【経営者向け】退職勧奨とは?手順や面談の方法・円満に進めるポイントも解説

「辞めてほしい社員がいるが、どうやって辞めさせればいいのかわからない」

このようなとき、退職勧奨もひとつの方法となります。
退職勧奨自体は違法ではなく、会社に許された行為です。
ただし、正しい方法で行わないと、違法になってしまうことも。

そこでこの記事では、退職勧奨の基本知識や手順面談の方法円満に進めるポイントなどを解説します。
違法にならない退職勧奨の進め方を知りたい方は、ぜひご覧ください。

退職勧奨とは?会社側のメリット

まずは退職勧奨の基本知識と、会社側のメリットを解説します。

退職勧奨とは?

退職勧奨とは、会社が社員に対して、会社を辞めてもらうように促し説得することです。
ただし退職勧奨に応じるかどうかは、あくまでも社員の自由。
社員は会社を辞めることも、断ることもできます
また退職勧奨に応じたとしても、それが錯誤(勘違い)や強迫(脅し)による場合には、退職を取り消すことが可能です。

そして退職勧奨には、リストラによる人員削減を目的に行われる場合と、個々の社員の勤務成績不良などを理由に行う場合とがあります。

なお、退職勧奨に応じて退職した社員は、会社都合による退職となります(厚生労働省)。失業給付手当を受給する場合に、自己都合の退職よりも3ヶ月早く支給されます。

退職勧奨を行う会社側のメリット

退職勧奨を行う会社側のメリットの1つめは、辞めてほしい社員に辞めてもらうことができる点です。

解雇は、手順や理由が法令で認められている必要があるため、簡単には行なえません。
しかし退職勧奨であれば、社員が応じることで辞めてもらうことができます。

メリットの2つめが、問題を不必要に大きくしないで済む点。

社員が問題を起こした際、懲戒解雇を行うこともありますが、処分をすることで社内にその問題が伝わってしまいます。
さらに社外へ伝わり、「社員の管理ができていない会社」として悪評が立つことも。
退職勧奨なら内々に、会社を辞めてもらうことができます。
すると事情を知る一部の者にしか、社員が行った問題行動の話が伝わることはありません。

退職勧奨と解雇・希望退職制度との違い

退職勧奨と似た行為に、解雇と希望退職制度があります。
ここでは、その違いを解説します。

退職勧奨と解雇との違い

解雇とは、会社が社員に対して「一方的に労働契約を解除する」こと。
社員に対して強力な効果があるため法律で制約され、簡単には解雇できません

それに対して、退職勧奨を行うことに法律上の制約はありません。
そのため、就業規則などに退職勧奨の規定がなくとも、自由に行うことができます
そして解雇のように、30日前の予告や解雇予告手当ての支払い義務もありません

また、解雇は合理的な理由がなければ無効です(解雇権濫用法理)。
しかし退職勧奨については、応じた場合は合理的な理由がなくとも有効となります。

退職勧奨と希望退職制度との違い

希望退職制度とは、業績が悪化した会社が、人員削減の一環として退職者を募る制度です。
整理解雇の前に行うなど、経営合理化のために行われます。

退職勧奨と希望退職制度は、どちらも「社員の退職申し込みの意思表示を誘引する行為」です。
しかし、希望退職制度は社員の応募を待つのに対して、退職勧奨は積極的に社員に働きかける点が異なります。

社員からすれば、希望退職であれば嫌なら応募しないだけですみますが、退職勧奨では必ず返事をしなければなりません。

そして経営悪化による人員整理の場合は、次のようなステップを踏むケースが多数です。

  1. 希望退職の募集
  2. 退職勧奨
  3. 整理解雇

違法となる退職勧奨の方法

退職勧奨を行うこと自体に法律上の制約はありませんが、やり方を間違えれば結果的に違法となることも。
ここでは、違法となる退職勧奨の方法をご紹介します。

違法となる退職勧奨の方法

退職勧奨の手段や方法が、社会通念上の相当性を欠くような場合(強引・しつこいなど)は、「退職強要」として違法とされます。
手段や方法に不法行為があった場合も、もちろん違法です。
この場合は社員から損害賠償請求されることもあるため、注意が必要です。

そして、退職勧奨に応じて社員が退職の意思を示した場合、その意思表示には民法の規定が適用されます。
退職の意思表示が「錯誤(勘違い)」による場合には無効となり(民法95条)、「詐欺」や「強迫(脅し)」の場合には取り消すことが可能です(民法96条)。

「退職強要」になる具体的なケース

過去の裁判例としては、退職勧奨に応じなかった社員に対して上司がさらに強く退職を勧め、嫌がらせ・暴力行為を行い、別室に移して業務を行わせなかった事例があります。
これが退職強要です。

裁判所は、これらの行為(嫌がらせ・暴力行為・仕事を取り上げる)を違法とし、会社と上司が損害賠償責任を負うと判断しました。

ほかにも、次のような行為が退職強要と判断されます。

  • 不当に長時間に渡る面談を行う
  • 不必要に多数の会社担当者が同席して行われる
  • 拒否しているのに、何度も何度もくり返し面談を行う
  • 応じなければ解雇すると脅す
  • 不可能な配置転換を命じる
  • 大勢で威圧する
  • 大勢の前で侮辱する
  • 拒否し続けたのちに応じた社員に対して、当初提示していた優遇措置を与えない

退職勧奨を行う手順

ここでは一例として、問題のある社員に対しての退職勧奨を行う手順を解説します。

【手順1】問題がある社員へ指摘や指導・教育を行う

退職勧奨をスムーズに進めるためには、社員への説得材料が必要です。
問題がある社員に対しては、日頃から勤務態度をチェックしておき、問題があればその都度指摘や指導・教育を行います。

