人事評価制度は中小企業にも必要か?運用状況や作り方、コンサル・社労士利用のメリットも

「人事評価制度は大企業が行うもの」と思っている、中小企業の経営者の方は多いのではないでしょうか。
しかし、人事評価制度の目的のひとつが「人材の育成」であることを考えると、中小企業こそ人事評価制度を導入すべき

この記事では、中小企業になぜ人事評価制度が必要なのかを解説していきます。
ほかにも、実際の中小企業における運用状況や、評価制度の作り方、コンサル・社労士利用のメリットなどもご紹介しますので、中小企業の経営者の方はぜひご覧ください。

人事評価制度とは?人事制度とどう違うの?

まずは人事評価制度がどのようなものか、人事制度との違いを解説します。

人事評価制度とは?

人事評価制度とは、「社員の能力や仕事への意欲、業務の成績などについて評価し、その結果を等級や報酬に反映させる制度」です。
「人事考課制度」とも呼ばれますが、人事評価制度と同一と考えて問題ありません。

また、「評価」にもいくつか種類があり、評価内容に応じた適切な評価方法を選ぶことも大切。
多くの企業で使われる評価方法には、次のようなものがあります。

  • 目標管理(MBO:Management By Objective)
    期のはじめに各社員が目標を立て、期末に達成結果を検証。その達成度で評価する手法
  • コンピテンシー評価
    成績優秀な社員の行動特性(コンピテンシー)を基準として評価する手法
  • 多面評価(360度評価)
    一人の上司だけでなく、複数の人によって評価する手法

人事制度と人事評価制度

人事制度とは、「企業の人事における様々なルール全般」のことを指します。
また人事評価制度も、人事制度のひとつです。

そして人事制度には、次のような様々な制度があります。
この中で「策定に最も手間がかかり、運用が困難なものが人事評価制度である」といえます。

  1. 人事評価制度
  2. 賃金制度
  3. 能力開発制度
  4. 昇格制度
  5. 教育制度
  6. 等級制度

中小企業における人事評価制度の運用状況

人事評価制度を導入する中小企業は約半数

少し古い調査結果ですが、厚生労働省が公表する「平成14年雇用管理調査」によれば、人事考課制度がある企業割合は51%と、半分ほどです。

また企業規模でみると、規模が大きい企業ほど制度がある割合が高くなっています。
100~299人規模の企業では、人事考課制度があるのは74%。30~99人規模の企業では、39%と低くなっていきます。

出典:厚生労働省

データにはありませんが、従業員29人以下の企業については、より実施の割合が低くなるものと予想されます。
このように、人事評価制度を導入している中小企業は、大企業よりもかなり少ない状況です。

中小企業が人事評価制度を導入する際の課題

考課者訓練の不足

また、「人事考課の制度・運営上の問題点」をみると、100~299人規模の企業での順位は次のとおり。

1位:考課者訓練が不十分である(56%)

2位:質の異なる仕事をする者への評価が難しい(52%)

3位:考課基準が不明確又は統一が難しい(46%)

これは30~99人規模の企業での問題点をみても、(順位は異なりますが)ベスト3は同項目です。

3つの問題点いずれも、「考課者訓練の不足」が根本にあります。
事実、「考課者訓練を行っていない企業」は、100~299人規模の企業で55%、30~99人の企業では64%にも登ります。

人事評価を行っている中小企業の6割近くが、考課者訓練を行わずに評価だけを行わせている
これでは、公平な人事評価を行うのは難しい状況です。

制度の見直しが不足

人事評価制度は出来上がったら終わりではありません。
運用を開始後、ほとんどの場合で問題点が出ますので、つねに改善していく必要があります。

しかし中小企業では、人事評価を設定した後の見直しが不足しています。

「最近3年以内に人事考課制度の見直し・改定を行った」企業は、100~299人規模では36%、30~99人規模は25%にとどまっています。
5,000人以上規模では57%ですので、この差もかなり大きいものです。
さらに30~99人規模では「当面、見直しの予定がない」という企業が43%もありました。

