企業が行うべきハラスメントの対応方法とは?リスクや予防策も解説

企業にとって大きな労働問題であるハラスメント。対応が法制化された現在では、法律に沿った適切な対処を行わなければなりません。

そこで今回は、企業が行うべきハラスメントの対応方法を解説します。
また後半では、ハラスメントによるリスクや予防策についてもご紹介していきます。

わかりやすくまとめていますので、ハラスメント全般について理解したいという方は、ぜひご覧ください。

企業で起こるハラスメントの種類

まずは、ハラスメントとはどんなものか?企業で起こるハラスメントにはどのような種類があるのかを確認しましょう。

ハラスメントとは?

ハラスメント(harassment)とは、「いやがらせ、いじめ」を意味する英語です。

アメリカで1970年代に「セクシャルハラスメント」という言葉が生まれます。
日本では、平成元(1989)年に流行語大賞の「新語・流行語大賞」に選ばれたことをきっかけに、セクハラ問題が認識されるようになりました。

パワーハラスメント(パワハラ)

厚生労働省のHP「あかるい職場応援団」では、パワハラとは「職場で起こり、以下の①〜③をすべて満たすもの」と定義されています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であって、
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

「上司から部下へ」というケースが多数ですが、なかには「部下から上司へ」や「同僚から」というケースもあります。

そして、厚生労働省の「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、労働局への民事上の個別労働紛争相談内容は、「いじめ・嫌がらせ」が8年連続のトップです。

出典:厚生労働省

このように、いわゆるパワハラとされる案件が増加しているため、後述のとおり防止措置が法制化されました。

セクシャルハラスメント(セクハラ)

厚生労働省のHP「あかるい職場応援団」では、次の行為をセクハラと定義しています。

  • 「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること

そしてセクハラは、次の2タイプにわけられます。

  1. 対価型セクハラ:性的な関係を要求し、断ったら不利益を与える
    (例:上司が部下をホテルに誘い、断ると無理な仕事を増やされる)
  2. 環境型セクハラ:社員の意に反する性的な言動をくりかえし、職場環境が悪化する
    (例:職場でアダルトサイトをみる、夫婦生活のことを尋ねる)

また、「男性が女性へ」が一般的ですが、「女性が男性へ」や「同性同士」もセクハラです。

そして、労働局の雇用均等室への相談件数をみると、下図のとおりセクハラがもっとも多くなっています。
世間ではセクハラの認知度はありますが、実態としては減少していません。

出典:厚生労働省

妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ)

厚生労働省のHP「あかるい職場応援団」では、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ)」を以下のように定義しています。

  • 職場において行われる上司・同僚からの言動により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業・介護休業等を申出・取得した男女労働者の就業環境が害されること

マタハラにも、次の2つのタイプがあります。

  1. 制度の利用への嫌がらせ:
    妊娠・出産の際に利用する制度を利用させない言動や、制度を利用したことで嫌がらせをする
  2. 状態への嫌がらせ:
    妊娠・出産による体調不良で業務の変更を受けたことに対して嫌がらせをする

また、マタハラには「男性社員の育休取得などに対する職場での嫌がらせ」を意味する「パタニティーハラスメント(パタハラ)」も含まれます。

その他のハラスメント

ほかにも、次のようなハラスメントが存在します。時代の世相を反映しつつ、現在もその種類を増加させているのです。

  • ソーシャルメディアハラスメント(ソーハラ):職場におけるSNSを使った嫌がらせ
  • SOGI(ソジ)ハラスメント(ソジハラ):SOGI(性的指向と性自認)を理由とした嫌がらせ
  • ケアハラスメント(ケアハラ):働きながら家族の介護を行う社員が介護休業取得したことなどに対する職場での嫌がらせ
  • 時短ハラスメント(ジタハラ):仕事量を変えずに、対策も示さないまま残業削減を強要する
  • カスタマーハラスメント(カスハラ):顧客(カスタマー)の立場を利用した悪質なクレーマーによる嫌がらせ

企業が行うべきハラスメントの対応方法

ハラスメントが発生した場合、適切に対応しなければ、さらに問題が拡大することも。ここでは、企業が行うべき適切な対応方法を解説します。

【対応1】相談窓口で相談・苦情を受け付ける

まずは、相談窓口で相談者の相談・苦情を受け付けます。

ハラスメントを受けた相談者は、心理的に不安定になっていることが多いです。
状況をうまく説明できなかったりあいまいな内容でも、忍耐強く話しを聞くことが大切になります。

