【令和3(2021)年度申請開始】「業務改善助成金」の制度概要や活用事例を紹介します

「設備投資をして、職場の生産性を向上させたい」という中小企業を応援する制度が「業務改善助成金」です。

しかし同時に「社員の最低賃金引き上げ」も必要など、いくつかの要件があり、ややわかりづらいルールとなっています。

そこでこの記事では、「業務改善助成金」の基本情報や令和3年度(2021年度)の制度概要、活用事例まで紹介します。

「社員の働く環境を向上させたい」と考える経営者の方は、ぜひご覧ください。

「業務改善助成金」とは?

「業務改善助成金」とは、「生産性の向上」と「事業場内の最低賃金の引き上げ」の両方を行う中小企業事業者を支援する助成金制度です。

「生産性の向上」には、機械設備やコンサルティング導入、人材育成、教育訓練といった設備投資などが対象となり、その費用の一部が助成されます。

賃金の引き上げ額によって、助成金のコース区分が分かれていることが特徴。

令和3年(2021年)2月1日申請受付分からは、「20円コース」が新規に追加されました。

また2021年4月1日からは、令和3年度(2021年度)「業務改善助成金」の申請受付を開始。
新規の「20円コース」をあわせた4つのコース区分を設け、企業の現状に沿った助成を受けることが可能となっています。

令和3(2021)年度「業務改善助成金」の制度概要

次に、令和3年度(2021年度)「業務改善助成金」の制度概要をご紹介します。

[令和3年度 制度概要1]申請期日

令和3年度(2021年度)「業務改善助成金」の申請期日は、以下のとおりです。

  • 申請期日:令和4年(2022年)1月31日

ただし、予算の範囲内での交付を行うため「申請期間内に募集を終了する場合がある」と公表しています。
申請を検討しているときは、できるだけ早めに行ないましょう。

[令和3年度 制度概要2]コース区分と助成金額・助成率

令和3年度(2021年度)のコースは4区分(20円・30円・60円・90円コース)で、それぞれ「引き上げる労働者数」によって助成金額(上限額)は下表のように変わります。

コース区分 引き上げ額 引き上げる労働者数 助成上限額
20円コース 20円以上 1人 20万円
20円コース 20円以上 2~3人 30万円
20円コース 20円以上 4~6人 50万円
20円コース 20円以上 7人以上 70万円
30円コース 30円以上 1人 30万円
30円コース 30円以上 2~3人 50万円
30円コース 30円以上 4~6人 70万円
30円コース 30円以上 7人以上 100万円
60円コース 60円以上 1人 60万円
60円コース 60円以上 2~3人 90万円
60円コース 60円以上 4~6人 150万円
60円コース 60円以上 7人以上 130万円
90円コース 90円以上 1人 90万円
90円コース 90円以上 2~3人 150万円
90円コース 90円以上 4~6人 270万円
90円コース 90円以上 7人以上 450万円

また助成率は、全コース共通で以下のとおり。

  • 事業場内最低賃金900円未満:4 / 5(生産性要件を満たすと9 / 10)
  • 事業場内最低賃金900円以上:3 / 4(生産性要件を満たすと4 / 5)

そして助成金の交付の額は、以下のどちらか低い額となります。

  1. 助成対象経費に上記の助成率を乗じた額
  2. 各コースの上限額

[令和3年度 制度概要3]支給の対象者と対象事業場

助成金の支給対象者は「中小企業事業者」で、下表に該当する事業者をいいます(労働者数または資本金等のどちらかを満たせば該当)。

業種 業種の詳細 常時使用する労働者数 資本金または出資の総額
小売業 小売業、飲食店、持ち帰り配達飲食サービス業 50人以下 5,000万円以下
サービス業 医療・福祉、宿泊業、娯楽業、教育・学習支援業、情報サービス業、物品賃貸業、学術研究・専門・技術サービス業など 100人以下 5,000万円以下
卸売業 卸売業 100人以下 1億円以下
その他の業種 製造業、建設業、運輸業、農業、林業、漁業、金融業、保険業など 300人以下 3億円以下

