2021年5月31日、経済産業省の行政事業レビュー「公開プロセス」が実施され、「事業再構築補助金」についても議論されました。
議論のなかでは、申請時に役立つ情報や、審査内容に関連する意見も挙がっています。
そこでこの記事では、「事業再構築補助金」の行政事業レビュー「公開プロセス」の結果と、挙げられた意見・情報のなかで「重要な項目」について解説していきます。
「事業再構築補助金への申請を検討している」という経営者の方は、ぜひご覧ください。
行政事業レビューと「公開プロセス」とは?
まずは、「行政事業レビュー」と「公開プロセス」がどのようなものか、ご紹介します。
行政事業レビューとは
行政事業レビューとは、各府省が事業の実態を把握・点検し、その結果を今後の事業執行や、予算要求などに反映する取り組みのことです。
国の約5,000のすべての事業で行われ、いわば「行政事業の総点検」といえます。
(参考)
・内閣官房:国の行政をチェックしよう(PDFパンフレット)
「公開プロセス」とは
「公開プロセス」とは、行政事業レビューにおける取り組みの一環で、「外部有識者を交えて検証する作業」のことです。
6名の外部有識者が、各事業担当部局の担当者と議論し、その模様をインターネット生中継等で公開。
議論の結果、課題や改善点が取りまとめられ、その内容を次年度の予算の概算要求に反映していきます。
(参考)
・令和3年度公開プロセス特設ページ
経済産業省の令和3年度行政事業レビュー「公開プロセス」
経済産業省における、令和3年度の行政事業レビュー「公開プロセス」は、下記の日程で実施されました。
- 2021(令和3)年 5月28日(金曜日) 13時30分~17時10分
- 2021(令和3)年 5月31日(月曜日) 13時30分~17時10分
「公開プロセス」の対象となった事業は、以下の6テーマ8事業。
- Go To イベント事業/Go To 商店街事業
- ポスト 5G 情報通信システム基盤強化研究開発事業
- 感染症対策関連事業(ウイルス等感染症対策技術開発事業/感染症対策関連物資生産設備補助事業)
- 中小企業等事業再構築事業
- 中小企業生産性革命推進事業
- 燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金
そして「事業再構築補助金(上記④)」については、次の3つの論点で議論が行われました。
- 論点1:無駄な補助がなされていないか?
- 論点2:効率的な事業運営が行われているか?
- 論点3:成果測定の実施方法を十分検討されているか?
外部有識者6名は、次の方々です。
- 上村 敏之(関西学院大学経済学部 教授)
- 梶川 融(太陽有限責任監査法人 代表社員 会長)
- 佐藤 主光(一橋大学国際・公共政策大学院 教授)
- 滝澤 美帆(学習院大学経済学部 教授)
- 藤居 俊之(関西学院大学経済学部 教授)
- 水戸 重之(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)
「公開プロセス」の模様は、インターネットで生中継され、5月31日分の動画は現在も視聴することができます。
・経済産業省:令和3年度行政事業レビュ公開プロセス(You Tube動画)
なお、事業再構築補助金の制度概要を知りたい方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。
【事業再構築補助金まとめ】制度概要や申請できる企業、申請方法、採択結果などすべて解説
【Q&A】最大1億円の「事業再構築補助金」について疑問に答えます
事業再構築補助金の行政事業レビュー「公開プロセス」の結果
経済産業省の令和3年度行政事業レビュー「公開プロセス」が実施された結果、「事業再構築補助金」の各論点で次のような意見が挙がりました。
論点1:無駄な補助がなされないようにすべき。
□ 約 67,000 者という採択予定件数が支援すべき対象に対して適切な規模かどうか、検討すべき。
□ 予算ありきで採択をしていくと、本来自ら投資すべき事業や、当初より撤退が予定されていた事業に対する補助が行われることになりかねないため、審査を厳格に行うべき。
□ 金融機関のコミットを求め、融資先として不適切と考えられている事業者に補助がされないようにすべき。
□ 成果を高めるため、補助事業の進捗を途上で把握すべき。論点2:効率的な事業運営を行うべき。
□ 事務局経費が 400 億円を超えるなど大規模であるため、効率的な運営を行うべき。論点3:成果測定の実施方法を十分検討すべき。
