企業の収益力の比較に便利なEBITDA!M&Aでの利用の仕方

あなたは「EBITDA」について、どのくらい理解していますか?
経営者の中にも、「EBITDAという言葉はきいたことがあるけれど、あまり理解できていない」という方は多いと思います。

EBITDAを利用すると日本会計と国際会計の基準の差を取り払うことができ、収益性を比べやすくなるなどのメリットがあります。

この記事では、EBITDAの計算方法やメリットに加え、M&Aで利用するEV/EBITDA倍率についても紹介していきます。

国際的な基準で収益性を比較できるEBITDAとは

まず、EBITDAとは何かから理解していきましょう。

EBITDAは「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略です。

読み方は、「イービットディーエー」または「イービットダー」です。

日本では長いあいだ国際基準とは異なる会計方法が利用されていましたが、最近では国際基準(IFRS)を導入する企業が増えてきました。

ただし、現段階では義務づけされているわけではないので、中小企業などで国際基準(IFRS)を導入しているところはほとんどないでしょう。

そこでEBITDAを利用すると、国ごとで異なる会計基準を比較しやすくなります

具体的には、税引前利益に支払利息、減価償却費及び無形固定資産の償却費を加えて算出することにより、国際会計の基準で比べやすくなるのです。

日本では会社の価値や業績を確認するために営業利益に目を向けるケースが多いですが、営業利益は減価償却費が差し引かれるため、設備投資が大きければ実際のその年度の収益よりも数値が少なくなります

そのため、対象年度の収益性を知るにはEBITDAを利用した方が、分かりやすく良いという考え方があるのです。

EBITDAの計算方法

EBITDAとは何かがざっくり理解できたところで、実際の計算方法について説明します。
EBITDAの計算方法は大きく分けて2種類あります。


まず1つ目の計算式は以下の通りです。

 
EBITDA=経常利益+利息(支払利息-受取利息)+減価償却費


起業間もない企業や、事業を拡大しようとしている企業は、金融機関からの融資に頼っているケースも多いでしょう。

その場合、融資で多額の金利を支払っている可能性があるので、EBITDAを計算する場合には利息の支払分を戻して計算します。

また、減価償却費の分についても実際にその年度はキャッシュアウトしていないため戻して計算します。

2つ目の計算式は以下のとおりです。

 
EBITDA=営業利益+減価償却費

営業利益は、税や利息を差し引く前の利益です。

ここに減価償却費を加えることにより、簡単にEBITDAの計算ができます。

減価償却費の計算方法

1つ目・2つ目のEBITDAの計算式にともに含まれている「減価償却費」の計算方法についても振り返っておきましょう。

減価償却費は、パソコンや機械、車などの設備を購入した場合に、一括で計上するのではなく数年に渡り計上します。
有形の固定資産だけではなく、特許権、ソフトウェア、商標権などの無形固定資産も減価償却します。
対象の資産に応じて償却期間が定まっているので、購入した設備に合わせて計上することが必要です。


たとえば、パソコンの耐用年数はサーバーとして利用する場合は5年、それ以外は4年となります。
ただし、実際に費用を支払うのは最初の1年目のみで、後の数年間は実際の支払はありません。

そのため、収益性を図るEBITDAの計算では実際にキャッシュアウトしていない分については減価償却費を戻して計算するのです。

参考:国税庁


また、減価償却費の計算としては定額法定率法が用いられます。

 
  • 定額法:毎年同じ額を均等に分けて計上し、定率法は期首残存価額×定率法の償却率で計算します。
  • 定率法:償却初年度が最も金額が大きくなり、年が経過するごとに償却金額が少なくなります。

法人の場合、機械・装置、船舶、航空機、車両・運搬具、工具並びに器具・備品は、定率法が法定償却方法として予め決められています。

もし定額法を採用したい場合は、「減価償却資産の償却方法の届出書」を税務署に提出してください。

EBITDAのメリット・留意点

ここからは、EBITDAが優れている点と留意点についてそれぞれ説明していきます。

メリット:EBITDAは海外企業との収益性の比較もしやすくなる

EBITDAを利用するメリットは、国際的に事業展開しようと考える企業が海外と会計基準を揃えることにより、海外の会社と収益性を比較・分析しやすくなることです。

たとえば、金利水準は国により異なりますし、減価償却費の計算方法も異なるため、EBITDAを利用した方が比べやすいのです。

また、EBITDAでは減価償却費を加えることから設備投資額が大きい会社の収益性を判断するためにも有効です。

設備投資の大きい会社では、設備投資が大きくなれば減価償却費も増えて赤字になる可能性があります。
しかし、設備投資を行う場合は初年度にキャッシュの支払いが行われ、翌年以降減価償却費は計上されるもののキャッシュが動くわけではありません。
設備投資の効果が出始めて収益性が上がっているのに、前年度の設備投資の償却費を計上するために赤字になるケースもあるのです。

