事業承継とは、「事業を後継者に引き継ぐこと」です。
代表取締役などの役職を譲るだけではなく、事業用資産や自社株の引き継ぎも行われます。
そのため、後継者は購入資金が必要となり、資金調達について考える必要があることが、事業承継のボトルネックになり得ます。
事業承継を行う際、資金調達の面ではどんなことに気をつければ良いのでしょうか。
事業承継をスムーズに行うために準備すべきことや融資・保証制度について紹介します。
事業承継を行う準備とは?
まず、事業承継を行うにあたり必要な準備について紹介していきます。
後継者候補の事業承継への意思・能力を十分確認する
オーナー企業の事業承継では、親から子へ代表取締役の座を譲るケースが多くあります。
しかし、親は子が事業を継いでくれると思っていても子どもにはその気持ちがなかったり、意思はあっても経営を任せられる能力がない場合もあるでしょう。
そのため、たとえ親子であっても、きちんと話し合いの機会を設けて後継者候補に事業を継ぐ意思があるかを確認し、その意思があるのであれば実際に代表取締役を引き継ぐ数年前から準備をすることが大切です。
後継者へ経営を引き継ぐ準備は、後継者自身の経営者としての自信や、社内外の関係者からの安心感を得ることにも繋がります。
金融機関の融資に対する保証切替
金融機関からの融資の保証についても手続きが必要です。
業績が良く、順調に融資の返済できている場合ならば後継者が保証人になることも苦ではないかもしれません。
しかし、業績が低迷している中で事業を引き継ぎ、保証人になることを考えると事業承継に前向きになれないこともあるでしょう。
このような負担を軽減するために日本商工会議所と全国銀行協会が共同で「経営者保証に関するガイドライン」の特則が設置されました。
経営者保証に関するガイドラインのポイントは以下の通りです。
- 前経営者、後継者の双方からの二重徴求の原則禁止
- 後継者との保証契約は、事業承継の阻害要因となり得ることを考慮し、柔軟に判断
- 前経営者との保証契約の適切な見直し
- 金融機関における内部規定等の整備や職員への周知徹底による債務者への具体的な説明の必要性
- 事業承継を控える事業者におけるガイドライン要件の充足に向けた主体的な取組みの必要性
抜粋:中小企業庁
たとえば、事業承継中には前経営者と後継者から同時に保証を取らない、後継者から保証を取る場合には当たり前のように引き継がせるのではなく必要な情報開示を得た上で判断する機会を提供することなどが求められています。
たとえば、法人と経営者個人の資産・経理が分離されている場合や、法人と経営者間の資金の移動が社会通念上の適切な範囲を超えない場合などは、個人保証が不要です。
ただし、このガイドラインは法的拘束力がないため、実務的には保証を取られることが多いようです。
このようなガイドラインがあることを理解しておくと、金融機関に対する交渉力も上がりますので、頭に入れておきましょう。
事業資産や自社株の購入資金を用意する
事業承継を行う際には新旧代表取締役から新代表取締役へ自社株を贈与または譲渡する必要があります。
後継者が安定した経営をするためには事業用資産と議決権⅔を超える自社株を承継すると安心です。
贈与する場合は基本的には前経営者に贈与税がかかりますが、毎年110万円の暦年贈与の範囲内ならば非課税になります。
そのため、事業承継までに時間がある場合には数年かけて贈与というやり方も良いでしょう。
譲渡する場合は、後継者自身の資金で株式を購入する必要があります。
ただし、自社株の価値が上がり、後継者の自己資金だけでは購入できないケースも多いです。
このような場合には、後継者が金融機関から融資を受けて事業用資産や自社株を購入することになります。
自社株購入時には株価を下げたほうが後継者の負担は少なくなるので、株式購入時に計画的に株価を下げたほうが良いケースが多くなります。
自社株の評価額を下げるためには、以下のような方法があります。
- 役員報酬を引き上げる
- 前経営者へ退職金を支払う
- 不動産を購入する
- 会社として生命保険に加入する
また、株式を取得するための受け皿会社「SPC(特別目的会社・持株会社)」を設立し取得する方法も一つの方法です。
後継者がSPCを設立して、このSPCが金融機関から融資を受けます。
前経営者がSPCに対して対象会社の株式譲渡を行い、SPCが全経営者に対して株式購入代金を支払います。
最終的にSPCが対象会社を合併することで事業承継は完了です。
日本政策金融公庫の事業承継に対する融資
日本政策金融公庫では、「事業承継・集約・活性化支援資金」という事業承継で活用できる融資があります。
中小企業事業の対象者で利用できるのは、以下の5つの中の1つでも当てはまる方です。
(国民生活事業の場合は条件が異なります。)
- 中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者(候補者を含む。)と共に事業承継計画を策定している方
- 安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方
- 事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業(経営多角化、事業転換)または新たな取り組みを図る方(第二創業または新たな取り組み後、おおむね5年以内の方を含む)
- 中小企業経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者、認定を受けた個人である中小企業者または認定を受けた事業を営んでいない個人
- 事業承継に際して経営者個人保証の免除等を取引金融機関に申し入れたことを契機に取引金融機関からの資金調達が困難となっている方であって、公庫が貸付けに際して経営者個人保証を免除する方
