補助金額が最大50億円(第一回公募の場合)と、他の補助金制度とくらべても類を見ない超大型の補助金事業である「海外サプライチェーン多元化等支援事業」。
海外子会社などの製造設備を新設・増設したい企業には、有意義な制度です。
これまで4回の公募が行われ、92社が採択されました。
この記事では、「海外サプライチェーン多元化等支援事業」の基本情報や予算、執行体制、制度概要まで解説していきます。
「海外製造拠点の設備を強化したい」と考えている経営者の方は、ぜひご覧ください。
経済産業省の「海外サプライチェーン多元化等支援事業」とは?
まずは、「海外サプライチェーン多元化等支援事業」の基本情報をご紹介します。
経済産業省の「海外サプライチェーン多元化等支援事業」とは?
「海外サプライチェーン多元化等支援事業」とは、製品・部素材の海外製造拠点の複線化など、サプライチェーンの強靭化に向けた設備導入を支援する、経済産業省の補助金制度です。
新型コロナの拡大によって、サプライチェーンの脆弱性が顕在化したことから、特に”アジア地域における生産の多元化”などでサプライチェーンを強靭化し、日ASEAN経済産業協力関係を強化すること目的。
なお、”国内での生産拠点を整備する事業者の設備導入等”を支援する「サプライチェーン補助金(サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金)」は、こちらの記事でくわしくご紹介しています。
・記事「サプライチェーン補助金とは?」
・記事「サプライチェーン補助金2020年公募(1次公募)の採択結果を徹底分析!」
第四回公募までの実施予内容と採択率
「海外サプライチェーン多元化等支援事業」は、記事作成時点で第四回公募まで行われており、実施内容は次のとおりです。
公募期間 | 補助金額 | |
---|---|---|
第一回公募 | 2020年5月26日~6月15日 | ・設備導入補助型(一般枠):1億円~50億円 ・設備導入補助型(特別枠):100万円~50億円 |
第二回公募 | 2020年9月3日~10月2日 | ・実証事業:1,000万円~2億円 ・事業実施可能性調査:100万円~5,000万円 |
第三回公募 | 2020年9月30日~10月30日 | ・設備導入補助型(一般枠):1億円~15億円 ・設備導入補助型(特別枠):100万円~15億円 |
第四回公募 | 2021年3月26日~4月26日 | 1億円~15億円 |
また、採択率は下表のようになります。
申請件数 | 採択件数 | 採択率 | |
---|---|---|---|
第一回公募 | 124件 | 30件 | 24.19% |
第二回公募 | 64件 | 21件 | 34.81% |
第三回公募 | 155件 | 30件 | 19.35% |
第四回公募 | 38件 | 11件 | 28.95% |
合計 | 381件 | 92件 | 24.15% |
1件あたりの補助金額が1億円以上(第二回公募以外)と高額なため、一般的な補助金制度とくらべ採択件数は少数です。
なお、採択事業者名はこちらから確認できます。
(参考)
・第一回公募 採択事業者について
・第二回公募 採択事業者について
・第三回公募 採択事業者について
・第四回公募 採択事業者について
第五回公募の実施予定:現時点では不明
第五回公募の実施予定は、現時点では不明です。
ただしJETROの第四回公募FAQでは、次のように回答しています。
現時点では第5回以降の公募実施は予定しておりませんが、第4回公募の結果等を踏まえ必要な場合には第5回以降の公募の可能性はあります。
JETRO「海外サプライチェーン多元化支援事業 FAQ(よくあるご質問)」より
また、東京都の公式サイトでは「今後、第5回公募を行う予定です。」と明記しています。
「海外サプライチェーン多元化等支援事業」の予算と執行体制
次に、海外サプライチェーン多元化等支援事業の予算と執行体制をご紹介します。
「海外サプライチェーン多元化等支援事業」の予算額
海外サプライチェーン多元化等支援事業の予算額は、以下のとおりです。
- 令和2年度補正予算額:235.0億円
- 令和2年度第3次補正予算額:116.7億円
上記1の予算で、第一回~第三回までの公募を実施。
さらに上記2の予算により、第四回公募が行われました。
「海外サプライチェーン多元化等支援事業」の執行体制・事務局
海外サプライチェーン多元化等支援事業の執行体制は、下図のようになります。
経済産業省が「日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC:エイメック)」に資金を拠出。
そして、一般財団法人 海外産業人材育成協会(AOTS:エーオーティーエス)が、AOTSのバンコク事務所内に所在するAMEICC事務局の業務を支援します。
AOTSが日本貿易振興機構(JETRO:ジェトロ)を選定し、「海外サプライチェーン多元化等支援事業に係る事務局」として業務を委託。
