吉田 基洋さん インタビュー
大手リテール企業での人材育成、人事系コンサルティングファームを経て、株式会社トランストラクチャのアドバイザーパートナーを務める共に、家業である社会保険労務士事務所の業務にも携わる吉田基洋さん。
中小企業の「社労士」への理解を高めること、社労士の一般的な業務範囲を超え「企業の“人”に関すること」を幅広く戦略的にサポートすることを目指して活動されています。
経営者が人事・労務のプロ「社労士」のサポートを受けるメリットやプロセスについて教えていただくとともに、今後クライアント企業に提供していきたい新たな価値についてもお話を伺いました。
株式会社ファーストリテイリング(現:株式会社ユニクロ)に新卒入社後、店舗運営(採用・教育等)を経て、株式会社トランストラクチャにて、組織・人事のコンサルティング業務に従事。 現在は、株式会社トランストラクチャのアドバイザーパートナーを務める共に、家業である社会保険労務士事務所の業務にも従事し、『人』に関わる問題解決のサポートを行っている。
家業と大手コンサルを拠点に多様な企業の人事制度をサポート
人事・組織に関してあらゆるご相談に応じています。
私は今2つの組織で仕事をしています。
家業の社労士事務所で主に中小企業向けに、また人事系コンサルティングファームで大企業向けに、人事制度の設計・導入を行っています。
また家業の社労士事務所としては、制度設計だけでなく、いわゆる社労士業務もチームで請け負っています。
人事制度は組織に根付かせてはじめて意義があるので、制度の設計と導入を合わせて、短くて半年、長くて1年くらいかかります。
まずは経営者や管理職、人事担当の方へのヒアリングを通じて、会社の文化や「人」への考え方などを理解することから始めます。
そこで理解した現状と、ありたい姿や解決したい課題を踏まえて、「キャリアパス」と、それをサポートする「賃金制度」、「評価制度」を設計します。
この制度設計ができたら、いよいよ導入です。制度移行のプロセスを、クライアント企業の状況や、移行中に発生しやすい課題を踏まえて、確実に進めます。また「一旦導入したらそれで終わり」とはいかないので、移行後定着までご支援を続けます。
ただ今お話ししたのは人事制度の設計を一から考える場合で、一部のみ制度を変更する場合はご希望に合わせたサポートも行いますよ。
また人事と関わりの深い助成金(雇用関係助成金など)の申請支援を行うこともありますね。
中小企業は大手企業と比べて、人事制度にかけられる予算が限られるので、ご予算に合わせられるよう、ある程度パッケージ化された制度を導入することも多いです。
それでも、経営者の方とお話しをして、企業に根付くような制度運用や導入方法を検討するプロセスは欠かせません。
中小企業はなかなか人事制度の最適化に手をつけられていない企業が多い分、限られた予算でもしっかり効果が出る傾向にあるんですよ!
「新しい人事制度を入れたい」と中小企業の経営者が思う背景には、「勤務歴の長い人材が硬直気味で、給与は高いが十分に機能していない。勤務歴が短くても頑張っている人材に報いる制度に変えたい。」という動機があることも多いです。
制度設計を変えることで、長い経験の人材が辞めていくこともありますが、はっきり言ってしまえば「不良人材がスピンアウトし、やる気のある新しい人材が活躍できる」組織になるわけです。やる気のある人材を活性化することができれば、業績に直結します。
「人に関わる仕事」の面白さに気づき人事コンサルの道へ
いえ、もともとは全く関心がなかったんです。
大学を出て新卒入社したのは、ユニクロを展開するファーストリテイリングで、いくつもの店舗の新規オープンやマネジメントを行いました。
店舗を立ち上げ成長させる過程では、人を採用して育成することがとても重要になってきます。これを繰り返す中で「企業の”人”に関わる仕事は面白い!」思うようになりました。
この方向を深めたくなり、人事系のコンサルティングを行う株式会社トランストラクチャに転職したんです。
この会社で、多くの企業に向けた人事制度の設計と導入支援の経験を積みました。
企業だけでなく、私立大学の経営改革や業務監査、病院の人事制度設計からシステム導入サポートまで、依頼があれば幅広くご支援してきました。
このトランストラクチャには今も、アドバイザリーパートナーとして在籍しています。
一方で、ずっと関心のなかった家業の社労士事務所も「企業の”人”に関する仕事」だな、と思うようになり、家業でも並行して活動するようになりました。
