後継者育成ではいつ何をすべき?難しいポイントや理想的な期間も解説【事業承継】

企業が後継者問題の解決策として事業承継を行う場合、最終的には親族内承継親族外承継M&Aの3つの選択肢の中からどれか一つを選ぶことになります。
しかし、M&A以外の選択肢を選んだ場合には、後継者を次期経営者に迎えるための育成をしなければなりません。

 後継者の育成は、資格試験の勉強とはちがい、参考書がや決まったカリキュラムがあるわけではありません。
もちろん、合格のための点数もありません。

しかし、いくら経営者としての資質がある人物を連れてきたとしても、後継者としての教育を行わなずにいきなり次期経営者として企業運営をスタートさせてしまっては、その後の運営が上手くいくとは到底思えません。

 そこで本日は、事業承継の後継者を育成する場合、どのような方法で教育を行い、何を身に着けるのが理想的なのかについて考えてみます。

事業承継が進まない原因の1つは後継者育成の問題

中小企業の後継者不足をあちこちで耳にするようになってからもう随分と長い時間が経ちますが、一向に改善されたという話を聞きません。

実際のところ、中小企業の事業承継は現在どうなっているのでしょうか?
日本における中小企業の重要性から事業承継の現状までを、まずこの章で整理してみます。

日本における中小企業の重要性について

日本経済の基盤や社会を支えているのは、大企業ではなく中小零細企業です。
中小企業は日本の企業数の約99%(うち小規模企業者は約85%)・従業員数の70%(うち小規模事業者は約24%)を占めており、地域経済や社会を支え、雇用の受け皿としてきわめて重要な役割を担っています。

左図:企業数の内訳、右図:従業員数の内訳 出典「事業承継ガイドライン」中小企業庁

中小企業は技術革新や新しいサービスの開発に尽力しているだけでなく、地域において商品・サービスを提供する提供者でありながら、同時に地域における商品やサービスの消費者としての立場を併せ持っており、地域経済を循環させるポンプのような役割を果たしています。

経営者の高齢化

2016年度版「中小企業白書」によると、中小企業数は1999年から2015年までの15年間に約100万社減少しているいっぽうで経営者の交代率は下降し続け、昭和50年代には約5%だった交代率が2011年には2.46%にまで落ち込んでいます。

 その結果、経営者の高齢化が進み、経営者の平均年齢は約60歳となっています。

経営者の平均年齢と経営者交代率 出典:「事業承継ガイドライン」中小企業庁

現状を放置しておくと、経営者交代率が低下し続けたまま経営者の高齢化がさらに進むことが予想され、最悪の場合後継者に事業を承継することなく廃業を選ぶ中小企業が続出することが考えられます。

新型コロナウイルス後の経済不安が中小企業の廃業を加速させる恐れも

新型コロナウイルスの終息がまだ見えない現在(2020年8月)、秋以降に日本経済が大幅に落ち込むことが予想されます。
大企業は当面の間新規開発や設備投資を控えるため、その影響はただちに日本中の中小企業を直撃します。

中小企業の経営者であれば誰でも予測できる近未来を考えたとき、新型コロナウイルスが中小企業の大量廃業の引き金になる可能性は十分に考えられます。

地方経済の地盤沈下を防ぐためには事業承継の促進が不可欠

このような地方経済の地盤沈下を引き起こしかねない中小企業の連鎖廃業を食い止めるためには、何としても事業承継による企業の若返りを図り、もう一度活力ある地方経済を復興させる起爆剤の役割を担ってもらわなければなりません。

中小企業の事業承継が進まない理由は、後継者が見つからない(もしくは育成できない)からです。それではどうして後継者を見つける、もしくは育成することができないのでしょうか?

親族内承継と親族外承継の場合に分けて、それぞれ考えてみましょう。

親族内承継で後継者が見つからない・育成できない理由

現経営者の子息・子女をはじめ兄弟などの血族の中から後継者を選び、事業を承継させる方法を親族内承継といいます。

親族内承継で後継者が見つからない・育たない理由は、おもに以下の3つです。

理由① 親族が後継者になりたがらない

親族内承継で後継者が見つからない最大の理由は、親族が後継者になりたがらないことです。
会社経営は良い事ばかりではありません。経営者が裏でどれだけ苦労しているのか、どれだけ大変な思いをしているのかは、親族であればよく知っています。

その苦労を知っているからこそ、後継者になりたがらないのです。
それ以外にも、後継者候補となるべき親族がすでに他の仕事に就いてる、経営者になって個人補償のリスクを抱えるのを嫌う、などの理由から親族が後継者になりたがらないことが挙げられます。

理由② 親族内で意見が分かれる

承継者候補の子供同士、もしくは承継者を擁立する役員同士が対立し、親族内で意見がまとまらずに結局後継者を見つける・育てることができないケースです。

会社の株式は現経営者の財産であり、この財産はその後の相続問題と密接に関連しているため、誰が後継者になるのかによって相続財産の配分を大きくゆがめてしまうことがあります。

そのため、親族内で対立し、結果として後継者を見つけることができないわけです。

理由③ 後継者としての資質が備わっていない

親族外やM&Aと比べると、親族内承継の場合には後継者候補の選択肢が圧倒的に少なくなります。
そのため、少ない選択肢の中から後継者としての資質が備わった候補を見つけることができない場合があります。

