様々な取組みが「キャリアアップ助成金」の対象に
キャリアアップ助成金とは?
キャリアアップ助成金は、厚生労働省が実施する、非正規雇用労働者のキャリアアップ促進を支援する助成金です。
非正規雇用労働者とは、以下のような人々を指しています。
- 有期雇用労働者
- 短時間労働者
- 派遣労働者
- パート・アルバイト など
有期雇用労働者等を正社員として雇用したり、処遇を改善したり、等の取り組みを実施した事業主に対して支給されます。
助成金は返済の必要がなく、特にキャリアアップ助成金は条件を満たせば支給されるため、経営上非常に嬉しい制度です。
さらに、「労働者のスキル・モチベーションアップ」という企業として取り組むメリットも大きいテーマですから、関心のある企業はぜひ助成金の申請とともに実施することをお勧めします。
キャリアアップ助成金には、目的に応じた多様なコースが用意されており、コースごとに助成額や条件が異なります。
さらに、新型コロナウィルス感染症の影響にともない、令和2年度に改正も行われています。
この記事では、これらの全体像を紹介しています。
ぜひ参考にしていただき、キャリアアップ助成金の獲得と人材育成に役立ててください。
キャリアアップ助成金には7つのコースがある
2020年現在、キャリアアップ助成金には7つのコースがあります。
非正規労働者に対する、かなり幅広い取り組みが助成金支給の対象になることがわかります。
※各コースごとの助成額は、条件により異なるため幅があります。
コース別・条件別の金額の詳細は、のちほど詳しく説明しますので、まずはざっくり全体像をつかんでください。
「1人当たり」の支給額と「1事業所当たり」の支給額が混在していますのでご注意ください。
名称 | 対象となる条件 | 助成額 |
①正社員化コース | アルバイト・派遣社員などの有期雇用労働者等を、正規雇用労働者等に転換したり、直接雇用すること | 1人あたり 21万3750円〜72万円 |
②賃金規定等改定コース | すべてまたは一部の非正規雇用労働者に対して、基本給の賃金規定等を増額改定し昇給すること | 1人あたり 9500円〜12万円 |
③健康診断制度コース | 非正規雇用労働者を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、のべ4人以上実施すること | 1事業者あたり 28.5万円〜48万円 |
④賃金規定等共通化コース | 非正規雇用労働者に関して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を作成し、適用すること | 1事業者あたり 42.75万円〜72万円 |
⑤諸手当制度共通化コース | 非正規雇用労働者に関して、正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用すること | 1事業者あたり 28.5万円〜48万円 |
⑥選択的適用拡大導入時処遇改善コース | 雇用する非正規雇用労働者について、働き方の意向を把握し、被用者保険の適用と働き方の見直しに反映させる取組を実施し、新たに被保険者とすること | 1事業者あたり 14万2500円〜25万円 |
⑦短時間労働者労働時間延長コース | 短時間労働者の週所定労働時間を延長するとともに、処遇の改善を図り、新たに被保険者とすること | 1事業者あたり 16万8000円〜28万4000円 |
コースによって、キャリアアップ助成金の対象となる措置や、対象となる労働者等が異なります。
また、コースによっては、一定の要件に該当する場合、基本の支給額にさらに加算が行われるものもあります。
この後、コースごとに詳しく紹介していきます。
生産性要件を満たす企業や中小企業は助成金額が高くなる
キャリアアップ助成金の支給額は生産性の向上の有無、中小企業と大企業で異なります。
*生産性要件
「生産性要件」を満たすには、助成金の申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、以下のいずれかに当てはまる必要があります。
これらの条件に当てはまる場合、助成金額が高くなりますので、申請時には3年前と直近の自社の生産性を比較しましょう。
生産性とは、付加価値額を従業員数で割った金額で、厚生労働省ホームページよりダウンロードできるエクセルに入力することで計算できます。
- 生産性が、3年度前に比べて6%以上伸びていること
- 生産性が、3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
かつ、金融機関から一定の「事業性評価」を得ていること
*中小企業
「中小企業」とは、以下のように定義されています。この表に該当しない企業は「中小企業以外」になります。
基本的には中小企業の方が、それ以外よりも、高い金額の助成金の対象となります。
・出典:「令和2年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(詳細版)」
※一部、業種などで例外もあるので詳細は、上記のリンクをご確認ください。
対象となるための必要要件
キャリアアップ助成金を受給するには、事業主が次の要件をすべて満たしていなくてはいけません。
①の「雇用保険適用事業所の事業主」以外は、助成金申請を決めてからでも準備できる項目となりますので、早めに取り組んでいきましょう。
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主であること
