事業承継には3つの方法があります。ひとつが親族内承継、もう一つが親族外承継、そして最後の一つがM&Aです。
親族内承継とは経営者の子息・子女などの親族に事業を承継する方法で、親族外承継は従業員や役員など、親族外の人に事業を承継していく方法です。
M&Aは会社(もしくは事業)を売却することにより、譲受企業が事業を承継していく方法です。
これまで中小企業では、親族内承継による事業承継が用いられるケースが非常に多かったのですが、最近ではその傾向に変化が現れています。
果たして親族内承継による事業承継は良い選択肢なのでしょうか?
本日は親族内承継のメリットやデメリット、そして親族内承継を成功へ導くための注意点などを徹底解説していきます。
事業承継の3パターン
冒頭にもお話ししたように、事業承継には3つのパターンがあります。ここではそれら3つのパターンをもう少しだけ掘り下げ、それぞれの特徴について考えてみたいと思います。
パターン① 親族内承継
事業承継の最もポピュラーなのがこの親族内承継です。
承継者には子どもだけでなく、配偶者や甥や姪、兄弟姉妹などが含まれることもありますが、実際にはほとんどのケースで子供が事業を承継しています。
平成30年に中小企業庁が発表した「平成29年度中小企業白書」によると、親族内承継で子供が承継者となるケースは個人事業の場合で約92%、小規模法人で約88%、中規模法人でも約81%を占めています(下図参照)
出典:「平成29年度版中小企業白書」中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/h29/html/b2_2_1_1.html
承継者である子供は経営者の最も身近な存在であり、事業や経営方針への理解が浸透しやすく、周囲への理解を最も得やすいといわれています。
パターン② 親族外承継
親族以外の人(従業員や他の役員など)に事業を承継してもらう事業承継を親族外承継といいます。
一般的には、親族に経営者として相応しい人物がいない場合や、承継意思がない場合などに用いられることが多い承継方法です。
ただし中には、親族内承継をするには承継者候補が若すぎる場合などに親族内承継のための「中継ぎ」として用いられるケースもあります。
なお、親族外相系の事業承継者に関しては、個人事業や小規模法人では親族以外の従業員が一番多いものの(個人事業約69%、小規模法人約64%)、中規模法人では親族以外の役員が事業承継者となる比率が最も多く、約57%を占めています(下図参照)
出典:「平成29年度版中小企業白書」中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/h29/html/b2_2_1_1.html
出典:「平成29年度版中小企業白書」中小企業庁https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/h29/html/b2_2_1_1.html
パターン③ M&A
親族にも社内にも後継者が見つからない場合に残された最後の選択肢がM&Aです。
企業同士による話し合いにより、会社を丸ごと(もしくは事業の一部を)譲渡希望会社に譲り、オーナー経営者はその対価を得ます。
最近の傾向としては、起業の最終目標をM&Aに置く経営者も数多く出てきており、昔のようにM&Aに対する否定的なイメージも随分少なくなっています。
後継ぎがいない!親族内承継の比率が減少傾向にある
中小企業の事業承継において、選択される機会が最も多いのが親族内承継ですが、じつは親族内承継を選んでいる企業の数は年々減っています。
減り続けている後継ぎ・親族内承継
下図をご覧いただけばお分かりのとおり、親族内承継を選ぶ企業は1990年前後をピークに右肩下がりで一方的に減少を続けています。それに対して親族外承継を選択する企業は、右肩上がりに増加し続けています。
出典:「親族外承継に取り組む中小企業の現状と課題」日本公庫総研レポート
後継ぎ・親族内承継が減少傾向にある理由
ではどのような理由により親族内承継が減少し続けているのでしょうか?
理由その① 少子化により親族内の後継者候補が減っている
1949年の第1次ベビーブームでは4を越えていた出生率も、1970年代前半の第2次ベビーブーム時には何とか2を保つ程度にまで落ち込んでしまいました。
中小企業の経営者の引退年齢の平均が約70歳であることを考えると、現在まさに事業承継を行っているのはこの第1次ベビーブームの時に生まれた経営者です。
そしてその経営者が20代半ばで授かった子供が、第2次ベビーブーム時に生まれた子供なのです。
出生率が約半分に減っているわけですから、当然親族内承継が難しくなります。
理由その② 価値観の多様化により家業を継ぐ子供が減っている
航空産業の発達とインターネットの出現により、誰でも世界中のどこへでも簡単に行くことができ、また地球の裏側の企業とも簡単に仕事のやりとりができる時代となりました。
結婚しない選択肢も選ぶことができるほど価値観や生き方が多様化した現代社会において、家業を継ぐ子供の数が大幅に減っています。
理由その③ 親族内に後継者として相応しい人物が見つからない
後継者候補が複数いる時代であればその中から相応しい人物を選ぶこともできましたが、候補者そのものの数が少なくなってしまっている以上、数少ない中から適性のある人物を選ぶには限界があります。
たとえ事業を承継する意思のある親族だったとしても、後継者として相応しくない場合もあります。
理由その④ 親族外承継やM&Aが特に珍しいものではなくなった
かつて親族外承継やM&Aが珍しい時代もありましたが、今ではそれほど珍しくもなくなりました。
