日本の平均賃金はいくらか?従業員・企業別に、様々な切り口で賃金差も紹介!



働き方改革、同一労働同一賃金、コロナウイルスによる在宅勤務の普及等により働き方が急速に変化し、人材の流動化も一層高まっていくことが予想されます。

この記事では、日本の平均賃金について、年齢・性別・学齢などの従業員の特徴、及び規模や地域・業種などの企業の特性それぞれの切り口で紹介します。

中小企業の経営者が「欲しい人材を雇用し長く働いてもらう上で、どの程度の賃金を支払う必要があるのか?」を検討する際の参考になる情報をまとめましたので、ぜひ最後までお読みください。

全国の平均賃金は上がっているのか?

全国の平均賃金は30.6万円

まず、全国的な平均賃金を見ていきましょう。
厚生労働省の行う調査によると男女合わせた全国の月別平均賃金は30.6万円です。
これを年収換算すると367万になります。

ちなみに、日本の平均賃金は2000年以降ほぼ横ばいの状況です。
2000年に30.2万円だった平均賃金は2018年に30.6万円になっています。

 

出典:厚生労働省

物価上昇を考慮すると日本の平均賃金は下がっている?

このように(名目)平均賃金が、ほぼ横ばいの一方で、バブル崩壊後の日本の実質GDP成長率は年0.8%上昇しています。

つまり、物価変動を考慮した実質賃金上昇率は、マイナスとなっているのです。

これにはさまざまな理由が考えられますが、以下等も大きな要因と言われています。

 
  • 日本の雇用制度は、減給や解雇が難しい状況の中で、業績や景気が上向きでも賃金を上げにくい
  • 高齢者や女性の労働者の増加が平均賃金を押し下げている

参考:厚生労働省

最低賃金は20年弱で35%上昇

平均賃金が長年横ばいの一方で、最低賃金は上がっています。

以下のグラフのとおり、最低時給は2002年(663円)から2019年(901円)までと、金額にして238円、割合にして35%上昇していることがわかります。

 

個人の特徴(性別・年齢・学歴など)により賃金はどう異なるのか?

ここでは、性別や年齢、学歴と言った従業員の特徴ごとに、平均的な賃金がどのように異なるのか、見ていきましょう。

性別:男性と女性の平均賃金の差は9万円

性別による賃金の差はどの程度あるのでしょうか。

厚生労働省による調査では、男性の平均が33.7万円であるのに対して女性は24.7万円と約9万円の差があります。

出典:厚生労働省

このように顕著な差が現れる背景には、職種や働き方の違いがあります。

特に、

  • 正規社員の場合でも、女性は総合職ではなく一般職に従事する割合が男性より高いこと
  • 女性には、結婚や出産による退職等で勤続年数が短い人が多いこと

などにより、このような賃金格差が生じていると考えられます。


この男女格差は他の先進国と比較しても大きいと言われており、厚生労働省を中心に、政策的な是正が試みられています。

このような政策の効果もあって、2000年以降、男女の賃金差は縮まってきています。
2000年代前半に約12万円あった差が、現在は年間約9万円にまで小さくなっているのです。

これは、主に女性の平均賃金が増加していることが要因です。


年齢:年齢が高いほど賃金は高く、50代前半がピーク

日本の賃金形態は、年功序列型とよく言われます。
実際にその通りで、基本的には年齢が高いほど年収が高くなっています。



例えば、大企業の男性の場合には、10代が18.4万円なのに対して、50代前半では50.6万円です。


一方で、50代前半をピークに、50代後半以降では平均賃金の減少がみられます。
これは主に、役職定年制や再雇用制度等により賃金が減少するためです。

総務省による別の調査では正規・非正規雇用者合計に占める正規雇用者の割合のなかで15~19歳及び60歳以上の各年齢階級で、非正規雇用者の割合が相対的に高くなっていることからも説明できます。

出典:厚生労働省

役職:部長級は非役職者の3倍程度の賃金

次に、社内でどのような役職についているかが、平均賃金にどのような影響を与えているかを見ていきましょう。

厚生労働省が、部長・課長・係長・非役職者の4つのグループごとに平均年収をまとめています。

男女別で、各役職の平均給与は以下の表のようになっています。

  男性 女性
部長級 65.8万円 59.1万円
課長級 53.5万円 45.8万円
係長級 40.1万円 35.2万円
非役職者 21.5万円 21.2万円

 

