきましょう。
親族内承継のメリット・デメリット・注意点
承継する事業規模が比較的小さい場合に最も用いられているのが、親族内承継です。
経営者の子息・子女が承継する場合がほとんどのため、事業承継と相続が一体となっている場合もあります。
気心の知れた身内であるためこの方法を採用する経営者が多いですが、身内であるが故に失敗することもあります。
親族内承継のメリット
親族内承継のおもなメリットは、以下のとおりです。
- 子息・子女が事業を承継するため、社内外の関係者に理解されやすい
- 後継者候補の決定が他の方法と比べ早い時期からできるため、承継のための準備に長い時間をかけることができる
- 最終的には次の経営者が株式を相続するため、企業のオーナーと経営者がバラバラになってしまうことがなくなる
親族内承継のデメリット
いっぽう親族内承継のおもなデメリットは、以下のようになります。
- 経営者としての資質のない人間が承継してしまうことがある
- 身内だからこそ、一度反発すると感情的になってしまい、金銭的な条件で折り合いをつけることができなくなってしまう
- 相続時に株式などが他の相続人に分散してしまい、経営権の掌握が難しくなる場合がある
このように親族内承継のメリット・デメリットを踏まえた上で、親族内承継を行う上で注意すべき点をまとめてみましょう。
親族内承継で注意すべき点
親族内承継で注意すべき点は、おもに以下の3点です。
- 関係者の理解
承継者本人はもちろんのこと、従業員や得意先、金融機関などの理解と協力を得ることが大切です - 後継者教育
社内外を問わず、後継者として相応しい人物になるための十分な教育を行うことが必要です - 株式・財産の分配
後継者が会社の経営権を掌握できるように、現時点で株式が分散しているのであれば可能な限り買い取りを行い、また相続時には後継者に株式及び事業資産が集中するように相続させる
後継者教育については、後ほどより深く説明していきます。
事業承継の方法や後継者が決まっていなくても、まずは無料相談が可能です。
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親族外承継のメリット・デメリット・注意点
親族に承継者がいない場合や、事業規模が比較的大きい企業の事業承継に用いられているのがこの親族外承継です。
親族内承継と同様、親族外から事業承継者を迎え入れるが故のメリットとデメリットがあります。
親族外承継のメリット
親族外承継のおもなメリットは、以下のとおりです。
- 外部から幅広く、経営者として相応しい資質を持った人物を迎え入れることができる
- 役員や従業員を経営者として昇格させるの場合、社内を掌握しやすい
親族外承継のデメリット
いっぽう親族外承継のおもなデメリットは、以下のようになります。
- 親族外の候補者に株式などを買い取るだけの資力がない場合がある
- 役員や従業員を昇格させた場合、他の役員や従業員からの反発を買ってしまい、かえって社内を分裂させてしまうことがある
このように親族外承継のメリット・デメリットを踏まえた上で、親族外承継を行う上で注意すべき点をまとめてみましょう。
親族外承継で注意すべき点
親族外承継で注意すべき点は、おもに以下の4点です。
- 関係者の理解
親族内と比べると承継者として理解されるまでに時間がかかります - 後継者教育
親族内承継と同様、後継者として相応しい教育や人脈作りのための時間を作らなければなりません - 株式・財産の分配
事業承継者に株式や事業用財産を集中させなければ、経営権を掌握することはできません。 - 個人債務の保証や担保の処理
現経営者が借入金の債務保証をしている場合、承継者に債務保証や担保の提供を求められないようにしておかなければなりません
個人保証については、後ほどより詳細に説明します。
M&Aのメリット・デメリット・注意点
M&Aの場合、事業内・外の承継とはことなり、事業そのもの(もしくはその一部)を金銭により譲渡することにより事業承継を完了させます。
他の2つと比べると感情的なものに左右されることは少ないですが、メリット・デメリットも当然あります。
M&Aのメリット
M&Aのおもなメリットは、以下のとおりです。
- 経営者が築き上げてきた事業を引き継ぐことができる人材(もしくは企業)を、より幅広く探すことができる
- 企業譲渡で対価が得られるため、創業者(もしくは経営者)利益の確保ができる