経済産業省:中小企業等事業再構築促進事業(論点シート) より
□ 新型コロナウィルス感染症の影響を受けた時期と比較すると、成長目標の達成が容易になってしまうため、付加価値額の増加率等の成果測定に当たっては、比較対象をよく検討すべき。
□ 成果目標は事業者の規模や補助対象事業の性質によって、異なるものを設定すべき。
□ 補助金を受けなかった事業者と補助金を受けた事業者を比較し、補助金の純粋な効果を測定する方法を検討すべき。その際、(特に補助金を受けなかった事業の申請時及びそれ以降の財務情報など、)検証に必要なデータの整備に取り組むべき。
□ 審査基準が全て定性的な書きぶりになっており、政策効果を検証する際に審査員のバイアスを検証することが困難であることから、可能な限り審査基準は定量的に設定することを検討すべき。
「公開プロセス」の評決結果は「事業内容の一部改善」
また、「公開プロセス」での「事業再構築補助金」について委員の評決を取りまとめたところ、「事業内容の一部改善」という結果になりました(行政事業動画1時間17分頃)。
前項の論点1~3で挙がった意見に基づき、今後の「事業再構築補助金」の運営・審査方法について一部が修正されるようです。
なお、議論を行っての各委員の評決は次のとおり。
- 現状通り:3名
- 事業内容の一部改善:2名
- 事業全体の抜本的な改善:1名
次項からは、「公開プロセス」で挙がった重要項目について、くわしく解説していきます。
【重要項目 1】採択予定件数は約67,000社
「公開プロセス」での「概要資料(下図)」によって、事業再構築補助金の採択予定数が約67,000社であったことが判明しました。
ただし、委員(佐藤教授)からの「67,000社にどこまでこだわるか?」という質問に対して、中小企業庁担当者は次のように回答しています(行政事業動画33分頃)。
- 67,000社にこだわって、採択率を調整する気はない
- 再構築に値するものがなければ、予算は不要になる
- 複数回で公募を行う際に「不公平感」が出てはいけないため、「見通しの数字」として「67,000社」を設定している
また、委員(藤居教授)からの「(下記資料の)アウトカムで、なぜ卒業枠・V字回復枠の目標は”社数”で表示されているのか」という質問が挙がった際(行政事業動画1時間00分頃)。
こちらについても、担当者は下記の回答をしています。
- 「卒業枠の300社なら、公募5回でわければ1回60社。では1回の応募で申請が60社いかなければ、全件採択する」ということは考えていない
- あくまでも事業計画を評価し、「平均3%以上増加を達成する」ことが最低条件である
【重要項目 2】審査では中小企業診断士3人以上のクロスチェックを実施
複数の委員から挙がったのが「審査基準が定性的である」という点でした。
- 佐藤教授:審査の基準が定性的ではないか。審査する人間の裁量性がはたらきやすくなったり、地域差・業界差がでるのではないか(行政事業動画38分頃)
- 上村教授:審査がどこまでていねいにできるか。この規模、このタイムスケジュールでどこまで丁寧にできるか心配。補助することで市場への影響がどうなのか(行政事業動画41分頃)
- 藤居教授:審査基準に、定量的な判断基準が盛り込まれていない(行政事業動画1時間1分頃)
これに対して、中小企業庁の担当者は、下記のように回答しています(行政事業動画42分頃)。
- 「審査の質」の担保として、必ず「中小企業診断士の資格」保持者3人以上のクロスチェックが入る仕組みにしている
- 「新しいデリバリーの仕組み」を飲食店同士で共同して行うなど、同一地域では「束ね(連携)」で考えてほしい。すると加点(※)になる
- 「定量的な項目」は、5年などモニタリングベースであれば捉えられるが、審査の時点でというのは(難しい)。もう1度考えてみるが、現時点では思いつかない(行政事業動画1時間2分頃)
※:加点項目ではなく、審査項目「(4)政策点 – ⑤」として規定されています
【重要項目 3】審査では「指針に合致しているか」・「事業化できるか」を見ている
委員(佐藤教授)からの「補助金制度が、撤退する事業の延命措置になっていないか、支援機関のモニタリングが甘くならないか」という点に対して、中小企業庁担当者は次のように回答しています(行政事業動画35分頃)。
- 「再構築」の意味がなければ、採択されないように運用している
- そのため、審査では大きく次の2つを見ている
①「事業再構築指針」に合致しているか
②事業化ができそうか
[第1回公募の採択結果①]応募の1割が要件満たさず