役職が上がると賃金が増え、部長級では非役職者の3倍近くの賃金となっていることがわかります。

一方、同じ程度の役職どうしでも、男性に比べて女性の平均賃金が少なくなっています。
しかし、役職全体の平均賃金が男性33.7万円と女性24.7万円と約9万円差だったことと比べると、役職別に見た平均賃金は男女差が小さいことがわかります。

つまり、管理職になる女性が男性に比べて少ないことも、年齢とともに賃金が上がらない大きな原因であると考えられます。

出典:厚生労働省

学歴:学歴の賃金への影響は、今も強い

学歴の平均賃金に対する影響は、どのくらい大きいのでしょうか。
以下の数字を見ると、学歴による賃金差は、男女ともに大きいことがわかります。

男性の場合

  • 大学・大学院卒40.0万円
  • 高専・短大卒31.3万円
  • 高校卒29.1万円

女性の場合

  • 大学・大学院卒29.0万円
  • 高専・短大卒25.8万円
  • 高校卒21.2万円

また、以下のグラフを見ると、若い年齢では大きな差はないものの、年齢が上がるにつれて、大学・大学院卒の賃金が上昇していることが分かります。

 

出典:厚生労働省

先ほどの、社内における役職と賃金の関係が大きかったことと合わせて考えると、学歴が高いほど高い職位についている可能性が高く、平均賃金が高くなっていると推測できます。

例えば男性の場合、最も差が大きい50代前半において、大学・大学院卒53.5万円に対して、高校卒35.2万円となり約20万円の差がついています。

雇用形態:正規雇用の賃金は、非正規の約1.5倍

近年「有効求人倍率の上昇に比べて、賃金上昇率が低いのではないか?」という指摘があります。
この要因の一つとして、非正規雇用の増加があるとされています。

非正規雇用労働者は近年増加しており、  1990年に881万人だった非正規雇用者は、2014年に1962万人と2倍以上になりました。
また現在も増加しています。

一方で、正規雇用者数は減少傾向にあります。

ここでは正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金差を見ていきましょう。

近年その差は縮まりつつあるというデータもありますが、正規雇用32万円に対して、非正規雇用は21万円と、1.5倍程度の大きな開きがあります。

出典:厚生労働省

同一労働同一賃金制度の運用が開始

ここで、経営者が把握しておく必要のある雇用形態に関する制度に、「同一労働同一賃金制度」があります。

同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指す取り組みです。
大企業で2020年4月に開始され、中小企業においても2021年4月より導入される予定ですので、この制度を理解した上での採用・雇用計画を進めていきましょう。

参考:厚生労働省・同一労働同一賃金特集ページ

企業の特徴(規模・地域・業種・生産性)により賃金はどう異なるのか?

ここからは、企業の規模や地域、業種といった特徴別に、賃金にどのような差があるのかを紹介していきます。

規模:大きな企業ほど平均賃金・賃金上昇率ともに高い

企業の規模と賃金の関係

まず企業の規模別の平均賃金を見ていきましょう。

男女それぞれで、企業規模別の賃金は下記のように異なっています。

  • 男性:大企業38.7万円、中企業32.1万円、小企業29.2万円
  • 女性:大企業27.0万円、中企業24.4万円、小企業22.3万円


このように規模が大きい企業の方が、従業員に対して高い賃金が支払われていることがわかります。

なお、厚生労働省では企業の規模が1000人以上の企業を「大企業」、100人〜999人を「中企業」、99人以下を「小企業」と定義しています。


出典:厚生労働省

企業の規模と賃金上昇率の関係

また賃金上昇率についても、企業規模が大きいほど高い傾向にあります。

男性の場合に、平均賃金は以下のとおりです。

  • 大企業:10代18.4万円 → 50代前半50.6万円
  • 中企業:10代17.7万円 → 50代前半39.6万円
  • 小企業:10代18.0万円 → 50代前半33.7万円

出典:厚生労働省

このように、若年層では大きく賃金が変わらないのに対して、賃金が上昇した50代では、17万円程度とかなり大きな差があることがわかります。

 

地域:大都市圏(東京、神奈川、愛知、大阪)が高い

平成30年に全国の平均賃金が30.6万円であるのに対して、
平均より高かった地域は東京、神奈川、大阪、愛知の4都府県でした。

最高値は東京都の38.0万で、次いで、神奈川県33.9万円、大阪府32.2万円です。

一方で、最低値は23.5万円で宮崎県です。
次いで、秋田県24.0万円、青森県24.1万円と続きます。

都市と地方で大きな賃金格差があり、最高位の東京都と最下位の宮崎県では1.5倍以上の差があることがわかります。

出典:厚生労働省

業種:金融、インフラ、教育系が高い

産業別に見てみると、インフラ(金融業・保険業、電気・ガス・熱供給・水道業等)、教育・学習支援業、学術研究・専門・技術サービス業、情報通信業等で、平均賃金が高くなっています。

