コロナ渦の苦境を乗り切る切り札!?飲食業のM&Aとは?

2020年の初頭から世界中を席巻している新型コロナウイルスの影響は、日本経済のあらゆる場所に深刻なダメージを与えています。その中でも特に被害が大きいのが飲食業です。

たび重なる「緊急事態宣言」や「まん延防止重点措置」の発令により、営業時間の短縮やアルコール類の提供が禁じられた結果、客足は遠のき、売上高は低下の一途を辿っています。

そのため、日本中で飲食店の廃業件数が増えていますが、その裏では、飲食店のM&Aの件数も増加の一途を辿っています。

そこで本日は、飲食業のM&Aについて、基本的な話からメリット・デメリット、そして事業を売買する場合の相場などについて解説していこうと思います。

コロナ渦における飲食業界の動向

はじめに、このコロナ渦における飲食業界全体の動向について確認しておきます。

新型コロナ影響前の飲食業界の市場規模

一般財団法人日本フードサービス協会が発表したレポートによると、平成31年1月から令和1年12月における国内外食産業の事業規模は前年比で1.3%増加しており、全体では26兆439億円と推計しています。

日本最大の事業規模を誇る自動車産業が約62兆円(輸出および海外子会社での販売も含む)であるのに対し、飲食業界は基本的に国内消費のみで26兆円を超えており、マーケットの規模としては日本経済にも影響を十分に与えうるだけのものであることは間違いありません。

新型コロナが飲食業界に与えた影響

次に、このマーケットが新型コロナの影響によってどのように変化したのかを見てみましょう。

引用元 日本フードサービス 令和2年外食産業市場動向調査 http://www.jfnet.or.jp/data/data_c.html

売上高については、ご覧のように、ファーストフードの洋風部門が前年と比べ5.5%伸びている以外は、すべての外食産業が前年割れを起こしています。特に深刻なのがアルコールの提供を行っている部門で、パブ・ビアホールに至っては、前年の4割を維持するのがやっというところです。

また、店舗数についてもほとんどの部門で前年と比べ減少しており、こちらもアルコール類を提供している居酒屋に関しては、前年と比べ約8%も店舗数が減少しています。

客単価については、苦心して原価率の低いメニューを作ることで全体的に微増させてはいるものの、肝心の客数自体が2割から5割以上も減少しているため、十分な利益を計上できるほどではありません。

今後起こりうること

このように、新型コロナの影響は飲食業界に極めて深刻な影響を及ぼしており、この状態が今後も続くようであれば、26兆円を超える規模を誇る飲食業界に極めて甚大な損害が生じることは間違いありません。

また、雇用調整助成金や自治体からの各種手当などにより、今はどうにか生きながらえている事業者についても、売上が元に戻る前にこれらの助成金や補助金などが打ち切られてしまえば、廃業を選ばざるを得なくなる事業者が大量に発生することが推測されます。

ワクチン接種が進み、少しずつ出口が見え始めたコロナ渦ではありますが、飲食業にとっては極めて不安定な状態がまだまだ続くため、今後はM&Aを用いた業界の再編や廃業などが一気に加速し、飲食業の業態も含めた大きな変化が起きるものと思われます。

飲食業とM&A

M&Aというと、どうしても大企業同士の企業買収を連想しがちな方が多いですが、実際には個人で行っているような小規模事業者同士や、サラリーマンの副業にも頻繁に用いられています。

この章では「M&Aとは何か?」をご説明した後で、実際に飲食業で行われているM&Aの実態などについてもお話ししていきます。

そもそも「M&A」とは?

M&Aとは、Merger(合併)and Acquisitions(買収)の略語で、(おもに)売り手企業の株式を取得することにより買い手企業は売り手企業の株主となり、売り手企業の経営権を取得してグループ企業の一員とする企業再編の手法のことを言います。

日本におけるM&Aの歴史は意外にも古く、19世紀末の明治時代に遡ります。当時主要産業だった紡績産業は、中国やインドなどの台頭により危機を迎え、生産コストの減少と業界再編を目指して大規模なM&Aが行われました。

