起業を目指す方の多くは、まずは法人の設立を考えると思います。
しかし、法人の設立に必要な費用までご存知の方は、少ないのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、法人設立に必要な費用や手続き、設立のメリットを解説します。
法人の設立を考えているあなたは、ぜひご覧ください!
法人の種類
まずは、法人がどのようなものか、どういった種類があるのかご紹介します。
法人には、大きくわけて次の3つの種類があります。
- 営利法人:営利を目的とした法人(株式会社、合同会社など)
- 公益法人 :公益のための事業を 目的とした法人(一般社団法人、NPO法人など)
- 中間法人:営利や公益を目的とせず、特定の活動を行なう法人(協同組合、労働組合など)
営利法人の種類
また、営利法人を詳しくみると、現在の会社法で認められている法人は次の4つです。
- 株式会社
- 合同会社(LLC)
- 合資会社
- 合名会社
それぞれの違いを簡単にまとめたのが以下の表になります。
株式会社 | 合同会社 | 合資会社 | 合名会社 | |
必要な出資者 | 1名以上 | 1名以上 | 2名以上 | 1名以上 |
出資者の呼び名 | 株主 | 社員 | 社員 | 社員 |
出資者の責任範囲 | 有限 | 有限 | 有限・無限 (社員による) |
無限 |
設立手続きの手間 | 手間がかかる | やや簡易 | 簡易 | 簡易 |
設立費用 | 25万円程度 | 10万円程度 | 10万円程度 | 10万円程度 |
株式の譲渡 | 自由にできる (譲渡制限も可能) |
全社員の同意が必要 | 全社員の同意が必要 | 全社員の同意が必要 |
使われる主なケース |
・大規模な資金調達を目指したい ・大企業など、「株式会社とのみ取引可能な企業」との取引をしたい |
・株式会社ほどの設立の手間と費用をかけたくな場合に実施 |
・株式会社の資本金下限があった時にはコストメリットから使われていたが、現在利用されることは少ない |
・利用されることは少ない |
ちなみに「有限会社」は、平成18(2006)年の会社法改正以降は設立できなくなりました。
その前に設立されていた有限会社は現在、「特別有限会社」となってその形態を保っています。
法人設立に必要な費用と手続き
次に、法人設立に必要な費用と手続きをみていきましょう。ここでは、設立件数が多い、株式会社・合同会社・一般社団法人の3つを取り上げます。
株式会社の設立に必要な費用と手続き
もっとも一般的な法人の形であり、 日本の会社の9割以上が株式会社です。
株式を公開することで、一般から出資を募ることもできます。
株式会社の設立に必要な費用
株式会社の設立に必要な費用は以下のとおりです。
金額 | |
定款認証手数料 | 50,000円 |
定款印紙代 | 40,000円 |
定款謄本代 | 1枚250円(約2,000円) |
登録免許税 | 150,000円 ※ |
登記事項証明書代 | 600円 |
印鑑証明書代 | 450円 |
印鑑(実印)作成代 | 約10,000円 |
合計 | 約253,050円 |
※:資本金が15万円以上の場合は、資本金の0.7%
定款印紙代の40,000円は、電子定款であれば不要。
ただし、電子定款を作成するにはPDF書類作成ソフト(Adobe Acrobatなど)やカードリーダーなどが必要で、揃えると4万円ほどかかります。
すでにAdobe Acrobatなどのソフトを持っている場合には、カードリーダーなどを購入し電子定款を作成すれば、費用を節約可能です。
また、上記費用とはべつに、事業の元手となる「資本金」も必要となります。
以前は、最低1,000万円が必要でしたが、平成18年(2006)年以降は1円からでOKとなりました。
株式会社の設立に必要な手続き
株式会社の設立に必要な手続きは、以下のとおりです。
- 発起人の決定
- 会社の基本事項の決定
- 定款の作成と認証
- 出資金の払い込み
- 発起人による設立時役員の専任
- 取締役会開催
- 設立登記申請
- 諸官庁へ届け出
とくに問題がなければ、2週間ほどで設立可能です。
開業時期から逆算して、手続きの準備をすすめましょう。
また、「定款の認証」は公証役場、「設立登記申請」は法務局、「諸官庁への届け出」では税務署・労基署など、それぞれの場所での手続が発生します。
合同会社の設立に必要な費用と手続き
合同会社は、平成18(2006)年に始まった法人の形態です。
