M&Aを行う場合、対象会社の買収資金をはじめ、諸経費や専門家へ支払う費用などの資金が必要となります。
一般的にM&Aは、小さいものでも数千万円から数億円ほどの資金が必要となる場合が多いため、これらのすべてを自己資金でまかなうのはあまり現実的ではありません。
では、近年活発に行われている中小企業のM&Aは、一体どのような方法で資金調達がなされているのでしょうか?
そこで本日は、M&Aにおける資金調達について解説していきます。
M&Aで必要な費用とは?
M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称で、会社のすべて(もしくは事業の一部)を他社に譲渡することにより、譲渡側は事業承継問題を解決し、譲受側は企業競争力を高めることを狙いとして行われています。
ごく一部の例外を除き、ほとんどの場合は譲受側から譲渡側へ、対価をもって会社(もしくは事業の一部)が譲渡されます。
なお、譲受側の企業が負担する費用はおもに以下の4つとなります。
- 譲渡企業へ支払う買収資金
- M&Aを行う過程で発生する諸経費
- M&Aの仲介会社などへ支払う手数料
- M&A後に発生する税金
譲渡企業へ支払う買収資金
対象企業の企業価値評価をベースにのれん代を加算し、またデューデリジェンスによって表出した買収後のリスクなどを減算し、最終的には双方の合意によって買収価格は決定されます。
M&Aの買い手にとって、この譲渡企業へ支払う買収資金が最も高額な費用となります。
M&Aを行う過程で発生する諸経費
M&Aは早くても半年、長ければ数年間に渡り、準備や手続きなどを進めていきます。
その期間にM&Aの業務を行う従業員の人件費や交通費、また宿泊費などの諸経費が必要となります。
対象会社が遠方であれば交通費や宿泊費は高額に、また、大規模のM&Aになると従業員を専属させる場合もあるため、人件費が高額になることがあります。
M&Aの仲介会社などへ支払う手数料
中小企業がM&Aを行う場合、一部の例外を除きほとんどのケースで仲介会社と契約を交わして進めていきます。
仲介会社の報酬体系は、着手金や中間報酬の有無などによりことなりますが、ほとんどの会社はレーマン方式による成功報酬体系を採用しているため、M&Aの規模が大きくなるほど支払う手数料額も高額になります。
M&A後に発生する税金
M&Aのスキームには、株式譲渡や事業譲渡などさまざまな方法があります。選択するスキームによっては、M&A後に消費税などの支払いが必要になります。
M&Aのための資金調達方法
冒頭でお話ししたように、小規模なM&Aなどを除くと、M&Aのための資金は、ほとんどの場合何らかの方法で外部から調達します。
その資金調達方法には、「直接金融による資金調達」と「間接金融による資金調達」と「その他」の3つがあります。
直接金融による資金調達
直接金融とは、自らの資金をそれを受け取る側へ直接供給する金融の仕組みのことをいいます。
たとえば、企業が株式を発行することにより株主から直接資金を調達する方法などが直接金融にあたります。
M&Aの資金調達を直接金融で行う場合であれば、増資によって資金調達を行います。
なお、資金調達のために増資を行う場合、おもに以下の2つの方法が用いられます。
- 株主割当による増資
- 第三者割当による増資
間接金融による資金調達
間接金融とは、資金を提供する側と受け取る側の間に仲介業者を介在させて融資などを行うことをいいます。
銀行は、預金者から集めた資金を資金の必要な融資先へ融資しする仲介業者の役割を果たしているため、金融機関による融資などが間接金融にあたります。
M&Aの資金調達を間接金融によって行う場合、おもに以下の方法が用いられます。
- 金融機関からの融資
その他による資金調達とは
直接金融や間接金融による資金調達以外にも、M&Aの資金調達方法にはおもに以下の2つが用いられます。
- MBO
- LBO
このように、M&Aのための資金調達法にはさまざまな種類があり、状況に合わせて最も相応しい方法が選択されます。
それでは次章より、ご紹介した調達法の具体的な内容について解説していきます。
M&Aのための資金調達法① 株主割当による増資
株主割当とは、企業が新株を発行することにより資金を調達する方法のひとつで、新株式の割り当てを受ける権利を既存の株主に与えて行う増資のことをいいます。
株主には持ち株数に応じて新株式を購入する権利が割り当てられますが、割り当てを受けた株主が申し込みや払い込みを行う義務はなく、株主側からの申し込みがなければ権利は失効します。
ちなみに新株式の発行価額については、既存の株主の経済的利益を侵害することのないように、時価より低い価額で設定される場合がほとんどです。