ここで、前項の「事業再構築指針に合致しているか」に関連すると思われるデータをご紹介します。
6月16日・18日に、「事業再構築補助金」第1回公募の採択結果が公表されました。
この結果で特徴的だったのは「②申請件数(書類不備等がなく、申請要件を満たした件数)」が公表された点です。
一般的な補助金制度では、公表されるのは「①応募件数」と「③採択件数」のみ。
ですが今回は「②申請件数」が公表されたことで、「書類不備等で申請要件を満たさない件数(①−②)」が2,992件もあることがわかり、これは応募件数の13%です。
なかには、「事業再構築指針に合致していない」ために「要件満たさず」となった案件があったと考えられます。
応募する方は、まず「事業再構築指針」をよく理解し、指針に合致した案件を作り上げていきましょう。
【重要項目 4】申請者の「顧客規模の想定の積算根拠」が甘い
「審査の質」の議論のなかで、中小企業庁担当者が「申請内容の感想」を次のように述べました(行政事業動画43分頃)。
- 1次公募の申請書を数百にわたって読んだが、共通した特徴が「顧客規模の想定の積算根拠」が甘い点
- 「なぜそれだけのお客さんがとれるのか?」は、厳しく見ると8割が落第しそうな勢い
- 経営指導する立場の人間(認定支援機関)がついたうえでも、マーケティングに必要な基礎的情報やノウハウが欠けている
【重要項目 5】特別枠は採択率が高い
委員(藤居教授)からの「特別枠と通常枠の採択率が同じようだが、問題はないか」という質問に対して、中小企業庁担当者は次のように回答しています(行政事業動画56分頃)。
- 「緊急事態特別枠」は優先採択しており、加点も設けているため、採択率は通常枠よりも高くなる
- 「卒業枠」と「V字回復枠」についても、審査に落ちた場合、通常枠で再審査されるため、「結果的に採択率が高くなる可能性が高い」と想定している
[第1回公募の採択結果②]特別枠は55%、通常枠は30%
「事業再構築補助金」第1回公募の採択結果を見ると、それぞれの採択率は下表のとおりです。
応募件数 | 採択件数 | 採択率 | |
---|---|---|---|
中小企業等 通常枠 | 16,897 | 5,092 | 30% |
中小企業等 特別枠 | 5,167 | 2,859 | 55% |
中小企業等 卒業枠 | 80 | 45 | 56% |
中堅企業等 通常枠 | 71 | 12 | 17% |
中堅企業等 特別枠 | 14 | 7 | 50% |
中堅企業等 V字回復枠 | 2 | 1 | 50% |
中小企業庁担当者が述べたとおり、特別枠は通常枠よりも、採択率がかなり高いという結果になりました。
ただし「緊急事態宣言特別枠」は、現時点でも「第2回公募で終了予定」とアナウンスされています。
特別枠での申請を検討されている方は、期限が「7月2日18:00まで」となりますので、お急ぎください。
【重要項目 6】3次公募以降の審査について
特に多かった「審査が定性的」という意見に対して、中小企業庁担当者は当初は「もう1度考えてみるが、現時点では思いつかない」との回答でしたが、後半では次の点について「検討したい」と述べています(行政事業動画1時間7分頃)。
- 「”束ね(連携)”を称揚している」と述べたが、3次~5次公募では「どういう”束ね”を期待する」や「こういう事業転換をおすすめします」といったメッセージを、事業再構築指針のなかに追加する
- 「有望な脱サプライチェーン」について、審査基準を見直す
予定どおり「緊急事態宣言特別枠」が2次公募で終了となれば、次回以降は採択率が大きく減少し、採択数も「採択予定件数:約67,000社」よりもかなり低いものとなりそうです。
それでは「せっかく予算があるのに、経産省がわかりづらいルールをつくったから、活用されなかった」と、中小企業庁担当者が責められることに。
そのため3次公募では、「もう少しわかりやすい再構築指針」が提示される可能性が高いと考えられます。
まとめ:事業再構築補助金の行政事業レビュー結果から採択のヒントを
この記事では、「事業再構築補助金」の行政事業レビュー「公開プロセス」の結果と、挙げられた意見・情報のなかで「重要な項目」について解説してきました。
ぜひ記事を参考に、行政事業レビュー「公開プロセス」の結果と重要事項からヒントをつかみ、審査での採択を目指しましょう。
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ご関心のある方は、ぜひ下記サイトもご覧ください。