「株式会社」にくらべ、安価に手早く事業をスタートさせることができます。
合同会社の設立に必要な費用
合同会社の設立に必要な費用は、次のようになります。
金額 | |
定款印紙代 | 40,000円 |
登録免許税 | 60,000円 ※ |
登記事項証明書代 | 600円 |
印鑑証明書代 | 450円 |
印鑑(実印)作成代 | 約10,000円 |
合計 | 約111,050円 |
※:資本金の0.7%と60,000円の、いずれか大きい方
株式会社と同様で、定款印紙代の40,000円は電子定款であれば不要です。
合同会社の設立に必要な手続き
合同会社の設立に必要な手続きは、次のようになります。
- 出資者の決定
- 会社の基本事項の決定
- 定款の作成
- 出資金の払い込み
- 設立登記申請
- 諸官庁へ届け出
株式会社とくらべて、定款の認証や取締役会の開催などがないため簡易的です。そのため、設立にかかる日数は3日ほどで、早ければ1日で行うこともできます。
一般社団法人の設立に必要な費用と手続き
公益法人のなかでは、NPO法人や社会福祉法人などより、幅広い事業内容を設定できるのが一般社団法人です。法人税の優遇措置を受けられる非営利法人のなかでも、比較的設立しやすいことが特徴といえます。
一般社団法人の設立に必要な費用
一般社団法人の設立に必要な費用は、以下のとおり。
金額 | |
公証人手数料 | 約50,000円 |
登録免許税 | 60,000円 |
登記事項証明書代 | 600円 |
印鑑証明書代 | 450円 |
印鑑(実印)作成代 | 約10,000円 |
合計 | 約121,050円 |
会社と違って、登録免許税は電子定款の場合でも金額は変わりません。
一般社団法人の設立に必要な手続き
一般社団法人の設立に必要な手続きは、以下のとおり。
- 基本事項の決定
- 定款の作成と認証
- 理事・監事などの選任(定款ですでに定めている場合には不要)
- 設立登記申請
- 諸官庁へ届け出
設立には、平均で2〜3週間ほどかかります。
法人設立は自分でもできる?
法人設立は自分でもできます。
現在は、書類や情報にすぐにアクセスできるため、以前よりも容易といわれます。
たとえば、以前は書類を登記所や税務署に行って入手する必要がありましたが、現在は法務局のHPなどでダウンロード可能です。
また法務局には相談窓口があり、書類の書き方がわからない場合にはアドバイスをもらえます。
ほかにも、いくつもの公的な起業支援機関の支援制度があります。
このように環境がそろっており、時間をかければ自分自身で十分対応できます。
さらに自分で行えば、法務局・税務署への届け出などさまざまなことも学べます。
しかしどうしても、書類作成や申請に時間はかかります。
経営者であるあなたの時間は貴重です。
そのため、できるところは自分で行い、不明なところは後述する各分野のスペシャリストを頼ることも考えましょう。
法人設立のメリットとデメリット
起業を目指すとき、「個人事業主でスタートするか、株式会社などの法人を設立するか」を考えることが多いですが、どのような違いがあるのでしょう。ここでは、法人を設立するメリットとデメリットをご紹介します。
法人と個人事業主の違い
法人と個人事業主では、次のような違いがあります。
株式会社 | 個人事業主 | |
資本金 | 必要(1円〜) | 必要なし |
開業手続き | 手間がかかる | 税務署への届け出のみ |
開業費用 | 約25万円 | ゼロ |
経費の範囲 | 範囲が広いため、節税の余地がある | 範囲が狭いため、節税には不利 |
決算期 | いつでも自由 | 1月1日~12月31日 |
社会保険 | 社長一人でも加入義務あり | 従業員が5人未満では加入が任意 |
法人設立のメリット
法人設立のメリットは、以下のとおりです。
①社会的な信用力が高い
法人の設立・運営には、次のような手順が必要です。
- さまざまな書類の提出など、法的な手続きを行なう
- 毎年、決算書によって業績を明らかにする
つまり、会社の状態を第三者が確認できます。そのため、個人事業よりも 社会的な信用力が高いといわれます。
その結果、資金調達がラクになる、優秀な人材が集まりやすいといったメリットにつながります。
②税率が低い
個人事業主の所得にかかる税金には所得税・住民税・個人事業税がかかります。
赤字のときは課税されませんが、所得税率は超過累進税ですので、所得が多くなれば所得税の税率が高くなります。
法人では、 法人税・法人事業税・法人住民税がかかり、赤字の場合も納税する必要があります。
