経済産業省が作成し、 企業の経営課題の発見に役立つツールである「ローカル ベンチマーク」。
この名称は聞いたことがあっても「どんなもので、どうやって使えばいいかわからない」という方は、多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、ローカルベンチマークの基本情報や使い方、ミラサポplusの活動レポート、事例までご紹介していきます。
「自社の課題解決策を見つけたい!」という経営者の方は、ぜひご覧ください。
ローカルベンチマーク(ロカベン)とは?
まずは、ローカルベンチマーク(ロカベン)がどのようなものか、基本情報からご紹介します。
経済産業省が作成・公開する健康診断ツール
ローカルベンチマークとは、経済産業省が作成し、公開している「健康診断ツール」です。
通称「ロカベン」とよばれ、誰でも無料で使うことができます。
企業が地域の金融機関・支援機関と対話を深め、さらに「生産性向上に努める企業に対し成長資金の提供を促す」ことを目的に、2016年3月に公開されました。
ツールはエクセルデータで作成されており、経済産業省のサイトからダウンロードして使用します(このほか、ミラサポplusでも使用可能)。
・経済産業省:ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)紹介ページ
・経済産業省:ローカルベンチマークツール(エクセル形式)
このツールに企業のデータを入力していくことで、次の3つのシートが完成。
経営状態や、経営に活かせる「強み」などを把握できます。
①財務分析シート
下記6つの財務指標の分析結果を、経営者や各支援機関にとってわかりやすい形で提供するシートです。
- 売上増加率(売上持続性):キャッシュフローの源泉。成長ステージの判断に有用であり、売上の持続性を測るための重要な指標
- 営業利益率(収益性):本業の収益性を測る重要な指標であり、収益性分析の最も基本的な指標
- 労働生産性(生産性):成長力、競争力等を評価し、生産性を測る重要な指標。また、キャッシュフローを生み出す収益性の背景となる要因として考えることもできる
- EBITDA有利子負債倍率(健全性):有利子負債がキャッシュフローの何倍かを示す指標であり、有利子負債の返済能力や健全性を測る重要な指標
- 営業運転資本回転期間(効率性):過去の値と比較することで、売上増減と比べた運転資本の増減を計測し、回収や支払等の取引条件の変化による必要 運転資金の増減を把握したり、効率性を測るための重要な指標
- 自己資本比率(安全性):総資産のうち、返済義務のない自己資本が占める比率を示す指標であり、安全性を測るための重要な指標です。自己資本の増加はキャッシュフローの改善につながる
②非財務ヒアリングシート(業務フロー・商流)
製品・標品・サービスを提供する流れを整理できるシートです。
<製品製造、サービス提供における業務フローと差別化ポイント>欄では、提供する製品・商品・サービスが企業の中でどのようなプロセスを経て提供されているか、顧客にどういった価値を提供しているのかなどを明らかにしていきます。
また〈商流把握〉欄では、企業がどのようにして商売を成立させているかを、取引関係から把握可能です。
③非財務ヒアリングシート(4つの視点)
企業の「経営全体」を、次の4つの視点から整理できるシートです。
- 経営者
- 事業
- 企業を取り巻く環境・関係者
- 内部管理体制
ロカベンの特徴
ローカルベンチマークは、「財務分析(前項シート①)」と「非財務(前項シート②・③)」の両面から経営状態を知ることができ、「経営の数字以外の分析ができる」ことが特徴です。
一般的に「経営診断ツール」というと、「財務情報」を分析するものが多数。
しかしローカルベンチマークでは、前項のシート②・③を使うことで、「非財務情報」によって企業の経営状況を把握し、強みや課題の発見、課題を解決するための対応策の策定につなげていきます。
ロカベンの効果
経済産業省のガイドブックによれば、2018年に実施した「ロカベン活用の効果」アンケート調査結果は、下グラフのようになりました。
「自社の経営分析」や「補助金申請時の活用」、「事業計画作成」につながるといった効果が出ています。
また、ローカルベンチマークの「集合型ワークショップ」を実施したところ、実施後には次の6つの効果が得られた参加者が多かったそうです。
- 仕事に対するモチベーション向上
- 自社に対するロイヤリティ向上
- 理念への理解・共感度の向上
- 自社理解・強みの認識の向上
- コミュニケーション・関係性の良化
- 仕事の役割の明確化
さらに、ロカベンに取り組んだ企業の声として、次のようなことが挙げられています。
(対内的効果)
経済産業省:ローカルベンチマークガイドブック支援機関編より
・自社の商品・サービスを本当に必要としている方がどのような方か、何を伝えればよいか明確になり、営業効率が向上しました!
