アーバン工芸株式会社:家業の技術を活かしながら「潮目を変える」自社ブランド事業の挑戦

アーバン工芸株式会社
内海公翔さん インタビュー

 

香川県東かがわ市で、鞄をはじめとする革製品のOEM・製造を行う創業70年のアーバン工芸㈱。3代目で取締役の内海公翔さんが中心となり、新規事業の自社ブランド「TIDE(タイド)」を作り上げました。業界で他にない難しい縫製技術を活かしたパッチワークが美しく、卸先の藤巻百貨店様では別注モデルのSETOUCHIシリーズが人気を博しています。当社(マジェステ)は事業再構築補助金申請において、この自社ブランド事業の事業計画書作成をお手伝いさせて頂きました。今回のインタビューでは、内海取締役に、新規事業をスタートし人気ブランドに育ててきたストーリーと、そのために行った補助金や事業計画の取り組みについてお話を伺いました。

70年続く革製品OEM企業で自社ブランドを手探りでスタート

1953年に革手袋製造の「内海平八郎商店」として創業したアーバン工芸株式会社。今年で創業70年の老舗企業です。
既存事業の主軸はOEM事業で、レディースバッグの売上が大半を占めます。
内海取締役が新規事業である自社ブランド「TIDE(タイド)」を始めようと思ったきっかけから伺いました。

「始めた理由は、家業の中にあっても自己実現したいという気持ちと、家業の今後への危機感でしょうか。特に危機感が大きかったですね。当時はOEMの受注が多かったものの、世間的にはBASE(個人でもネットショップが作成できるサービス)などが出て、物の売れ方が変わる潮目でした。店頭販売がネット販売に淘汰されはじめており、ウチもこのままOEM事業だけでは危険だなと思うようになりました。また、OEMに頼り切っていては、労働環境や給与を、縫製業界の一般的な水準を超えて改善していくのは難しいだろうとも考えました。」

会社の継続的な成長や、従業員の環境改善に必要なのは、これまでアーバン工芸になかった自社ブランドだと考え至り、新規事業として立ち上げようと決断します。

「仲間と自社ブランドを作りはじめたものの、当初はうまくいきませんでした。『試作品を作っては失敗』が2度続き、3回目で外部の方を巻き込んで、ようやくTIDEが立ち上がったんです。」

自分たちが熱狂できるコンセプトを作り、製造・販売の壁を乗り越える

最初の失敗した2度と、TIDEが立ち上がった3度目は何が違ったのでしょうか。

「じつは2度の立ち上げ失敗時にも、『まあまあ、悪くはない』製品は生まれていました。しかし自分たちが『心から納得できる製品』ではなかったため、事業化には進めない選択をしました。
3度目にして事業を立ち上げられた要因は、『自分たちが心からやりたいこと』を引き出したことですね。外部パートナーの方にも入ってもらい、半年かけてヒアリングなどを行ってもらって、自分たちが心から納得するコンセプトである『潮目を変える』を構築した。このコンセプトを製品の形にしたのが現在のTIDEなんです。コンセプトづくりに情熱と時間をかけて完成させたことで、すごく得るものがありました。」

自社のアイデンティティを商品に落とし込む過程では、内海取締役ご自身も手を動かしました。

「約半年近い期間、外部パートナーからマンツーマンで私がヒアリングを受けた後、社内のメンバーも加えてワークショップを開催しました。そこで会社の技術的な強みなどから浮かんだ『内縫い・曲線美・パッチワーク』というアイデアをもとに、まずは私が自らパッチワークを作りました。元々ものづくりは好きで、入社後半年ほどはものづくりに携わっていたこともあり、自分で形にしてみたくなったんです。
出来上がったものを自分で見た時に『これはいい!』と自画自賛。「潮目を変える」というTIDEのコンセプトにも合っていると、当社の幹部メンバーも納得してくれました。」