株主割当による増資のメリット・デメリット
では次に、株主割当による増資のメリットとデメリットを整理してみます。
株主割当による増資のメリット 株主の構成比率が変わりにくい
株主割当によって増資を行う場合、既存の株主には新株引受権を行使する義務はありません。
しかし自分以外の株主が行使してしまうと持株比率が下がってしまうため、結果的には権利を行使する場合がほとんどです。
そのため、増資前と増資後における株主の構成比率に変化が起きにくく、増資後の会社経営に影響が出にくいため、引き続き安定した経営を行うことができます。
株主割当による増資のデメリット 大規模な資金調達が難しい
株主割当は既存の株主からのみ増資を引き受けるため、出資者が限定的になってしまいます。
そのため、どうしても大規模な資金調達は難しくなってしまいます。
このように、株主割当による増資は、会社の経営に影響を与えない資金調達を可能にすることができますが、調達できる金額は限られるため、株主にメリットの大きい小規模なM&Aにおいて効果を発揮する資金調達方法だといえます。
M&Aのための資金調達法② 第三者割当による増資
第三者割当による増資とは、会社が新しく新株を発行し、その割り当てを引き受ける権利を特定の第三者に与える増資のことをいいます。
一般的には、ベンチャーキャピタルなどからの出資を引き受ける場合などに、この第三者割当増資が用いられています。
M&Aのための資金調達として第三者割当増資が用いられる場合には、譲受企業側の取引先や業務提携先、取引金融機関や自社の役員などに対して新株が割り当てられます。
第三者割当による増資のメリット・デメリット
では次に、第三者割当による増資のメリットとデメリットを整理してみましょう。
第三者割当による増資のメリット 取引先との関係性強化と幅広い資金調達
第三者割当による新株引受権は、おもに重要な取引先などに対して与えられます。
そのため、第三者割当増資に応じて新たに株主となった取引先との関係性が強化され、事業のますますの飛躍が期待されます。
また、株主割当による増資と比べると、割当先が幅広くなるため、資金の調達額を増やすこともできます。
第三者割当による増資のデメリット 既存の株主の持株比率が下がってしまう
第三者割当による増資を行うと、結果的に既存の株主の持株比率が下がってしまいます。
そのため、株主総会における議決権の比率も低下し、会社の経営権に対する株主としての影響力が低下してしまうことになります。
このように、第三者割当による増資は幅広く関係者から資金を調達することができるため、より多くの資金調達を可能にし、また取引先との関係強化を進めることができる反面、既存の株主の影響力を低下させてしまう恐れがあるため、株主の意見を調整するのが困難な場合があります。
M&Aのための資金調達法③ 金融機関からの融資
中小企業が金融機関から融資を受ける場合、担保に入れる不動産の有無などをはじめ、さまざまな条件や制約をクリアしなければなりません。
しかし、融資の目的がM&Aによる事業承継の場合、通常の運転資金などの融資とはことなり、さまざまな優遇制度が設けられています。
その中でも特に以下の2つが、事業承継のためのM&Aの資金調達として利用されています。
- 事業承継・集約・活性化支援資金
- 制度融資
事業承継・集約・活性化支援資金
「事業承継・集約・活性化支援資金」とは、中小企業者を対象に事業承継を行うための資金を融資する制度で、日本政策金融公庫が行っています。
なお、以下の1~5のいずれか1つにでも当てはまる方であれば、融資の対象者となります。
- 中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者を含む。)と共に事業承継計画を策定している方
- 安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方
- 事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業(経営多角化、事業転換)または新たな取り組みを図る方(第二創業または新たな取り組み後、おおむね5年以内の方を含む)
- 中小企業経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者または認定を受けた事業を営んでいない個人
- 事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に取引金融機関からの資金調達が困難となっている方であって、公庫が貸付けに際して経営者個人保証を免除する方
