株式会社広伸:製造業であることを大切に、それ以上を目指すPF事業と中期計画

株式会社広伸
石川 裕さん インタビュー

 

ステンレス、アルミ等の金属加工部品の一貫生産を行う、創業53年の株式会社広伸(大阪府門真市)は、新規事業として、部品加工メーカーの協業と3Dデータを活用した自動見積を行う「門真プラットフォーム事業」をリリースしました。この新規事業実施に向け、認定経営革新等支援機関である当社(マジェステ)は事業再構築補助金の申請に向けた事業計画書の策定をご支援しました。
このインタビューでは石川 裕・代表取締役社長に、新規事業を始められたきっかけや、やりがいとご苦労、そして先進的な事業を行い成長していくために重要な事業計画の策定と実行について、お話を伺いました。

社内のデジタル化がいつしか、地域経済の牽引を目指すプラットフォーム事業に

株式会社広伸の既存事業は金属部品加工業で、プレハブメーカーの板金加工が売上の7割を占めます。

もともと中小企業の板金業の環境は、どの企業も非常にアナログでした。広伸も同様で、石川社長が入社した15年前にはアナログな社内システムに驚かれたそう。

「電話は短縮機能も使わず、電話帳を見てかける状況でした。これはデータベースなどのソフトウェアを入れる必要があると」

業務を効率よく進めるためには、デジタル化が必須と痛感。少しずつ導入を進めます。

「8年前に見積もりをクラウド化しました。3D-CADも導入し、その延長で3Dデータの自動見積もりシステムを入れようと考えていたんです」

石川社長がデジタル化を進めるなかで、門真市から『地域未来投資促進法に基づく地域経済牽引事業の基本計画を立てたので、地域経済牽引事業計画を立案する企業を募集したい』という話が届きます。

「実はこの話は、初めお断りしていました。広伸は”一貫生産が強み”とアピールしてきたこともあり、協力企業もネットワークも持っていなかったからです。”連携して仕事を進める”というスタンスではなかったので、地域経済を引っ張ることは難しいと考えていました。」

しかし、広伸には「自社1社で行える事業には限界がある」という課題意識もあり、導入検討していた自社向けシステムを複数社で活用するアイデアが生まれました。

「新規営業で案件を獲得しても『これは自社でできるけど、こちらは外注しないと』という状況が続いており、どうするべきか悩んでいました。
そこで、自社向けで導入を検討していた、3Dデータの自動見積もりシステムを外部にも開放して、みんなで使えるプラットフォームにすればいいと。さらに複数社が共同で案件を受注ことのできる機能や、マッチング機能があれば、中小企業の困りごとを解決する場をつくることができると思いました。」

こうして門真プラットフォーム(KPF)の開発がスタート。NTTコミュニケーションズと提携してKPF受発注システムを開設し、2022年11月にサービス提供を開始しました。開設時のニュースは、日本経済新聞など各種メディアでも取り上げられています。

新規事業を軌道に乗せるのは大変、でも取り組んでこそ見える将来像も

現時点で、KPFを運用する中核企業は5社。無料で登録できる参加企業は30社ほど集まっており、発注企業を開拓している状況です。

「今はまだ具体的な案件等の実績が少ない状態です。単純な企業同士の受発注サイトとしての認識が強く、自動見積システム等のツールを使える環境には見えていないようです。そのため『ピンハネしようとしているのでは?』と警戒感を示す企業もいます。
案件が発生し実績を出し、KPFの価値が伝えていって初めて、参加企業も動き出してくれると思います。」

まずは小さくても実績をつくることを目指し、石川社長自らも積極的に営業を行っています。

「営業先でKPFで何ができるかのイメージを持ってもらいにくいことが多く、それを具体的に説明する資料に力を入れました。また、現段階では何のつながりもない企業には、なかなか話を聞いてもらえません。そこで広伸の既存取引先である大手住宅メーカーの研究所を中心に営業を進めており、関心を持っていただくことも増えています。」

このような立ち上げの苦労もある一方、石川社長が新規事業としてプラットフォーム事業を始めて良かったことは「1社では難しかった複雑な加工や提案も行える会社へと成長できる可能性を感じること」だと言います。