M&Aのデメリット
いっぽうM&Aのおもなデメリットは、以下のようになります。
- 条件に見合うだけの相手を見つけることが大変難しい
- 株主や経営者が完全に変わってしまうため、経営の一体性を保つことが難しい
このようにM&Aのメリット・デメリットを踏まえた上で、M&Aを行う上で注意すべき点をまとめてみましょう。
M&Aで注意すべき点
M&Aで注意すべき点は、おもに以下の5点です。
- 準備段階で関係者に情報を漏らさない
- M&Aに専門的なノウハウを有する仲介機関(M&A事業者、税理士、公認会計士、弁護士)に相談する
- できるだけ早い段階で、事業承継の条件や売却金額の希望などを仲介機関に伝える
- 経営者同士の面談やデューデリジェンスの際に、自社の都合の悪いことを隠したりしない
- M&A後の会社の環境整備に気を配る
ご覧いただいたように、3つの方法にはどれも長所と短所があります。
事業承継を成功させるためには、経営者それぞれが、今置かれている状況のうち最も相応しいものを選択しなければなりません。
事業承継の方法ごとの手続き
それでは具体的に、事業承継の手続きについて見てみましょう。
事業承継を親族内、親族外、M&Aの3種類に分け、更にそれぞれ個人事業主の場合と法人の場合に分けて解説していきます。
親族内承継における事業承継の手続き
それではまず、一番多い親族内承継における事業承継の手続きからです。
個人事業の親族内承継における事業承継の手続き
個人事業の場合、以下の4段階の手続きを経て事業承継を完了させます。
Step1 事業承継方法の決定
Step2 後継者への引継ぎ
Step3 税務上の手続き
Step4 従業員・得意先などへの連絡
Step1. 事業承継方法の決定
個人事業の事業承継を行う場合、以下の3パターンの中からどれか1つを選びます
A. 売買による事業承継
親族内であっても売買により承継を行います。実際に親族内承継の場合、この方法が利用されることはほとんどありません
B. 贈与による事業承継
生前贈与により事業承継を行います
C. 相続による事業承継
経営者が亡くなった後、相続により事業を承継します
なお事業を承継する場合には、個人事業で使用している資産及び負債を引き継ぎます。
例えば資産の合計が30、負債の合計が20の場合、差し引きした10を、事業承継者は「売買」により取得するのか、「贈与」により取得するのか、「相続」により取得するのか、そのうちのどれかを選ぶことになります。
ちなみに
A.「売買」の場合・・・時価で売却する場合、前経営者・新経営者ともに譲渡所得税などは発生しませんが、新経営者(事業承継者)が購入資金を用意しなければなりません。
B.「贈与」の場合・・・110万円を超える部分に対して、贈与税が課税されます
C,「相続」の場合・・・相続税の基礎控除を超える部分にしか課税されませんが、経営者が亡くなっているため相続争いが起こり、事業承継に失敗してしまうリスクがあります
このように、どの方法にもそれぞれのメリットとデメリットがあります。
Step2. 後継者への引継ぎ
事業承継後独り立ちできるように、後継者として教育していきます。
同時に関係者などへの挨拶回りを済ませ、顧客リストや各種資産の情報管理の説明、引継ぎ上大切な書類手続きなども並行して行います。
Step3. 税務上の手続き
個人事業の場合、法人とは違い手続きは非常に簡素です。
前経営者は税務署に廃業届を提出し、新経営者は同じく税務署に開業届を提出するだけで完了します。
Step4. 従業員・得意先などへの連絡
最後に従業員や得意先、金融機関などに連絡し、新たに経営者となった事業承継者が事業を開始します。
法人の親族内承継における事業承継の手続き
法人の事業承継にはさまざまな方法がありますが、一般的に最も利用されている方法は、株式譲渡により事業承継を完了させる方法です。
株式譲渡による事業承継とは
法人が発行している株式を譲渡することにより、経営権を譲渡し、事業承継を完了させる方法を株式譲渡による事業承継といいます。
例えば現経営者が発行済株式の全てを所有している場合、その株式を次の経営者に譲るだけで事業承継は無事完了です。
しかし現経営者の持株比率が低い場合には、事業譲渡前に他の株主から株式を買い取り、持株比率を高めてから譲渡しなければなりません。
法人の場合の手続きの流れ