コンサル会社と社労士事務所では、クライアントのタイプも、課題の種類も異なるので、家業の社労士事務所の業務の幅を広げられる面白さがあります。
家業に加わった当初は親が担当していた顧客の方が多かったですが、最近は逆転して、初めから自分に依頼くださるお客様の方が多くなりましたね。
社労士のシゴトとは?企業の「人」の課題解決を全面サポート
社労士って、聞いたことはあっても業務内容が分かりづらいですよね。
社労士は「社会保険労務士法」という法律に基づく国家資格ですが、まず「社会保険」という言葉からしてわかりづらい。(笑)
社会保険労務士が扱う主要業務は「社会保険」と「労働保険」になります。
さらに「社会保険」は主に「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」の3つを指し、「労働保険」は「雇用保険」と「労働保険」の2つに分かれています。
はい、そう思われる人は多いと思います。
だから弁護士や税理士と比べて、社労士の業務はイメージしにくいんでしょうね。
ですが実は他の士業と比べても、社労士は一般の従業員にまで接する面積が一番広いんですよね。「働く人の生活に最も近い距離にいる士業」と言ってもいいと思います。
社労士としては、先ほどお話しした「社会保険」と「労働保険」周辺の手続き業務や、これにまつわる相談をお受けしています。
相談は、「企業の”人”」に関わる全般が対象です。
また、何か「人」に関する問題が起きた時にも、社労士は頼りになります。
例えば、労働基準監督署が入ってきた時に一緒に話しに行くことも多いです。専門家が入ることの安心感から、話がスムーズに進みやすいです。
他にも、雇用主と被雇用者の問題の間に入ることもよくあります。会社ともめてやめた人などですね。
弁護士に依頼されることもありますが、弁護士だと答えを「白か黒か」で出すことになりがちです。
もっと「白でも黒でもない」ところに答えを求める時に、社労士に相談が来ることが多いです。「喧嘩両成敗」ではないですが、両者が納得する結論に落としたい時には社労士が役に立ちます。問題が大きくなりすぎる前に相談してもらいたいですね。
社労士をつける価値のひとつは、「正しく処理できる安心を買う」ということだと思います。
人事領域の相談先がない中小企業では、社会保険や給与計算(残業代)などが正しく計算できてないことも多いです。
例えば給与計算の残業代が間違っていると、従業員には3年間、残業の請求権が残ります。
纏めて請求されたら結構きついですよね。
また「人事系の問題の相談先」の確保は、価値が高いと思います。
というのも、人を雇うことは経営者にとってリスクと背中合わせです。
すべての従業員が正直者とは限りませんし、今の情報化社会では特に、従業員の方が制度について詳しいことも少なくありません。
企業側が性善説で何となく制度を利用していると、従業員に思わぬ落とし穴を作られてしまう可能性だってあります。
私のクライアントにも、思わぬ訴えやクレームを、従業員やその家族から受けたケースが少なくありません。このような時、問題が大きくなる前に相談できる先があることは重要と思います。
社労士の枠をもっと広げて、総合的な企業の相談先に
個人的に、社労士として士業だけを行っていくのは、長期的には難しいような気がしています。社労士資格の地位をもっと上げられるといいなと思います。
そのためにも、もっと「企業の総合的な相談先」となっていきたいなと思いますね。
僕が行っている人事系コンサルティングもその一環で、もっと広げていきたいですが、さらに人事領域以外にまで、相談できる領域が広がるとさらにいいなと。
例えば、社労士だけでなく税理士や中小企業診断士とも繋がっていて、クライアント企業の多様なニーズに応えられたらいいなと思います。
そのつながりが、1つの法人になるくらい強固なものがいいのか、もっとゆるいコミュニティみたいなものがいいのかはまだわかりませんが。
多様な専門のクリニックが集まったビルに行けば、体のどこの不調も検査・治療できるみたいに、シェアオフィスに色々な士業が集まっている、とかもいいなぁと思います。
今、事務所の2階が空いいて貸会議室スペースもあるので、使いたい士業の先生がいたら使ってもらうとか。同世代でフットワーク軽く新しい取り組みができたら面白そうです。
また、これから会社を立ち上げようとしている人と繋がって応援していくことにも興味があります。
社労士業界が手をつけていない領域ですし、まずは繋がりが作れそうならトライしてみたいですね。
専門家 / パートナー