こちらの融資の限度額は7億2千万円です。
設備投資として利用する場合の返済期間は20年以内、運転資金として利用する場合の返済期間は7年以内で据置期間はそれぞれ2年以内になります。
金利については通常の基準金利より低金利に設定されていますが、借入金額などで細かい基準があるので、日本政策金融公庫のホームページで確認してください。
参考:日本政策金融公庫
制度融資としての事業承継サポート
制度融資でも事業承継に利用できる制度があります。
東京都の事業承継のための制度融資は、次の4つのうちいずれかに該当する方が利用できます。
- 事業承継を 10 年以内に行う計画を策定し、計画の実行に取り組む方
- 事業を承継した日から 5 年未満であって、事業計画を策定し、承継後の経営の安定化等に取り組む方
- 事業承継に伴い、事業活動の継続に支障が生じているとして、都道府県知事の認定を受けた方
- 事業活動の継続に支障が生じている他の中小企業者の事業承継に伴い、都道府県知事の認定を受けた方
融資限度額は2億8千万円で、融資期間は10年以内(据置期間2年以内)です。
保証料の½を補助してもらえるところが、この制度の嬉しいポイントです。
融資利率は責任共有の有無や期間により異なりますので、ホームページにてご確認をお願いします。
参考:東京都産業労働局
事業承継の保証協会制度
信用保証協会でも事業承継に関するさまざまな保証制度が用意されています。
東京保証協会の制度を例に紹介しますが、各地方の保証協会でも同様の制度が利用できます。
参考:東京信用保証協会
持株会社を新設する場合に利用できる「事業承継サポート保証制度」
事業承継サポート保証制度は、株式取得(議決権の⅔以上の場合に限る)を目的に、持株会社を新設するときに利用できます。
保証の申込人は初年度決算を迎えていない持株会社です。
融資限度額は2億8千万円、融資期間は15年以内、据置期間は2年以内となります。
後継者の自社株取得に利用できる「特定経営承継関連保証制度」
特定経営承継関連保証は、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の改正により、平成30年に創設されました。
利用できる対象者は経済産業大臣(都道府県知事)の認定を受けた中小企業者(認定中小企業者) の「代表者個人」で、事業を営む会社を承継した後継者個人です。
事業用資産や株式等取得などに対する資金として利用できます。
限度額は2億8千万円で、返済期間は運転資金は10年以内、設備資金は15年以内です。
経営者保証が必要ない「事業承継特別保証制度」
経営者保証が必要ない「事業承継特別保証制度」という制度もあります。
利用できる対象者は次の①または②に該当し、かつ③に該当する中小企業者です。
- 保証申込受付日から3年以内に事業承継を予定する事業承継計画を有する法人
- 令和2年1月1日から令和7年3月31日までに事業承継を実施した法人であって、事業承継日から3年を経過していないもの
- 次の全ての要件を満たすこと
- 資産超過であること
- EBITDA有利子負債倍率※が10倍以内であること※EBITDA有利子負債倍率 = (借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)
- 法人・個人の分離がなされていること
- 返済緩和している借入金がないこと
融資限度額は2億8千万円で、事業資金に利用できます。
返済期間は一括返済の場合は1年間、分割返済の場合は10年間(据置期間1年間)です。
また、経営者保証コーディネーターによる確認を受けた場合には保証料を引き下げることもできます。
既存の経営者保証付融資からの借り換えも可能です。
参考:東京信用保証協会
採択率の高い「事業承継補助金」を活用!
事業承継に利用できる「事業承継補助金」という制度もあります。
補助金は融資とは異なり返済の必要がないため、後継者としても負担が軽くなる点でメリットが大きいです。
この事業承継補助金に「経営者交代タイプ(Ⅰ型)」と「M&Aタイプ(Ⅱ型)」の2種類があります。
経営者交代タイプは、事業承継をした後に後継者が新しい取り組みをする場合に補助を受けられます。
令和2年4月10日~2020年6月5日の間の申請総数は455件で承認されたのは350件と採択率は70%を超えました。
事業承継を行なった後に新店舗出店や機械導入など考えている場合には応募を検討することをおすすめします。
事業承継補助金のついては、別記事「事業承継補助金とは?補助金額・条件から必要な手続きまで詳しく解説!」で詳しく説明していますので、参考にしてください。
参考:中小企業庁
まとめ
事業承継をする場合には、役職としての業務的な引き継ぎだけではなく、事業資産や自社株の引き継ぎも必要です。
基本的には後継者が事業資産や自社株を購入することになりますが、購入資金がない場合には資金調達が必要となります。
資金調達の方法としては融資・制度融資・保証協会保証・補助金などがあるので、条件に合うものを選び活用していきましょう。
また、退職金を支払ったり、生命保険を活用したりと購入のタイミングで株価を下げるという方法もあるので、事業承継をする場合は計画的な準備がおすすめです。
事業承継を行う準備とは?
事業承継については、信頼できる専門家に相談しながら慎重に進めていくべきです。
『経営者コネクト』にご相談いただければ専門家がアドバイスいたします。
例えば経営戦略の見直しやマーケット調査といった、後継者が事業を引き継いだ際の成長支援も行っています。
気になる方は、『お問い合わせフォーム』よりご連絡いただければ、無料でご相談をお受けいたします。
安心して相談できる専門家を見つけて制度を活用し、事業承継を成功させ、企業を長く存続・成長させていきましょう。