新型コロナウイルスの影響で、「雇用調整助成金」の注目度が上がっています。
感染拡大により売上が減少した企業で、従業員が休み休業手当が支払われた場合に、休業手当の一部を助成する「雇用調整助成金」の上限金額が8330円から1万5000円になったためです。
雇用調整助成金とは、新型コロナウィルスに限らず、景気の変動などの経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、労働者の雇用の維持を図る事業主を助成するために支給されるものです。
この記事では、まず一般的な雇用調整助成金について概要を紹介した後、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例についてまとめています。
きちんと理解することで、雇用調整助成金をうまく活用し、雇用を守るとともに、会社や事業を継続していきましょう。
また、雇用調整助成金以外にも中小企業が活用できる補助金・助成金はいくつもあります。
以下の記事でお勧めの13種類を纏めていますので、合わせてお読みください。
【最新】中小企業が利用できる補助金・助成金13選!目的・金額・条件を徹底解説
雇用調整助成金とはどのような制度か?
雇用調整助成金の対象は、休業、教育訓練、出向
雇用調整助成金は、後でご説明する、対象となる事業主が次のような措置を行った場合に、受給が認められます。
①休業
②教育訓練
③出向
・雇用調整を対象となる期間内に実施すること
*教育訓練と銘打っていても、支給対象とはならないものもあります(マナー講習、パワハラ・セクハラ研修等)。予定している訓練が雇用調整助成金の対象となるのかどうかは、労働局またはハローワークへ確認されることをお勧めします。
通常時は1従業員あたり上限8330円が助成される
雇用調整金は実施された雇用調整によって、支給される雇用調整助成金の算出方法が異なります。
※新型コロナ感染症に関わる特例措置で、以降でご説明する通り、2020年4月1日から9月30日は異なる金額・比率になります。
休業・教育訓練の場合の助成額
下記の算出金額か、上限額の8,265円の低い方の金額が1日・1人あたりの助成額となります。
①企業が休業する場合
休業を実施した際に支給対象者に対して支払われた休業手当相当額に、以下の助成率(中小企業2/3、中小企業以外は1/2)をかけた額
②教育訓練の場合
教育訓練を実施した際に支給対象者に対して支払われた賃金相当額に、以下の助成率(中小企業2/3、中小企業以外は1/2)をかけた額に、さらに下表②の加算額(1人1200円)を加えた額
出向の場合の助成額
出向を実施した際の出向元事業主の負担額に、以下の助成率(中小企業2/3、中小企業以外は1/2)をかけた額か、
1人1日当たり雇用保険基本手当日額の最高額に 330/365 を乗じて得た額の低いほうの金額が1日・1人あたりの助成額となります。
助成内容と受給できる金額 | 中小企業 | 中小企業以外 |
---|---|---|
助成率 |
2/3 | 1/2 |
教育訓練を実施したときの加算(額) | (1人1日当たり)1,200円 |
・出典:令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(詳細版)
なお、中小企業とは、原則として以下のように定義されています。
・出典:令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(詳細版)
対象となる業種・事業規模は幅広いが、要件が存在
雇用調整助成金は、幅広い業種、事業規模の企業が対象となります。
ただし、次の要件のすべてを満たしていることが必要です。
●雇用保険の適用事業主であること。
●売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること。
●雇用保険被保険者数及び受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと。
●実施する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。
〔1〕休業の場合
労使間の協定により、所定労働日の全一日にわたって実施されるものであること。
〔2〕教育訓練の場合
〔1〕と同様の基準のほか、教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであり、当該受講日において業務(本助成金の対象となる教育訓練を除く)に就かないものであること
〔3〕出向の場合
対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること。
●過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して一年を超えていること。
一方で、以下のような事業主は雇用保険の助成金を受給できません。
●不正受給をしてから3年以内に支給申請をした事業主、あるいは支給申請日後、支給決定日までの間に不正受給をした事業主
