昨今では後継者不足を理由に、親族に事業承継を行うのではなく、M&Aで事業承継を行うケースが増えています。
M&Aは経営者が育ててきた大切な会社を売却するという一大決心であり、従業員や取引先にも影響が出るので慎重に行うべきです。
特に情報漏洩には気をつける必要があり、M&Aの具体的な話を進める前段階では会社名などの情報を記載せずに買い手に検討してもらう「ノンネームシート」を活用していきます。
ノンネームシートにはどのようなことを記載すれば良いのでしょうか。
作成の方法や気をつけるべきことなどを紹介していきます。
ノンネームシートとは?作成する理由
ノンネームシートとは、秘密保持契約書を結ぶ前に売り手の情報を買い手に対して名前を伏せて開示する資料です。
名前だけではなく会社が特定されるような情報は伏せられるという特徴があります。
ノンネームシートはM&Aのアドバイザーや仲介を依頼する企業が作成してくれます。
また通常はA4用紙1枚にまとめるという簡素なものです。
売り手としては、まだ相談段階でM&Aをしたいと思っていることが外部に漏れれば、経営のリスクが出てくる可能性があるので、完全に決定するまではM&Aを検討していることもトップシークレットです。
情報漏洩することにより信用不安から取引を躊躇する取引先が出たり、銀行から融資を断られたりする可能性もあるかもしれません。
このような事情もあるので、M&Aは慎重に行う必要があるのですが、ノンネームシートを利用することで会社名が明るみに出ることを避け、リスクを減らすことができるメリットがあります。
また、ノンネームシートは売り手が希望すればさまざまな買い手の目に触れることになります。
買い手にとってもまだM&Aの検討段階からさまざまな買収対象の企業情報を比べることができるというメリットがあります。
ただし、特定されたくないからと言ってあまりに情報をぼかしすぎると買い手に魅力が伝わらないので、M&Aの対象として検討されにくくなってしまいます。
そのため、特定されないことを意識しつつ買い手に魅力を感じてもらえる情報を出していくことが大切で、バランス良く作り込むことが求められます。
このようにノンネームシートは、特定を回避しつつ企業の魅力を伝えることができる、M&Aを遂行するにあたり大切な資料なのです。
M&A全体の流れ
一般的なM&Aの流れは以下の通りです。
- 個別相談
- アドバイザリー・仲介契約(売り手)
- 提案資料の作成(売り手)
- アドバイザリー・仲介契約(買い手)
- ノンネームシートでの提案(買い手)
- 秘密保持契約の締結
- ネームクリア
- トップ面談
- 意向証明書
- 基本合意契約の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約書の締結
この通り、ノンネームシートの提案は秘密保持契約書を締結する前段階になります。
ノンネームシートの内容を見て買い手が興味を持った場合に、買い手が秘密保持契約書を結びネームクリアすることで社名などの情報も公開し、特定できるようになるのです。
詳しい流れについては別記事「リンク(最終契約書の記事)」に記載しておりますのでご参考にしていただければと思います。
ノンネームシートの記載事項
ノンネームシートには会社名や特定されるような具体的な情報の記載はしません。
その上で、買い手が客観的に会社を評価できるような「売上」「事業内容」「資本金」「地域」「業歴」「従業員数」「譲渡の理由」などの情報を記載していきます。
買い手がまだ検討段階ということもあり、売り手の網羅的な情報は記載しつつも、特定されないようにあくまで簡易的な内容です。
ノンネームシートを作成する場合に気をつけるべきこととして以下のような点があります。
たとえば、事業内容は詳細に書きすぎると特定される可能性があります。
特に珍しい商材を取り扱う場合には、同業者から特定されるかもしれないので、大まかな内容で記載しましょう。
また、地域についても事業内容が特殊で特定されそうなリスクがある場合には「関東地方」などの幅広な記載をしておいた方が無難です。
譲渡の理由については買い手から見て絶対に気になるポイントといえます。
特に売上が好調の場合、「業績が良いのに売却したいなんて粉飾しているのではないか?」と疑われることもあるでしょう。
特定されることがないように、詳細まで記載する必要はありませんが「後継者がいない」などの情報は記載するようにしてください。
その他にも想定している「譲渡の方法(株式譲渡か事業譲渡)」や「希望の譲渡額」なども記載します。
また、買い手としてはM&Aをすることで「どんなメリットがあるのか」という点を一番考えています。
そのため、情報はぼかしながらも「将来性がある事業なのか」「販路拡大がまだできるのか」というところは魅力的に映るようにアピールする必要があります。
さらに、ノンネームシートを作成するM&Aのアドバイザーや仲介会社は、記載する内容が業種によっては特定されやすい情報なのかを熟知できているとは限りません。
