経済産業省によって選定される「地域未来牽引企業」には、さまざまな特典があります。
しかし「どんな方法で選ばれるのか?選定されることの具体的なメリットは?」など、くわしいところまでご存じの方は、そう多くないのではないでしょうか。
そこでこの記事では、経済産業省が選定する「地域未来牽引企業」について、データや制度概要、選定方法、メリット、選定企業までご紹介していきます。
「地域未来牽引企業」制度をくわしく知りたい方は、ぜひご覧ください。
経済産業省が選定する「地域未来牽引企業」とは?
「地域未来牽引企業」とは、「地域経済の中心的な担い手になりえる」として経済産業大臣(経済産業省)に選定された企業と、その制度(事業)自体を指します。
ちなみに「牽引企業」の読み方は「けんいんきぎょう」です。
「地域未来牽引企業」制度は2017年度に開始され、2020年度までに4,743者が選定されました。
この「地域未来牽引企業」には、地域での役割と地域経済を牽引する目標を設定し、その実現に向け事業活動に取り組むことが求められます。
また経済産業省は、「地域未来牽引企業」の取組を重点的に支援することで、地域経済の活性化を目指していきます。
「地域未来牽引企業」選定一覧
「地域未来牽引企業」の選定一覧は、こちらからご覧いただけます。
2020年度選定の「地域未来牽引企業」
2020年にも追加選定が行われ、10月には1,060者が発表されました。
・経済産業省:2020年度 地域未来牽引企業追加選定一覧(都道府県別)
「地域未来牽引企業」についてのデータ
「地域未来牽引企業」の選定状況は下グラフの通り。
約86%が中小企業であり、また製造業を中心にさまざまな業種から選定されています。
さらに2019年度選定分までの企業の特徴としては、下図のようになっています。
「社員191人、売上高74億円、社歴47年の企業」が平均値です。
「地域未来牽引企業」ロゴマーク
「地域未来牽引企業」ロゴマークとは、選定された企業だけが使用できる、下図のシンボルのことです。
選定企業はロゴマークを使用して、広報活動や販売促進活動を展開できます。
また、ロゴマークは3つのパラメータから生成される「内トコロイド曲線」のひとつを整理整頓したもので、次の4つの意味が込められています。
- バイオリズム
- 定量性
- 変化
- 多様性
地域未来牽引企業サミット(北海道、新潟、広島などで開催)
地域経済の成長の核として選定された「地域未来牽引企業」や、地域の支援機関などを対象に、情報交換や交流の目的で開催されるのが「地域未来牽引企業サミット」です。
これまでに北海道、新潟、広島などで、サミットのほかシンポジウムという形でも開催されました。
地域未来牽引企業様応援WEBサイト
「地域未来牽引企業様応援WEBサイト」とは、島津製作所が「地域未来牽引企業」向けに作成したウェブサイトで、政府や自治体が打ち出す支援施策のほか、事業拡大のヒントになる情報を多数掲載しています。
また無料で会員登録すると、自治体の戦略を知ることができる「未来牽引情報検索」の利用や、事業伸長や新しい取り組みへの気づきを得られる「コラム」が、閲覧可能です。
「地域未来牽引企業」制度の概要
次に、「地域未来牽引企業」制度の概要をご紹介します。
「地域未来牽引企業」制度の概要
「地域未来牽引企業」に選定されるには、まず次の要件をすべて満たすことが必要です。
- 法人格を有すること
- 財務・経営状況の健全性が確保されていること
- 会社更生法に基づく会社更生手続、民事再生法に基づく民事再生手続又は破産法に基づく破産手続を開始していないこと
- 重大な法令違反がないこと
- 選定時点において、被選定事業者が被告又は被告人として訴訟当事者となっていないこと
- 選定時点において、被選定事業者の役員が被告人として訴訟当事者となっていないこと
- 暴力団又は暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有していないこと
- 上記⑦のほか、公序良俗に反する行為をしていないこと
- 選定されることについて、同意があること
選定方法は後述します。
また選定された企業には、経済産業大臣が「地域未来牽引企業」の選定証を交付。
ただし以下のいずれかに該当する場合は、選定を取り消されることがあります。
- 上記①~⑨の要件に該当しなくなった場合
- 次項で紹介する「目標達成に向けた事業活動」の取組状況が十分でないと認められる場合
- 選定された企業またはその役員の行為が、「地域未来牽引企業」として適切でないと認められる場合
