「就業規則を見直したい」
「資金繰りの相談をしたい」
「ITを導入して事業を拡大したい」
こういった悩みを抱える経営者の方は多いかと思います。
ですが専門家に相談するには費用もかかりますし、「信頼できる専門家」をどこで探せばいいのかもわかりませんよね。
こんなときに役立つ制度が、中小企業庁の専門家派遣事業「中小企業119」です。
この記事では、事業者向けに「中小企業119」の基本情報や制度概要、利用の流れ、事例までご紹介します。
「専門家に経営相談をしたい」という経営者の方は、ぜひご覧ください。
中小企業庁の専門家派遣事業「中小企業119」とは?
まずは、中小企業庁の専門家派遣事業「中小企業119」の基本情報をご紹介します。
中小企業庁の専門家派遣事業「中小企業119」とは?
「中小企業119」とは、中小企業などの事業者が抱える経営課題について、それぞれの課題に対応した専門家を派遣してその解決を支援する、中小企業庁の事業です。
そして「中小企業119」に登録されている専門家は税理士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士などの公的資格を有する者や、 豊富な経営支援の実績のある者など。
専門的な見地から、事業者の経営相談に対して支援を行います。
(参考)
・中小企業119 公式サイト
令和3年度の「中小企業119」専門家派遣事業は、6月7日に支援機関による派遣申請が開始。
そして派遣による相談は、今年度2月末までに原則3回まで(IT関連の相談は5回まで)無料で受けられます。
「ミラサポ」の専門家派遣事業が「中小企業119」に
「中小企業119」は令和3年度(2021年度)から開始されましたが、その前身は「ミラサポ」の専門家派遣事業です。
「ミラサポ」の専門家派遣事業で、運用面・システム面の改善要望が寄せられたため抜本的に改善を行い、「中小企業119」へと変更。
ちなみに「ミラサポ」の”中小企業向け補助金・総合支援サイト”としての役割は、「ミラサポPlus」に移行されました。
(参考)
・ミラサポPlus 公式サイト
「ミラサポ」専門家派遣事業からの変更点
専門家派遣事業が「ミラサポ」から「中小企業119」に移行されるにあたり、次のような点が変更されています。
- ホームページの変更:「ミラサポ」HPは3月末に閉鎖し、新たに「中小企業119」HPに
- 支援機関(派遣可能機関)の検索:支援機関が直接検索可能に
- 専門家検索サイトのホームページ公開を廃止:支援機関システム上でのみ検索可能に
- システム操作(ログインして従事証明の登録)の廃止:システムへの登録は不要とし、メールで従事証明を連絡する運用に変更
- LINEアプリの導入:専門家登録、派遣予定の調整、支援報告などはLINEアプリ経由での実施に
- 経営相談時及び支援実施時の写真登録の廃止:写真登録を廃止し、専門家向けLINEアプリによるチェックイン、チェックアウト機能を導入
令和3年度「中小企業119」事業の予算額
「中小企業119」事業は、正式には「中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業」の「専門家派遣事業」です。
そして令和3年度(2021年度)の「中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業」予算額は、「よろず支援拠点事業」と「専門家派遣事業」を合わせて40.9億円となっています。
専門家派遣による無料相談は、令和3年度(2021年度)2月末までのあいだに「原則3回まで」とされますが、「予算の消化状況によっては2月末よりも早く終了する」とアナウンスされています(「令和3年度 中小企業119事業とは」より)。
「中小企業119」の制度概要
次に、「中小企業119」の制度概要をご紹介します。
「中小企業119」で支援を受けられる事業者
「中小企業119」を利用して支援を受けることができるのは、次の事業者です。
- 中小企業者、小規模事業者等及び起業・創業を目指す者であって、国内に主たる事務所又は事業所を有する者
専門家派遣の対象となる経営課題
専門家派遣の対象となる経営課題は、「中小企業者等では解決が困難な高度・専門的な課題で、派遣可能機関が専門家による支援を必要と判断する課題」です。
また次のような「派遣先中小企業者等の業務を代わりに行うこと(業務代行)を目的とするもの」は、専門家派遣の対象とはなりません。
- ホームページの作成
- 借入申請書の作成
- 補助金等の申請書の作成
- 就業規則の作成
- 商品デザイン・キャッチコピーの作成 など
支援機関(派遣可能機関)とは、専門家の派遣申請が可能な機関
「支援機関」とは、「派遣可能機関」とも呼ばれ、よろず支援拠点・地域プラットフォームの構成機関のなかで、専門家の派遣申請が可能な機関です。
次のような機関が、支援機関に含まれます。
- 商工会
- 都道府県商工会連合会
- 商工会議所
- 中小企業団体中央会
- 都道府県等中小企業支援センター
- 商店街振興組合連合会
- 信用保証協会
- 金融機関
- 大学
よろず支援拠点・地域プラットフォームとは?