出典:厚生労働省


「当面、見直しの予定がない」というのは、人事評価制度がほとんど形骸化してしまっている裏付けともいます。

中小企業に人事評価制度が必要な3つの理由

それではなぜ、中小企業に人事評価制度が必要なのでしょうか。
ここでは人手不足の現状と、人事評価制度が必要な3つの理由をご紹介します。

中小企業の人手不足の現状

中小企業庁が発行する「中小企業白書2020年版」によれば、中小企業の人手不足感は依然として強い状況です。
下図は「業種別の従業員過不足を示す値(※1)の推移」ですが、全業種でマイナスが強まり続けています。
特に建設業では、人手不足感が強いことがわかります。
(※1:従業員の状況について、「過剰」と答えた企業の割合から、「不足」と答えた企業の割合を引いたもの)

出典:中小企業庁

また中小企業では、特に高学歴な人材では求人に対する就職希望者数は常に大幅に不足しています。

下図の「従業員数299人以下の企業での求人数・就職希望者の推移」を見ると、青の「求人数」が年々増加していますが、オレンジの「就職希望者数」は減少しています。
求人倍率も2019年卒では9.9倍と、非常に高い状況です

出典:中小企業庁

一方で、大企業への就職以降は高まっています。
下図の「従業員数300人以上の企業での求人数・就職希望者の推移」では、ここ4年ほどはオレンジの「就職希望者数」が増加傾向です。
求人倍率は2020年卒で0.9倍であり、上記の中小企業とは逆に、求人数より就職希望者が多い状況が続いています。

出典:中小企業庁

さらに、下図「転職者の規模間移動の推移」を見ると、「中小企業から大企業」と「大企業から大企業」への転職者数が増加していることがわかります。

出典:中小企業庁

ここまでのデータから、ほとんどの就職・転職希望者は「大企業への就職・転職を望んでいる」ため、今後中小企業の人手不足感はより強まっていくと予想されます。
そして同データによれば、人員不足による会社への影響として、次のようなことが挙げられています(製造業での順位)。

1位:残業時間の増大

2位:売上機会の逸失

3位:納期遅れなどのトラブル

4位:外注の増加などにより利益の圧迫

5位:品質・サービスの低下

中小企業に人事評価制度が必要な3つの理由

前項のとおり、中小企業の人手不足は深刻で、今後さらにすすむことも考えられます。
こういった状況のなか、「人材の定着・育成」のために、中小企業が有効だと考える取り組みとして、「人事評価制度」が2位に挙がりました(中小企業庁)。
多くの中小企業で、人事評価制度の必要性・重要性が明確になっている証拠といえます。

1位:能力や適性に応じた昇給・昇進(43.9%)

2位:成果や業務内容に応じた人事評価(38.2%)

3位:職場環境・人間関係への配慮(35.4%)

4位:時間外労働の削減・休暇制度の利用促進( 33.6%)

より具体的に考えると、中小企業に人事評価制度が必要といえる理由は、次の3点です。

【必要な理由1】人材の育成のため

人事評価制度を取り入れる重要な目的が「人材の育成」です。
そのため、10名以下の小規模な企業であっても、社員を1人でも雇用していれば人事評価制度は必要となります。

ただしそのためには、人材育成に適した制度を作り上げることが必要。
たとえば、ただ社員を評価して終わるのではなく、つねにより良くなるための改善がフィードバックされるよう、制度にPDCAサイクルを組み込む方法もあります。

もし社内だけで制度を作るのが難しいようであれば、後述するように外部コンサルタントや社労士の利用も検討してください。

【必要な理由2】会社の目的を達成するため

売上アップや残業時間の削減、人手不足解消など、たとえ明文化していなくても、会社ごとに達成したい目標があるはず。

こういった目標を人事評価に組み込んでいけば、達成に向けて動くことが可能に。
経営者としては、これまであまり意識していなかった目標が明確になります。
社員にすれば、会社の方向性と、仕事で何を頑張ればいいのかがわかり、働きやすさが向上

こうして会社の目的が、より達成されやすくなります。

【必要な理由3】会社の繁栄のため

人材の育成が進み、会社の目的が達成されることで、当然会社も繁栄します。
すると収益もアップするため、それを社員に還元することが可能に。

適正な人事評価制度を導入することは、会社の繁栄につながり、その結果社員の幸せを実現することにもなるのです。

中小企業の人事評価制度の作り方

ここまで、中小企業の人事評価の導入状況や必要性を確認してきました。
最後に、ここではどのように人事評価制度作りを進めるのか、作り方や外部コンサルの活用方法、助成金について解説します。