また支給の対象となるのは、以下の要件をどちらも満たす事業場です。

  • 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
  • 事業場規模100人以下

ここで「100人以下」とは、申請時点での人数を指します。
交付決定後に社員が増え「101人以上」になったとしても、申請時に「100人以下」であれば問題ありません。

[令和3年度 制度概要4]支給の要件

助成金の支給をうけるには、次の要件をすべて満たすことが必要です。

  1. 事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げる「賃金引上計画」を策定し、就業規則等に規定する
  2. 引き上げ後の賃金額を支払う
  3. 生産性向上につながる機器や設備などを導入し、業務改善を行い、その費用を支払う
  4. 解雇や賃金引下げなど「不交付事由」がない

後述する「生産性要件」は必須事項ではないため、満たしていなくとも支給を受けることは可能。

なお、「引き上げ後の賃金額支払い(上記②)」や「設備の導入(上記③)」は、交付申請書提出前に実施すると、助成金の交付対象となりませんので注意が必要です。

「引き上げ後の賃金額支払い(上記②)」は、「交付申請書の提出~事業完了日」であれば、いつ行っても構いません。

ただし「設備の導入(上記③)」(導入機器等の納品や支払い)は、交付決定後に行う必要があります。

[令和3年度 制度概要5]助成対象となる設備投資等

費用の助成対象となるのは、「生産性の向上や労働能率の増進につながると認められる設備投資等」で、具体的な対象は下表のとおりです。

経費区分 内容
謝金 専門家謝金
旅費 専門家旅費、職員旅費(外国旅費、日当、宿泊費は除く)
借損料 器具機械借料及び損料、物品借料及び損料等の費用(会場借料は除く)
会議費 会議の費用(会場借料、通信運搬費は含む)
雑役務費 受講料等の費用(試作・実験費、造作費は除く)
印刷製本費 研修資料、マニュアル等の作成費用
原材料費 資材購入の費用
機械装置等購入費 機器・設備類の購入、製作又は改良の費用
(特種用途自動車以外の自動車、パソコンは除くが、タブレット端末やスマートフォン、その周辺機器は含む)
造作費 機械装置据付等の費用
人材育成・教育訓練費 外部団体等が行う人材育成セミナー等の受講費(賃上げに効果的なもの限定)
経営コンサルティング経費 外部専門家やコンサルタント会社による経営コンサルティング費用(人員削減や労働条件の引き下げを内容とするものは除く)
委託費 調査会社、システム開発会社等への委託費用(就業規則の作成や改正、賃金制度の整備は除く)

ちなみに、設備投資等の内容が賃金引上計画の対象者と直接関連していなくても、問題はありません。
これは、制度の目的を「企業の生産性向上等により、賃金の引き上げに際しての負担を軽減する」としているためです。

[令和3年度 制度概要6]申請から助成金交付までの流れと申請先

申請から助成金交付までの流れは、以下のようになります。
なお、助成金の申請先は、事業場がある地域の都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。

出典:厚生労働省

流れ①:助成金交付申請書の提出(事業者)

助成を受けようとする事業者は、業務改善計画や賃金引上計画などを記載した「交付申請書(様式第1号)」を作成し、次の書類を添付して都道府県労働局に提出します。

  • 助成対象経費の見積書
  • 「生産性要件」を満たしていることが確認できる書類(「生産性要件」を満たした場合のみ)

提出は「労働局の担当部署に持参、または郵送」となっていますが、新型コロナの感染防止のため郵送が推奨されています。

ただし郵送事故防止のため、「簡易書留」といった「配達記録が残る方法」で郵送してください。

また厚生労働省ウェブサイトでは「電子申請でも受け付けています」との記載がありますが、詳細は明記されていません。
電子申請を希望される場合は、労働局の担当部署に申請方法などをお問い合わせください。

流れ②:助成金交付決定の通知(労働局)