事業者は事務局であるJETROと、申請や承認などのやり取りを行います。
「海外サプライチェーン多元化等支援事業」の制度概要(第四回公募から)
次に、「海外サプライチェーン多元化等支援事業」の制度概要を、第四回公募の内容からご紹介します。
[制度概要1]補助対象事業者
海外サプライチェーン多元化等支援事業の対象となるのは、次の要件を満たす民間事業者・団体です。
- 日本に拠点および法人格を持ち、日本における事業実態を有している
- 予算決算および会計令(昭和22年勅令第165号)第70条および第71条の規定に該当しない
- 経済産業省所管補助金交付等の停止および契約に係る指名停止等措置要領 別表第一および第二の各号第一欄に掲げる措置要件のいずれにも該当しない
- 会社更生法に基づき更生手続き開始の申し立てがなされている者、または民事再生法に基づき再生手続き開始の申し立てがなされている者ではない
また、第一回~第三回公募で不採択となった場合でも、再度申請することは可能でした。
[制度概要2]補助金額と補助率
事業の補助金額は、1億円~15億円です。
そのため、申請時点で補助金額が1億円を下回る場合は審査対象外に。
また、申請時の補助金額が15億円を上回る場合には、補助金額は15億円となります。
そして補助率は、以下のような企業規模ごとの補助対象経費別の補助率に、「補助率調整指数」(20%~100%)を乗じた率以内で、提案内容の審査結果を踏まえて最終的な補助率が決定されます。
なお補助金の交付額は、補助対象経費に補助率・補助率調整指数を乗じた額と、15億円のいずれか低い値です。
補助率①:大企業について
補助対象経費のうち、
- 5億円以下の部分:1 / 2以内
- 5億円より大きく15億円以下の部分:1 / 3以内
- 15億円より大きい部分:1 / 4以内
補助率②:中小企業について
補助対象経費のうち、
- 5億円以下の部分:2 / 3以内
- 5億円より大きく15億円以下の部分:1 / 2以内
- 15億円より大きい部分:1 / 4以内
大企業・中小企業の補助率をわかりやすくグラフ化すると、下表のとおりです。
補助率調整指数
次のア、イなどの項目を総合評価し、A~Eの5段階の「補助率調整指数」を決定します。
- ア.日ASEANサプライチェーン強靭化への貢献度合い
- イ.事業対象となる製品・部素材が、サプライチェーン上の上工程に属し、途絶した場合の影響が甚大かどうか、または国民が健康な生活を営む上で重要かどうか
- A:100%
- B:80%
- C:60%
- D:40%
- E:20%
[制度概要3]補助対象事業
補助の対象となる事業は、「日ASEAN サプライチェーン強靭化に資する、民間団体等のASEAN等海外の事業実施法人(海外子会社または海外孫会社)による、製造設備を新設・増設する際の設備投資事業」です。
ただし、「既存の老朽化設備を入れ替える」など、生産能力が向上しない投資(更新投資)は補助対象外。
なお「事業実施法人」とは、補助対象事業者の海外子会社または孫会社で、海外において補助対象事業を実施する現地法人を指します。
そして、製造する製品・部素材が以下に該当する、または以下に該当する製品・部素材のサプライチェーンに属するなど、「サプライチェーンの途絶によるリスクが大きく重要」であることも必要です。
分類 | 主な例 |
---|---|
1.生産拠点の集中度が高く、サプライチェーンの途絶によるリスクが大きい重要な製品・部素材 | 半導体関連、自動車関連部品、航空機関連部品、機能性素材、金属部素材、ディスプレイ、高効率ガスタービン部品、定 置用蓄電池 など |
2.国民が健康な生活を営む上で重要な製品・部素材 | ワクチン用注射針・シリンジ、医療用ゴム手袋 |
[制度概要4]補助対象経費
補助の対象となる経費は、次の要件を満たすものです。
- 製造設備の新設・増設に必要な機械装置の購入および備付けなどに必要な経費
- 原則、海外の事業実施法人での資産計上される経費
- 事業の対象として明確に区分できるもの
- 経費の必要性・金額の妥当性を証拠書類で明確に確認できるもの
具体的な区分は、以下のようになります。
経費区分 | 要件 |
---|---|
機械装置等製作・購入費 | 製造ライン等の新設・増設に必要な機械装置、その他 ソフトウェアを含む備品の製作、購入及び備付け等に要する経費 |
土木・建築工事費 | 機械装置の改造(主として価値を高め、又は耐久性 を増す場合=資本的支出)に要する経費 |
改造費 | 製造ライン等の新設・増設に必要な土木工事及び運転管理設備等の建築工事並びにこれらに付帯する電気工事等を行うのに必要な経費 |
[制度概要5]申請方法と事業の流れ
申請方法は、「応募書類のデータをダウンロードし記入後、JETROのオンラインフォームから申請」となります。
また、事業の流れは下図のとおりです。
第4回公募は2021年3月26日~4月26日まで行われ、6月29日に採択事業者が発表されました。
