M&Aでロックアップ(キーマン条項)とは? 適切な期間、アーンアウト条項、メリット・デメリットを詳しく解説!

会社(法人)を対象としたM&Aではロックアップという契約手法があります。
ロックアップは、キーマン条項と呼ばれることもあります。

またロックアップと関連してアーンアウトという取扱いもあります。

これらはどのような契約内容なのでしょうか?またその効果とは?

ロックアップは欧米のM&Aではすでに一般的ですが、日本のM&Aではまだ認知度は低くそれほど普及していません。
しかし今後、ロックアップというやり方が経営者に浸透して行くにつれて、M&Aで積極的に活用される日も遠くないと考えています。

そこで本記事では、M&Aにおけるロックアップとはどのようなものか、利用のメリットやデメリット、さらにアーンアウトにも触れて詳しく解説します。

ロックアップとは?

ロックアップ(条項)とは、別名キーマン条項とも呼ばれ、会社がM&A実施後、代表取締役(CEO)あるいは重要役員等のキーマンが被買収先企業内に一定期間とどまって経営や事業に参画することを定めた条項をいいます。

言い換えるとM&A実施後、売り手側のキーマン(主として経営者)を、契約で数年間しばるのがロックアップ(キーマン条項)といえます。

ロックアップ条項は一般的に、売却額やM&AスケジュールとともにM&A契約書に盛り込まれます。

ロックアップの目的・狙い

ロックアップの目的とは、M&A実施後、被買収先企業の事業の核となっているキーマンが突然抜けることで買収後の事業が回らなくなることを防止することにあります。

買い手側に起こるM&Aの利益損失の回避を図るのがロックアップの狙いです。

したがって買い手にとってロックアップの設定は大きなメリットがありますが、一方で売り手側キーマンにとっては、一定期間会社を辞められない、自由がしばられるという意味で強い制約がかかる契約になります。

ロックアップ条項は会社の売却額とトレードオフの関係

トレードオフとは、何かを得ると何かを失う、ある目的に向けて一方を立てれば他方がまずくなるというような、相容れない関係性のことをいいます。

その点でロックアップ条項とM&Aで会社・事業の売却額の間柄もこのトレードオフの関係にあるといえます。

日本の一般的M&Aでは、ロックアップ条項を契約に入れることなく、一括支払で売却額(譲渡額)を決めることが多いです。

一方キーマン条項を契約に入れることで、買い手は売り手のキーマンを一定期間、被買収企業内で拘束して働かせることになるので、売り手側としてもその分、売却金額にそれに見合った上積みを提示されないと納得できないでしょう。

結果、キーマン条項なしのM&Aに比べて、キーマン条項付きのM&Aの売却額が高くなるのが相場なので、まさに条項の有無が売却額とトレードオフの関係にあるといえるのです。

ロックアップ条項の設定は被買収企業がどんなときに有効?

ではロックアップ条項の設定は被買収企業がどんなときに有効かというと、ケースとしては2つ考えられます。

ひとつは買い手にM&Aまでの準備期間が短く、M&A成立時点でまだ買収後の後継者が見つかっていない場合です。
この場合、被買収企業の経営者に買収後、会社を一定期間、経営のリーダーシップを取ってもらうことで、買い手も後継者を見つけるための準備期間が取れて、その結果スムーズに経営権の移行ができるようになります。

また別のケースとして、買収した企業の事業の特質上、後継経営者の育成に時間がかかる場合があります。
このケースでは、その事業に精通したキーマンに被買収先から来てもらい、事業の監督のかたわら、同時に後継経営者の育成もサポートしてもらうことで、引継ぎが順調に行えます。

