新型コロナの影響が続くなか、日本・東京商工会議所の調査によれば、およそ1割の企業が「他社社員の出向での受入れを検討したい(検討している)」と回答しています。
そして企業の雇用を守るために、「在籍型出向」を支援する制度が「産業雇用安定助成金」です。
この記事では、「産業雇用安定助成金」の制度概要や出向のマッチング手段、出向事例までわかりやすく解説します。
「何とか社員の雇用を守りたい」と考えている経営者の方は、ぜひご覧ください。
「産業雇用安定助成金」をわかりやすく解説!
まずは、「産業雇用安定助成金」の基本情報について、わかりやすく解説します。
「産業雇用安定助成金」とは?
「産業雇用安定助成金」とは、新型コロナにより事業が縮小している事業主が「在籍型出向」で雇用を維持する場合に、出向元と出向先の双方に出向に要した賃金や経費の一部を助成する制度です。
社員の雇用維持に取り組みたい「出向元企業」と、出向を受け入れて人材を活用したい「出向先企業」の、両方にとって有意義な制度といえます。
また、同じ「雇用維持の方策」として「雇用調整助成金」があり、こちらは「雇用調整(休業)」を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成する制度です。
コロナで注目度アップ!雇用調整助成金の申請方法とは?
助成金の対象となる「在籍型出向」とは?
「産業雇用安定助成金」の対象となる「在籍型出向」とは、下図のように出向元と雇用契約を結んだままの労働者が、出向先とも雇用契約を結び勤務することをいいます。
現在では、新型コロナの影響で一時的に仕事がなくなった企業から、慢性的に人手不足な企業へ、という形で行われることが増えているようです。
企業がわざわざ「在籍型出向」という形をとるのは、新型コロナの影響が収まり経済が回復したときに、社員が自社に戻ってくることを前提にしているため。
社員側としても、ただ「休業」しているよりも、他社で働くことによってこれまで経験できなかった業務を経験でき、能力の向上につながるといわれています。
「産業雇用安定助成金」はいつから始まった?
「産業雇用安定助成金」は、令和3(2021)年2月5日に新設され、運用が開始されました。
ただし助成対象となるのは、令和3(2021)年1月1日からの出向です。
「産業雇用安定助成金」はいつまで実施する?
「産業雇用安定助成金」がいつまで実施されるのか、具体的な期限は現時点では定められていません。
ただし助成金には、コロナ禍における対応として令和2年度第三次補正予算と令和3年度予算案で計上された予算が使われます。
「産業雇用安定助成金」の制度概要
次に、「産業雇用安定助成金」の制度概要をご紹介します。
[制度概要1]助成額と助成率
「産業雇用安定助成金」では次の2種類の経費に対して助成が行われ、それぞれの助成額と助成率は以下のとおりです。
①出向運営経費
「出向運営経費」では、出向元と出向先が負担する賃金、教育訓練および労務管理に関する調整経費など、「出向中に要する経費」の一部を助成します。
中小企業 | 中小企業以外 | |
---|---|---|
出向元が労働者の解雇などを行っていない場合 | 9/10 | 3/4 |
出向元が労働者の解雇などを行っている場合 | 4/5 | 2/3 |
ただし、上限額は1日あたり12,000円(出向元・先の合計)。
なお、「中小企業」とは下表に該当する企業をいいます。
小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下または従業員50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下または従業員100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下または従業員100人以下 |
その他の業種 | 資本金3億円以下または従業員300人以下 |
②出向運営経費
「出向初期経費」では、次のような「出向の成立に要する措置」を行った場合に助成します。
- 就業規則や出向契約書の整備費用
- 出向元事業主が出向に際してあらかじめ行う教育訓練
- 出向先事業主が出向者を受け入れるための機器や備品の整備
助成額 | 各10万円/1人当たり(定額) |
加算額 ※ | 各5万円/1人当たり(定額) |
※:次の場合に助成額の加算を行います。
・出向元が雇用過剰業種の企業や生産量要件が一定程度悪化した企業である場合
・出向先が労働者を異業種から受け入れる場合
[制度概要2]助成金の支給要件
「産業雇用安定助成金」の支給要件は以下のとおりです。
〈支給要件①〉支給対象となる事業主
補助金の支給対象となるのは、次の事業主です。
