中小企業が銀行融資を受ける際には、代表取締役社長などの経営者が連帯保証人となるケースが多いです。
しかし、連帯保証人の責任範囲や法人が破産した後にどうなるかを知っておかないと、万が一の場合に大変な目に遭うかもしれません。
連帯保証人は債務者が債務不履行となった場合にどのような責任を負うのでしょうか。
また、連帯保証人になることのメリット・デメリットはあるのでしょうか。
さらに連帯保証人が必要ない融資制度についても紹介します。
連帯保証人とは
連帯保証人とは、融資を受けた本人(主債務者)と同じ責任を負う人のことです。
通常の保証人は、融資を受けている債務者本人が返済できなくなった場合など条件が揃ったら返済の請求を受けますが、連帯保証人の場合はそうではありません。
通常の保証人には認められているのにも関わらず、連帯保証人には認められていないものがあります。
それは「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」です。
「催告の抗弁権」:債務者の身元が判明していても連帯保証人に請求できる
連帯保証人には、「催告の抗弁権」がありません。
催告の抗弁がないことにより、債権者(銀行など)が債務者(融資を受けている本人)ではなく連帯保証人にいきなり債権の返済を求めることが可能になります。
通常の保証人であれば行方不明になって身元がわからなくなった時以外は「まずは債務者本人へ返済の請求をしてください。」と主張ができます。
しかし、連帯保証人の場合は、債務者の身元が確認取れていたとしても先に請求されることがありますし、それに対して文句はいえません。
「検索の抗弁権」:債務者の財産があっても連帯保証人に請求できる
通常の保証人の場合は、債務者本人に資産があり、返済能力がある場合は返済に対する請求を拒否できます。
具体的には、債務者の財産を探したり、差し押さえたりした後に初めて保証人へ請求されるのです。
しかし、連帯保証人の場合は、たとえ債務者が財産を所有して返済資金があったとしても返済を拒否したら代わりに返済をしなくてはいけないことになっています。
「分別の利益」:返済金額を他の保証人と分割できない
保証人が何人かいる場合、債務者が返済不能になれば保証人で返済額を分割することができます。
たとえば、300万円の債務があり、3人の保証人がいる場合には1人100万円づつの返済負担となります。
ただし、連帯保証人の場合は何人も連帯保証人がいたとしても返済を請求されたら全額1人で返済することが求められます。
このように、連帯保証人の責任は通常の保証人と比べると重くなりますし、債務者本人と同等です。
法人が破産した場合の連帯保証人の責任
法人が破産した場合でも、連帯保証人への責任はついて回り、主債務者が返済できなくなってしまった債務を連帯保証人は返済をしなくてはいけません。
代表取締役社長自身が経営する会社の連帯保証人になっていたとして、個人の財産から残債の返済ができるのであれば返済する必要があります。
ただし、完済できる資金がない場合には、連帯保証人である経営者個人も自己破産の手続きが必要です。
自己破産すると、経営者自身の保有物であるマイホームや車など一定の財産は処分されます。
また、ブラックリストに掲載されて新たな借入ができなくなったり、クレジットカードの使用ができなくなったりしますし、社会的な信用も失うことになるでしょう。
通常の銀行融資では代表の連帯保証が必要
このように、連帯保証人に対する責任は非常に重いものです。
しかし、民間の銀行融資を受ける場合、代表取締役の連帯保証はほぼ必須となっています。
銀行としては貸し倒れリスクをなるべく減少させたいと思っているからです。
ただし、2020年4月の改正民法では連帯保証人制度の見直しが行われました。
この改正により、責任極度額(極度額)の義務化、借主死亡後の債務は補償対象外、事業と関係ない融資の場合は公証人による補償意思確認などが求められるようになりました。
今後新しく保証を差し入れる場合には、これらの内容についてきちんと確認すべきといえます。
連帯保証人をつけるメリット
法人融資の場合、連帯保証人を付けずに融資を受けられる制度もありますが、融資を回収できなくなるリスクに備えて融資可能額は低めに設定されています。
そのため、大きな額の融資を受けたいという場合には連帯保証人を付けた方が融資を受けやすくなります。
特に、新しい事業内容に自信があるのであれば連帯保証人をつけてでも大きな額の融資を受けた方が一気に事業を加速できることもあるでしょう。
連帯保証人をつけるデメリット
法人と個人の境目があやふやになりがちな中小企業に対して、金融機関が連帯保証人の差し入れを求めるのは仕方がないことです。