・顧客提供価値や経営者の考えを整理できたことで、将来ビジョンを見える化することに繋がり、団結力が増した!
(対外的効果)
・採用活動において自社のことを求職者に明確に伝えられるようになり、採用後の離職率が下がりました!
・金融機関との対話や資金調達の交渉が円滑に進みました!
ロカベンの認知度と課題意識
少し古いデータですが、2018年に経済産業省が実施した調査によれば、中小企業10,000社のなかでロカベンの認知度は13.5%。
また認知している企業でも、実際に「使っている・使ったことがある」と答えたのは30.7%にとどまっており、これは全体でみれば4%という数字でした。
また、ロカベンを使ったことがある企業の7割が「問題点を感じない」と評価したものの、「分量が多く億劫(14.3%)」や「内容が難しく、理解しきれない(8%)」といった課題を意識する声も聞かれています。
なお、金融機関向けアンケート調査(2016~2019年度)では、認知度は9割以上と高いですが、「活用している」と「活用しない」がほぼ同数と、二分された状態です。
金融機関が「活用しない」理由としては、下記の項目が上位となっています。
- 1位:既存のツールを活用すれば問題ない(58.4%)
- 2位:ツールを活用しなくても、十分に企業と対話できている(23.5%)
- 3位:そもそも、ローカルベンチマークについて理解が進んでいない(16.9%)
ローカルベンチマークの使い方
次に、ローカルベンチマークの使い方をご紹介します。
[使い方①]ローカルベンチマークを作成する
経営者の方なら、さまざまな経営上の悩みがあると思いますが、解決のためには自社の「現状分析」が重要です。
そしてローカルベンチマークで自社の現状分析、つまり「健康診断」を行えば、悩みを解決する糸口を見つけられます。
また通常の「健康診断」と同様で、病気(危険)の早期発見につながります。
さらに、ローカルベンチマークの目的のひとつが「経営者の頭の中にあることをアウトプットする」こと。
つまりローカルベンチマークを作成すると、経営者の考えを書き出すことで、社内・社外の人に自社のことを説明できます。
まずはツールをダウンロードして、作成してみましょう。
また難しいようなら、経営者の方がひとりで作成する必要もありません。
次のような作成を行えば、「第三者の目線」で自社を見直せます。
- 社内の複数人で作成する
- 社外のメンバー(支援機関・専門家・金融機関など)と作成する
そしてやはり「健康診断」と同様、ロカベンも一度で終わるものではありません。
はじめから完璧を目指さず「何度も取り組む」ことで、経営に対する考え方が深まっていきます。
[使い方②]ローカルベンチマークを活用して対話する
ローカルベンチマークはもともと、経営者と金融機関・支援機関が「同じ目線で対話を深める」ためのきっかけ、「共通言語」となることを目的としてつくられました。
そのため、作成したら「そこで終わり」ではなく、ロカベンという「共通言語」を活用して、対話を行うことに使いましょう。
たとえば資金調達時など、金融機関との対話にも活用可能です。
ロカベンは全国の金融機関において認知度 94%であり、4 割の金融機関が活用しています。
ロカベンに取り組むことで、自社の事業について 理解が深まるだけでなく、金融機関との信頼関係が構築可能。
さらに事業の相互理解に基づく融資と、本業支援を受けられる可能性も高まります。
ミラサポplusの活動レポート(ローカルベンチマーク)
中小企業向けのオンライン行政手続サポートサイトとして、2020年4月に運用を開始した「ミラサポplus」。
さまざまな支援制度を検索できる「支援制度ナビ」や、中小企業の事例を紹介する「事例ナビ」などのサービスを提供しています。
現在だと、後述する「事業再構築補助金の申請書類作成」で利用する方が、特に多いかもしれません。
