会社の人員整理の手段として知られる「希望退職」制度。
リストラなどと違ってトラブルになるリスクは低いとされていますが、方法をまちがえればやはり問題が発生することに。
そこで今回は、希望退職制度の基本知識や会社側のメリット、面談での注意点などを解説していきます。
問題なく希望退職を進めたい経営者の方は、ぜひご覧ください。
希望退職とは?
まずは希望退職がどのような制度なのか、基本情報とデータを確認しましょう。
希望退職とは?
希望退職とは、社員が自発的に退職するよう会社が誘引する制度です。
ほとんどの場合、割増退職金などの好条件を提示して希望する社員を募ります。
ただし、これは会社が必要に応じて行う制度であり、法律で実施に関する条件が決められているわけではありません。
そして希望退職は、会社再建のための「整理解雇」の前段として実施されることが多数。
これは、「整理解雇」が認められるためには、次の4つの要件が必要であり、項目2の「解雇回避」のひとつの手段として、希望退職制度があてはまるためです。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力義務
- 被解雇者の人選の合理性
- 解雇の手続きの妥当性
希望退職を募らずに、突然整理解雇を行うと、ほとんどの場合「解雇回避努力義務を行わなかった」とみられ、上記要件を満たせません。
その結果、「有効な整理解雇ではない」と判断されてしまいます。
希望退職制度と雇用保険
希望退職は、雇用保険から考えると「会社側からの退職勧奨」となります。
そのため、希望退職に応じて退職した社員は「特定受給資格者」、つまり会社都合の退職となり、失業給付を受給する際に給付の開始時期や給付日数などが手厚くなります。
ただし同じような制度でも、「恒常的に実施する早期退職優遇制度」で退職した場合には、「特定受給資格者」とはなりません。
・厚生労働省:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
新型コロナの影響における希望退職の実施状況
東京商工リサーチの調査によると、2020年1~6月に早期・希望退職者募集を実施した上場企業は41社です。
昨年(2019年)は年間で35社でしたので、2020年は半年ですでに昨年件数を6社も上回っています。
この増加数は、新型コロナウィルス感染拡大に伴う外出自粛や、消費落ち込みが影響しているといみられます。
業種別にみると、2020年上半期の希望退職実施の上位は次のとおり。
- 1位 アパレル・繊維製品:6社
- 2位 小売:4社
- 2位 輸送用機器、電気機器:4社
希望退職制度を実施する会社側のメリット・デメリット
次に、希望退職制度を実施する会社側のメリットとデメリットをご紹介します。
希望退職制度を実施する会社側のメリット
希望退職制度を実施する会社側のメリットは、「人件費を削減できること」です。
対象者の年齢を絞り込むことで、50代以上の高額な給与の社員を減らせば、大幅に経費を下げられます。
またリストラなどの方法に比べ、希望退職は「社員が自発的に応募する」制度のために「トラブルが少ない」です。
実施する社員側の精神的な負担も軽減されます。
そして前述のとおり、希望退職を行うことで、その後に整理解雇を行った際に「有効である」と認められることもメリットです。
希望退職制度を実施する会社側のデメリット
デメリットとしては、「優秀な社員が退職する可能性が高い」点があります。
会社は希望退職によって、生産性の向上に貢献しない社員の退職を望みますが、実際には能力の高い社員ほど退職しがち。
それは能力の高い社員ほど転職先がみつかりやすいため、希望退職を行うような不安定な会社から出てしまうというものです。
結果として、会社全体の生産性が低下してしまうことに繋がります。
また、通常の退職金に加算した「割増退職金」を支払うケースが多いため、一時的に費用がかさむというデメリットもあります。
そして、整理解雇の前段階として希望退職を行う会社が多いため、「会社の業績が危ういのでは?」という憶測が世間に流れることになります。
希望退職を募集する流れとポイント
希望退職を実施する際には、抑えておくべきポイントがいくつかあります。ここでは、希望退職を募集する流れとポイントをご紹介します。
希望退職を募集する大まかな流れ
希望退職を募集を行う際には、まずは次のような項目を取り決めた要項を作成します。
- 募集対象者
- 募集人数(定員に達しなかったときの対応も)
- 募集期間(期間内に定員に達したときの対応も)
- 退職に応じた際の条件(割増退職金など)
- 退職日
次に希望退職の募集を、全社員に発表します。発表文には、上記の要項をわかりやすく記載してください。
その後、応募者全員と面談を実施。後述する注意点をよく守って、面談を行います。
募集期間が終了したら募集を締め切り、応募者の退職や退職金の支払いなどの手続きを進める。
これが一連の流れです。
希望退職を成功させるためのポイント
希望退職のデメリットを最小化するために、次のポイントを抑えましょう。
【ポイント1】残ってほしい・辞めてほしい社員をリストアップする
後述しますが、残ってほしい・辞めてほしい社員は、募集発表の前に面談を行います。
そのために、あらかじめリストアップしておきましょう。
【ポイント2】残ってほしい社員を対象外とするルールを入れておく
希望退職によって人員を減らしても、優秀な社員ばかりが退職してしまったのでは意味がありません。
そのため、残ってほしい社員を対象外とするルールを入れておきます。
たとえば、募集要項に「会社が承認しない場合には、希望退職の制度は運用しない」など記載することで、優秀な社員の退職を防ぐことが可能です。