その結果、M&Aで強化された紡績会社は息を吹き返し、第二次世界大戦前にはイギリスを抜いて世界トップシェアにまで登りつめました。

また近年では、バブル崩壊により傷んだ企業の財務を切り離し、健全化するための組織再編の手段としてM&Aが活発に行われました。

このように、M&Aとは、競争力を高めるための手段として古くから世界中で行われています。

M&Aと親和性が高い飲食業

では、飲食業界におけるM&Aにはどのようなものがあるのでしょうか?実は、飲食業はM&Aと非常に親和性が高く、大規模チェーン店から町の個人商店まで、規模や業態に関係なく数多くのM&Aが行われています。

また最近では、会社員の副業として小規模カフェのM&Aなどが行われるケースも多く、会社を丸ごと売却する場合から、複数店舗のうちの1店舗だけをM&Aで売却する場合まで実にさまざまです。

ではなぜ、飲食業はM&Aと親和性が高いのでしょうか?詳しくは後ほどお話ししますが、M&Aには会社を丸ごと売却する方法もありますが、2店舗のうち1店舗だけを売却する方法もあるため、多店舗展開を見直す場合や、赤字店舗を切り離したい場合、また、1店舗売却によって借入金の返済資金が欲しい場合など、さまざまな使い方をすることが出来ます。

このような理由から、路面店を経営する飲食業とM&Aは親和性が高いと言われています。

飲食業のM&Aはどうやって行う?

ではここで、実際に飲食業がM&Aを行う場合、どのように行われているのかについて解説していきます。

一部を譲渡するか、全部を譲渡するか

さきほどお話ししたように、M&Aには会社(もしくは事業)を丸ごと全部譲渡する方法と、譲渡したい部署だけを切り取って譲渡する方法の2種類があります

丸ごと譲渡する方法を「株式譲渡(かぶしきじょうと)」といい、会社(もしくは個人事業)の一部分だけを切り取って譲渡する方法を「事業譲渡(じぎょうじょうと)」といいます。

株式譲渡とは

株式譲渡とは、その名の通り、譲渡側の会社の株式を譲受側の会社に譲渡することにより成立するM&Aのことをいいます。株式を取得することにより譲受企業は譲渡企業の株主となるため、株主として代表取締役以下の取締役を選出する権利を持つことになります。その結果、譲渡企業は譲受企業のグループ企業として傘下に入ることになります。

事業譲渡とは

事業譲渡とは、事業の一部門を切り取って譲受希望の企業に譲渡するM&Aの手法のことをいいます。飲食業であれば、特定の事業部門(たとえば、洋食部門など)だけを譲渡することも出来ますし、2店舗経営しているうちの1店舗のみを譲渡することなども出来ます。

株式譲渡のメリット・デメリットについて

株式譲渡でM&Aを行う場合は、会社のすべてを譲渡することになるため、譲渡後は綺麗さっぱり事業から離れることが可能になります。したがって、リタイアを考えている方や、まったく別の事業を新たに起こすことを考えている方にとって最適な方法です。

また、株式譲渡は株式の譲渡さえ完了すればM&Aが成立してしまうため、資産を一つずつ契約していく事業譲渡と比べると、手続きに必要な時間を大幅に短縮することができます。

しかし、譲受側から見ると、株式譲渡は必要な部分以外も含めて買い取ることになってしまうため、場合によっては不要な資産や不要な人材などもまとめて譲り受けることがあります。このような理由により、株式譲渡でのM&Aは事業譲渡と比べると売買価格が低くなる傾向にあります。

事業譲渡のメリット・デメリットについて

M&Aによって企業を譲り受ける側にとっては、出来れば当該企業の「欲しい部分だけ」を「欲しい分だけ」譲渡してもらいたいというのが本音でしょう。そういう場合は、この事業譲渡がピッタリです。

しかしこれは、上述のように譲渡側にとってはあまり望ましくない場合もあるため、事業譲渡によるM&Aは株式譲渡と比べる高額になる傾向にあります。

また、株式譲渡は株主が直接売却代金を受け取ることが出来ますが、事業譲渡は売却代金が会社に入金されるため、売却益には法人税が課税されることになり、株式譲渡と比べ税額が高くなりやすいというデメリットがあります。

M&Aは単なる売買と比べて何が違うのか

飲食業が店を閉める場合、次の入居者に厨房機器などの設備などを丸ごと「居抜き」で売却することがあります。「居抜き」での資産売却とM&Aによる会社譲渡は混同されることがありますが、実はまったく違います

では、具体的に何が違うのでしょうか?