基本的にはアドバイザーは自身が用意した雛形に情報を作業的に入れていきますが、アドバイザー含む外部の人間から見たら特定される情報だと思わなくても、同業者から見ればすぐに特定されてしまうこともあるでしょう。
そのため、ノンネームシートの作成はアドバイザーなどに任せきりにせずに、「同業者にも特定されないか」という視点から経営者自身も必ず確認するべきといえます。
また、ノンネームシートは買収の意思が強い企業に限定して公開するなどすることをアドバイザーに依頼すると必要以上に情報漏洩するリスクを減らすことができるでしょう。
ノンネームシートで興味を持ってもらった後の流れ
ノンネームシートで興味を持ってもらった後の具体的な流れについて紹介します。
情報漏洩を防ぐための「秘密保持契約書(NDA)締結」
ノンネームシートで興味を持った買い手とは、秘密保持契約書を結びます。
この秘密保持契約書は、M&Aの相談などで買い手が得た情報を外部に情報漏洩させないことを約束する書類です。
情報漏洩することにより、経営にはさまざまなダメージが出ることが想定されます。
たとえば、M&Aをする噂を聞いた従業員が「リストラされたり処遇が悪くなったりするのではないか」という不安から落ち着いて仕事ができなくなるケース。
また、取引先が信用不安から取引を考え直すというケースもあるでしょう。
そのため、M&Aをするという事実は確定するまで絶対に漏らしてはいけない情報として取り扱うべきなのです。
さらに、M&Aは必ずしも成功するわけではないので、成約しなかった場合に情報の取り扱いをどうするかなどを明記する必要もあります。
具体的には情報を返却、破棄などです。
秘密保持契約書を締結した後は会社名含め具体的な内容も公開していきますが、万が一情報を漏らした場合には損害賠償請求される可能性もあるので十分に気を付けます。
情報は売り手・買い手ともに社内でも限定的な人間にしか知らせないなどの工夫で情報漏洩を防ぎましょう。
実際に企業名を明らかにする「ネームクリア」
ネームクリアとは、秘密保持契約書を締結した後に売り手企業・買い手企業共に社名などの情報を公表することです。
ネームクリアは会社の社名を知ることによる情報漏洩に配慮しつつ、本格的にM&Aを前進させるためには必要不可欠なのです。
ただし、この段階はあくまで検討段階のため、途中で破談になるということも十分にありえます。
ノンネームシートと企業概要書(IM)との違い
ネームクリアでは企業概要書(IM=インフォメーション・メモランダム)を提出して企業の具体的な内容について提示します。
一見ノンネームシートと変わりなさそうですが、ノンネームシートが「秘密保持契約(NDA)を締結する前に開示する」のに対して、企業概要書は「締結後に開示する」という違いがあります。
そのため、企業概要書はノンネームシートに比べると内容が詳細に書かれるので、数十ページの資料となるのです。
作成はアドバイザーや仲介会社が作成しますが、経営者と共に作り込むことになり、完成までに1ヶ月以上かかることもあります。
また、この企業概要書を読んで、M&Aに魅力を感じられない場合には断念することも可能です。
内容を見た上でM&Aのプロセスを続けるのであれば、M&Aを進める意思を表す「基本合意書」を締結し、更に詳細については調査する「デューデリジェンス」の段階に進みます。
企業概要書には情報の漏れはないように的確に記載することが大切です。
デューデリジェンスの段階で、必要情報が明らかになっていなかったことで交渉が決裂すれば、大きなダメージとなるからです。
時間も体力も費やしたのに最終段階で話が白紙になるということは避けたいですよね。
そのため、企業概要書には嘘・偽りなくなるべく多くの情報を的確に記載することが大切といえます。
まとめ
ノンネームシートはM&Aのプロセスで欠かすことのできない資料です。
企業名や特定されやすい情報を非公開にした上で、企業の情報を魅力的にアピールして、情報漏洩を避けながら買い手の検討対象となるように作り込みます。
M&Aをするという情報が漏れれば、従業員や取引先の不安を仰ぎ、経営に支障が出るリスクが出るので、M&Aが確定するまではトップシークレットで進められるのが一般的です。
このノンネームシートはアドバイザーが作成しますが、経営者もきちんと確認して同業者に対しても特定されるリスクがないか、魅力的に見えるかという点について確認する必要があります。
そして、ノンネームシートの内容で買い手に興味を持ってもらえた場合には、秘密保持契約書を結びネームクリアをし、企業名などの情報を公開した上でM&Aの交渉を続けていきます。
このように、M&Aではノンネームシートにより買い手に興味を持ってもらえなければそれ以降の交渉ができないので、大切なプロセスとして取り扱うべきなのです。
買い手が多く集まった方が良い条件で交渉できる可能性があるので、情報漏洩の配慮はしつつ魅力的に映るように作り込みましょう。
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