「部品加工業は労働集約型になりやすく、どうしても機械や労働者の数で売上が頭打ちになります。しかし他社と連携することで、製造できるモノや範囲を広げれば、付加価値が高まり単価をアップできる可能性も出てきます。
今後の目標は『今のメンバーで、5年で売上を40%アップさせる』こと。
設備の導入や人員の増加に比例して売上をあげるだけではなく、付加価値を高めることにシフトしたいですね。今はもらった図面のとおりに作っていますが、『これも組み立てます、業者さんも紹介します』と、より提案力・商品力を上げて、顧客のニーズに応えていきたい。そして新規事業の先として、部品だけではなく自社製品を作りたいと思っています。」

「さらに、新規事業に取り組んでいることは、採用にも有利に働きます。製造業の可能性を広げたことで『こういう先進的なこともやってる会社で働いてみたい』と感じてもらえるのだと思います。」

新社長として初めて中期事業計画づくりに臨んだ学び

これまで現会長が行っていた3カ年計画作成を、今回(2024年~2026年度)からは石川社長が行っているそうです。

「社長業をやりながら、初めて事業計画を作るのは想像以上に大変だなと思います。ここまで業務の合間を縫って4ヶ月ほどかけて、ようやく形になってきました。でも自分で作らないと、事業を推進するうえで考えがブレてしまうので、大切なプロセスだと感じます。」

石川社長のなかでブレをなくすことは、社員への説得力にも影響が出るそうです。

「自身でも納得するまで考え抜いた指標があるからこそ、変化があっても『自社や環境の状況が変わったので、こう変える』と、社員に説得力を持って話せます。そうすると、社員も各部門での計画を自分ごととして考えやすくなります。」

ただ、事業計画を自分だけで一から作ることは難しく感じることも多く、ツールやサポートも活用しているそう。

「ツールは、ミラサポの経営デザインシートを使っています。こういったガイドがあると、ムダに迷う時間がなくなり、考えることに時間を集中できて助かりますね。私はまず手書きでデザインシートを作成するんですよ。すぐパソコンに打ち込んだら、魂が入らないような気がして。
ある程度形になったところで、中小機構に所属している担当者にもチェックやアドバイスをお願いしています。」

マジェステ㈱で2023年4月にリリース予定の補助金向け事業計画書作成ツールKAKERUもご覧いただき、ご感想をいだきました。

「こういった簡単に使えるツールは使ってみたいですね。継続的に使うかの判断は、ツールが今後変化していけるかどうか、でしょうか。審査の内容などが変わったときに、常に対応していけるようなら導入したいです。
自分で事業計画を作る敷居が低くなり、”事業計画書作り=大変”という意識も変えられそうですし、周りの経営者にも『ツールを使えば事業計画は作りやすいで』と勧めたいですね。
あとは作成する人のなかには、各項目について『なぜこれが必要なのか』『なぜそうするのか』を納得したい人もいるはずです。私もそのタイプです。なので、ツールで各項目の意味合いを解説してもらえるのも、計画などの立案の本質がより理解でき、納得感が増すと思います。」

中期計画を細分化・モニタリングして見えた理想と現実の差が肝

事業計画を作成後は、部門ごとの目標や計画づくりへ。石川社長も時間を割いて内容を確認しています。

「幹部とは、時間を取ってディスカッションの機会を持ちます。各部門が今やっていることの長期的な意義、未来に向かって今仕込んでおくべきことなどを話し合ったうえで、目標や計画を立案します」

3か年計画から、短期・部門ごとの細かい具体的な計画を部門責任者が作成。その計画と実行状況を突き合わせていくモニタリング会議を月次で行っているそうです。

「部署内で作業者まで計画を落とし込み、具体的な目標を策定。その目標への達成状況も加味して人事考課を行う仕組みにしています。とはいえ現時点では、どうしても個人によって評価のばらつきが出たりと、運用が簡単ではありません。
また年初に計画を立てても、だんだん意識が薄れてしまうんです。係長・主任までの約10名が参加する毎月の会議で進捗管理をしていても、末端までは行き渡りにくい。個人が目標や計画を振り返る環境がないので、どうしても意識がトーンダウンしてしまいます」

こうした課題があるため、事業計画を企業の競争力にまで繋げる取り組みはまだ模索中。しかし、明確な目標・指標を持つことの大切さは痛感しています。

「目標・指標を明確にしなければ、現状のレベルに気づくこともできません。もちろん目標達成ができるのが一番ですが、そうでなかったとしても、前に進んでいるのがわかることも大切です。
新規事業の立ち上げや補助金獲得にももちろんですが、既存事業の地道な成長や人材育成にも、事業計画の作成は役に立つと思っています。」