しかし法人税の税率は定率ですので、売上が上がれば所得税よりも税率が安くなります。
一般的には売上800万円を超えると、法人税のほうが税金は安くなります。
③倒産時に有限責任で済む
個人事業主の場合、事業に失敗したときは事業主が全責任を負います。
個人の預金や住宅、土地などを処分して負債にあてなくてはなりません。
対して、合名・合資を除く会社では、個人的に保証人になっていなければ、出資額を上限とした有限責任で済みます。
定款や登記によって、個人と法人の財産が明確に区分されているためです。
④赤字でも給料がもらえる
個人事業では、事業主の給料は「収入から経費を除いたもの」です。
そのため、赤字であれば給料はありません。
しかし会社組織であれば、社長の給料は「役員報酬」ですので、会社の必要経費となります。
そのため、会社が赤字であっても、会社からの給料が保証されています。
ただし、資金繰りの都合がつかない場合には対象外です。
法人設立のデメリット(個人事業のメリット)
次に、法人を設立することのデメリットをご紹介します。
①設立・運営に手間がかかる
法人は、設立時の手続きが面倒です。
さまざまな書類を作成し、公証役場や登記所、税務署など別々の場所に提出しなくてはいけません。
また、法人では複式簿記が必須となるため、日々の経理作業も手間がかかります。
さらに毎年の決算は税務署だけでなく、都道府県税事務所、市区町村に別々に書類を作成して届け出なければいけません。
社会保険や労働保険の加入が義務ですので、社員の入退職があるたびに書類を作成し提出することも必要。
このように個人事業とくらべて、設立・運営のいたるところで手間がかかります。
②費用がかかる
法人では、個人事業にはない費用がかかります。
たとえば株式会社ならば、設立時に25万円ほど必要です。
また社会保険は強制加入であり、保険料は会社と個人が折半のため、会社の負担は大きくなります。
さらに資本金も必要です。
1円でも成立しますが、世の中にはまだ「資本金の金額=会社の信用」とみる方が多くいます。
そのため資本金が低すぎるのも、注意が必要です。
法人設立・運営時に活用したい専門家
ここまで見てきたとおり、法人の設立には大変手間がかかるもの。
そこで最後に、法人の設立時と運営時に活用したい専門家をご紹介します。
法人の設立に「司法書士」
司法関連の事務をのスペシャリストである司法書士。
会社の設立や設立後の本店の移転、役員の変更など、登記事項に変更があるときに申請の代行をしてくれます。
会社の設立で司法書士に支払う報酬は、5〜20万円が相場です。
許認可手続きに「行政書士」
官庁への提出書類の手続きを代行するスペシャリストが行政書士です。
会社の設立や設立後の営業許可取得、債権回収のための内容証明郵便の作成などをサポートしてくれます。
行政書士のあつかう仕事の範囲は3万種類あるといわれており、役所との関係も深いのが特徴。
書類の作成が多い会社にとって、強い味方となります。
会社の設立で行政書士に支払う報酬は、5〜20万円が相場です。
税務全般に「税理士」
税理士は、税務のスペシャリスト。会社の税金の計算や税務署類の作成を行い、経営相談にも応じてくれます。
また顧問料を払うことで、決算事務や試算表の作成も行ってくれます。
税務に悩む経営者は多いため、税理士は強い味方です。
顧問として依頼した場合の月々の報酬は、3万円からが相場です。
社会保険全般に「社会保険労務士」
社会保険や労働保険についての手続きのスペシャリストが社会保険労務士です。
関係する法規は、労働基準法をはじめ50種類以上にのぼります。
社員の採用や退職のほか、毎年の諸官庁への申請など、会社の事業主が行なう手続きはとても多く、仕組みは複雑です。
社会保険労務士は、事業主に代わって、各種書類を作成し、提出手続きを代行し、助成金の受給申請を行います。
顧問として依頼した場合の月々の報酬は、1万円からが相場です。
法律関連全般に「弁護士」
会社に問題が起きたときに活躍する、法律関連全般のスペシャリストが弁護士です。
設立や開業後の契約違反でのトラブルなど、経営者やスタッフが処理できない問題は弁護士に依頼しましょう。
まとめ:費用と手順を確認して法人設立を
今回は、法人設立に必要な費用や手続き、設立のメリットなどを解説しました。法人によって異なる費用と手順を理解してもらえたでしょうか。
設立には費用だけでなく手間もかかるため、専門家の手を借りることもひとつの方法となります。あなたの起業の夢をかなえるため、この記事がお役に立てば幸いです。