もちろんロックアップ条項なしでも、事前の売り手と買い手の話し合いでこのような対応は可能かもしれません。

しかしそれはあくまで表面的合意に過ぎず、環境の激変やキーマンの考えに変化等があったときには対応が難しくなることもあります。

そういう点では、きちんとキーマン条項を設定してM&A契約を交わしておく方が、買い手売り手とも割り切って対応できることになるでしょう。

ロックアップのメリット・デメリット

この章では、ロックアップに係るメリット及びデメリットを紹介します。

ロックアップのメリット

ロックアップのメリットを買い手、売り手の双方から見ると以下のようになります。

買い手 売り手
M&A後、一定期間、キーマンを買い手のコントロール下に置くことで事業が回らなくなるリスクを防ぐことができる

キーマンが被買収先に残って買い手の期待以上の業績を上げた場合、契約に沿って当初売却予定額以上の報酬を獲得できる可能性がある

ロックアップのデメリット

一方ロックアップのデメリットを買い手、売り手、それぞれから見ると以下のようになります。

買い手 売り手
  • キーマンがM&Aの会社売却で大金を得たとき、たとえロックアップ条項でキーマンの身柄をしばったとしても、途中でモチベーションを下げてしまうリスクがある。
  • M&A契約締結後、キーマンに買い手が期待していたほどの経営能力がなかったとき、そのままキーマンを会社内に残しておくと、逆に業績の悪化から企業価値の低下を招く恐れがある。
  • キーマンにとりロックアップは自由が拘束される条項なので、決められた一定期間、以下のようなデメリットが発生する。
    (同業他社に転職できない、スキルを活かして別の会社を起業できない、自己資金を他社に出資したりスキルを活かして他社をサポートしたりする行為が制限されるなど)
  • 買い手によっては、キーマンが当初に期待していたような働く環境が用意されてなかったり、役職や裁量権等の重要条件が途中で改変されたりするリスクがある。

ロップアップ期間の長さと相場

ロックアップ条項を契約するにおいて、ロックアップ期間をどれぐらいとするかは双方にとってとても大事な要件です。
なぜなら適切な期間を設定できないと、売り手買い手双方にさまざまなデメリットが発生するからです。

綿密な話し合いのもと、双方が納得いくロックアップ期間を設ける必要があります。
以下、ロックアップ期間の長さと相場について詳しく解説します。

ロックアップ期間の相場とは?

キーマンをしばるロックアップの期間は「M&Aを成功に導くために必要な引継ぎ期間」とも定義できます。

もちろんM&Aで売買される会社の規模はさまざまで、会社規模や事業内容、組織体制によって引継ぎに必要な期間は異なるでしょう。

一般的には、大企業ほど引継ぎには時間がかかり、組織がシンプルな中小企業・個人事業者等は短いと考えられます。

「M&Aを成功に導くための必要な引継ぎ期間」としては、一般的に相場が1年から3年、長くても最長5年が適切なのではないかといわれています。

さすがに引継ぎ期間を5年以上に設定すると、キーマンのモチベーション低下をもたらし、決して良い結果にならない可能性が高いので、事業規模にもよりますが、売買の対象が中小企業ならやはり相場並みにロックアップ期間を最長3年程度とすべきでしょう。

買い手、売り手から見た適切なロックアップ期間

相場は別として、一方で買い手、売り手、双方から見た適切なロックアップ期間という視点も必要です。

以下、それぞれから見た適切なロックアップ期間について解説します。

なお、解説にあたっては、M&Aの対象を中小企業に限定して話を進めます。

買い手

買い手がロックアップ期間を検討するとき、やはり年単位で期間を考える必要があります。
なぜなら買い手がM&Aによる買収効果を見定めるためには、数期の決算年度を回す期間設定が必要だからです。
ただし設定した期間が長すぎると、キーマンのモチベーションが下がって逆効果だし、一方で短すぎると引継ぎに十分時間が取れないというデメリットがあります。
そういう面を考慮すれば、買い手が設定するロックアップ期間として2~3年が適当といえるでしょう。
もちろん買い手によっては、あえてロックアップ期間を設けず、双方の話し合いによって出来高報酬等の条件付きでキーマンの協力を求める先もあります。

