中小企業の労働生産性が低迷し、大企業との格差が拡大する現在。
発注先との協議ができなければ価格転嫁もできず、結果的に生産性は上がらないままになってしまいます(内閣府資料より)
こういった状況で、取引先との「取引適正化」を行うための取り組みが「パートナーシップ構築宣言」です。
しかし、その名称を聞いたことはあっても「どんな宣言なのか、具体的にどのようなメリットがあるのかまではわからない」という方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、「パートナーシップ構築宣言」の基本知識やメリット、登録方法、加点措置のある補助金まで解説します。
「取引先との連携を深めたい」と考える経営者の方は、ぜひご覧ください。
「パートナーシップ構築宣言」とは?
「パートナーシップ構築宣言」とは、以下の2点への取り組みを企業の代表者名で宣言しポータルサイトに登録することで、ロゴマークを使用できるようになり対外的にPRできる仕組みです。
- サプライチェーン全体の共存共栄と規模・系列等を越えた新たな連携
- 親事業者と下請事業者との望ましい取引慣行(下請中小企業振興法に基づく「振興基準」)の遵守
宣言によって、大企業と中小企業の「新たな共存共栄関係」を構築し、「国際競争力強化」や「新型コロナ克服後の未来を切り拓く」ことを目指します。
新型コロナの影響が長引く状況をうけ、2020年5月18日に経団連会長、日商会頭、連合会長、関係大臣によって開催された「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」のなかで、宣言の構築が合意されました。
2020年7月には(公財)全国中小企業振興機関協会が運営するポータルサイトが完成し、企業名と宣言内容が掲載されています。
「振興基準」には重点5課題を記載
宣言の内容は前項の2点ですが、「振興基準」には原則として重点5課題を記載することになっています。
「振興基準」とは、下請中小企業振興法に基づき「親事業者と下請事業者との望ましい取引慣行」を定めた基準。
「パートナーシップ構築宣言」では、「振興基準」のなかでも次の5点を重点課題とし、積極的に取り組むとしています。
- 価格決定方法の適正化
- 型管理などのコスト負担の適正化
- 手形などの支払条件の改善
- 知的財産・ノウハウの保護
- 働き方改革等に伴うしわ寄せ防止
「パートナーシップ構築宣言」を公表した企業は1,200社以上に
「パートナーシップ構築宣言」を公表した企業は、記事作成時点では1,259社です。
2020年12月に政府が掲げた「成長戦略実行計画」では、「宣言数1,000社を目指す」とされていましたので、順調に拡大していることがわかります。
この成果を受けて、2021年3月の成長戦略会議では、梶山経済産業大臣から「2021年度中に2,000社の宣言を目指す」という方針が新たに示されました。
・「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト:登録企業リスト
マツダが下請法違反で宣言企業の掲載取りやめに
2021年3月に、自動車製造メーカーの大手であるマツダが、下請法に違反していたとして公正取引委員会から勧告を受けました。
この違反行為が、「パートナーシップ構築宣言公表要領」の「2.掲載の取りやめ」に該当するとして、ポータルサイトでのマツダの掲載は取りやめとなっています。
現時点で「パートナーシップ構築宣言」の掲載取りやめとなっている企業は、今回のマツダのみ。
この掲載取りやめが行われたことで、「宣言の実効性」が担保されたといえます。
・公正取引委員会:(令和3年3月19日)マツダ株式会社に対する勧告について
「パートナーシップ構築宣言」するメリットとは?
「パートナーシップ構築宣言」することで、企業には次のようなメリットがあります。
[メリット1]ロゴマークを使って対外的にPRできる
「パートナーシップ構築宣言」をポータルサイトに登録した企業は、ロゴマークを使って対外的にPRできるようになります。
そして中小企業庁のデータによれば、下図のとおり発注側の約94%が「宣言」を意識して仕入先と取引条件の協議をすると回答。
受注側でも、半数以上が「宣言」の効果を実感していると回答しています。
このように、宣言によって、サプライチェーン全体での「取引適正化」が広がっていることがわかります。
[メリット2]共存共栄関係を築こうとする「ホワイト企業」と認知される
日本商工会議所のプロモーションビデオのなかで、「共存共栄関係を築こうとするホワイト企業と認知される」とのメリットを挙げています。
宣言を登録している企業には、下請け企業からの価格協議が申し入れやすくなるため、対等な関係樹立の第一歩に。
こうして新たな連携を築いていくことで、規模・系列等を超えたオープンイノベーションにもつながると考えられます。
[メリット3]一部補助金で「加点措置」が
「パートナーシップ構築宣言」を登録した企業には、一部補助金で「加点措置」がとられます。
「加点措置」とは、補助金交付の審査には必須ではないものの、取り組めば「加点」されるため、審査が有利になるというもの。
少しでも補助金審査の採択率を上げたい企業としては、できる限り取り組みたい事項です。
対象となる補助金制度については後述します。
「パートナーシップ構築宣言」の作成・登録方法
「パートナーシップ構築宣言」の作成・登録は、次の手順で行ないます。
[手順1]宣言を作成する
まずは、各企業にて宣言を作成します。
とはいってもひな形があるため、ゼロから作成する必要はありません。
・パートナーシップ構築宣言:ひな形
・パートナーシップ構築宣言:記載見本
・パートナーシップ構築宣言:記載要領
ひな形をダウンロードし、記載見本や記載要領を参考に自社に合った内容に修正していきます。
たとえば、下画像の(個別項目)欄については、a~dの項目から取り組む内容を選択し、具体的な内容を記載します。
複数選択も可能です。
次に”「振興基準」の遵守”欄では、①~⑤の取組内容は、業界の取引形態に合わせて変更可能。
特に「②型管理などのコスト負担」は、製造業以外で、型を活用した取引を行っていない場合には削除します。
最後に「3.その他」欄については、自社で取り組む独自の取組を記載します。
