合同会社 Cobe Associe代表
田中志さんインタビュー
東京での大手コンサルティングファームや、ヘルスケアスタートアップ執行役員等のキャリアを経て、2018年に神戸へ移り合同会社Cobe Associeを創業した田中志さん。
業種や規模を問わず、多様な企業の経営戦略・新規事業の検討を支援するほか、神戸市のデータサイエンティストを始め地域振興に繋がる仕事にも積極的に取り組まれています。
今の仕事に至ったきっかけや企業の相談相手として大切にしていること、新しい挑戦について伺いました。
神戸在住。新卒でBoston Consulting Group (BCG)に入社、デジタルヘルス領域のスタートアップ執行役員を経て2018年にCobe Associeを創業。
大企業からスタートアップまで幅広い企業の新規事業支援や事業推進支援を行う。2019年度神戸市データサイエンティスト。GLLCの認定コーチとして、若手・中堅人材に向けたコーチングも行う。
リソース制約が強い企業の経営相談こそ面白い
大企業から中小規模の企業、士業の事務所まで、クライアントの規模や業種は幅広いです。
ただ私は「大企業」と「中小企業」というくくりで企業を分けて見ることはしません。企業の規模と必要な支援の内容にはあまり関係がないので。
一方で、オーナー企業と上場企業では意思決定のプロセスが大きく異なる分、相談内容も異なってくるなと感じています。
上場企業だと、「上司に見せるアウトプット」を頼まれていると感じることがあります。
コストに余裕があり、外部のコンサルタントに頼んだアウトプットが直接的に会社の経営を改善しなくても、それほど大きな痛手とは捉えられないことも多い。
一方でコスト感覚のよりシビアなオーナー企業では、社長や経営層が「自社の経営改善に直結するアウトプット」を非常に強く求めて依頼されます。
求められるクオリティが本質的で高い分、オーナー企業との仕事はスリリングで楽しいです。相手の真剣さも伝わってきますしね。
私は「予算を効率的に付加価値につなげられる優秀な人ほど、リソース制約が強い企業の支援に当たるべき」と思っています。
クライアントの「実はね」は本質的な改革が始まるサイン
その企業の隠れていた「悩み」や「思い込み」が出てきたときでしょうか。
これらは「固着してしまった会社のスタンダート」を解きほぐすチャンスです。
例えば、オーナーの発言力の強い企業だと、取締役会もオーナーに賛同するばかりで、ごく形式的に行なわれていることがあります。
こういう場合、オーナーは好きにやっているようで、実は誰とも相談ができずに困っていたりします。
このように密かに悩みを抱いている経営者と話す中で、「実はね」というフレーズが出てくると、2つの文脈で「いよいよ始まったな」という気持ちになります。
1つは自分と相手の関係性が深まったサインであること。
信頼していない相手に「実は」で始まる話はしません。
2つ目は、その隠していた情報が改革のキーになること。
場合によっては他の取締役等も知らなかった情報であることも多く、その情報が経営課題を大きく改善に向かわせるきっかけになることがあります。
経営者の方から社員の方まで、あらゆる関係者から得られることがありますよ。
例えば、異動や入退社が少なくヒトの流動性が低い企業だと「あの人があの時こうだった」っていう経験が長年わだかまりになってしまうことがあります。ある企業で部署間のやり取りを促すと「どうせあの人は○○だから」っていう雰囲気で動かない。なぜそう思うのか詳しくきいていくと原因はなんと「8年前のある出来事」だったということもありました。
長年凝り固まっていた思い込みがリフレッシュできると、社員も仕事が楽しくなり、成果も生まれやすくなります。
こういった企業の隠れた「悩み」や「思い込み」は、社内で掘り起こして改善するのがなかなか難しいですよね。外部の人間だからこその価値だと思うので、うまく提供できるとやり甲斐を感じます。
ちなみに、会社の「固着してしまった会社のスタンダート」は、人の悩みや思い込みだけではありません。
例えば「エクセルをスプレッドシートにする」「ホワイトボードの大きさを3倍にする」といったワンアクションだけでも、生産性が大きく改善するケースは多々あります。
その企業を観察して、改善の糸口を見つけていくのはとても楽しいです。
望む暮らしを追い求めた先に起業があった
いえ、移住が先にあり、起業はどちらかというと成り行きです。(笑)
移住する直前は、東京でヘルスケアスタートアップ企業の執行役員をしていました。
仕事に充実感はあったのですが、東京は「仕事シティ」という気がしませんか?