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
キャリアアップ助成金・7コースの詳細(条件別支給額・申請期間)
それでは、キャリアアップ助成金の7つの各コースについて、より詳しく紹介していきます。
企業規模によって助成金額が異なり、また生産性要件の有無によっても助成金が異なってきます。
さらに、申請期間もコースごとに決まっていますので、しっかり確認しておきましょう。
①「正社員化コース」は中小企業で生産性要件を満たせば72万円
正社員化コースは、有期雇用労働者等の正規雇用労働者等への転換、または派遣労働者を直接雇用した事業主に対して助成するものです。
有期雇用労働者等の、より安定度の高い雇用形態への転換を通じたキャリアアップを目指しています。
正社員化コースの支給額
どのような措置を講じたかに応じて、一人につき以下の金額が支給されます。
雇用形態の変更点 | 中小企業の場合 | 中小企業以外の場合 |
有期雇用 → 正規雇用 |
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有期雇用 → 無期雇用 |
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無期雇用 → 正規雇用 |
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正社員化コースの申請期間
正規雇用労働者等への転換(派遣労働者においては直接雇用)後、6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内が申請期間となります。
②2%以上の賃金増額が対象の「賃金規定等改定コース」
賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者等の賃金規定等を増額改定し、昇給させた事業主に対して助成するものです。
有期雇用労働者等の処遇改善を通じたキャリアアップを目的としています。
賃金規定等改定コースの支給額
対象労働者数に応じて、以下の金額が支給されます。
- すべての有期雇用労働者等の賃金規定等を2%以上増額改定した場合
対象労働者数 | 中小企業の場合 | 中小企業以外の場合 |
1人~3人 (事業所あたり) |
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4人~6人 (事業所あたり) |
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7人~10人 (事業所あたり) |
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11人~100人 (1人当たり) |
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- 一部の賃金規定等を2%以上増額改定した場合
対象労働者数 | 中小企業の場合 | 中小企業以外の場合 |
1人~3人 (事業所あたり) |
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4人~6人 (事業所あたり) |
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7人~10人 (事業所あたり) |
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11人~100人 (1人当たり) |
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※さらに中小企業において3%以上増額改定した場合には加算があります
賃金規定等改定コースの申請期間
賃金規定等の増額改定後、6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に申請することが必要です。
③有期雇用者の制度規定が対象の「健康診断制度コース」
健康診断制度コースは、健康診断の実施が法定外の有期雇用労働者等に対する健康診断制度を新たに規定し、延べ4人以上に実施した事業主に対して助成するものです。
健康管理体制の強化を通じた有期契約労働者等のキャリアアップを目的としています。
健康診断制度コースの支給額
1事業者あたりの支給額は以下のとおりです。
中小企業の場合 | 中小企業以外の場合 |
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健康診断制度コースの申請期間
延べ4人目の健康診断を実施した日を含む月の分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に申請する必要があります。
④有期雇用者の処遇改善が対象の「賃金規定等共通化コース」
賃金規定等共通化コースは、有期雇用労働者等に対して正規雇用労働者と共通の賃金規定等を新たに作成し、これを適用した事業主に対して、助成されるものです。
有期雇用労働者等の処遇改善を通じたキャリアアップを目的としています。
賃金規定等共通化コースの支給額
1事業者あたりの支給額は以下のとおりです。
中小企業の場合 | 中小企業以外の場合 |