- 新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされたため、労働者の雇用維持を目的として出向により労働者(雇用保険被保険者)を送り出す事業主(出向元事業主)
- 当該労働者を受け入れる事業主(出向先事業主)
事業主の要件はかなり細かく決められていますので、詳細は「ガイドライン 第Ⅱ部 支給の要件 1 支給対象となる事業主」をご覧ください。
〈支給要件②〉支給対象となる出向
補助金の支給対象となるのは、前項の「支給対象となる事業主」が、次の(1)に該当する「対象労働者」に対して行った、 (2)に該当する「出向」です。
(1)対象労働者
助成金の対象となるのは、助成金を受けようとする出向元に雇用された労働者です。
ただし、次の①~③の者を除きます。
- 出向計画期間の初回の出向した日の前日時点において、出向元事業主に引き続き被保険者として雇用された期間が6か月未満の労働者
- 解雇を予告された、退職願を提出した、事業主による退職勧奨に応じた労働者
- 日雇労働被保険者
(2) 出向
助成金の対象となる「出向」は、次の①~⑬のすべてを満たす必要があります。
- 雇用調整を目的として行われるものであって、人事交流・経営戦略・業務提携・実習のため等に行われるものではなく、かつ、労働者を交換しあうものでない
- 労使間の協定によるものである
- 出向労働者の同意を得たものである
- 出向元事業主と出向先事業主との間で締結された契約によるものである
- 出向先事業所が雇用保険の適用事業所である
- 出向元事業主と出向先事業主が、資本的、経済的、組織的関連性等からみて、独立性が認められる
- 対象期間内に実施されるものである
- 労働者ごとの出向期間が1か月以上2年以内であって出向元事業所に復帰するものである
- 出向元事業所または出向先事業所が出向労働者の賃金の全部または一部をそれぞれ負担している
- 出向労働者に出向前に支払っていた賃金とおおむね同じ額の賃金を支払うものである
- 出向元事業所から出向先事業所に出向させ、かつ、当該出向先事業所において就労する
- 労働組合等によって出向の実施状況について確認を受ける
- 出向元事業主および出向先事業主の双方がそれぞれ支給要件を満たす
[制度概要3]計画・申請から支給までの流れ
助成金の計画・申請から支給までの流れは、下記のようになります。
流れ①:出向の計画
まずは、出向をどのように行うか、具体的によく検討して計画をたてます。
出向する社員に対しては、出向に関して本人の同意を得るとともに、出向先での労働条件を明示することも必要です。
また出向前に、出向元と出向先のあいだで、出向契約を締結することが必要になります。
ちなみに出向先を探す際には、後述する「産業雇用安定センターを利用する」という方法もあります。
流れ②:計画届の手続き
出向の計画の内容について、次項でご紹介する申請書を作成し、出向元が「計画届」を提出します。
出向前に「計画届」を提出しなかった場合、助成金の対象となりませんのでご注意ください。
流れ③:出向の実施
立案・申請した「計画届」に基づいて、出向を実施します。
流れ④:支給申請の手続き
出向の実績に基づいて、次項でご紹介する申請書を作成し、出向元が「支給申請」を提出します。
流れ⑤:労働局における審査・支給決定
支給申請の内容について、労働局で出向元と出向先それぞれの審査と、支給決定が行われます。
なお「産業雇用安定助成金」は、出向元と出向先の両方が支給要件を満たす場合のみ支給されるもの。
出向元・出向先のどちらかが支給要件を満たさない場合、もう一方が支給要件を満たしていたとしても、両方が不支給になってしまいます。
事前に「ガイドブック」の支給要件をよく確認したうえで、「計画届」と「支給申請」の手続きを行ないましょう。
流れ⑥:支給額の振込
支給決定された額が、出向元と出向先それぞれに振り込まれます。
[制度概要4]計画届・支給申請の申請書
「産業雇用安定助成金」では「計画届」と「支給申請」の2回の申請を行ない、それぞれ異なる申請書が必要です。
申請①:計画届
出向の計画の内容について、出向元が「計画届」を提出します。
「計画届」に必要な申請書類は以下のとおり。
様式第1号 | 出向実施計画(変更)届(出向元事業主) | 記載例 |
様式第1号別紙1 | 出向先事業所別調書 | 記載例 |
様式第1号別紙2 | 出向初期経費に係る計画届(出向元事業所) | 記載例 |
様式第2号 | 出向実施計画(変更)届(出向先事業主) | 記載例 |
様式第2号別紙 | 出向初期経費に係る計画届(出向先事業所) | 記載例 |
様式第3号 | 出向元事業所の事業活動の状況に関する申出書 | 記載例 |
様式第4号 | 出向先事業所の雇用指標の状況に関する申出書 | 記載例 |
