会社の経営を長く続ければ、社員の解雇が必要な場面があるかもしれません。
しかし日本では、社員の地位は法律で強固に守られているため、進め方によっては解雇が無効になるケースも。
経営者の方は、適切な解雇の方法・手順を理解することが必要です。
そこで今回は、解雇の基本知識や無効となるケース、種類や円満に進める手順を解説します。
解雇の正しい知識を得たい方は、ぜひご覧ください。
解雇とは?退職や辞職との違い
まずは、解雇の基本知識をご紹介します。
解雇とは?
解雇とは、会社が社員に対して「一方的に労働契約を解除する」ことです。
次項で解説するとおり、解雇はその原因により「整理解雇」・「懲戒解雇」・「普通解雇」の3種類に分けられます。
ただし、会社はいつでも自由に社員を解雇できるわけではありません。
「客観的で合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない解雇は無効になるとして、労働契約法16条で規定されています(解雇権濫用法理 )。
また後述するとおり、ほかにもいくつかの法律によって解雇が制限されています。
ちなみに、解雇は英語では「fire」や「lay off」、「dismissal」などです。
そして公務員が職を解かれる場合は、解雇ではなく「免職」となります。
「解雇」・「退職」・「辞職」の違い
「退職」とは、「労働契約が解消されること」です。
そのため「解雇」と「辞職」は、「退職」のひとつの形態といえます。
そして前項のとおり、会社側が一方的に労働契約を解除するのが「解雇」です。
「辞職」はその逆で、社員が一方的に労働契約を解除すること。
民法では、2週間前に申し出れば辞職が可能と定めています。
適法な解雇の種類
次に適法な解雇の3種類と、その内容を解説します。
【解雇の種類1】整理解雇
「整理解雇」とは、つまりは「リストラ」のことです。経営上の理由で、人員削減が必要な場合に行われる解雇のことをいいます。
整理解雇が有効と認められるためには、次の4要件をすべて満たす必要があります。
要件1. 人員削減の必要性
「会社を存続させるために、やむを得ず人員削減する」という事情が必要です。
ただ「業績が悪いため」という理由では不十分。
人員削減をしなければ、会社が存続できないところまで差し迫っていることが求められます。
要件2. 解雇回避努力義務
整理解雇を避けるための経営努力(解雇回避努力)を行うことが必要。
たとえば、次のような手段を取ることが求められます。
何もせず整理解雇を行うと、その解雇は無効です。
- 残業の削減
- 新規採用の中止
- 役職者の手当カット
- 希望退職の募集
要件3. 被解雇者の人選の合理性
整理解雇で解雇される社員(被解雇者)を選ぶ際には、客観的で合理的な基準をつくり、その基準に沿って実行することが必要です。
女性や高齢者、特定の思想をもつ社員を対象とした解雇も認められません。
基準は、たとえば次のようなことであれば合理的とされます。
- 勤務成績(欠勤日数や遅刻日数、規律違反など)
- 勤続年数
- 経済的打撃の低さ(扶養家族の人数など)
要件4. 解雇の手続きの妥当性
整理解雇を行うにあたり、社員や労働組合への説明や協議を実施し、納得を得ていることも必要です。
就業規則などで解雇の手続きが規定されている場合には、その手続に従います。
【解雇の種類2】懲戒解雇
「懲戒解雇」とは、社員の非違行為に対して、懲戒処分として行う解雇です。
製品や備品を盗むなど、会社の秩序に違反した社員に対して行います。
罰ですので、多くの会社では退職金が減額か、不支給と規定されています。
また労働基準法20条の「労働者の責に帰すべき事由」として、解雇予告手当を支払わないことも多いでしょう(労働基準監督署の除外認定が必要)。
そして懲戒解雇が成立するためには、次の3点が必要となります。
① 就業規則での規定
懲戒の種類や程度・内容などが、就業規則などで規定されている必要があります。
もし規定されていなければ、たとえ社員が悪質な行為をしたとしても、懲戒解雇にはできません。
② 弁明の機会を与える
秩序違反を起こした社員に対して、弁明の機会が与えられていることが必要です。
懲戒委員会を開くなど適切な手続きで、弁明を聞いたうえで処分を決めなくてはなりません。
③ 解雇権濫用法理に当てはまらない