次に都道府県の労働局で、交付申請書の審査を行います。
また必要に応じて、労働局による事業者の現地調査も実施。

審査・調査の結果、内容が適正と認められれば、申請からひと月以内に事業者へ助成金の交付決定通知を行ないます。

流れ③:業務改善計画と賃金引上計画の実施(事業者)

交付決定の通知をうけた事業者は、業務改善計画に基づき設備投資等を実施。
同時に、賃金引上計画に基づき事業場内最低賃金の引上げもを行います。

流れ④:事業実績報告書の提出(事業者)

設備投資等と賃金の引き上げを行った事業者は、業務改善計画の実施結果と賃金引上げ状況を記載した「事業実績報告書(様式第9号)」を作成して、労働局に提出します。

流れ⑤:助成金交付決定の通知(労働局)

労働局にて「事業実績報告書」の審査を行い、内容が適正と認められれば助成金額を確定し、事業主に通知します。

流れ⑥:支払請求書の提出(事業者)

助成金額の確定通知を受けた事業主は、速やかに「支払請求書(様式第13号)」を作成し、労働局に提出。
その後、請求書に記載された金融機関の口座に、助成金が振り込まれます。

[令和3年度 制度概要7]生産性要件を満たせば助成率が割増に

「業務改善助成金」を利用する事業者が「生産性要件」を満たした場合、前述のとおり助成率が以下のように割増になります。

  • 事業場内最低賃金900円未満の場合:4 / 5 → 生産性要件を満たすと 9 / 10
  • 事業場内最低賃金900円以上の場合:3 / 4 → 生産性要件を満たすと 4 / 5

「生産性要件」とは、助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、次のいずれかのように伸長することを指します。

  1. その3年度前に比べて6%以上伸びている
  2. その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びており、金融機関から一定の「事業性評価」を得ている

なお「生産性」は次の計算式で計算します。

  • 生産性 = 付加価値 / 雇用保険被保険者数

この「生産性要件」には非常に細かなルールがありますので、「生産性要件」クリアによる助成金割増を希望される方は、下記ウェブサイトで要件などをよくご確認ください。

(参考)
厚生労働省:「生産性要件」説明ページ
厚生労働省:パンフレット

 

[令和3年度 制度概要8]交付要領や記入例など

令和3年度(2021年度)「業務改善助成金」のリーフレットや記入例などの資料類をまとめましたので、申請時にお役立てください。

「業務改善助成金」の活用事例

記事の最後に、「業務改善助成金」の活用事例をご紹介します。

[活用事例1]新型電子ミシン導入で生産量が4割増大(繊維製品製造業)

岩手県で繊維製品製造業を営むA社は、縫製パターンが少なく、作業工程が細いため業務の効率化ができていない状況でした。

そのため「縫製作業の作業効率を上げたい」として、新型電子ミシンを導入したところ、1日あたりの生産量が4割増大しました。
またミシン内に100種類の縫製パターンを覚え込ませることが可能となったため、縫製パターンも多様化。

この生産性向上により、2人の社員の時給(事業場内最低賃金)を31円引き上げました。
さらに、事業場内最低賃金以外の社員の賃金の引き上げも実施しています。

 

[活用事例2]自動溶接機の台数増加で作業時間2割減に(金属製品製造業)

広島県にある金属製品製造業のB社は、自動溶接機が数台しかないため、手作業で溶接する機会が多いという状況にありました。

これでは、溶接に時間がかかるばかりでなく、溶接にムラができることがあり、受注が多い時期には残業が増える原因に。

そこで自動溶接機を3台増設し、溶接が容易にできる態勢をつくりました。
作業能率があがり、今まで以上の受注にも対応でき、これまでの作業時間の2~3割程度の削減になっています。

設備導入によって生産性が向上したことで、結果的に社員25人の時給を30円引き上げることに成功しました。

まとめ:「業務改善助成金」の有効活用を

この記事では、「業務改善助成金」の基本情報や令和3年度(2021年度)の制度概要、活用事例まで紹介しました。

ぜひ記事を参考に、「業務改善助成金」の有効活用し、社員が働く環境の向上を目指しましょう。

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