すると社員に対しても、勤務態度などについて自覚させることができます

そして指摘や指導を行った場合には、必ず記録しておきましょう
いつ、どのような指摘があり、どういった指導を行ったのかを残します。
すると社員の問題点が確認しやすくなります。

社員にとっても、自分がどういったミスを繰り返すのかを把握できます。
結果として、自分が仕事に向いているか、改善できるのかなどを考える材料となり、自主的な退職を選ぶことにもつながります。

【手順2】退職勧奨の準備

何度も指導を行っても、社員が自主的な退職を考えていないようなら、退職勧奨の準備を進めます。

まずはスケジュールを決めていきます。
目標とする退職日や面談の予定日、面談を行う担当者などを決定します。

そして次のような、提示する条件なども決定してください。

  • 有給休暇の残日数と消化方法、場合によっては買い取りなども行えるか
  • 支払う退職金の額はいくらか、上乗せするのか
  • 転職のサポートなどを行うか

【手順3】面談を行う(多くても3回まで)

次に、社員との面談を行います。
これまで記録した指導の内容を提示し、会社が求める人材とのギャップがある、能力が不足しているなど理由を明確にして退職を勧めます。

気をつける点については、次項で解説しています。

あまり何度も行うと退職強要と判断されてしまうため、面談は多くても3回までと考えてください。

【手順4】「合意」なら合意書・退職届を作成し退職へ

社員が退職勧奨に合意したならば、必ず書面に残します

退職日や退職条件などを記載した「退職合意書」を作成し、社員に署名押印してもらいます。
これで、後に訴訟などになった場合でも、不当な退職強要と判断されることが少なくなります。

退職届もできるだけ早く社員に提出してもらってください。
あとは通常どおり、退職の手続きを行います。

【手順5】「拒否」なら別の手段へ

社員が明確に「退職勧奨に応じない」と拒否している場合は、退職勧奨は諦めましょう。
何度もくり返すと、退職強要としてトラブルにつながります。

その後は、対象社員を現状のままで雇用し続けるか、配置転換するのか、関連会社へ出向させるのかなど、別の手段を検討します。
経営状態が悪化しているようなら、整理解雇などを行うこともあり得ます。

退職勧奨を成功させる面談の方法

退職勧奨を成功させるには、面談が最も大切。ここでは、成功させる面談の方法をご説明します。

面談の適正な時間・回数・環境を守る

1回あたりの時間が長過ぎると、社員は面談に対して悪いイメージを持ち、話をまともに聞かなくなります。
面談前に説明する内容を決めておき、1時間ほどに収めましょう

また、退職に応じないからといって、何度も面談を繰り返すこともいけません。
迷っているようであれば、退職金の上乗せや有給休暇の消化など条件を提示して、決断を促すようにします。
しかし明らかに拒否していれば、何度面談しても変わりません。
多くても3回までにして下さい。

そして面談は、できれば1対1で行います。
担当者は多くても2名までにしてください。
相手の人数が多いと威圧感を感じ、話に集中できません。

面談の時間・回数・環境が明らかにおかしいようだと、退職強要とみられてしまいます。
退職の合意があっても、後にトラブルになるため注意してください。

有給休暇の消化や退職金上積みなどの条件を示す

社員に退職を決心させるために、有給休暇の消化や退職金の上積みといった条件を示す方法もあります。
転職相談に乗る、転職先を紹介するなどのサポートを行うケースも。

「退職するのに今さら費用と手間をかけたくない」という気持ちがあるかもしれませんが、退職勧奨に応じなければ、解雇などさらに手間がかかることを行う必要があります。
退職勧奨の後押しとなることは、可能な限り行ってください。

指導・教育記録などの書類を提示して納得させる

面談で社員に話すときは、できるだけ記録の書面を見せて説明します。
たとえば成績不振の社員に、口頭で「この仕事が向いていないのでは?」と伝えることは、次項で説明するプライドを傷つける行為でもあります。
社員も「会社の指導が悪い」など反発して、退職に応じることはないでしょう。

それよりも、ほかの社員も含めた業務成績表や、これまで行った指導・教育の記録を提示します。
すると社員も、客観的に自分の現状を確認することができます。
そして「自分にはこの仕事が向いていないのでは」と思い、退職に応じてくれる可能性も高まります。

どういったケースでも社員に「そんなことはありません」と反論されることがないよう、説得するための書類を準備しておきましょう。
事実・データを見ることで、冷静になれるものです。

社員のプライドを傷つけることがないように

面談の回数や時間が適正でも、記録の書類を準備しても、社員のプライドを傷つけるような言い方をすれば面談は失敗です。
後でトラブルになる可能性が高くなるためです。

社員と面談をする際には、感情を逆なでしないように注意し、時間をかけて説明してください。
無理に話を進めるなど、強引なアプローチは避けます。
そのためにも、前もって「どのように説明して、納得してもらうか」を考えておくことが大切です。

いったん社員に不信感を持たれると、人員削減が進まなくなる可能性もあります。
ていねいに、誠実に説明することは一見面倒に思えが、この手順を踏まないために後にトラブルとなるケースが多いようです。

まとめ:退職勧奨は正しい方法で

今回は、退職勧奨の基本知識や手順、面談の方法、円満に進めるポイントなどを解説しました。やり方を間違えれば「退職強要」となり、トラブルにつながることがご理解いただけたかと思います。

退職は社員の人生が大きく変わるため、問題が起こりがちです。ぜひこの記事で正しい方法を確認して、円満な退職勧奨を目指してください。