様式第5号 | 産業雇用安定助成金 出向に係る本人同意書 | 記載例 |
確認書類(1) | 出向協定に関する書類 | |
確認書類(2) | 事業所の状況に関する書類 | |
確認書類(3) | 出向契約に関する書類 |
「提出物チェックリスト(計画時)」を利用して、申請書モレのないことを確認しましょう。
申請②:支給申請
出向の実績に基づき、出向元が「支給申請」を提出します。
「支給申請」に必要な申請書類は以下のとおり。
様式第6号(1) | 産業雇用安定助成金支給申請書 | 記載例 |
様式第6号別紙 | 産業雇用安定助成金出向初期経費報告書(共通) | 記載例 |
様式第6号(2) | 出向元事業所賃金補填額・負担額等調書 A型、B型、C型・D型、E型・F型・G型 |
記載例 |
様式第6号(3) | 出向先事業所賃金補填額・負担額等調書 A型・B型、C型、D型、E型・F型・G型 |
記載例 |
様式第6号(4) | 支給対象者別支給額算定調書(共通) | 記載例 |
様式第6号(5) | 支給要件確認申立書(産業雇用安定助成金) | 記載例 |
様式第7号(1) | 雇用維持事業主申告書 | 記載例 |
様式第7号(2) | 労働者派遣契約に係る契約期間遵守証明書 | 記載例 |
− | 支払方法・受取人住所届 | |
確認書類(4) | 出向の実績に関する書類 | |
確認書類(5) | 雇用維持要件の確認書類 |
「提出物チェックリスト(申請時)」を利用して、申請書モレのないことを確認しましょう。
[制度概要5]オンライン申請も開始
当初は労働局・ハローワークへの窓口提出または郵送のみだった「産業雇用安定助成金」の申請方法に、6月からは新たに「オンライン申請」も加わりました。
- オンライン申請受付開始:令和3年6月19日10:00~
オンライン受付システムのURLはこちらで、雇用調整助成金のオンライン申請先も兼ねています。
「事業者の利便性向上」を目的としており、土・日・祝日を含む24 時間利用可能です。
オンライン申請を行う際には、以下の資料を参考にご覧ください。
[制度概要6]ガイドブック・支給要領など
「産業雇用安定助成金」におけるガイドブックや支給要領などをまとめましたので、申請時にお役立てください。
出向のマッチングには産業雇用安定センターの利用を
「産業雇用安定助成金」を利用したくても、「出向先や出向元が見つからない」というときは、「(公財)産業雇用安定センター」を利用してみましょう。
「産業雇用安定センター」は、企業間の出向や移籍を支援し「失業なき労働移動」を実現するため、1987年に国と事業主団体などによって設立された公益財団法人です。
設立以来、21万件以上の出向・移籍の成立実績があります。
全国47都道府県にセンターの事務所がありますので、出向のマッチングや「在籍型出向について相談したい」というときは、ぜひ活用してください。
広域関東圏1都10県では「広域関東de人材シェア!」も
下記の広域関東圏 1都10県であれば、関東経済産業局が産業雇用安定センターなどと連携して運営するポータルサイト「広域関東de人材シェア!」も利用可能です。
- 広域関東圏:茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県
コロナ禍での在籍型出向の事例紹介
記事の最後に、コロナ禍での在籍型出向の事例をご紹介します。
[出向事例1]金属材料製造業から製麺業へ
新型コロナの影響で需要が落ち込んでいた出向元では、「熟練工の雇用維持を図りたい」として労働者13名について2か月の出向を実施。
出向先の製麺業は、これまで人手不足が続いていました。
特に冬場の人員確保は深刻な問題で、「一時的な出向でもよいので、製麺作業員として受入れたい」という希望が叶う形となっています。
[出向事例2]空港関連サービス業から自動車・同付属品製造業へ
国際線旅客取扱量が大きく減少したため、雇用過剰となってしまった出向元。
旅客需要が回復するまで、社員の雇用維持を図りたいと考えました。
そこで「自動車・同付属品製造業」へ期間12か月、労働者76名の出向を行ないます。
出向先企業では、全く想定していなかった業種からの出向受入となりましたが、特定の車種が堅調でさらに一部の海外需要が期待できるために、喫緊の課題であった「製造ラインの作業員の確保」が可能となりました。
なお厚生労働省のサイトでは、ほかにも多くの在籍型出向支援策を公表しています。
在籍型出向をよりくわしく知りたい方は、こちらもご覧ください。
まとめ:雇用を守るために産業雇用安定助成金の活用を
この記事では、「産業雇用安定助成金」の制度概要や出向のマッチング、出向事例までわかりやすく解説しました。
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