売却代金に「のれん」が加算される

「居抜き」による設備などの売却は、一つ一つの厨房機器などを査定し、それらを合計した金額が売買代金となります。いっぽうM&Aの場合は、同様に一つ一つの厨房機器を査定はしますが、それだけで譲渡価額は決まりません。

店の知名度(ブランド力)や看板商品の集客力、立地の良さやスタッフのレベルなど、金額では表示することは出来ないけれど店を経営する上で大切なものを評価し、それらを加えた金額によって最終的な譲渡価額が決定されます。

このように店舗が持つブランド力などの総称を「のれん」といい、のれん代が高く評価されればされるほど、M&Aでの譲渡価額は高くなります。

 

飲食業がM&Aを行った場合の相場はどれくらい?

最後に、飲食業がM&Aを行った場合の相場がどれくらいなのかについてお話しします。

売買価額は相場ではなくマッチング次第

メロンやリンゴには大体の相場がありますが、会社や事業には、実は相場らしい相場はありません。なぜなら同じ事業でも、Aさんが引き継いだ場合は大成功したがBさんが引き継いだら大失敗してすぐに潰れた、なんてことが当たり前のように起こるからです。

ですから、買い手側の企業が「自分がこの店を買うことが出来たらもっと儲かるのは間違いない!」と思えば思うほど値段は高くなりますし、反対に「安ければ買うけど、まあ別に無理しなくてもいいや」と思えば高い値段がつくことはまずありません。

このように、M&Aの売買価額はマッチングによって大きく左右されるため、どの仲介業者に依頼するかがとても大切になるわけです。

とは言っても、売買価額に何の基準もないまま、売り手と買い手がフリーハンドで話し合うわけではありません。一応の基準として会社の評価額を算定し、それを基に両者が話し合いを行います。

この会社の評価額の算定を「バリュエーション」といい、その方法は数多く存在しますが、ここではM&Aの現場で最も用いられている「年倍法(ねんばいほう)」についてご紹介します。

年倍法とは?

年倍法(もしくは年買法)は、正式な学術用語ではありませんが、実際にM&Aの現場でもっとも用いられているバリュエーションの方法の一つです。年倍法が重用されている理由は、算出方法が他の方法と比べると圧倒的に簡単であることと、算出された評価額が売り手や買い手の経営者の感覚に近いためと言われています。

なお、年倍法は以下の算式によって企業価値を算出します。

  • 企業価値=「時価修正後の会社の純資産価額」+「営業利益×(3~5年分)」

時価修正後の会社の純資産価額とは、簡単に言うと「今すぐに廃業した場合の会社の金額」のことです。たとえば、土地などの資産は決算書上では取得時の価額で計上されていますが、廃業する場合は実際に流通している価額で売れるはずです。これは他の資産や負債も同様のため、資産や負債を実売価額に修正したものを「時価修正後の会社の純資産価額」といいます。

「営業利益」とは企業が1年間で上げられる本業での収益のことをいい、これは決算書の損益計算書を見れば確認することが出来ます。この営業利益は、通常は直近の数年間分の平均値を用います。

営業利益に掛ける年数は、対象企業の状況に応じで3年前後の年数を用いています。ブランド力が高ければ年数は多く、マイナス要因などが多ければ年数は少なくなります。

ちなみに、年倍法でバリュエーションを行う場合は、この「営業利益×(3~5年分)」で算出された金額が「のれん」となります。

まとめ

新型コロナウイルスのワクチン接種率が上がり、長く続いたコロナ渦の出口が少しずつ見え始めてきました。アフターコロナの世界では、今回最も大きなダメージを受けた飲食業で大きな業界再編が起きることになるでしょう。

19世紀には紡績業を、そして20世紀にはバブル崩壊後の日本企業を立て直したM&Aが、今回も恐らくは業界再編の主役として活躍することになるでしょう。

これから新たに飲食業に進出してみたい方や事業を縮小したい方、また、まったく新しい事業にチャレンジしたい方は、これを機にM&Aを考えてみるのはいかがでしょうか?単なる廃業ではなくM&Aであれば、従業員の雇用を守りつつ、老後の資金を得ることも十分に可能です。

大きな変化の波は、今すぐそこまでやって来ています。

 

経営者コネクト
経営者コネクトでは、M&A支援経験豊富な公認会計士や製造業の親族内承継を経験した中小企業診断士のチームによる「事業承継支援」・「後継者育成支援」・「M&A支援」プログラムをご用意している他、企業価値評価・デューデリジェンスのご依頼にも対応します。
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