事業承継のための基本的な流れは個人事業の場合と変わりませんが、株式を譲渡する場合、評価額を算出しなければなりません(非上場会社の場合)。
この場合、単に決算書上の数字を援用するのではなく、資産・負債を相続税の財産評価基準に基づき評価し直したものをベースに算出します。
この作業は、ほとんどの場合税理士などの専門家に依頼して行います。
ここで算出された株式を、個人事業の場合と同様、「売買」「贈与」「相続」のどれかの方法で次の経営者に譲ります。
こちらでも、売買・贈与・相続の際のメリット・デメリットについて再掲しておきます。
A.「売買」の場合・・・時価で売却する場合、前経営者・新経営者ともに譲渡所得税などは発生しませんが、新経営者(事業承継者)が購入資金を用意しなければなりません。
B.「贈与」の場合・・・110万円を超える部分に対して、贈与税が課税されます
C,「相続」の場合・・・相続税の基礎控除を超える部分にしか課税されませんが、経営者が亡くなっているため相続争いが起こり、事業承継に失敗してしまうリスクがあります
税務上の手続きについて
法人の場合、株式譲渡により事業譲渡が完了したら、2週間以内に法務局で代表者の変更登記を行わなければなりません。
また、税務署、都道府県税事務所、市区町村役場へ代表者変更届を提出しなければなりません。
ただし法人そのものは代表者が変更しただけなので、個人事業の場合のように開業や廃業の手続きをする必要はありません。
親族外承継における事業承継の手続き
親族外承継は、親族内承継のような贈与や相続ではなく、事業資産や株式などの譲渡によってのみ手続きが行われます。
具体的な手続き上は、親族内承継とことなる点はありません。
M&Aにおける事業承継の手続き
M&Aによる事業承継の場合、M&Aの仲介会社が主催するセミナーに複数回出席し、経営者ご自身に合う仲介会社を見つけるところからスタートします。
M&Aの仲介会社が見つかった後は、仲介会社がクロージングまでをサポートしてくれます。
会社によってサービスはさまざまですが、基本的には以下の流れに沿って行われます。
- 個別面談
- M&A仲介会社より取り組み方針の提案
- 提携仲介契約の締結(着手金支払い)
- 資料収集
- 企業評価
- 業界分析・業界調査
- ノンネームの作成(匿名による買収先候補の絞り込み)
- 企業概要書の作成
- 売り手・買い手企業の経営者同士によるトップ面談
- 希望条件などの交渉
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンス
- 最終条件の調整
- 最終契約の締結
- クロージング(対価の授受)
このように、M&Aは非常に長い時間と手間暇をかけて少しずつクロージングへ進んでいきます。条件の合うマッチング相手が見つかれば半年でクロージングできる場合もありますが、大抵は1年、場合によっては数年の時間が必要となることもあります。
「親族内・親族外承継」における後継者育成
事業承継の方法として、M&A以外の「親族内承継」や「親族外承継」を選択した際には、後継者を次期経営者に迎えるための育成が、今後の会社の進退を決める非常に重要なプロセスになります。
この章では、後継者の育成方法や、必要な期間について紹介していきます。
後継者育成の方法
後継者教育にはおもに2つの方法があります。1つは社内での教育、そしてもう1つが社外での教育です。
後継者のための社内での教育
ゆくゆくは後継者となるわけですから、会社内の状況を社内の誰よりも理解しておかなければなりません。
そのためには、おもに以下の3つを行います。
社内での教育① 各部門をローテーションさせる
経営者になるにあたり、社内の幅広い業務を理解していることは重要です。
製造や作業、販売の現場はもちろんですが、営業や財務、総務などのバックオフィスについても一通りローテーションさせることにより、各部門の業務内容を理解するとともに、各部門の社員とのコミュニケーションも深めることができます。
社内での教育② 責任ある地位に就ける
いくら現場の仕事に習熟していても、経営となると話は違ってきます。
また、社内のメンバーから見て、後継者として納得されやすい地位に、事前につけておくことも重要です。
経営幹部などの責任ある立場で、意思決定とリーダーシップを発揮させる経験により、経営者としての自覚を育てていくことができるでしょう。