そのほかにも、相談員は次のようなことを心がけましょう。

  • 相談者のプライバシーが確保できる場所で相談を受ける
  • 行為者や第三者に事実関係の確認をしてよいかを、相談者に聞く
  • 相談者に負担をかけないため、1回の相談時間は1時間ほどにする
  • 話をせかさず、相談が1回で終わらない場合は、次回の相談日を設定する
  • 詰問にならず、傾聴することを心がける
  • 「相談者にも責任がある」など責める発言をしない
  • 相談者に「記録してよいか」を確認し、「相談記録」として残す

この窓口での対応が悪いと、相談者は会社への不信感を持ってしまい、今後の相談にはつながりません。
相談員には研修を実施して、適切な対応ができるようにしておくことも重要です。

【対応2】事実関係を確認する

次に、相談内容に関係する次の社員に対して聞き取りを行い、事実関係を確認します。

  1. 相談者
  2. 行為者
  3. (場合によっては)同僚など状況を知る社員

ここで大切なことは、「5W1H」の特定です。「いつ・どこで・誰が・なぜ・何を・どうした」のかを、できるかぎりはっきりさせます。

また、相談者が証拠を提示した場合、それを「同僚や行為者に開示してもよいか」の同意を得てください。
さらに、相談者が「どのような解決を望むのか」も、この時点で確認します。

行為者に聞き取りを行う場合も、当初から決めつけて責めるようなことはせず、客観的な事実確認に努めます。
相談者に対しての「報復行為の禁止」も伝えてください。

相談者と行為者に聞き取りした結果、両者の言い分がくいちがう場合は、同僚など状況を知る社員にも聞き取りを行います。
ただし多数の社員に聞けば、それだけ問題が周囲に漏れてしまうため、できるかぎり人数はしぼります。

【対応3】行為者と相談者への措置を検討、実施する

〈パターン1〉事実と認められた場合

聞き取りによって事実関係があると判断した場合、速やかに「ハラスメント対策委員会」などを開き、行為者と相談者への措置を検討します。
内容によっては、公的機関や弁護士など、社外の第三者へ意見を求めることも行ってください。

措置はあくまでも、公平に行います。
行為者が経営者であった場合でも、適切に対処することが大切です。
相談者が派遣社員でも、もちろん対応する必要があります。

相談者への対応

「本人の希望」をかなえることが第一です。
たとえば、マタハラにより休業させられていた場合、本人が復帰を望むのであれば「原職への復帰」を行います。

行為者との関係改善を望むのであれば、改善を支援をしてください。

行為者への対処

就業規則や懲戒規程などにもとづく処分を行います。
配置転換となるケースが多いですが、小さな職場ではまた顔をあわせることも。

このような場合は、指示命令系統のラインをべつにしましょう。
ハラスメントは同じラインで発生しやすいため、指示命令系統が変われば、職場の雰囲気も変わります。

また、相談者・行為者ともに、大きな心理的ダメージを受けているケースが多いです。
必要であれば医療機関の紹介など、メンタルケアも行ってください。

〈パターン2〉事実と認められなかった場合

相談者には、会社として事実確認を行い協議した結果、この結論となったことを伝えます。
すると相談者は「相談したことに対応してくれた」として、会社に不信感をもつことは減るでしょう。

また行為者に対しても、会社のハラスメント対策の一環として対応したことをよく説明して、本人の理解を得ます。

【対応4】再発防止策を検討、実施する

最後の対応として、ハラスメントの再発防止策を検討し、実施してください。たとえば、つぎのような対策があります。

  • 行為者に対して社外セミナーを含めた、再発防止研修を行う
  • 全社員に対して再発防止研修を行う
  • 社長から全社員、または管理職に向けて、メッセージを発信する
  • 今回の事例をもとに、新たな防止策を検討しルールに組み込む
  • 管理職登用について、部下への適切な指導ができることを昇格の条件とする
  • 長時間労働や人手不足など、ハラスメントの原因となる職場環境を改善する

そして前項パターン2の「事実と認められなかった場合」でも、再発防止策を実施することは有効です。
これまでの対策が有効だったかを振り返り、再度周知徹底を図ります。

ハラスメントによる企業リスク

ハラスメントを放置すること、適切な防止措置をとらないことは、企業にどのような影響を与えるのでしょう?
ここでは、ハラスメントによる企業リスクを具体的にご紹介します。

被害者や行為者などの社員を失う

ハラスメントを受けた被害者が、会社に相談したけれど何も動いてくれない。
多くの場合、その社員は退職を選ぶでしょう。
さらに最悪のケースとしては、「死」を選ぶこともあります。