客観的で合理的な理由と、社会通念上の相当性があること、つまり「解雇権濫用法理に当てはまらない」ことも必要です。
たとえば「1度でも無断欠勤をした場合は懲戒解雇」という規定があったとしても、社会通念上相当とは見られないため、無効となります。
諭旨(ゆし)解雇
「諭旨(ゆし)解雇」は懲戒解雇の一種です。労働者の反省を考慮して、退職の状況が不利なものとならないよう依頼退職の形をとるもので、会社側の温情処分といえます。
社員に退職願や辞表の提出を勧告し、退職金は全額支給か一部不支給となるケースが多数です。
【解雇の種類3】普通解雇
普通解雇は、非違行為があるわけではないが、「就業規則にある解雇事由」に相当する場合に行われる解雇です。
たとえば、「社員としての適性が著しく低い」などのケースで行われます。
そして普通解雇が適正かどうかは、次の判断基準によります。
判断基準1.社員の行為が就業規則の解雇事由に該当する
まずは社員の行為が、就業規則などで解雇事由に該当することが必要です。
つまり、就業規則などで解雇について規定をしていない場合は、普通解雇を行うことはできません。
判断基準2.解雇理由が社会通念上相当である
社会通念上の相当性には、「社員の行為が、解雇されるほどの内容か」、「これまで同じようなことがあった場合の懲罰と比較して、過酷すぎないか」などから判断します。
たとえば具体的な解雇理由として、次のようなものが挙げられます。
- ケガや病気などで心身に障害を負い、業務に耐えられない社員の休職期間が満了した
- 長期欠勤や心身虚弱など、勤務成績・仕事の能力が著しく不良な社員で、これ以上の就労に耐えないと判断した
判断基準3.社員の教育や配置転換など「解雇回避努力」を行った
解雇の対象とする社員について、会社が何の対策も行わないことは許されません。教育や配置転換などの、「解雇回避努力」を行っている必要があります。
解雇が無効となるケース
法令に従って適切に行わないと、解雇は無効になってしまいます。
ここでは、解雇が無効となるケースをご紹介します。
解雇には法律上の制限がある
日本の法律において、社員の地位はとても強固な法的保護を受けています。
そのため様々な法律で、解雇は制限されています。
たとえば上述したとおり、労働契約法16条によって「客観的で合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない解雇は、「解雇権の濫用」となり無効です。
また次項で説明するケース以外にも、次のような解雇は法律で禁止されています。
- 女性社員が婚姻・妊娠・出産したことや、産前産後の休業をしたことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条2項、3項)
- 社員の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条)
- 労災療養休業中およびその後の30日間、産前産後休業中およびその後の30日間の解雇(労働基準法19条)
- 会社の労働基準法違反について、社員が監督機関に申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)
- 労働組合の組合員であることを理由とする解雇(労働組合法7条1号)
- 育児休業・介護休業を取得したことを理由とする解雇(育児休業・介護休業法10条・16条)
- 派遣法違反の事実を、社員が申告することを理由とした解雇(労働者派遣法49条の3第2項)
解雇とは?退職や辞職との違い
【無効なケース1】理由を告げない解雇
解雇をするには、合理的な理由が必要です。
社会通念上相当と認められる理由がない解雇は、「解雇権の濫用」であり無効です。
そのため、理由を告げずに解雇することも無効となります。
【無効なケース2】女性のみを対象とする解雇
整理解雇を行う場合に、単に「女性だから」という理由で対象として解雇することはできません。
これは前項の「解雇権の濫用」にあてはまると同時に、男女雇用機会均等法6条4号の「性別を理由とする差別的取扱いを禁止」にも該当するためです。
【無効なケース3】内部告発の報復としての解雇
会社の違法行為を告発した社員に対して、報復的な左遷や解雇を行うことは公益通報者保護法により禁止されているため、解雇は無効となります。
ただし現時点では、事業者が違反した場合の罰則はありません。