●支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない事業主(支給申請日の翌日から起算して2か月以内に納付を行った事業主を除く)
●支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に、労働関係法令の違反があった事業主
●性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主
●事業主または事業主の役員等が、暴力団と関わりのある場合
●事業主又は事業主の役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行った又は行う恐れのある団体に属している場合
●支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
● 不正受給が発覚した際に都道府県労働局等が実施する事業主名等の公表について、あらかじめ同意していない事業主
雇用調整助成金の対象となる期間は、多くの場合1年間
雇用調整助成金は、支給の対象となる期間も定められており、多くの場合1年間ですが下記の通り例外もあります。
以下に示す「対象期間」のあいだに行われた休業、教育訓練、出向(3か月以上1年以内にかぎる)について、雇用調整助成金が支給されます。
●対象期間
・一般事業主の場合
「休業等実施計画届」「出向実施計画届」提出の際に事業主が指定した雇用調整の初日から1年間
(1年間で100日、3年間で150日を上限日数とする)
・雇用維持等地域事業主の場合
地域ごとに厚生労働大臣の指定する日から起算して1年間
・大型倒産事業主または大型生産激減事業主の関連事業主の場合
大型倒産等事業主ごとに厚生労働大臣が指定する日から起算して2年間
・認定港湾運送事業主の場合
事業主ごとに認定を受けた日から2年間
実施する雇用調整で申請は異なる
雇用調整助成金の申請の方法は、実施する雇用調整によって、ふたつにわかれます。
ただし、まず計画届を提出し、その後、支給申請をするという流れは共通しています。
※新型コロナ感染症に関わる特例措置で、以降でご説明する通り、2020年4月1日から9月30日は異なる流れになります。
休業・教育訓練を実施する場合の申請方法
(1) 休業等実施計画届の提出
当該支給対象期間の前日までに、「休業等実施計画書」に必要な書類を添えて管轄の労働局へ提出します。
*初回の計画届を提出する場合は、
・「雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書」
・「雇用調整実施事業所の雇用指標の状況に関する申出書」
を添付した上で、休業または教育訓練を開始する日の2週間前をめどに提出します。
(2) 支給申請
当該支給対象期間の末日の翌日から2か月以内に、「支給申請書」に必要な書類を添えて、管轄の労働局へ支給申請を行います。
出向を実施する場合の申請方法
(1)出向実施計画届の提出
出向開始日の2週間前をめどに、
・「雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書」
・「雇用調整実施事業所の雇用指標の状況に関する申出書」
・「出向実施計画書」
を必要な書類を添えて、管轄の労働局へ提出します。
(2)支給申請
出向開始日から
・最初の6か月間を第1支給対象期
・次の6か月間を第2支給対象期
とし、各期の末日の翌日から2か月以内に「支給申請書」に必要な書類を添えて、管轄の労働局へ支給申請を行います。
雇用調整助成金の申請方法の比較
雇用調整助成金の申請方法を図にまとめると、以下のようになります。参考にご覧ください。
・出典:令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(詳細版)
新型コロナウイルス感染症の特例措置で大幅に要件が緩和
ここまで、一般的な雇用調整助成金について説明してきました。
一方で、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、令和2年4月1日から9月30日は緊急対応期間とされ、さらなる特例措置が実施されています。
ここからは、特例措置によって緩和された主な変更点を紹介します。
新型コロナウイルス感染症の特例措置で大幅に要件が緩和
特例措置によって、助成率がアップし、日額上限額もアップされました。
●助成率
中小企業は2/3、大企業は1/2でしたが、特例措置によって、中小企業は4/5、大企業は2/3となりました。
さらに、解雇等を行わず、雇用を維持している場合の助成率は、中小企業10/10、大企業は3/4となりました。
●日額上限額
8,330円から15,000円に引きあげられました。
月額上限額も330,000円まで引きあげられています。
特例措置で雇用調整助成金の助成率がアップし、上限は1日15000円に
特例措置によって、対象となる事業主が変わりました。