「地域未来牽引企業」に求められる取り組み:類型選択と目標設定
「地域未来牽引企業」には、次の取り組みが求められます。
- 経済産業省が示す類型の選択と、目標の設定を行う
- 上記①の目標達成に向け、事業活動に取り組む
- 地域未来牽引企業の事業活動に関し、経済産業省が実施する調査等に協力する
なお「経済産業省が示す類型」には次の4つがあり、それぞれ期待される役割や目標などが異なります。
類型 | 期待される役割 | 目標例 | 支援例 |
---|---|---|---|
①グローバル型 | 海外需要の獲得 | ・輸出額 ・利益率 |
・設備投資 ・新技術や商品開発 ・海外展開 |
②サプライチェーン型 | サプライチェーンの維持・強化 | ・売上額 ・取引先数 |
・設備投資 ・共同研究や開発 |
③地域資源型 | 地域資源の活用・雇用の下支え | ・観光客向け売上額 ・地域の雇用者数 |
・販路開拓 ・新商品開発 ・ブランディング |
④生活インフラ関連型 | 生活基盤の維持 | ・住民向けサービス向上 ・財務強化 |
・経営基盤の強化 ・ IT導入 ・新サービス開発 |
「地域未来牽引企業」の有効期間と更新の評価
「地域未来牽引企業」の有効期間は、2024(令和6)年度末です。
「目標達成に向けた事業活動」の取組状況について、2022年には中間的な評価が、2024年度には「地域未来牽引企業」を更新するための評価が行われます。
「地域未来牽引企業」になるには?選定の方法
「地域未来牽引企業」の選定は、この項でご紹介する「データ」と「推薦」の2方式で行われます。
そこで、鳥取県のように「推薦を希望する事業者を募集する」というケースもありました。
・鳥取県:「地域未来牽引企業」への 推薦を希望する事業者募集のお知らせ
ただし前項でご紹介した通り、今後は選定企業の「目標達成に向けた事業活動」の支援を行うことが最優先とされています。
そのため、さらに追加で選定する計画は出されておらず、2021年度の推薦募集も現時点では行われていません。
[選定方法①]データ部門
ひとつめの選定方法が「データ」で、民間調査会社が保有する、企業の経営情報等に関するデータベースを活用して企業の順位付けを行い、各都道府県で上位に位置する企業を選定します。
選定の評価項目は、次の5点。
- 売上高
- 営業利益
- 従業員数
- 当該事業者が所在する都道府県外での販売額
- 当該事業者が所在する都道府県内からの仕入額
ただし選定されるには、以下のいずれにも該当しない必要があります。
- 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従い、決算書類を作成していない
- 決算が3期分揃っていない
- 直近決算で、債務超過となっている
- 直近決算で、売上高が 10 億円未満となっている
- 直近決算で、売上高が1千億円以上又は資本金が 10 億円以上となっている
- 東京証券取引所一部に上場している
- 上記⑤または⑥に該当する事業者に発行済み株式の 50%以上を保有されている
- 直近決算の営業利益又は従業員数が2期前と比べ減少している
- 直近決算の営業利益がマイナスとなっている
[選定方法②]推薦部門
ふたつめの選定方法が「推薦」で、地方公共団体等の関係機関から推薦された企業を、有識者による評価に基づき選定します。
選定の審査項目と視点は、以下の通りです。
審査項目 | 審査の視点 |
---|---|
事業の特徴 | ・地域特性をうまく活用しているか ・新規性、独創性はあるか ・成長性はあるか ・その他、事業の特徴に関する事項 |
経営の特徴 | ・経営者に特筆すべき点はあるか ・経営手法に優れた点はあるか ・その他、経営の特徴に関する事項 |
地域貢献期待 | ・地域内の事業者との取引額の増加 ・地域内の事業者の売上げの増加 ・地域内の事業者の雇用者数又は給与支払額等の増加 ・その他、地域貢献期待に関する事項 |
なお推薦者となるのは、以下のうち、被推薦者の地域における事業活動や経営の状況等を把握し、「地域未来牽引企業」として選定されうる事業者を適切に推挙できる者となります。
- 地方公共団体(都道府県、市区町村)
- 経済団体(全国商工会連合会、商工会連合会、商工会、日本商工会議所、商工会議所、全国中小企業団体中央会、都道府県中小企業団体中央会、全国商店街振興組合連合会、都道府県商店街振興組合連合会)