円満に解雇を進める手順
記事の最後に、法的にも社員の感情的にも、円満に解雇を進めるための手順を解説します。
【手順1】「解雇回避努力」を行う
まずは会社が「解雇回避努力」を行います。
普通解雇の場合なら、教育や配置転換などを実施して社員の更生を促します。
整理解雇を行うためには、希望退職の募集や経費削減などの手段を講じる必要があります。
【手順2】無効となる解雇にあたらないかよく確認する
前項で解説したとおり、解雇は多くの法律によって制限されています。もし解雇が無効になれば、対象社員を復帰させ、退職としていた期間分の給与も支払わなければなりません。
多大な時間と費用がムダになりますので、法律で制限された解雇にあたらないか、しっかり確認してください。
【手順3】社員とよく話し合う
社員に、解雇が妥当と理解してもらい、会社側が誠意を尽くしたと判断してもらうためにも、よく話し合うことが重要です。
これは整理解雇・懲戒解雇・普通解雇の、どの解雇でも同様です。
社員が納得せず訴えなどを起こすと、会社・社員ともに多大な労力がかかります。
会社として行った「解雇回避努力」の内容や、整理解雇の場合なら現在の会社の状況などを、できるかぎり時間をかけて社員に説明してください。
【手順4】「30日前の解雇予告」または「解雇予告手当の支払い」
社員を解雇する場合、会社は解雇予定日の30日前に解雇することを予告しなければなりません。
もし30日前に予告ができない場合には、30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払うことが必要です(労働基準法20条)。
ただし次の場合には、解雇の予告や解雇予告手当は不要です。
- 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
- 社員の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合
「社員の責に帰すべき事由」とは、重大な服務規律違反や背信行為をした場合です。
つまり、懲戒解雇処分を受けるほどの違反を犯した社員には、解雇予告のルールが適用されません。
そのため、解雇予告手当を支払うことも不要です(ただし労働基準監督署による除外認定が必要)。
なお解雇予告手当は、即日解雇する場合には30日分が必要ですが、20日前の予告なら10日分だけを支払うといった方法も認められます。
【手順5】「解雇予告通知書」などの書面で通知する
解雇について社員に口頭で伝えても、法的には問題ありません。
ですがあとになって「聞いていない」とトラブルになることを避けるために、「解雇予告通知書」などの書面で解雇を通知することが合理的です。
通知書には、次の項目を記載します。
- 解雇する社員名
- 解雇予定日
- 解雇の理由(解雇の根拠となる就業規則の条項)
【手順6】求めがあれば「解雇理由証明書」を交付する
通知日から解雇予定日(退職日)までの間に、解雇する社員から求めがあれば、会社は「解雇理由証明書」を遅滞なく交付しなければなりません。
退職後は「退職証明書」が同じ役割を果たします(秋田労働局)。
前項の通知書もそうですが、「解雇理由証明書」を交付するということは、社員の解雇理由を明示すること。
その理由が「不当解雇」に当たるものなら、後に裁判となった際に不利な証拠となってしまいます。
記載内容には注意が必要です。
証明書の書式は、こちらが参考になります。
【手順7】請求があった場合は7日以内に賃金を支払う
会社は、退職した社員から請求があった場合は、7日以内に賃金と「社員の権利に属する金品(積立金など)」を返還しなければなりません。
これは毎月の給料日が8日以上先の場合であっても、7日以内の支払いが必要ですので注意してください。
ただし退職金は、就業規則などで規定した支払い期日までに支払えば、問題はありません。
そのため退職金について規定する際には、支払期日を就業規則などに明記することが賢明です。
まとめ:法的に問題のない解雇を
今回は、解雇の基本知識や無効となるケース、種類や円満に進める手順を解説しました。解雇には守るべき法令やルールが多数存在することが、ご理解いただけたかと思います。
適切に進めなければ解雇は無効となり、時間と手間がムダにかかってしまいます。ぜひ今回の記事を参考に、法的に問題のない解雇を行ってください。