男性と女性で若干の順位の差はあるものの、トップ5の産業は男女ともに同じです。

産業 男性の現金給与額
(万円)
女性の現金給与額(万円)
金融業・保険業 50.5 29.7
電気・ガス・
熱供給・水道業
48.3 33.8
教育・学習支援業 45.3 32.5
学術研究・専門・
技術サービス業
44.7 31.5
情報通信業 43.0 32.8

出典:総務省統計局

一方で、宿泊業・飲食サービス業、その他サービス業、生活関連サービス業・娯楽業等は、平均賃金が低くなっています。

男性の場合、最も低い宿泊業・飲食サービス業の平均賃金は30.6万円で、最も高い金融業・保険業の平均賃金50.5万円と比較すると1.6倍以上の差が開いています。

産業間の賃金格差の要因として、産業別の生産性(利益等)や、雇用形態(正規・非正規)等が考えられます。

従業員の賃金に対する満足度を高めるには?


ここまで、平均給与が、個人・企業それぞれの特徴による差によってどう異なるのか、その傾向を様々な切り口で紹介してきました。

経営者が従業員の給与について検討する背景には「従業員の満足度を高め、長く、やる気を持って業務に従事してほしい」という希望があります。

従業員の満足度の現状や、これを向上するヒントについて紹介していきます。

賃金に対する従業員の満足度は高くない

現状、従業員は賃金に対してどう感じているのでしょうか?

厚生労働省が平成22年に行った、「職場での満足度」に関するアンケート調査の結果を見ていきましょう。

仕事の内容・やりがい、人間関係・コミュニケーションに対する満足度が5割前後高い一方で、賃金に対する満足度は、正社員・正社員以外を問わず、1割未満とかなり低い結果となっています。

出典:厚生労働省・就業形態の多様化に関する総合実態調査

 

※D.I.とは、Diffusion Indexの略。この場合は、満足・やや満足の割合から、不満・やや不満の割合を引いたもの。数字が大きければ、満足している割合が高い=満足度が高い、数字が小さければ不満の割合が高い=満足度が低いといえる。


このように、従業員の賃金に対する満足度が低い状況に対して、経営者にできることはどのようなことでしょうか。
以降では、参考になりそうなヒントを紹介します。

労働生産性を高めて給与水準をあげることを目指す

従業員の賃金に対する満足度を高めるのに、わかりやすい一つの施策は「給与を上げる」ことだと思います。
しかし会社の経営を持続させる上で、単に従業員の給与を上げることは難しいものです。

ここで参考になるデータとして、中小企業庁が分析した労働生産性と賃金水準の関係性を紹介します。

労働生産性とは「労働者一人当たりが労働によって生み出す付加価値」、つまり一人あたりの収益性のことです。

この調査結果によると、大企業でも、中小企業でも、労働生産性が高い企業ほど従業員一人当たりの給与額が高い傾向があることが分かります。

 

出典:中小企業庁

成果主義の賃金体系は日本に馴染むのか?

また、「生産性向上により社内全体の給与水準を上げる」努力の他に、
欧米や日本の外資系企業に多く見られる「個人の能力や成果に応じて、賃金に差をつける」方法も存在します。

ただし「日本の企業でも成果主義に基づく賃金体系が有効なのか?」の答えは、一律に出すことはできません

「賃金に適正な差をつけたほうが、満足感や意欲を引き出す」というのが経済学の定説である一方で、差があればあるほど従業員の満足度が下がるというデータもあるようです。

成果主義に基づく賃金体系の難しさには、下記のようなポイントがあるようです。

  • 成果に応じて賃金を変化させるのであれば、そのリスクの分だけ給与が高くなければ見合わないと、従業員が感じる
  • 成果主義を導入する企業は短期的な業績やコスト削減へのプレッシャーが高く、満足度が低くなる可能性がある

参考:リクルートワークス研究所

このような事例と、自社や従業員の特徴を踏まえて、経営者は「どの程度、自社に成果主義を導入するべきか?」「成果主義を導入する場合、従業員に対してどのようなコミュニケーションをとるべきか?」をよく検討する必要があります。

まとめ

この記事では、従業員側の特徴・企業側の特徴を始め、様々な切り口から、平均賃金を比較してきました。
賃金が決定される要因はさまざまであることが、改めて理解いただけたかと思います。

貴社の賃金体系を改めて確認し、必要に応じて見直す際の参考にしていただければ幸いです。