しかし、他社にない美しいパッチワークを商品として製造することは、簡単ではありませんでした。

「TIDEは内縫いで曲線を描くパッチワークという非常に難しい製法で模様を作ります。当初は技術を担当する弟にも『これを量産するのは難しいのではないか』と言われました。
その後話し合いを重ね、試行錯誤の末にサンプルが完成。また外部の方で、製作を協力いただけるとてもスキルの高い技術者さんとの出会いもあり、なんとか商品化にこぎつけました。今後は、このような技術者さんをもっと増やしたいですね。」

その後販売を開始したTIDEの製品は、伊勢丹新宿店でのポップアップや人気セレクトショップの藤巻百貨店などで取り扱われ順調に見えますが、当初は販売面での苦労がとても大きかったそうです。

「TIDEは日本最大規模の国際見本市であるギフトショーでデビューしました。その時に結構な引き合いはあったんですが、その中でも特に取引したいと考えていたフランスのセレクトショップでの出品の話が、急な事情でなくなってしまって。これまで製造はしても販売をした経験はなかったので、販売は本当に難しいなと打ちひしがれました。
そんな時に救っていただいたのが、藤巻百貨店さんです。
同じ東かがわ市で手袋を作っている工場の社長さんに紹介いただいた藤巻百貨店の担当者のもとに、分厚い資料を持参してかなり熱くプレゼンしたところ『しっかりタッグを組んで救ってあげたい』と思って頂けたみたいです。 そこから藤巻百貨店さんとの取引が始まり、TIDEの大型商品も売れるようになって、自社ブランドに消費者のニーズがあることがわかって自信がついてきました。」

※藤巻百貨店様ホームページより

実力・話題性の高い人気アーティストとのコラボレーションで人気の「ARTIDE(アータイド)」の商品も、この頃生まれました。

「私が以前東京で勤めていた会社の同期仲間が、家業である画廊の社長に就任したのを機に『一緒に何かやろう』と言う話になり、気鋭の芸術家とのコラボ作品である「ARTIDE(アータイド)」も生まれました。
これをきっかけに新宿伊勢丹でのポップアップ出店も決まり、新たなお客様と出会う機会が大きく増えましたね。」

自社ブランドとOEM事業、互いに好影響を与える現在

新規事業を行って良かった点は「家業の中で自分自身がやりたいと思って始めたことが形になり、僕自身が元気になったところ(笑)」。ほかにも、会社の名前を知ってもらうことができ、採用活動が円滑になったそうです。 また、既存事業であるOEM事業のお客様にも影響がありました。

「OEM事業の新規のお客様との商談の際にTIDE製品を持参すると、 『こういうことができるんですか』と一目置かれますね。逆に、TIDEを出品した展示会で『OEMもやってらっしゃるんですね』という話になって、お客様になって頂いた企業もいくつもあります。これは、自社ブランドを持っていなければ起こらないことですよね。これまで接点のなかったインテリアやペット関係などの異業種の企業にOEM事業を利用してもらう機会も増えました。」

実は、父親であり現在の代表取締役である昌滋氏からは、立ち上げ時には「自社ブランド事業にそれほど力を入れるな」と言われていたそう。その反対を乗り越えられたのは、やはり自社ブランドの成功なしに、自分が思い描くアーバン工芸の未来は掴めないという強い想いから。製造をメインで担当する弟をはじめ、多くの人々の協力も得ながら少しずつ事業が形になっていきました。

「でも父も、今では『やってよかった』と言ってくれます。ただ『既存事業と新規事業のバランスを欠かないように』と。父が認めるようになったのは、シンプルに売上が立った頃からですね。入金でTIDEの売上額を目にするうちに、まだまだ小さいながら利益が出ているじゃないかと納得してくれたんだと思います。」

現在では、2つの事業はとても良い相乗効果を生んでいます。

「もしTIDEをやらずにOEM事業だけを続けていたら、アーバン工芸はここまで順調に続いていないかもしれないと思うんです。一方でOEM事業がないとTIDEはそもそも始めることができなかったし、これまで培ったOEMで長年築いてきた技術力をTIDEに込めることができている。今は、この2事業があるからこそのアーバン工芸だと感じています」