- 金融機関(銀行、信用金庫、信用組合、日本政策投資銀行、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、沖縄振興開発金融公庫、農林中央金庫)
- 独立行政法人
- 国立研究開発法人
- 報道機関
- その他 中小企業等経営強化法に基づき認定された経営革新等支援機関 など
「地域未来牽引企業」に認定されるメリット
「地域未来牽引企業」に認定されるメリットとして、次の3点が挙げられます。
メリット1:企業のブランド価値向上
認定企業は経済産業省のウェブサイトで公表されるため、知名度が向上。
その結果として、学生採用や取引につながった事例もあります。
メリット2:地域未来牽引企業向けの重点支援策あり
後述する、経済産業省の補助金などを中心とした「審査時の優遇措置」が受けられます。
メリット3:課題解決のための相談や情報を受けられる
「地域未来コンシェルジュ」による、認定企業への企業相談や各種情報提供が実施されます。
地域未来コンシェルジュとは
「地域未来牽引企業」に選定された企業を全面的にサポートするため、47都道府県ごとに配置されたのが「地域未来コンシェルジュ」です。
各経済産業局職員が担当し、企業の相談・要望に一元的に対応します。
重点支援:「地域未来牽引企業」が加点・考慮とされる支援策・補助金
メリット2の重点施策となる、「地域未来牽引企業」が審査時の優遇措置(加点・考慮)を受けられる支援策・補助金として、下表のものがあります。
事業名 | 認定企業に対する支援内容 |
---|---|
ものづくり補助金 | 審査上の考慮 |
IT導入補助金 | 加点 |
中小企業等海外出願・侵害対策支援事業(外国出願補助金) | 一部実施機関にて加点 |
JAPANブランド育成⽀援等事業 | 加点 |
新輸出大国コンソーシアム専門家による海外展開支援 (パートナーによるハンズオン支援) | 加点 |
コンテンツグローバル需要創出促進・基 盤強化事業(J-LOD補助金) |
加点 |
地域・企業共⽣型ビジネス導⼊・創業促進事業 | 加点・ 広域展開事業の補助対象に地域未来牽引企業(大企業)を追加 |
戦略的基盤技術⾼度化⽀援事業(サポイン事業) | 審査上の考慮 |
商業・サービス競争⼒強化連携⽀援事業(サービスサポイン事業) | 審査上の考慮 |
その他事業の対応状況などについては、こちらの資料をご覧ください。
・経済産業省:地域未来牽引企業に対する支援策一覧(2021/5/13現在)
各事業についてよりくわしく知りたい方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。
【ものづくり補助金まとめ】制度概要や申請方法、採択結果などわかりやすく解説【2021年度版】
JAPANブランド育成支援等事業とは?令和3年度は「支援パートナー」活用が必須に
「地域未来牽引企業」選定企業紹介
記事の最後に、「地域未来牽引企業」に選定された企業をご紹介します。
[選定企業①]株式会社オーケーエム
滋賀県に本社を置き、バタフライバルブを中心としたバルブ専門メーカーとして製品開発を行う、株式会社オーケーエム。
設計から製造まで一貫した効率生産システムを構築し、高品質ものづくりで顧客に支持されています。
2017年に「地域未来牽引企業」に選定。
近畿経済産業局の地域未来コンシェルジュによれば、「地域に溶け込んで成長してきた代表的な企業。地域の支援機関との連携を通じて、自社の成長と地域の活性化をシンクロさせてきた」とのことです。
[選定企業②]淀川ヒューテック株式会社
フッ素樹脂や半導体、液晶などの製造・開発を行う、大阪の淀川ヒューテック株式会社。
2017年に「地域未来牽引企業」に選定されました。
とりわけ成長が期待されているのが、2003年に買収した会社の保有技術であった積層セラミックコンデンサー(MLCC)の製造装置です。
時代を先取りしたM&Aを事業継承につなげただけでなく、事業規模も大きく発展させることで地域経済に貢献しました。
上記2例のほかにも、経済産業省のウェブサイトでは、さまざまな「地域未来牽引企業」の取り組み事例を紹介しています。
まとめ:「地域未来牽引企業」選定に向け地域への貢献を
この記事では、経済産業省が選定する「地域未来牽引企業」について、データや制度概要、選定方法、メリット、選定企業までご紹介してきました。
再び追加で選定が行われるかは不明ですが、今後選定を希望する経営者の方は、ぜひ「地域への貢献」を目指していきましょう。
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