行為者も研修で学び正しい知識があれば、ハラスメントを起こさなかったかもしれません。
また、相談があった時点で対処していれば、懲戒処分で済んでいたものが、被害者の自殺などが起これば家族から訴えられることも。

このように、ハラスメントを放置することは社員を失ううえに、相談者・行為者のその後の人生を苦しめることにもつながるのです。

職場の雰囲気が悪くなり生産性が下がる

厚生労働省の「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」報告書によると、パワハラが職場や企業に与える影響として、次のような結果が出ています。

出典:厚生労働省

ハラスメントが起こることで職場の雰囲気が悪くなり、社員が能力を発揮できず、生産性も下がってしまうことがわかります。

訴訟などによる企業ブランドイメージの低下

ハラスメントを受けた社員は、心身ともに疲労しています。
そんななかで会社が適切な対処を行わないと、その社員が「会社が動かないなら、もう自分でなんとかするしかない」と裁判を起こすことも考えられます。

また後述のとおり、ハラスメント対策を行うことは、法律で定められた義務です。
その義務を怠るということは、法律を守っていないということ。
こうしたことで、企業のブランドイメージが低下することは避けられません。

その結果として、「離職者の増加・求人難」や「取引先との業務が困難に」となり、前項とあわせて会社としての存続が難しい状況となってしまいます。

そこで、次項でご紹介する予防策をしっかり行いましょう。

企業が行うべきハラスメントの予防策

いまや、ハラスメント対策を行うことは「企業の義務」です。
そこで最後に、企業が行うべきハラスメントの予防策をご覧ください。

法的に定められた講ずべき措置

①パワハラ防止のために講ずべき措置

企業でのパワハラ防止を義務づける「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法) 」 が、2019年5月に成立しました。大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月1日から対応が義務化されます。

事業主は、パワハラ防止のために次の措置を必ず講じなければなりません。

出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」

②セクハラ防止のために講ずべき措置

セクハラは、男女雇用機会均等法で事業主に防止措置が義務付けられています。指針に定められている措置は下図のとおりです。

出典:厚生労働省

③マタハラ防止のために講ずべき措置

マタハラは、育児・介護休業法で事業主に防止措置が義務付けられています。指針に定められている措置は下図のとおりです。

出典:厚生労働省

企業が行うべきハラスメントの具体策

企業が行うべきハラスメント予防策について、効果的な具体策3つをご紹介します。

【具体策1】具体的な行為を規程に載せる

「方針を明確化し周知・啓発」する方法として、就業規則に対処の内容を規定する方法があります。
さらに徹底したい場合には、新たに「パワハラ防止規程」などを策定し、具体的な行為を明記しましょう。

すると会社が本気でハラスメント防止に取り組む姿勢が、社員にも伝わります
また、具体的な行為が記載されていることで、ハラスメントに対する社員の理解も深まっていきます

【具体策2】男女1名ずつの相談員を配置

相談窓口の担当者は、男女1名ずつ配置しましょう。

たとえば女性社員がセクハラを受けていた場合、男性には相談しにくいものです。
また男性社員が、女性担当者に話しにくいこともあり得ます。

男女1名ずつ相談者を配置することで、「相談員に話しにくいから、相談できなかった」ということがなくなります

そして相談員には、できれば社外の専門家による研修をうけさせ、「相談を受ける際の適切な対応方法」を学ばせましょう。

【具体策3】階層別・ワークショップ形式でハラスメント研修を行う

ハラスメント対策の代表的な対策といえる研修。
ただし、全社員同一のe-ラーニングなどは、ハラスメント研修に適切とはいえません。

形だけとならないよう、効果的に実施する次のような研修がおすすめです。

①階層別に行う

ハラスメントに対する取り組みは、職制によって異なります。
そこで、役員・管理職・一般職とわけた階層で、それぞれに適した研修を行います。

また人事部や相談窓口担当などの担当部署については、別途必要な研修を行うと効果的です。

②ワークショップ形式とする

e-ラーニングや講師が一方的に説明をする研修では、受講者の意識が散漫になりがち。

そこで数人ずつのグループで事例をもとに話し合う、ワークショップ形式の研修がおすすめです。
自分たちで考えるため、ハラスメントに対する意識が高まり、より理解が深まります。

まとめ:適切なハラスメント対策で働きやすい職場を

今回は、企業が行うべきハラスメントの対応方法やリスク、予防策についてご紹介しました。
ハラスメント全般の定義から対策まで、把握できたのではないでしょうか。

ハラスメント対策を行うことは、社員が働きやすい職場づくりにつながります。
適切な対策によって、よりよい職場づくりを進めていきましょう。