特に以前はM&Aに対して否定的な意見も多く見られましたが、今ではそれもなくなり、むしろ若い経営者の間では事業規模を拡大するためのツールとして積極的にM&Aが活用されています。
後継ぎ・親族内承継のメリット3つ
ではここで、親族内承継のメリットをまとめてみましょう。親族内承継のおもなメリットは以下のとおりです。
- 事業承継のための準備期間を十分にとれる
- 事業承継者としての理解が得やすい
- 相続や贈与などを活用することにより、事業承継のためのコストを下げることができる
後継ぎへの事業承継のための準備期間を十分に取れる
親族内であれば早期に後継者の決定をすることができます。
早めに後継者候補が決まれば、実際に事業承継を行うまでの間じっくりと経営者になるための教育をすることができます。
ちなみに、事業承継をするためには準備期間として約10年が必要だといわれていますが、早期に後継者候補が決まれば、これも問題ありません。
周囲に対して後継ぎが事業承継することの理解が得やすい
経営者の親族が事業承継者であれば、社員や得意先や、そして金融機関からの理解も得やすいです。
そのため、事業承継後の混乱を最小限に抑えることができます。
相続や贈与などを活用でき、事業承継のためのコストを下げられる
事業を承継するためには、承継者が株式や事業用資産などをオーナー経営者から購入しなければなりません。
しかし優良企業であればあるほどその企業価値は高くなるため、購入費用を捻出するのが難しくなってしまいます。
しかし親族であれば、それらの資産を贈与や相続によって取得することができるため、事業承継のためのコストを最小限に抑えることができます。
後継ぎ・親族内承継のデメリット3つ
では反対に、親族内承継のデメリットには何があるのでしょうか?親族内承継によるデメリットは、以下のようになります。
- 本当は経営者としての適性に欠けているかもしれない
- 他の親族と揉める可能性がある
- 債務の個人補償を引き継がなければならない場合がある
後継ぎが本当は経営者としての適性に欠けているかもしれない
親族が事業を承継してくれるのは、どんな経営者にとっても嬉しいことです。
しかし、親族であることと次期経営者としての適性があることとはまったく関連性がありません。
親族であるということだけでついその評価に下駄をはかせてしまい、後継者候補として過大評価してしまうと、事業承継後の企業経営が行き詰ってしまうことがあります。
後継ぎと他の親族とで揉める可能性がある
現経営者の親族(たとえば弟など)が役員である場合、現経営者の子息を事業承継者として迎え入れた場合に揉める可能性があります。
他の親族にも子息がいる場合、現経営者の子息だけが事業承継者となることを不公平に感じることがあるからです。
この場合、役員である他の親族(たとえば弟など)が会社の株式を保有していると、最悪の場合会社の経営や事業方針の決定に悪い影響が及んでしまうことがあります。
後継ぎが債務の個人補償を引き継がなければならない場合がある
会社経営者の場合、大なり小なり法人の借入金の債務保証や個人資産の担保提供をしています。
親族外承継であれば基本的にこれらの個人補償を綺麗にしてから事業承継を行いますが、親族内承継の場合現経営者の個人補償をそのまま事業承継者が引き継ぐ場合が多いです。
後継ぎへの親族内承継を円滑に進めるためにやるべきこと
それでは最後に、親族内承継を円滑に進めるためにやるべきことをまとめてみます。親族承継を行う場合にやるべきことは以下のようになります。
- 関係者の理解を得る
- 後継者教育に時間をかける
- 株式や事業用資産を事業承継者に集中させる
関係者の理解を得る
親族同士だからといって、承継者候補との意思疎通をないがしろにしてはいけません。
誤解が生じてしまっては、上手く行くものも行かなくなってしまいます。
親族同士だからこそ、じっくりと時間をかけて後継者候補との意思の疎通
をするように心がけましょう。
とくに後継者候補が複数いる場合には、注意する必要があります。
それ以外にも、社内や取引先・金融機関へ事業承継計画を公表し、将来の経営陣の構成を考え、役員や従業員の世代交代の準備を開始しましょう。
後継者教育に時間をかける
事業承継を円滑に行うためには、意識的に後継者の教育に時間をかけなければなりません。
具体的には、社内での教育だけでなく、できれば他社での勤務やセミナーの受講なども積極的に行いましょう。
株式や事業用資産を事業承継者に集中させる
事業承継者が経営権を掌握し、承継後に事業が行いやすくするために、事業承継に向けて株式や事業用資産を事業承継者が所有できるように準備を進めていきます。
現経営者以外に株式が分散している場合には、可能な限り株式の買取などを実施し、また経営者が個人的に所有している土地の上に会社の建物がある場合には、相続などにより当該土地を事業承継者が所有できるように準備をしておきましょう。
それ以外にも、後継者以外の相続人への配慮も必要です。相続時に財産の配分が不公平にならないように、現金などを用意し十分な配慮をしておくことが大切です。
最後に
親族内承継にはメリットだけでなくデメリットもありますが、それを考慮しても、経営者にとってご自身が心血を注いで育て上げた企業を親族が承継することほど心強いものはないのではないでしょうか。
しかし、親族内承継を円滑に済ませるためには十分な準備期間が必要で、かつ相続や贈与とも密接に関わってくるだけに、早い段階から専門家の意見やアドバイスも必要となります。
事業承継セミナーなどに参加し、信頼できるM&A仲介機関や税理士などの士業専門家の意見を参考にしながら、ぜひ円滑な親族内承継を実現して下さい。
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