採択後、JETROは申請書の事業費を上限に、事業計画・補助対象経費を精査したうえで、補助申請者から宣誓書提出を受け付け(上記④)、交付契約通知を発出することで補助申請者とのあいだで補助金交付契約を締結(上記⑤)。
その後が「補助事業実施期間(上記⑥)」で、交付契約日~2026年3月31日と規定されています。
この期間に、補助事業に係る設備などの発注、購入、契約などを実施。
交付契約前に発注すると、補助対象外となるので注意が必要です。
事業完了後は、補助事業実績報告書を作成・提出し(上記⑦)、補助金確定通知書を受領後(上記⑧)、補助金の請求手続き(上記⑨)を行います。
補助金の支給後(上記⑩)は「フォローアップ」として、本事業による日ASEANサプライチェーン強靱化への貢献実績(総生産量および生産拠点国等)確認を、事業終了後から3年間継続して行われます(上記⑫)。
[制度概要6]申請書類
申請時に必要な書類は次のようになります。
上記「3−(8)」以外は必須の書類です。
また、上記「3−(1)」の事業計画書は、以下の要件をすべて満たしている必要があります。
- 当該補助申請対象事業が、令和2年12月8日(「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」の閣議決定日)より前に対外発表・事業開始したものでない
- 2026年3月31日までに、発注・納入・検収・支払等のすべての事業の手続きが完了し、生産拠点において生産及び出荷を開始する計画となっている
- 事業規模等に適した実施体制が組まれている
- 事業の遂行を行うことができる財務状況にある、または資金調達力を有する
[制度概要7]審査基準
申請された書類は、JETROで「補助事業の要件」を満たしているか確認後、JETROに設置される第三者委員会において審査が行われます。
審査は書類に基づく書面審査が基本ですが、「補助対象経費が15億円を超える申請」など、必要に応じて別途ヒアリングを実施する場合があります。
なお、審査基準は以下のとおりです。
<必須項目>
審査項目 | 審査内容 |
---|---|
①−1申請企業・団体の適格性 | ・事業者の範囲、不支給要件に当たらないことが確認できるか |
①−2申請内容の十分性・明確性 | ・提出書類が揃っているか ・提出書類に十分かつ明確な記載がなされているか |
①−3海外生産割合・一国への集中度の要件の適格性 | ・海外生産割合が50%以上であり、かつ一国への集中度が15%以上であること。またこれらについて、客観的なデータ等で確認できるか |
<基礎要件審査項目>
審査項目 | 審査内容 |
---|---|
②−1補助事業の実施体制 | ・補助事業を円滑に遂行するための十分な体制を有しているか ・事業計画書中の「実施体制図」において、申請事業者の実施体制が具体的に記載されており、事業を行うにあたり十分と考えられるか |
②−2財務の健全性 | ・補助事業を円滑に遂行するための資金力、経営基盤を有しているか ・資金調達の目処が立っているか。企業規模に鑑み過大投資でないか |
②−3補助事業の実現可能性 | ・補助事業のスケジュールが妥当であるか ・課題や対応策、スケジュール等が明確に設定されているか |
<事業内容審査項目>
審査項目 | 審査内容 |
---|---|
③−1事業対象製品・部素材のサプライチェーン上の重要性 | ・事業対象となる製品・部素材がサプライチェーン途絶によるリスク(経済的な影響)が大きいものであるか ・事業対象となる製品・部素材の海外生産割合及び一国への集中度が高いか。これらについて、定量的なデータにより根拠が示されているか |
③−2多元化の効果 | ・補助事業により生産する製品・部素材について、製品全体で見た場合、また補助事業を実施する企業の生産全体で見た場合の多元化の程度が高いか |
③−3日ASEANサプライチェーン強靱化への効果 | ・事業対象となる製品・部素材が、本事業の実現により、緊急時に日ASEANの経済・社会に与える影響を低減するものであるなどを含め、日ASEANサプライチェーン強靱化に効果があるものか |
③−4波及効果・展開可能性 | ・川上・川下産業への投資誘発など波及効果はあるか。また、幅広い産業のサプライチェーン強化に資する事業であるか ・医療物資については、感染症対策に重要なものであり、かつ、日本国内において需給が逼迫しているものであるか |
③−5現地国での産業高度化等の副次効果 | ・事業実施国において、技術協力や雇用創出に貢献する、注力産業の発展に資するなど、現地国の産業高度化等に資するか |
まとめ:「海外サプライチェーン多元化等支援事業」を利用して海外拠点の強化を
この記事では、「海外サプライチェーン多元化等支援事業」の基本情報や予算、執行体制、制度概要まで解説してきました。
第五回公募が実施されるかは未定ですが、実施された際にはぜひ利用し、海外拠点の設備の強化につなげましょう。
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