社内での教育③ 現経営者による直接指導
現経営者による経営ノウハウや業界事情を伝え、経営理念の引継ぎを行います。
後継者のための社外での教育
後継者のための教育は、社内だけでなく社外でも行います。具体的には以下の3つを行います。
社外での教育① 他社での勤務を経験させる
自社の枠にとらわれず自由な発想でアイデアを獲得することができるだけでなく、人脈の形成や新しい経営手法の取得が期待できます。
社外での教育② 子会社・関係会社などの経営を任せてみる
子会社や関係会社がある場合はその経営を、なければ社内の一部門の運営を任せ、経営者としての責任感を植え付け、また、経営者としての資質の有無を最終的に確認します。
社外での教育③ セミナーなどの活用
事業承継者を対象とした社外セミナーに積極的に参加させ、経営者に必要とされる知識を習得させ、幅広い視野を育成します。
後継者教育には絶対的なものはありませんが、多くの会社はこのように後継者教育を行っています。
後継者育成に必要な期間
事業承継を行った企業への調査によれば、後継者育成に要した期間は、5-10年という回答が最も多く、次いで2-3年、5年程度という回答も多くありました。
出典:中小企業基盤整備機構「事業承継実態調査」(2011 年 3 月)
やはり、十分な期間をかけることを見込んで、はやめに事業承継の検討を始めることが大切です。
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事業承継の方法別・経営者の個人保証の影響
事業承継の際、経営者の金融機関・取引先に対する会社債務の個人保証大きなボトルネックになってしまうことが少なくありません。
この章で事業承継時の経営者の個人保証について理解いただき、適切な処理に役立てていただければと思います。
M&Aにおける個人保証の影響
M&Aのときには、事業に関する資産を譲るとともに借入金含む債務も引き取ってもらうことが一般的です。
一方で債務は売り手経営者が個人保証していることも多く、引継ぎ前に個人保証を外しておかないと事業承継がうまく進まなくなるリスクがあります。
なぜなら個人保証を外さず事業譲渡すると、買い手が会社を買った後に旧会社の債務者から請求を受けるリスクがあるからです。
さらに売り手経営者も個人保証が外せないと生涯引退できないリスクもあります。
それだけにM&Aで会社を譲渡する際には、買い手が売り手経営者に対して、事前に個人保証を外しておくことを購入の条件とすることがよくあります。
親族内承継における個人保証の影響
また親族内承継で現経営者が後継者に会社を譲ろうとしても、個人保証を残したままだと、後継者がその保証の引継ぎを嫌がって事業承継がうまくいかない場合もあります。
このような場合、金融機関を含む取引先と交渉して、個人保証を外してもらう、または条件を緩和してもらうという対策があります。
政府が出している「事業承継に係る経営者ガイドライン」を活用して、金融機関に「会社の旧債務は前経営者が個人保証」「新しく発生する会社債務は後継者が個人保証」というような形に変更してもらうことも可能です。
事業承継における個人保証の対策
事業承継のん個人保証の対策には次の4つが考えられます。
-
事業譲渡前に売り手経営者が個人保証を外しておく
借入金を会社の資金で返済しておく、または経営者の個人資金で会社に貸付けその資金で返済するという方法があります -
買い手経営者に個人保証を引継いでもらう
売り手・買い手両経営者で、債務を行う金融機関に説明をすることで、売り手に代わり買い手経営者が個人保証を引継ぐことが認められるケースがあります。 -
事業承継と同時に買い手が銀行に債務を返済
債務を残したまま、売り手から買い手に個人保証の変更手続きをするより、譲渡と同時に債務を金融機関に返済する方が手続き的にはかなり簡単です。 -
個人保証を外してもらう、または条件を緩和してもらう交渉を行う(親族内承継の場合)
先ほど説明した通り、「事業承継に係る経営者ガイドライン」を活用して、個人保証を外したり条件を緩和してもらえることがあります。
より詳細な個人保証についての解説や、「事業承継に係る経営者ガイドライン」について知りたい方は、以下の記事も合わせてご覧ください。
事業承継やM&Aで経営者の「個人保証」はどうする?「経営者保証に関するガイドライン」も使ってうまく対処する方法とは!