「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るために、「労使間の協定」に基づき、「雇用調整(休業)」を実施する事業主が支給対象となります。
各項目の具体的な内容は、以下の通りです。
●「新型コロナウイルス感染症の影響」とは
たとえば、次のような場合をさします。
・観光客のキャンセルが相次いだことにより、客数が減り売上が減少
・行政からの営業自粛要請を受け休業したことにより、客数が減り売上が減少
●「事業活動の縮小」とは
売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近1か月間(休業した月(その前月または前々月でも可))の値が、1年前の同じ月に比べ5%以上減少していることです。
●「労使間の協定に基づき」とは
休業の実施時期や日数、対象者、休業手当の支払い率などについて、事前に労使との間で書面による協定がなされ、その決定に沿って実施することです。
対象となる事業主が拡大
事業主だけでなく、労働者も対象となる人の要件が拡大されました。
雇用調整助成金は、原則としては、雇用保険被保険者のみが対象です。
ですが、特例措置によって、雇用保険被保険者ではない労働者も、要件を満たした場合には支給対象となります。
ただし、以下の労働者は対象外です。
・解雇を予告されている労働者
・退職願を提出した労働者
・事業主による退職勧奨に応じた労働者
・日雇労働被保険者
対象となる労働者の拡大
特例措置により、上記以外にも、いくつもの緩和要件があります。
それらもふくめ、特例措置の変更点のまとめは、次の画像の通りです。
比較すると事業主へのメリットが非常に大きい特例であることがよく分かります。
特例措置で非常に利用しやすくなった
雇用調整助成金の申請書類についても、簡素化されています。
添付や提出が不要となり、作成せずにすむようになった書類もあります。
これは、事業主の申請手続きの負担軽減と、支給事務の迅速化を図ることを目的としています。
●記載事項
申請書類の記載事項が73事項から38事項と、およそ半分に削減されました。また、記載内容そのものについても、大幅な簡略化がなされています。
●計画届
本来は、雇用調整の実施計画届を、事前に提出する必要がありました。ですが、特例措置により、6月30日までは事後の提出が認められるようになりました。
なお、5月19日以降は、そもそも計画届の提出が不要となっています。
申請書類は、以下のとおりです。
一見、書類の数が多く見えますが、厚生労働省のサイトにWordやExcel等のフォーマットが用意されており、それに従えば比較的スムーズに申請が可能です。
社労士等に申請書の作成を依頼する方法もありますが、専門家に頼らず申請することも可能なレベルです。
なお、手続方法が不明な場合には、地域のハローワーク等に助成金用の窓口が用意されています。
窓口に行けば、丁寧に教えてくれるので、不要な点がある場合には利用してみるのも良いでしょう。
※コロナの影響で、助成金の窓口が、電話等による事前予約が必要な場合があるので、事前に確認することをおすすめします。
特例措置により小規模事業主はさらに書類が簡易化
「小規模事業主」とは、従業員がおおむね20人以下の事業主や個人事業主を指します。
小規模事業主ならば、雇用調整助成金の申請に必要な添付書類がさらに少なくてすみます。
厚生労働省のホームページには、小規模事業主用のマニュアルも掲載されています。小規模事業主の場合は、一読をおすすめします。
申請書類も大幅に簡素化
雇用調整助成金は郵送、窓口提出だけでなく、令和2年5月20日からは、オンラインでの申請も可能になりました。ただし、オンライン申請をするためには、携帯電話が必要です。
以下の4つのステップのみで、雇用調整助成金の申請が完了します。
(1)雇用調整助成金等オンライン受付システムにアクセス
(2)ログイン用のメールアドレスを登録
(3)SMS認証用の携帯電話番号を登録
(4)マイページから申請書類をアップロード
オンライン申請も可能に
5月下旬には、新型コロナウイルスに関連した解雇や雇い止めが、10,000人を超えたと報じられました。
緊急事態宣言は解除されましたが、コロナの影響による企業の経営状態が、すぐに回復するわけではないでしょう。
解雇や雇い止めを余儀なくされる事業主が、今後ますます増えていくことも考えられます。
雇用調整助成金は、労働者の失業を防ぎ、雇用の安定を図ることが目的です。
つまり、労働者の雇用を守るために事業主に支給される助成金であり、事業主は返済不要です。
コロナの影響で特例措置が取られ雇用調整助成金は非常に利用しやすくなりました。
うまく活用し、雇用を守るとともに、会社や事業を継続していきましょう。
助成金をうまく活用し、雇用を守るとともに事業を継続
また、雇用調整助成金以外にも中小企業が活用できる補助金・助成金はいくつもあります。
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