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※共通化した対象労働者(2人目以降)についての加算、同時に共通化した諸手当(2つ目以降)についての加算もあります。
賃金規定等共通化コースの申請期間
賃金規定等共通化後、6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内
⑤正規雇用労働者と共通の新制度が条件の「諸手当制度共通化コース」
諸手当制度共通化コースは、有期雇用労働者等に対して正規雇用労働者と共通の諸手当に関する制度を新たに設け、適用した事業主に対して助成するものです。
有期雇用労働者等の処遇改善を通じたキャリアアップを目的としています。
諸手当制度共通化コースの支給額
1事業者あたりの支給額は以下のとおりです。
中小企業の場合 | 中小企業以外の場合 |
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*対象労働者が最も多い諸手当制度について支給されます
諸手当制度共通化コースの申請期間
初回の諸手当の支給後、6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に申請する必要があります。
⑥短時間労働者のキャリアアップを目指す「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」
選択的適用拡大導入処遇改善コースは、労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置の導入に伴い、雇用する有期雇用労働者等に対し、働き方の意向を適切に把握し、被用者保険の適用と働き方の見直しに反映させる取り組みを実施し、新たに被保険者とした事業主に対して助成するものです。
社会保険適用を受けることのできる労働条件の確保を通じた短時間労働者のキャリアアップを目的としています。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの支給額
1事業者あたりの支給額は以下のとおりです。
中小企業の場合 | 中小企業以外の場合 |
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※措置該当日以降に新たに社会保険の被保険者となった有期雇用労働者等の基本給を一定の割合以上増額した場合、基本給の増額割合に応じて助成額の加算があります。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの申請期間
対象労働者に係る基本給の増額後、6か月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に申請する必要があります。
⑦短時間労働者のキャリアアップを目指す「短時間労働者労働時間延長コース」
雇用する有期雇用労働者等について、週所定労働時間を延長するとともに、基本給の増額を図り、新たに有期雇用労働者等が社会保険の被保険者に適用した事業主に対して助成するものです。
社会保険適用を受けることのできる労働条件の確保を通じた短時間労働者のキャリアアップを目的としています。
また、週所定労働時間を延長する時間数によって、支給額が異なります。
短時間労働者労働時間延長コースの支給額
- 短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し、新たに社会保険に適用した場合
中小企業の場合 |
中小企業以外の場合 (1人あたり) |
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- 労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長するとともに基本給を昇給し、新たに社会保険に適用させた場合
中小企業の場合 (1人あたり) |
中小企業以外の場合 (1人あたり) |
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1時間以上2時間未満 |
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2時間以上3時間未満 |
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3時間以上4時間未満 |
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4時間以上5時間未満 |
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短時間労働者労働時間延長コースの申請期間
労働時間を延長した後、6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内
キャリアアップ助成金の申請方法
キャリアアップ助成金の申請方法についても確認しておきましょう。
全コース共通の申請手順3ステップ
キャリアアップ助成金を受給するためには、どのコースにおいても、以下の手順が必要です。
(1)キャリアアップ計画の提出
キャリアアップ計画を作成し、各コースの取り組み実施日の前日までに、管轄の労働局に提出します。
計画書には、事業者名、雇用保険適用事業所番号等の提出事業者の基本情報に加えて、以下の項目の記載が必要です。
- キャリアアップ管理者情報(氏名、役職、配置日)
- キャリアアップ管理者の業務内容