【ポイント3】募集開始から退職日までの期間を長めに設ける
希望した社員の退職日までの期間を、長めに取るようにしてください。
半年ほど期間があれば十分です。
募集を開始してから退職までの期間が短いと、本人もよく考えることができず、決断に踏み切れません。
家族とも話し合う時間がないため、結局迷ったまま期間が終了してしまいます。
【ポイント4】社員が応じやすい「割増退職金」を示す
希望退職は会社都合による退職ですので、会社に退職金規程があれば退職金の支払いが発生します。
また希望退職では、社員が再就職先をみつけるまでの生活支援の意味を込めて「割増退職金」を支払うケースがほとんど。
人件費削減のために希望退職を募集するのですから、できるだけ費用をかけたくないと思うかもしれません。
しかし、「割増退職金」を出し惜しみすることで希望者が集まらなければ、結局はムダな時間と費用がかかるだけです。
社員が応じやすい金額の「割増退職金」を設定し、希望退職が滞りなく進むようにしましょう。
【ポイント5】失業給付金での優位な点なども説明する
前述のとおり、希望退職に応じれば「会社都合の退職」となるため、失業給付金がすぐに受け取れます。
このようなメリットを社員が理解できるよう、わかりやすく説明してください。
できるだけ好条件を示すことで、辞めてほしい社員へのアプローチも行いやすくなります。
希望退職の面談での注意点
希望退職を適切に進めるためには、面談が最も重要。
ここでは、面談の注意点を解説します。
募集発表前に対象者と面談を行う
希望退職で肝心なことは、優秀な社員に残ってもらい、そうでない社員に辞めてもらうこと。
そのために「残ってほしい社員」と「辞めてほしい社員」を対象者とし、その両方に対して希望退職の募集を発表する前に面談を行います。
いきなり希望退職募集を発表すると、社内は混乱します。
そして有能な社員ほど、転職できる可能性も高いために希望退職に応じて辞めてしまうもの。
そこで前もって、リストアップした対象者と面談し、次のことを伝えます。
- 希望退職を行うことになった経緯
- 現在の会社の状況
- 本人への評価
- 応募する意思があるかどうか
残ってほしい社員との面談での注意点
残ってほしい社員には、応募受付前の面談で「会社があなたのことを高く評価している」ことをよく伝えます。
ここで、希望退職に応募する意思がないようであれば、2回目の面談は必要ありません。
しかし本人が迷っているようなら、退職を引き止める話をしていきます。
「希望退職を行ったあとにどう事業を進めるのか」を説明し、会社の再建のために力を貸してほしいと説得します。
「給与」や「任せたい仕事」など、できるだけ好条件を提示してください。
ただ、本人が決断しないからといって、何度もくり返し長時間の面談を行っては逆効果。
あきらめて、ほかの社員の説得にあたることが賢明です。
辞めてほしい社員との面談での注意点
辞めてほしい社員についても、最初の面談で応募する意思があるようなら、2回目の面談は不要です。
ただし条件などの説明はしっかり行ってください。
本人が迷っている場合や、応募する気がないようであれば、2回目の面談を行います。
勤務態度や仕事の能力に問題がある社員ならば、その根拠となる資料を本人に提示。
そして「評価が低いため、今後の昇格は厳しい」旨を伝えてください。
明らかに問題があるわけではない社員については、「あなたほど能力があれば他社から引く手あまただろうから、考えてほしい」として説得します。
ここで、辞めてほしい社員が退職に応じてくれないからといって、次のような強引なことを行ってはいけません。
それで社員が応じても、違法な行為のため退職が無効となる可能性があります。
- 威圧的な態度で面談を行う
- 「応じなければ解雇する」と脅す
- 長時間、何度もくり返し面談を行う(一般的な面談時間は30分~1時間。回数は3回まで)
応募者との面談での注意点
応募者との面談での注意するのは、会社の現状・希望退職時のルールを漏れなく伝えることです。
あとで「そんな条件は知らなかった」と言われることがないようにしましょう。
また、社員から会社についての意見を聞くことで、今後に活かすことができます。
希望退職を募集する際の会社側の注意点
記事の最後に、希望退職を募集する際の、面談以外での注意点を解説します。
【注意点1】対象者の絞り込みには気をつける
希望退職の募集対象者として、「全社員対象」の場合には問題ありませんが、特定の人を対象とするときには注意が必要です。
たとえば「男性のみ」・「女性のみ」や「労働組合に加入している者のみ」など、特定の社員を意図的に対象とすることは許されません。
しかし、年齢・部門・業務内容などで対象者を絞り込むことは問題ありません。
人件費削減のために、「40歳以上」など給料が高い年配の社員を対象とすることは許されています。
【注意点2】必ず募集期間を設定し、短すぎないように
募集期間を設定せずに、希望退職を募集し続けると、いつまでも社内の雰囲気が悪いままとなってしまいます。
迷っている社員も、締切がないとなかなか踏ん切りがつきません。
その結果、募集人員に達せず、ダラダラと募集をし続けることとなります。
また、募集期間が短すぎると、社員は考える時間がありません。
家族との話し合いや転職先など、じっくり考える時間も必要。
できるだけ、募集期間は長く設定しましょう。
まとめ:ポイントと注意点を把握し希望退職の実施を
今回は、希望退職制度の基本知識や会社側のメリット、面談での注意点などを解説しました。
社員にとって退職・転職はとても重要な事柄です。
まちがった方法を取れば、大変な問題に発展します。
解説したポイントと注意点をしっかり把握したうえで、問題ない希望退職を進めてください。
この記事が、あなたのお役に立てれば幸いです。