親族外承継で後継者が見つからない・育成できない理由

親族内とはちがい、おもに社内の人間などを中心に親族外から後継者を探して事業を承継させる方法を親族外承継といいます。

親族外承継で後継者が見つからない・育たない理由は、おもに以下の2つです。

理由① ナンバー2を後継者に選びたいが、そもそも経営者と年齢が近い

社内から後継者としてふさわしい知見を持った人物を探した場合、真っ先に挙がるのが現経営者の右腕・ナンバー2です。
しかしナンバー2にあたる人物は往々にして現経営者と年齢が近いため、現経営者からナンバー2に事業承継を行なったとしても、決して企業が若返るわけではありません。

また、せっかく事業承継を無事に済ませても、すぐに次の後継者を探さなければなりません。

理由② 若い人材を後継者に登用したいが、古参の反発を招いて社内が分裂する恐れがある

思い切って若い人材を後継者に抜擢しようとしても、古参の社員からの反発を買って計画そのものが空中分解してしまうことがあります。

無理に改革を進めてしまうと社内が分裂し、最悪の場合大量の退職者を出してしまいかねません。

親族内・外のどちらの承継も、このような理由により後継者を見つける・育てることが難しくなっています。

後継者の育成に必要な期間

事業承継のための後継者探しやその育成が決して簡単ではないことをご理解いただいた上で、スムーズな事業承継を行なうためにはいったいいつごろから後継者教育を始めるのが良いのでしょうか?

スムーズな事業承継のために必要な後継者育成の期間は10年

中小企業基盤整備機構の事業承継実態調査によると、事業承継を済ませた企業経営者を調査したところ、後継者の育成に必要な期間として最も理想的な年数は10年であることが分かりました。

出典:中小企業基盤整備機構「事業承継実態調査」(2011 年 3 月)

事業承継には明確な期限がないため、差し迫った理由がない限り、つい日常の雑務に紛れて後回しにされがちですが、経営者の平均引退年齢が約70歳であることを踏まえると、60歳頃から事業承継のための準備を開始するのが良いでしょう

後継者育成で身に付けさせるべきこと

「後継者は特別な資質を持った人間を選抜するものであり、教育により身に付けるものではない」という意見があります。

確かに、従業員数千人以上の企業の後継者や、上場企業とほぼ変わらない規模の企業であれば、そのような特別な資質を持った後継者を探さなければならないかもしれませんが、世の中の圧倒的大多数は小規模事業者です。
カリスマ経営者にならなくても、十分に経営していくことは可能です。

後継者として身に付けておくべきことに絶対的なものありませんが、一般的に後継者として身に付けておくべきと言われているものをまとめてみました。

すべてに対して真摯であること

ドラッカーは、経営者にとって最も必要な要素とは「真摯であること」だと言っています。
「真摯」とは、仕事関わるあらゆることに対して「誠実・正直・高潔・裏切らない」ことだと定義しています。

非常に抽象的ではありますが、当たり前のことを一つ一つ丁寧に積み上げていくことができる姿勢身に付けることが、後継者には必要だと思われます。

経営意欲を持つこと

ドラッカーの言う「経営意欲を持つ」とは、やる気を持つこととは違います。
後継者の強みを生かし、成果に責任を持たせる仕事を与え、その結果自然と高まっていく仕事に対する意欲を経営意欲と定義しています。

後継者教育を通じて、高い経営者意欲を持ち続けられるようにすることが大切です。

後継者育成の方法

それでは最後に、後継者の具体的な教育方法についてご説明します。

後継者教育にはおもに2つの方法があります。1つは社内での教育、そしてもう1つが社外での教育です。

後継者の社内での育成

ゆくゆくは後継者となるわけですから、会社内の状況を社内の誰よりも理解しておかなければなりません。そのためには、おもに以下の3つを行います。

社内での育成① 各部門をローテーションさせる

作業現場などはもちろんのこと、営業、財務、労務・総務などを一通りローテーションさせることにより、各部門の経験と必要な知識を習得させます。
ただし部門によっては繁忙期とそうでない期があるため、各部門を最低でも1年は経験させなければ経験を積むことは難しいでしょう。

社内での育成② 責任ある地位に就ける

経営幹部などの責任ある地位に就けて権限を委譲し、重要な意思決定とリーダーシップの発揮を経験させることにより、経営に対する自覚を育てていきます。

社内での育成③ 現経営者による直接指導

現経営者による経営ノウハウや業界事情を伝え、経営理念の引継ぎを行います。

後継者の社外での育成

後継者のための教育は、社内だけでなく社外でも行います。具体的には以下の3つを行います。

社外での育成① 他社での勤務を経験させる

自社の枠にとらわれず自由な発想でアイデアを獲得することができるだけでなく、人脈の形成や新しい経営手法の取得が期待できます。

社外での育成② 子会社・関係会社などの経営を任せてみる

子会社や関係会社がある場合はその経営を、なければ社内の一部門の運営を任せ、経営者としての責任感を植え付け、また、経営者としての資質の有無を最終的に確認します。

社外での育成③ セミナーなどの活用

事業承継者を対象とした社外セミナーに積極的に参加させ、経営者に必要とされる知識を習得させ、幅広い視野を育成します。

後継者教育には絶対的なものはありませんが、多くの会社はこのように後継者教育を行っています。

最後に

事業承継をスムーズに行うためには、後継者の育成は欠かせません。できれば10年ほどの期間を取り、じっくりと後継者の育成に取り組まなければ、どんな資質を持った後継者候補がいたとしても、承継後の企業運営が暗礁に乗り上げてしまう可能性があります。

とは言え、ほとんどの経営者にとって後継者教育ははじめてのことですから、必ずしも上手くいくとは限りません。

事業承継を控え後継者教育が心配な経営者の方は、事業承継の経験が豊富なアドバイザーなどに相談しながら後継者の育成プログラムを作成していくとよいでしょう。

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