- キャリアアップ計画期間(開始日、終了日)
- キャリアアップ計画期間中に講じる措置の項目
- 対象者
- 目標
- 目標を達成するために講じる措置
- キャリアアップ計画全体の流れ
(2)キャリアアップ管理者の配置・キャリアアップ計画の認定
提出したキャリアアップ計画について、労働局長の認定を受けます。
同時に、雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を配置します。
なお、キャリアアップ管理者は、複数の事業所を兼任することはできません。
かならず、各事業所ごとに配置する必要があります。
(3)申請書の提出
「支給申請書」に必要な書類を添えて、管轄の労働局へ支給申請します。
申請書等の様式や、添付すべき書類については、労働局へお問い合わせください。
提出はハローワークを経由して行える場合もあります。
各コースの申請期間
各コースに、キャリアアップ助成金を申請できる期間が定められています。
この期間内に、管轄の労働局へ支給申請をしなくてはなりません。
前述の各コースの詳細説明にてコース別に記載していますので、確認してください。
新型コロナウイルス感染症の影響等による特例
新型コロナウイルスによる影響で、在宅ワークや休業を行った企業も多いなか、コースごとに定められた期間内での申請が、困難あるいは不可能になることも考えられます。
令和2年4月7日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症の影響等に係るキャリアアップ助成金の手続きに関するQ&A」を発表しました。
ここには、新型コロナウイルスへの感染、もしくは感染予防の影響による手続きの特例について記載されています。
申請期間の1か月延長
支給申請期間内に助成金の支給を申請しなかったことについて、やむを得ない理由があるときは、当該理由のやんだ後、1か月以内にその理由を記した書面を添えて申請することができます。
計画の事前の提出に関する特例
本来、取り組みを行う前にキャリアアップ計画書や変更届を提出する必要がありますが、当該理由のやんだ後、7日以内にその理由を記した書面を添えて提出することができます。
2020年の改正で要件の緩和や加算額がアップ
助成金は、しばしば変更や改正が行われます。
キャリアアップ助成金も例外ではなく、2020年に改正が行われたばかりですので、改正点を確認しておきましょう。
正社員化コースの賃金5%要件の緩和
正社員化コースでは、賃金が5%以上増額していることが要件にありますが、この条件が次のように緩和されました。
旧要件:
転換前6か月間と転換後6か月間の賃金を比較して、5%以上増額していること
↓
新要件:
転換前6か月間と転換後6か月間の賃金を比較して、次のいずれかに該当していること
- 賞与を除き定額で支給されている諸手当を含む賃金の総額が、5%以上増額していること
- 定額で支給されている諸手当および賞与を含む賃金の総額が、5%以上増額していること
賃金規定等改定コースで5%以上の加算額がアップ
賃金既定等改定コースでは、5%以上の増額改定をした場合の助成金加算額が上がりました。
旧要件:
中小企業において3%以上の増額改定をした場合、助成額を加算
1人当たり14,250円、生産性要件を満たせば18,000円
(一部の賃金規定等改定:1人当たり7,600円、生産性要件を満たせば9,600円)
↓
新要件:
- 中小企業において3%以上5%未満の増額改定をした場合、助成額を加算1人当たり14,250円、生産性要件を満たせば18,000円
(一部の賃金規定等を改定:1人当たり7,600円、生産性要件を満たせば9,600円) - 中小企業において5%以上の増額改定をした場合、助成額を加算1人当たり23,750円、生産性要件を満たせば30,000円
(一部の賃金規定等を改定:1人当たり12,350円、生産性要件を満たせば15,600円)
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの拡充
選択的適用拡大導入時処遇改善コースでは、新たに助成金が得られる新設要件、加算要件が設けられました。
一方で、基本給の増額条件は吉備いくなっています。
新設要件:
労使合意に基づく任意適用に向けて、保険加入と働き方の見直しを進めるための取り組みを行った場合、助成金を支給
- 中小企業:1事業所当たり19万円、生産性要件を満たせば24万円
- 中小企業以外:1事業所当たり14万2,500円、生産性要件を満たせば18万円
新設要件:
有期雇用労働者等の生産性の向上を図るための取り組みを行った場合に助成額を加算
- 中小企業:1事業所当たり10万円
- 中小企業以外:1事業所当たり75,000円
旧要件:
新たに社会保険の被保険者となった有期雇用労働者等の基本給を2%以上増額した場合、助成金を支給
↓
新要件:
新たに社会保険の被保険者となった有期雇用労働者等の基本給を3%以上増額した場合に助成額を加算
まとめ
厚生労働省では、賃金アップや有期雇用者の労働条件の改善に力を入れており、キャリアアップ助成金もその施策の一つです。
助成金の最大のメリットは、返済が不要であることです。
またキャリアアップ助成金は、助成金を得られるとともに、取り組みによる従業員のモチベーションや企業へのコミットメント向上も狙うことができ、企業の組織強化にも繋がると考えられます。
最新の情報をチェックし、うまく助成金の制度も活用することで、経営状況の改善を行っていきましょう。