補助金には多数挑戦、企業の状況で専門家や自社リソースを使い分け

内海取締役は、ご自身でJAPANブランド育成支援等事業費補助金といった補助金申請を行っています。
いくつかの補助金申請を行ってみて、お金を支給されるのはもちろん、行政的な機関とのつながりが増えたことにもメリットを感じたそうです。

「補助金申請を行うと、担当者の方とも繋がりができます。すると、さまざまな人を紹介してくれたり、応援してもらう機会があります。補助事業の事例としてかがわ産業支援財団の冊子に載ったことも、地域での信用を向上する効果があったように思います。このような地域密着的な機関を利用するのも、すごくメリットがありますね」

会社員時代も含めて、それまで事業計画を作ったことはなかったものの、補助金申請を機に作ってみると役立つこともあったそうです。

「アーバン工芸としても、これまで大まかな方針はあったものの、中期計画などを立てたことはありませんでした。そのため、補助金申請を行うなかで、はじめて事業計画の作成に着手したんです。
これまでいくつかの補助金申請をこなしたことで、事業計画作成にもだいぶ慣れてきました。書き方は、かがわ産業支援財団に所属しているため、無料で利用できるコーディネーターの方に教わりました。はじめは審査に通らなかったんですが、3度めの補助金申請でようやく通りました。
事業計画を作ってよかったと思うのは、今やっている事業を整理できること。『なぜやっているのか。どういった方向に進みたいのか』と考える機会になりますね。」

また、内海取締役は自身でも補助金申請を行った経験がありましたが、事業再構築補助金の申請では当社(マジェステ)にサポートをご依頼頂きました。棲み分けの基準はあるのでしょうか。

「事業再構築補助金は額が大きいし申請内容も緻密なので、やはり専門家にサポートしてほしかったのが一番の理由です。それに当時は、忙しくて時間がなかったこともあります。今もかがわ産業支援財団の販路開拓用補助金の申請書を作っているんですが、自分で作るのは本当に時間がかかります。
今後もそのときどきの状況に合わせて、自分で作るか、サポートを依頼するか判断していくと思います。」

これからも設備投資を通じた生産性向上等に、補助金を活用されていこうとしています。

「今は自社ブランドよりは、OEM事業を効率化するために、新しいコンピュータミシンへの切り替えを行いたいですね。また革を薄くする機械の導入も考えています。」

事業計画作成は手間がかかるものの、これまで・これからを整理する貴重な機会

会社としてOEM事業の予算経営をはじめたのは、意外にも去年からだそう。

「アーバン工芸は黒字が続いているため、これまでは昨年対比で日々数字を追っていました。去年からはすべての事業で予算を立てて、その予算にもとづき目標や方針を立てるようになりました。とはいえ、まだ社内で共有しておらず、今は計画の大枠だけあるような形です。」

一方で、新規事業の自社ブランド事業では、プロの手も借りながら根拠のある事業計画を作成しています。

「新規事業についての事業計画は、D2C事業等に詳しいパートナー会社に案を作ってもらい、それを基に作り上げていきます。ゼロから始めて成長幅も大きな事業なので、事業計画はやはり必要です。
OEM事業では、企業としての過去の経験が十分で、かつ営業等販売にかかわるセクションを私が直接的に手掛けているため大枠の目標があれば十分と感じますが、新規事業は別ですね。」

最後に、当社作成のツールKAKERUを見ていただきました。

「自社に合う例文や計算式が選べるのはいいですね。
私は新しいモノが好きで、最近話題のchatGPT等も早速使ってブランディングのコンセプト検討時にアイデアを膨らますことなどもしています。そういうタイプなので、こういった新しい便利そうなツールは使っていきたいです。
補助金申請を行うにあたって、今後ゼロから自分だけで申請書を作ることは減らしていこうと思っていましたが、ツールでわかりやすく打ち込んで作れるなら自分でもやってみようかなと思いますね。」