そのため、その年における実際のお金の流れを確認するためには減価償却費分を戻した方がその年度の収益がわかりやすくなります。

留意点・EBITDAは設備投資の重要性が無視されている



ここまでに説明したように、EBITDAの計算では減価償却費を戻して計算します。
裏を返せば、EBITDAの計算方法は毎年設備投資が必要になる企業の新規の投資について無視しているといえるのです。

たとえば、その年の営業利益が10億円、数年前に行った設備投資における減価償却費が2億円、その年に新規導入する設備投資費用が5億円とします。
この新規の設備投資費は減価償却費として数年に分けて経費計上するのでその年度の損益計算書の経費には全額計上されません。
しかし、実際は5億円のキャッシュアウトとなるため、この年手元に残る現金はEBITDAで計算するより大幅に少なくなるのです。

企業において、設備投資を行うのは事業の拡大・安定のために必要不可欠です。

そのため、設備投資を繰り返す企業において設備投資額や運転資本を考慮せずに収益性の計算を行うのは、投資に対する評価はせず投資の「効果」だけを評価しているという意見もあります。

EBITDAとフリーキャッシュフローの違い

EBITDAの説明を聞いて、「フリーキャッシュフローと似ている」感じる方もいらっしゃるでしょう。
ここからは、この2つの違いを説明していきます。


そもそも財務諸表の「キャッシュフロー計算書」は、「営業活動におけるキャッシュフロー」、「投資活動によるキャッシュフロー」、「財務活動によるキャッシュフロー」から成り立っています。

フリーキャッシュフローの計算式は以下の通りです。

 
フリーキャッシュフロー=営業活動によるキャッシュフロー-投資活動によるキャッシュフロー


具体的には、税引前当期純利益から減価償却費や売上債権・買掛債務、税金計算を含めたキャッシュの残高を計算します。

財務活動によるキャッシュフローは金融機関などの融資による資金調達のことなので、フリーキャッシュフローの計算上では関係ありません。


EBITDAが本業の収益性を示す指標だとしたら、フリーキャッシュフローは企業全体でどれだけお金が残ったかを示す指標といえます。

EBITDAでは企業の継続的な成長に必要な税金や設備投資、運転資本などが考慮されていない点で、EBITDAとフリーキャッシュフローは異なる性質のものなのです。

フリーキャッシュフローはプラスになることが望ましく、投資活動によるキャッシュフローは営業活動によるキャッシュフローの範囲内に抑えた方が良いでしょう。

また、フリーキャッシュフローが0またはマイナスの場合は営業活動に自由に使える資金がないということなので、資金調達を検討する必要があります。

M&Aで使われるEV/EBITDA倍率とは?



M&Aでは、「EV/EBITDA倍率」を利用してM&Aの妥当性について考えることが多くあります。

EV(Enterprise Value:企業価値)は、その企業を買う際に必要な正味価格のことで、「株式時価総額+有利子負債-現預金」で計算します。

EV/EBITDA倍率の計算式は以下の通りです。

 
EV/EBITDA倍率=(株式時価総額+純有利子負債+少数株主持分)/ EBITDA(営業利益+減価償却費)

具体的にはM&Aで買収をしようと考えたときに、「買収で支払った資金を対象企業のEBITDA何年分で賄えるかを表すもの」と説明すると分かりやすくなるのではないでしょうか。

買収する側としたら、買収するために支払った金額(EV)を、売り手となった企業が生み出す資金(EBITDA)によって早く回収できる方がお得となります。

業種によって異なりますが、EV/EBITDA倍率は一般的には8〜10倍が目安となり、数値が大きいほど割高だと考えます。

また、EV/EBITDA倍率を計算することにより、国際的な基準で収益性を比較することがしやすくなります。
そのため、海外企業のM&Aをするときにも有効となるのです。

しかし、実際にM&Aをする場合の企業価値については話し合いなども考慮され、計算だけでは決まらない点に注意が必要です。

まとめ

EBITDAは国際的に異なる会計基準を同じ基準で比べることができる点で優れた指標です。

EBITDAの考え方は、実際にはキャッシュアウトしていない減価償却費などを戻し、実際の収益性を図ります。
そのため、M&Aで買収を考えている場合などには、収益性に目を向けて判断しやすくなるのです。

特にEV/EBITDA倍率を利用すると買収に必要な企業価値(企業の価格)をその企業の収益性により何年で回収できるかが分かりやすく、M&Aでも活用されています。
このEV/EBITDA倍率は、数値が低いほど早く回収できることとなり、買収側から見るとお得な企業ということになります。

ただし、企業が存続するためには現状維持というものは難しく、毎年のように設備投資をしなくてはいけないのが現実ですが、EBITDAでは設備投資の重要性が無視されています
そのため、EBITDAは数ある指標の一つとして、さまざまな指標を含めて総合的に見比べることが大切といえるでしょう。

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