しかし、自分が経営権を持たない会社や知人・友人の連帯保証人になるのは、経営や債務に対するコントロールもしにくくデメリットの方が大きいといわれています。
上述した通り、連帯保証人は責任範囲が広い上に重いので、自身の経営する会社や信頼できる家族の連帯保証人になること以外はなるべく避けた方が良いでしょう。
連帯保証人なしで受けられる融資制度
では、連帯保証人を付けなくても中小企業が受けられる融資制度を紹介します。
新しく事業を始める際に利用できる「新創業融資制度」
日本政策金融公庫の新しく創業を始める人向けの融資「新創業融資制度」は原則保証人不要で融資を受けられます。
要件は以下の通りです。
- 創業の要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方
- 雇用創出等の要件(注1)
「雇用の創出を伴う事業を始める方」、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」又は「民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方」等の一定の要件に該当する方(既に事業を始めている場合は、事業開始時に一定の要件に該当した方)
なお、本制度の貸付金残高が1,000万円以内(今回のご融資分も含みます。)の方については、本要件を満たすものとします。
- 自己資金要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方
ただし、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」等に該当する場合は、本要件を満たすものとします(注2)。
引用:日本政策金融公庫
このような要件を満たせば、設備資金3,000万円(運転資金ならば1,500万円)の融資を保証人なしで借りることが可能です。
ただし、代表者が連帯保証人になると金利が▲0.1%になるので、少しでも金利負担を減らしたいのであれば連帯保証人になっても良いかもしれません。
商工会議所の推薦があると利用できる「マル経融資」
日本政策金融公庫のマル経融資(小規模事業者経営改善資金融資)は、保証人や担保を設定する必要がない融資制度です。
マル経融資は従業員20名以下(宿泊業と娯楽業を除く商業・サービス業にあっては5人以下の法人・個人事業主)の小規模事業者向けの融資制度で、限度額は2,000万円です。
商工会議所による経営指導を半年間受ける必要はあり、推薦も必要になりますが、無担保・無保証で融資を受けられるのはメリットが大きいといえるでしょう。
マル経融資について紹介した記事がございますのでこちらをご参考にしてください。
無担保、無保証人、低金利のマル経融資とは?
政府系銀行は原則無保証化
商工中金や日本政策金融公庫では、令和2年1月より新規融資については一定の条件を満たす場合に原則無保証で融資を行っています。
その条件は以下の通りです。
- 法人個人の一体性の解消
- 財務基盤の強化
- 適時適切な情報開示等
中小企業の場合は法人と経営者個人の収入や資産の区別がしにくくなるため、実質的に法人と経営者は同一体と見られます。
しかし、法人と経営者の関係を区分・分離させて、法人と経営者の間の資金流動を社会通念上適切な範囲を超えないようにする体制を整備、運用することで一体性を解除し、保証人から外すことができる可能性が上がります。
ただし、金融機関としては信用力の低い会社に保証人なしで融資をするわけにはいけません。
財務基盤を強化して債務不履行となるリスクが少ないと思わせることと、定期的な情報開示で信用できる会社だと思わせることも大切です。
また、事業承継において、現経営者と後継者の両者から個人保証をとる二重取りが行われてきましたが、こちらについても原則禁止にする方針となりました。
参考:商工中金
まとめ
連帯保証人の責任範囲は、通常の保証人とは全く異なります。
連帯保証人は、債務者本人と同じ責任を負うことになり、たとえ債務者に返済能力があったとしても返済を拒否したら債務者に変わって返済する必要があるのです。
法人が破産した際でも連帯保証人への返済責任は残り、連帯保証人個人でも返済できなければ自己破産することになります。
そのため、連帯保証人になる際にはこのような責任があることを覚悟してなるべきといえるでしょう。
連帯保証人なしで融資を受けられる制度としては「新創業融資」「マル経融資」などがあります。
また、商工中金や日本政策金融公庫では、一定の条件をクリアすれば保証人なしで融資を受けることができるようになりました。
連帯保証人をつけるメリット・デメリットを考えた上で利用を検討してみて下さい。
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