融資の限度額は7億2千万円で、かなり大型の案件にも対応することができ、設備投資での利用の場合返済期間は20年以内、運転資金での利用の場合返済期間は7年以内で据置期間はそれぞれ2年以内となっています。
また、金利は通常の基準金利よりも低めに設定されています。
制度融資
「制度融資」とは、地方自治体の認定を受けた上で信用保証協会が保証を行う融資のことをいいます。
M&Aの資金調達のために高額の融資を受ける場合、通常であれば担保や保証人の保証能力はもちろんのこと、高額な保証料なども求められますが、この制度融資を活用すると、資金調達のための融資のハードルが下がるだけでなく、保証料も1/2補助を受けることができます。
たとえば東京都の場合、事業承継のための制度融資を受けるためには以下の1~5のいずれか1つにあてはまる方であれば、融資の対象者となります。
- 中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者を含む。)と共に事業承継計画を策定している方
- 安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方
- 事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業(経営多角化、事業転換)または新たな取り組みを図る方(第二創業または新たな取り組み後、おおむね5年以内の方を含む)
- 中小企業経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者または認定を受けた事業を営んでいない個人
- 事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に取引金融機関からの資金調達が困難となっている方であって、公庫が貸付けに際して経営者個人保証を免除する方
なお、この2つ以外にも、金融機関からの資金調達にはさまざまな方法があります。
詳しい内容についてはこちらの記事をご覧ください
中小企業の資金調達の実態とは?銀行以外の資金調達方法も紹介!
M&Aのための資金調達法④ MBO・LBO
最後に、M&Aのための資金調達法としてMBOとLBOについてご紹介します。
MBOとは
MBOは、Management Buyout(マネジメント・バイアウト)の略語で、現経営陣が自社株式を他の株主から買い取り株主になることをいいます。
MBOを行うことにより経営者と株主が一体となり、迅速な経営判断が可能になるため、企業経営の効率化や買収防衛のために行われることもありますが、M&Aにより株式を買い取るためのスキームとしても用いられています。
MBOを行うために、企業の経営陣が投資ファンドや金融機関から資金調達を行い、既存の株主から株式を買い取り、経営権を掌握します。
具体的には、既存株主から株式を買取るための資金を調達するために特別目的会社(Special Purpose Company)を設立し、その名義で金融機関から資金を調達し、その資金を株式の買い取り資金に充てます。
LBOとは
LBOとは、Leveraged Buyout(レバレッジド・バイアウト)の略語で、M&Aの資金調達のために金融機関などから資金調達を行う方法として用いられています。
M&Aの対象企業が所有している資産や将来の期待キャッシュフローを担保とし、金融機関などから資金を調達します。M&Aの対象企業の企業価値や、M&A後の期待シナジー効果が高ければ、多額の資金調達を可能にすることもできます。
まとめ
M&Aのための資金調達にはさまざまな方法があります。また、事業承継を促進させるためのさまざまな補助金や制度融資なども充実しています。
しかし、どの方法で資金を調達するのが最も良いのかは、状況によりさまざまです。そのため、M&Aや事業承継の資金調達をお考えの方は、M&Aや事業承継に詳しい専門家の意見を参考に進めていくのが良いでしょう。
M&Aや事業承継でお悩みならご相談ください!
『経営者コネクト』にご相談いただければ、M&Aや事業承継についての知識や経験が豊富な税理士、中小企業診断士や元外資系戦略コンサルタントといった専門家が親身にお話を伺います。
M&Aや事業承継の準備に必要な、将来的な事業計画や経営戦略の策定、マーケット調査、新規事業の検討のお手伝いもさせていただくことが可能です。
さらに、親族や役員・従業員で後継者が見つけられそうにない場合や、できるだけ時間をかけずに事業承継を完了させたい場合には、社外への引き継ぎ(M&A)も視野に入れていくことがポイントとなります。
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