売り手
売り手にとってもロックアップ期間をどれぐらいとするかはとても重要な事項です。
なぜならその期間、キーマンは自由を確実に拘束されるので、キーマンにとってロックアップ期間は短ければ短い方がいいのはいうまでもありません。
ただし後の章でも詳しく述べますが、キーマン条項の設定や期間の長さは売却金額の大小と大きく関係してくる条項です。
それだけに期間設定に関しては、事前の話し合いで双方が十分納得したものでなければなりません。

アーンアウト条項

最後にアーンアウト条項について説明します。

一般的にアーンアウト条項は、M&Aで買い手によりキーマン条項とセットで契約されることが多い条項です。

アーンアウト条項を付与する主な目的は、アーンアウト条項をロックアップで被買収先に残るキーマンに対するインセンティブとして活用することにあります。

アーンアウト条項をM&A契約に入れると、買い手はM&Aによる売却額を一度に売り手に支払せず、ロックアップ期間中にキーマンが達成した業績等の達成度によって、売却額の一部を随時ボーナス的に支払していきます。

そうすることで、買収後、買い手が設定した目標をキーマンが達成していくときのインセンティブにできるのです。

また本来M&Aでの売却額は一括払いが原則ですが、アーンアウトを付与することで買い手は売却金額を一度に支払う必要がなくなり、分割払いが可能になります。

さらに買い手が設定した目標をキーマンが最終的に未達だと、アーンアウト条項により、買い手は一括払いの売却額より低く払っても問題ありません。

M&Aは本来、買収する会社の将来の業績に対して投資する行為なので不確実性を伴います。

その点、M&A後、支払の一部を将来の業績に連動させて払えるアーンアウト条項は、買い手にとって理にかなった契約手法といえるでしょう。

アーンアウトのメリット・デメリット

もちろんアーンアウトにもメリットやデメリットはあります。
ただアーンアウト条項は、売り手、買い手とも、受けるメリットに比べてデメリットはわずかです。
そのためこの章では主にメリット中心に解説します。

以下、買い手及び売り手、双方から見たメリットです。

買い手 売り手
  • 売却金額を一度に支払せず分割でき、さらにM&A後のキーマンの業績達成度に応じて売却総額を増減できる
  • ロックアップ期間中、キーマンが買い手の設定した目標が未達だった場合、契約内容に沿って分割金を低く払ってよいので、M&A後の経営リスクをお金に反映させることが可能
    (M&Aに係るリスクが大きければ大きいほど、アーンアウト条項付与のリスクヘッジ効果が高くなる)
  • 売り手から見てアーンアウトの一番のメリットは、アーンアウトを契約していると、その後のキーマンの頑張りで買い手の期待以上に業績が上がると、契約によって追加の報酬が期待できる

    (一括払いの契約だと、M&A後にいくら被買収先の業績が上がっても、売り手は当初の譲渡額を上回るお金を手にすることはできない)

このように、業績連動型のアーンアウト条項の設定は、売り手、及びキーマンにとっても決して悪いことではないのです。

むしろアーンアウトの設定は、ロックアップ期間中にキーマンのモチベーションを下げないための強力なインセンティブになります。

まとめ

M&Aとロックアップについて、アーンアウト条項も含めて、詳しく解説してきました。

そもそもM&Aでは、売り手と買い手の間で会社のバリエーション(評価額)について差があるのは当然です。
しかしその差が大きすぎると、何度交渉を重ねても両者の溝が埋まらず、M&Aの成約率を下げてしまいます。

このような場合にロックアップ条項(含むアーンアウト)をM&A契約に加えることで、買収後の会社経営の不確実性を弾力性ある契約金額に置き換えることで、企業評価に対する双方の違いや差を埋めていくことが可能と考えられます。

日本のM&Aでは譲渡代金の一括払がまだまだ一般的ですが、今後ロックアップの考え方が中小企業者にも浸透して行くにつれて、上記のような対応も増えていくものと予想しています。

今回の記事がM&Aを検討している経営者に参考となることを願っています。

 

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