よろず支援拠点とは、中小企業・小規模事業者の経営上の悩みに対応するために、国が全国に設置した、無料の経営相談所です。
(参考)
・よろず支援拠点 公式サイト
また地域プラットフォームとは、商工会、商工会議所、都道府県等中小企業支援センター、金融機関などによる中小企業・小規模事業者等支援を目的とした連携体。
構成機関同士、または地方公共団体やよろず支援拠点と連携して、中小企業支援の取り組みを行います。
なお、「中小企業119」での支援機関になるには、地域プラットフォームの代表機関が申請者となり、登録申請を行う必要があります。
令和3年度「中小企業119」の事務処理等実施機関はパソナ
「中小企業119」の事務処理等実施機関は、国からの委託により次のような業務を行います。
- 専門家の登録に係る事務補助
- 専門家に対する委嘱状の交付
- 専門家に対する謝金・旅費の支払
- 謝金・旅費の支払状況の管理 など
また、令和3年度の事務処理等実施機関として、㈱パソナが選定されています。
「中小企業119」の利用の流れ
「中小企業119」の利用の流れを簡単に図解すると、下図のとおりです。
ここでは、この流れについて詳しく解説します。
[流れ1]最寄りの支援機関に相談する
まずは、「中小企業119」ウェブサイトの「支援機関を探す」で最寄りの支援機関を探して、相談します。
なお、無料で専門家の支援を受けるには、「中小企業119」に登録した支援機関による、”経営相談から専門家派遣後までのフォロー”が必要です。
そのため、普段から付き合いのある機関に相談するときには、その機関が「中小企業119」に登録しているか、事前に確認してください。
支援機関への経営相談は、原則対面で実施。
ただし新型コロナ拡大防止のため、一部の機関では、電話やWEB会議などによる経営相談も行います。
また土日・祝日の相談受付は、支援機関ごとに対応が変わります。
相談する機関にご確認ください。
事業者(相談者)側の事前登録は不要
「中小企業119」において、事業者(相談者)側のシステムなどへの事前登録は一切不要。
ただし支援機関からの連絡にメールアドレスが必要なため、相談時にアドレスの確認は行います。
また、事業者の情報の「中小企業119」システムへの入力は、支援機関が実施します。
[流れ2]支援機関で解決できないときに専門家に派遣依頼
支援機関で相談内容に対応できるときは、事業者への回答まで行います。
しかし解決できないときには、支援機関が適切な専門家を専門家データベースから選定し、専門家派遣システムを通じて派遣申請を支援を依頼。
専門家の選定はすべて支援機関が行うため、事業者が専門家を指定することはできません。
また、同じ専門家が同じ事業者に、同じ案件で複数年度にわたり支援をすることもできません。
つまり、令和2年度(2020年度)以前に支援を受けた事業者が、令和3年度(2021年度)に同じ案件で同じ専門家からの支援を受けることは禁止です。
派遣日程の調整・連絡は支援機関が行います
派遣日程の調整と、事業者・専門家に対しての連絡は、支援機関が行います。
そのため派遣予定日を変更したいときは、支援機関に連絡をしてください。
[流れ3]専門家が支援を実施
調整を行った派遣日に、支援機関の担当者と専門家が事業者を訪問して、支援を行います。
なお1回の派遣で、専門家を2名以上呼ぶことはできません。
ただし、支援時間が異なる時間帯なら、同一日でも複数の専門家の支援を受けることが可能。
このときは、支援ごとに「1回の派遣支援」とカウントされます。
また本事業においては、事業者からの謝金が発生することはありません。
専門家や支援機関から謝金を請求されたときは、事務局へ連絡しましょう。
支援終了後はスマホへの署名とメールの報告を
支援終了後、支援を受けた事業者は、専門家のスマートフォン上の「署名欄」に署名をします。
これは、”問題なく支援が行われた”ことを証明するための署名です。
また支援終了後3日以内に、事業者は支援機関に対して、以下の内容のメール報告(従事証明メール)を行う必要があります。
- 事業者出席者氏名(複数名同席した場合、複数名記載)
- 専門家の氏名 ・支援機関の同席の有無(同席有りの場合は同席した者の氏名)
- 支援日 ・支援開始/終了時刻 ・支援場所(開始時・終了時の場所が異なる場合はそれぞれ記載)