ちなみに、SDGs(持続可能な開発目標)の目標17が「パートナーシップで目標を達成しよう」ということもあり、「3.その他」欄に「SDGsへの取り組み」を盛り込んでいる企業も多くあります。
なお、「企業名・氏名」欄には、押印は不要です。
宣言のワードデータでの原文が完成後、PDFデータに変換します。
ワードの「印刷」をクリック後、送信先を「PDFに保存」として、「保存」をクリックすることで、ワード文書をPDF変換できます。
(ワードのバージョンや設定などで、手順が異なる場合があります)
[手順2]宣言をポータルサイトに登録する
PDF変換した宣言データを、下記登録ページからポータルサイトに登録します。
このとき宣言文のなかに、ひな形の「赤字の部分」が残っていないかを確認してください。
なお、宣言は企業グループで登録することも可能。
ただし後述するような補助金での加点措置を受ける場合には、個別企業毎の登録確認が必要です。
そのため、上記の登録ページで宣言を登録後、➀企業名 ②法人番号 ③住所を明記したグループ企業リストをA4サイズのPDFで作成し、下記からアップロードしてください。
・「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト:グループ企業リストの登録
[手順3]宣言が公開され、ロゴマークが使用可能になる
ポータルサイトで登録した宣言は、数日後には登録企業一覧にて公開されます。
また宣言を登録した企業には、事務局から「URL、ID、パスワード」が記載されたメールが届き、そのURLにてロゴマークをダウンロードして使用可能となります。
名刺や自社サイトにロゴマークを使用し、「パートナーシップ構築宣言」を行っていることをPRしましょう。
ただし「振興基準に基づき指導や助言が行われた」など、宣言の内容が履行されていないと認められる場合には、前述のマツダのように、ポータルサイトでの掲載が取りやめになることも。
宣言の内容を実行するよう心がけてください。
「パートナーシップ構築宣言」で加点措置がある補助金
記事の最後に、「パートナーシップ構築宣言」で加点措置がある補助金をご紹介します。
加点措置があるのは、現時点では以下の4種類です。
残念ながら令和3(2021)年度の公募期間は過ぎてしまいましたが、来年度も加点される可能性は高いため、各補助金の採択を目指す場合は、宣言への取り組みもおすすめします。
「パートナーシップ構築宣言」とは?
まずは、ご存じの方も多い「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)」です。
ものづくり補助金とは、中小企業などが取り組む「革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資」を支援する制度です。
応募コースは
①一般型
②グローバル展開型
③ビジネスモデル構築型
の3つがあります。
多くの企業が応募しやすい一般枠の最大補助金額は1,000万円。
設備投資を考える企業には活用しやすい補助金ですので、関心ある方はぜひ以下の記事もお読みください。
【ものづくり補助金まとめ】制度概要や申請方法、採択結果などわかりやすく解説【2021年度版】
[加点される補助金2]ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金
2つ目が「ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金」ですが、上記の「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)」とは別制度ですのでご注意ください。
こちらは「2者以上が連携して申請する」ことが特徴の補助金制度。
補助金額は最大2,000万円で、令和3(2021)年度は2021年5月12日~7月7日の期間で公募が行われました。
・NTTデータ:経済産業省「令和3年度ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金」公募開始のお知らせ
公募要領において、「パートナーシップ構築宣言」は「政策加点」として規定されています。
なお、「ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金」についてくわしくは、こちらの記事でご紹介しています。
ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金とは?令和3年度の公募概要も解説
[加点される補助金3]先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金
3つめが「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」で、EMS機器などの省エネルギー対策を支援する補助金制度です。
補助金額は最大15億円と大型の補助金制度で、令和3(2021)年度事業は2021年5月26日~6月30日の期間で実施。
公募要領のなかで、「項目に該当する場合には評価を行う」とされる箇所に「公益財団法人全国中小企業振興機関協会の『パートナーシップ構築宣言』登録企業の省エネルギー事業」と挙げられています。
[加点される補助金4]産業・業務部門における高効率ヒートポンプ導入促進事業費補助金
4つめが「産業・業務部門における高効率ヒートポンプ導入促進事業費補助金」で、「空冷ヒートポンプチラー」や「ウェーブヒートポンプ」などの「高効率ヒートポンプ」を新設または増設するときに、設備費・工事費の一部を補助する制度です。
補助金額は最大1億円で、令和2年度補正予算事業としては2021年3月31日~5月14日の期間で実施されました。
公募要領のなかで、「評価項目」として「公益財団法人全国中小企業振興機関協会の『パートナーシップ構築宣言』登録企業の省エネルギー事業」と規定されています。
・sii:令和2年度補正予算 産業・業務部門における高効率ヒートポンプ導入促進事業
まとめ:「パートナーシップ構築宣言」で取引先との関係強化を
この記事では、「パートナーシップ構築宣言」の基本知識やメリット、登録方法、加点措置のある補助金まで解説しました。
ぜひ記事を参考に、「パートナーシップ構築宣言」によって取引先との関係強化を目指しましょう。
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