この「ミラサポplus」の特徴のひとつが、オンライン上で「ローカルベンチマーク」を作成できる点です。
GビズIDでログインし、「電子申請サポート」画面の必要項目と、「活動レポート(ローカルベンチマーク)」画面の非財務情報を入力。
初めて非財務情報を入力する場合は、「初回入力する」ボタンで表示される画面を利用すると、項目順に入力できるなど、わかりやすくなっています。
各項目を入力すると、下画像のような「活動レポート(ローカルベンチマーク)」が確認・出力できます。
※事業再構築補助金ではローカルベンチマークは不要
注目度の高い「事業再構築補助金」ですが、申請にローカルベンチマークは不要です。
必要なのは、ミラサポplusの「電子申請サポート」の事業財務情報となります。
これは初期の公募要領「表1:添付書類 」で、下画像のとおり「ローカルベンチマーク」との記載があったため。
この記載によって、事業再構築補助金の申請者に、混乱が生じました。
(赤線の箇所を読めば「実際は電子申請サポートの事業財務情報が必要」とはわかりますが)
現在の公募要領では、下画像のように修正され、まぎらわしい記載ではなくなっています。
なお、「事業財務情報の出力方法」がわからない方には、こちらの記事で手順をご紹介しています。
ミラサポplus「活動レポート(ローカルベンチマーク)」の事業財務情報の出力方法【事業再構築補助金 添付書類】
また、事業再構築補助金の制度概要を知りたい方には、こちらの記事もおすすめです。
【事業再構築補助金まとめ】制度概要や申請できる企業、申請方法、採択結果などすべて解説
【Q&A】最大1億円の「事業再構築補助金」について疑問に答えます
ローカルベンチマークの活用事例紹介
記事の最後に、経済産業省が公表している「ローカルベンチマークの活用事例」をご紹介します。
[活用事例①]ノリット・ジャポン㈱(秋田県)
秋田県秋田市で、地方産品開発・販売事業や企画クリエイティブ事業、フードサービス事業を展開するノリット・ジャポン㈱。
ローカルベンチマークを通じて、北都銀行(本部・現場担当者)・専門家・社長・従業員で対話を実施しました。
社長は従業員に、内部統制においての意向が十分に伝わっていないと感じていたため、この点について「ノリット・ジャポンにとってパッションある行動とは」という切り口で、具体例を添えた行動指針を策定する方向に。
設備投資だけでなく、社内の活性化についても、対話によって気づきを得られました。
北都銀行も継続的に対話を行ない、ノリット・ジャポンを支援していく方針です。
[活用事例②]清和工業㈱(東京都)
平成28年9月に設立しされた清和工業㈱は、①アスベスト除去、②解体、③メンテナンスの3つが柱となっています。
ローカルベンチマークを活用した対話を、支援機関である税理士事務所だけでなく、社長と従業員とのあいだでも実施。
従業員との対話によって、今まで「利益につながっていない」と感じていたことがじつは「強み」であり、顧客から選ばれる理由になっていたことを知り、人材育成にかける思いをより強く持てました。
さらに、作成したローカルベンチマークの内容をもとに「早期経営改善計画書」を作成し、金融機関に報告。
取引銀行からは「人材育成が進んでいること。一方で人手不足や資金繰りに悩んでいることがわかった」として、積極的に支援してくれることを約束してくれています。
まとめ:ローカルベンチマークを活用して社内外での対話を
この記事では、ローカルベンチマークの基本情報や使い方、ミラサポplusの活動レポート、事例までご紹介してきました。
ぜひ記事を参考に、ローカルベンチマークを活用して、社内外での対話を行ってみてください。
あなたの企業の課題解決につながる対策が、見つかるかもしれません。
また、経営者コネクトでは、記事の中にありました事業再構築補助金の応募を考える企業様向けに「無料相談サービス」を行っています。
ご関心のある方は、ぜひ下記サイトもご覧ください。