中小企業が人事評価制度を作る6ステップ

中小企業の人事評価制度は、次のような流れで作ります。

  1. 人事評価制度を行う目的を明確にする
  2. 共通となる評価項目を洗い出す
  3. 職種別の評価項目を洗い出す
  4. 評価項目の難易度を設定する
  5. 評価の種類を決める
  6. 社内に周知し、実際に評価する(運用開始)

しかし、ここまで作ったから完成というわけではありません。
たとえコンサルを入れて作ったとしても、最初から「100%会社にピッタリ」とはならないもの。
コンサルがこれまで携わった会社とは、事業内容や風土、人員が異なるためです。

制度の運用を開始してから出てきた問題をすべて集め、検討していくことが重要です。
そして問題を改善する方法を導入し、再度運用する。
これを続けて、自社にピッタリの人事評価制度を作り上げていきましょう。

コンサルティング会社や社労士に依頼するメリットと費用の目安

人事評価制度の導入には、大変な手間がかかります。
せっかく導入しても、制度が会社にあった適切なものでなければ、社員が辞めるなど逆効果になることも。

また、人事評価制度が学べる多くの書籍が出ているため、経営者や人事担当者が勉強することもできますが、時間がとれない方が多いのではないでしょうか。
さらに、書籍に書いてある方法が、その会社に合っているとも限りません。

このように、社内だけで人事評価制度を作り上げるのは、大変困難です。
大企業であれば他社から、制度構築に慣れた社員をスカウトすることもできますが、人材難が続く中小企業では難しいでしょう。

そのため、コンサルティング会社や社労士を利用するという方法があります。
社労士というと「賃金制度」のコンサルを行うイメージですが、現在は人事評価制度構築を行う社労士事務所もあります。

コンサルティング会社や社労士を利用するメリット・デメリット

コンサルティング会社や社労士を利用するメリットには、次のようなものがあります。

  • 計画的・効率的に進めるため「制度がいつまでも完成しない」ことが少ない
  • 経験豊富な依頼先であれば、自社に最も適切な制度を提案してくれる
  • 人事担当者の負担が大幅に軽減できる

逆に、コンサルティング会社や社労士を利用するデメリットは、次のとおりです。

  • 制度作成のノウハウが、人事担当者にしか残らない
  • 公開情報があまりないため、依頼先の良否の判断がしづらい
  • 費用がかかる

これらのメリット・デメリットと次項の費用を比較して、導入を検討してみてください。

コンサルティング会社や社労士を利用する費用の目安

コンサルティング会社の場合は、従業員数によって料金が変わる場合が多いようです。
50名以下の企業なら年間120万円~、50名以上の企業では年間200万円~という金額が相場。
大企業に対しては、年間400万円以上というところもあります。

社労士事務所では、制度作成100万円~という額が相場です。
また、月額十数万円~という月単位での契約もありますが、評価制度構築には短くても半年、長ければ2~3年かかることもあります。
そのため、月額での費用の算定は難しくなっています。

経営者コネクト
経営者コネクトでは、良心的な顧問契約料・スポットコンサル料で、人事評価制度の経験が非常に豊富な社労士事務所をご紹介することができます。
まずは無料相談が可能です。
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中小企業が人事評価制度の導入で得られる助成金

人事評価制度の導入には、ここまで見てきたように大変な手間と費用がかかります。
しかし、導入によって支給される助成金がありますので、ぜひ利用しましょう。

厚生労働省が行う「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」は、「人事評価制度と賃金制度を整備し、生産性の向上・賃金アップ・離職率の低下を図る事業主」に助成する制度。
条件を満たした場合、次の額が支給されます。

  • 制度整備助成 ・・・50万円:
    「生産性向上を目的とした人事評価制度」と「2%以上の賃金アップを含む賃金制度」を整備し、運用した場合に支給
  • 目標達成助成 ・・・80万円:
    前項目に加え、3年後に人事評価制度を適切に実施し、生産性の向上・賃金アップ・離職率の低下についての目標を達成した場合に支給

まとめ:中小企業にこそ人事評価制度の導入を

この記事では、中小企業になぜ人事評価制度が必要なのか、そして実際の中小企業における運用状況や、評価制度の作り方、コンサル・社労士利用のメリットなどもご紹介してきました。

人材難に苦しむ中小企業こそ、人事評価制度を取り入れ、人材育成に励むべきでしょう。
ぜひあなたの会社でも、人事評価制度を取り入れ、改善しながら運用していくことをおすすめします。

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