事業承継を成功に導く4つの秘訣
最後に、中小企業が事業承継を成功させるためにしておくべきことをまとめてみます。
ここでお話しする内容は、業種や事業規模に関係なく共通する内容となっています。
事業承継成功の秘訣その① 早めに準備をはじめる
どんなことにも共通することですが、準備にじっくりと時間をかけなければ良いものはできません。
後継者を探し、教育し、社内の受け入れ態勢を整えるまでには10年ほどかかると思っていただいてよいでしょう。
経営者ご自身の体調や事業に対する意欲に不安を感じてから事業承継の準備をはじめるのでは、時間的に間に合わせるのは難しいでしょう。
気力も体力も充実しているうちから、少しずつ準備を進めていくべきでしょう。
事業承継成功の秘訣その② 事業用資産や株式を集めておく
個人事業であれば事業用資産を、法人であれば株式を、事業承継前にできるだけ経営者に集めておくように努力し、場合によっては他の株主などから買い取っておきましょう。
たとえば個人事業の場合、工場の土地が他の相続人のものになってしまったら、土地の買取に莫大な資金が必要となり、事業の継続が難しくなってしまうことがあります。
法人の場合、経営者の持株比率が低ければ経営そのものに差し障ることもあります。
事業承継後の企業運営に問題が生じないように、今のうちから準備しておきましょう。
事業承継成功の秘訣その③ 税制や補助金についての知識を深めておこう
事業承継には莫大な税金が必要なケースもありますが、たとえば事業承継税制を活用すれば実質的に納税額が0円で事業承継を済ませることができる場合もあります。
また事業承継補助金や経営資源引継ぎ補助金などを活用すれば、事業承継前後に必要なコストの一部を補助してもらえる可能性があります。
このように、制度を上手く活用すれば、事業承継にともなう支出を最小限に抑えることができます。
事業承継成功の秘訣その④ 事業承継のための費用を見積もっておく
事業承継を無事に済ませるためには、大なり小なり税理士や弁護士などの専門家に依頼しなければなりません。
どの方法を選ぶかによって必要な経費は変わりますが、事業承継のための費用が全部でどれくらい必要なのかを事前に見積もり、これらの資金も別途用意しておくとよいでしょう。
最後に
事業承継を成功させるためには、多くの手間と時間が必要です。そのためには「10年かかる」と言っても、決して大げさではありません。
事業承継は今後の日本経済の浮沈を握る鍵であるばかりでなく、これまで企業を築き上げてきた経営者の志を次世代に引き継ぎ、また経営者がハッピーリタイアをするためにも大切なものです。
できるだけ元気なうちに、できるだけ早くスタートし、後悔しない事業承継をぜひその手にして下さい。
事業承継・M&Aについてわからないことがあるときは
事業承継・M&Aについて不明点があれば、『経営者コネクト』にご相談いただければ、知識が豊富な専門家がアドバイスいたします。
M&A前の経営戦略の見直しやマーケット調査、M&A後の経営統合までの長期的なスケジュール策定などもサポートします。
気になる方は、『お問い合わせフォーム』よりご連絡いただければ、無料でご相談をお受けいたしますのでお気軽にお問い合わせください。