余暇の時間も「仕事にどう役立てられるか」とみんな考えているように見えて、仕事以外の人生もじっくり楽しみたいなと思った時、移住が頭に浮かびました。
妻とは神戸の大学で知り合ったので、二人とも神戸に愛着があり「それなら神戸に住んでみようか」という話になったんです。
はじめは、リモートでスタートアップ企業の役員を続けていましたが、のちに色々見直して、合同会社をつくって他の企業の支援も行うようになりました。
だから「起業したい」という意思が先にあったわけではなく、どういう暮らしが心地よいかを考えていったら移住することになったし、移住先で自分にフィットする働き方が起業だった、という感じですね。
クライアントと「人間として」の付き合いを築きたい
プロジェクト中にお酒を飲みに行けるクライアントがいいですね。
それってどんな方かというと、私のことを「専門性」や「コンサルティング」という「機能」で見るわけじゃなく、包括的に「人間」として見てくださる方なのかなと思います。
戦略ファームのコンサルタントやヘルスケア企業の役員をしていたというと、どうしても、自分の特定の機能だけを求められていると感じる仕事もあります。それは当然役割を全うしますが、一方で「人間対人間」を感じられるクライアントに出会うと、また違った気持ちで仕事に取り組むことができますね。
関西のとある企業に魅力的な経営企画室長がいます。
その方は、会議のほとんどの時間は、部下の方と私のミーティングをにこにこと見守って「どうです、うちの部下。優秀でしょう」と自慢するんです。その後、短時間にすごく密度の濃い経営に関する問いを1.2個投げかけてくださる。そして会議後にエレベーター等で「田中さんバイクが好きなんですか!僕も好きなんですよー」と趣味の話で盛り上がるんです。
その方は私との一回の打ち合わせの中で、「外部のコンサルの意見をきく」だけでなく、「部下を社外の人間に褒めることで社内のモチベーションを高める」とか、「プライベートの会話で相手と人間としての関係性を作る」といった、多くのことをされていて、私としてもとても充実した時間を過ごすことができます。
別の例としては、ある企業の社長に初回の会議で「田中さんがやれないこととやりたくないことを教えてください。私たちも伝えるので」と言っていただいたことがあります。
過去に別の支援機関が、苦手なスコープでもオーダーに応えようとして結局形にできなかったこともあったようで「せっかくなので、田中さんの得意なことで成果を出してもらった方がいい」というわけです。
私に対して「自分たちの求める機能が果たせるか?」だけでなく、人として総合的に見てくださっていると感じられ、有難かったですね。
同時に、リソースに制限があるからこそお互いを有効に活用しようという姿勢だとも思います。
ちなみにその会社のやりたくないことは、「お金だけのためにやる事業」
と「他から奪う事業」、やれないことは「クリエイティブなアイデアをガンガン出す」ことでした。
でも「必要な要件に対して真摯に対応できる人材はいます」と。
これを始めに堂々と言える経営者って格好いいですよね。
「コンサル」の価値を問い直す
ちょっと過激な表現になってしまいますが、「謎コンサル」をなくしたいです(笑)。
一例ですが、情報の非対称性を価値にしているコンサルタントや、常識を勝手に押し付けるコンサルタントが私の思う「謎コンサル」です。
結構いるんじゃないでしょうか。
「あなたが知らないことを私は知っている。いくらで教えてあげます」とか、「これが業界のスタンダードですから、当然やるべきです」というコンサルティングサービスって。
これはその企業に本当に必要な課題解決を提供してはいないと思うんです。
比喩になりますが、「集落に一つだけある商店」みたいな仕事がしたいです。
専門性を切り取りすぎず、資格や免許で何かを担保するのではなく、その企業に本当に必要な経営支援を幅広く提供できるような。
最近は、それを実現するために客観的な情報やデータといったコンサルティングの知見だけではなくて、もっと事業会社の肌感覚を理解できるような経験を積みたいと思っています。
現在はその一環で、とあるウェブサービスをエンジニアと作っています。
やってみると「ああ、自分はわかっていなかったな」と思うことが多々出てきて面白いですね。
もっと製造ラインが必要なものづくりにも挑戦して、様々な業種の企業にとってより心強いパートナーになるべく経験値をあげていければと思っています。
これからもクライアントやコンサルティングのテーマに制限を設けず、その企業に必要な価値を出していきたいと考えていますので、経営者の方がいくら考えても答えが見えない時に思い出して、お声かけいただけますと嬉しいです。
専門家 / パートナー