- 支援内容
- 支援を受けての所見
「中小企業119」で派遣される専門家について
次に、「中小企業119」で派遣される専門家について解説します。
専門家の登録基準
「中小企業119」で派遣される専門家はシステムに登録しており、登録基準は次のすべての要件を満たす者です。
- 派遣可能機関からの推薦を得られる者
- 中小企業者等の経営課題を解決するために必要な専門的、実践的な知識、技術、技能等を有し、次のいずれかに該当する者
①中小企業診断士、税理士、公認会計士、弁護士、技術士、その他公的資格を有する者
②会社等の管理者又は技術者等として 10 年以上の実務経験を有する者
③経営診断、販路開拓、商品開発等の中小企業者等支援に3年以上の経験を有する者、または当該分野において相応の実績を有すると認められる者
④技能等に関する指導・教育機関に所属し、指導、教育、研究に5年以上の経験を有する者 - 「中小企業119」の利用規約に同意した者
専門家に支払われる謝金の額
支援を行った専門家に支払われる謝金の額は、1時間あたり5,280円(税込)となり、日額31,680円が上限です。
なおこの謝金は、事務処理等実施機関(令和3年度はパソナ)が専門家に支払うものであり、支援を受けた事業者が支払うものではないことに注意してください。
専門家はLINEアプリを使用
「中小企業119」の特徴のひとつが、専門家が使用するシステムがLINEアプリである点です。
専門家登録や派遣予定の調整、支援報告などはLINEアプリ経由で実施。
また、支援時に企業などを訪れた際には、不正防止のためにGPS機能をオンにしてチェックイン、チェックアウト確認を行います。
専門家派遣の事例紹介
記事の最後に、専門家派遣の事例をご紹介します。
なお、「中小企業119」ではまだ事例がないため、その前身である「ミラサポ」の専門家派遣事業での事例です。
[事例1]中小企業診断士による生産体制の改善支援(飼料製造業)
茨城県の有限会社太陽産業社は飼料製造業を営んでおり、食品産業廃棄物を有効活用したエコフィードの開発・製造・供給を行っています。
そんななか、新型コロナ感染拡大の影響を受け、エコフィードの加熱基準が改訂されることに。
その改訂が2021年4月に運用開始となるため、地域プラットフォームのいばらき中小企業サポートネットワークに相談しました。
そして専門家として中小企業診断士を選定。
専門家は、現在の経営・生産状況を分析し、豚熱(CSF)・新型コロナウイルス感染防止・殺菌のため、エコフィード生産体制の改善や向上などへの助言・支援を行います。
その結果、独自仕様で開発設計された高温熱処理乾燥装置の作成を開始。
これによって、安価で衛生的、安心・安全な新飼料を開発・製造、供給することが可能な見込みとなっています。
[事例2]MBA経営学修士による新商品の開発支援(食品製造業)
鳥取県で、「化学調味料不使用の固形カレールウ」などの製造を行う有限会社大味研。
このカレールウを使用したレトルト食品の開発に着手しますが、自然派食品と市販用商品とでは調味料などの使用規制と味覚上の課題があったため、レトルト商品製造の壁を打破すべく、鳥取県中小企業支援プラットフォームに相談を行いました。
支援を行う専門家は、「ものづくり・地域資源活用」が専門分野で、MBA経営学修士を保有。
専門家が分析したところ、レトルトカレー商品開発のノウハウが乏しく、「中小企業の連携」が成功の鍵と考え、連携先の選定を実施します。
そして小規模ロットのレトルトカレー製造が可能な企業1社に連携先を絞り、地域資源である「もさ海老」を使ったカレーを商品化しました。
結果的には、2020年10月~2021年1月までの期間で読売新聞に通信販売の広告を掲載し、合計1,000個を売り上げることに成功しています。
まとめ:「中小企業119」の有効利用を
この記事では、事業者向けに、「中小企業119」の基本情報や制度概要、利用の流れ、事例までご紹介しました。
事業者には費用・システム登録など、一切の負担はかかりません。
ぜひ「中小企業119」を有効活用して、経営上の悩みを解消してください。
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