法定福利費とは?給与に対していくらかかる?経営者が知っておくべき内容を解説

法定福利費の概念

法定福利費とは、企業が従業員の福利厚生のために支払う費用のうち、その支払いが法律で義務付けられているものを指します。
具体的には社会保険料の会社負担部分を指し、これを会計上処理する際に、勘定科目として使用されています。

法定福利費は、企業にとってまとまった額の費用負担になります。企業の収益性を判断する上で欠かせない知識ですので、その内容をよく理解しておきましょう。

人件費のひとつに法定福利費がある

企業活動に必要な経費として人件費があります。
ただ、ひとくちに人件費といっても、従業員に支払う給与や業績によって支払われる賞与だけではありません。
企業が費用負担する福利厚生費も人件費に含まれます。

そして、法定福利費は福利厚生費の一つということができます。

法定福利費は、法律に基づき企業がその全部または一部を費用負担することが義務付けられています。

法律においては、健康保険法・介護保険法・厚生年金保険法・労働保険料徴収法などで費用負担義務が定められています。
法定福利費がイメージしやすくなるよう、その概要を簡単に確認しておきましょう。

(1)健康保険

健康保険は、従業員やその扶養する家族が加入する制度です。

業務外で病気や怪我をしたときに医療費の自己負担が軽減されるほか、入院により医療費が高額になったり、療養のために会社を休まざるを得なくなり収入が減少した場合などに、経済的負担を軽減する給付を受けることができます。

(2)介護保険

介護保険は、高齢者や障害者など介護サービスを必要としている人を支援するための制度です。

国や地方自治体が提供する様々な介護サービスを受ける際に、その経済的負担を軽減する給付を受けることができます。

(3)厚生年金保険

厚生年金保険は、企業に勤めている従業員が加入する制度です。

老後の生活を支える資金としての老齢年金を主軸に、障害や死亡についても給付金を給付金を受け取ることができます。

(4)子ども・子育て拠出金

国や地方自治体が行う子育て支援サービスを支える為に、企業が費用徴収されるものです。

(5)労災保険

従業員が業務中や通勤途中で病気にや怪我をしたときに医療費や療養にかかる補償を給付する保険です。
その他、障害を負ったり死亡した場合にも保険金が給付されます。

(6)雇用保険

育児や介護で長期休業せざるを得なくなった従業員や、何らかの理由で離職した元従業員の生活保障に必要な給付を行う保険です。

法定福利費と福利厚生費との違い

福利厚生費とは、企業が行う福利厚生制度にかかる費用負担を指します。

例えば、サークル活動・社員旅行の費用や、結婚・出産祝い金など、従業員の満足度を向上させ安心して働き続けてもらうために企業が独自に費用負担するものが福利厚生費です。

一方、法定福利費は、従業員の生活を支える社会保険制度を維持することを目的としている点、法律によって企業に負担義務が定められている点、という2点の違いから、福利厚生費であっても会計上は別々に計上されます。

法定福利費の処理

企業は、加入要件を満たす場合に社会保険に強制加入し、社会保険料を負担します。

社会保険料は全部で6種類あります。これらは、ひとまとめにして(広義の)社会保険料と呼ぶことができますが、費用の徴収形態の違いに着目して分類する方が理解しやすく、一般的といえます。

その場合、健康保険、介護保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金の4つのを(狭義の)社会保険料と呼び、雇用保険・労災保険の2つを労働保険保険料と呼びます。

以下ではこの分類に従って、それぞれの保険料の費用徴収の流れを説明していきます。

原則的な費用徴収の流れ

社会保険料は、原則として、企業側の負担部分と従業員の負担部分に分かれています。
この保険料を費用徴収する流れは、月次の給与支払い処理の際に行われます。

まず、給与支払い時の一般的なお金の流れを確認しておきましょう。

  1. 企業が、従業員に給与を計上する
  2. 従業員の負担部分を給与から天引きし、残額を従業員の給与口座に振り込む
  3. 企業の負担部分と従業員の負担部分を合わせて、年金事務所等へ納付する

次に、給与支払い時の費用徴収が会計上どのように処理されるのでしょうか。

企業の負担部分は、勘定科目「法定福利費」で計上します。
一方、あらかじめ給与から天引きした従業員の負担分は、勘定科目「預かり金」で処理を進めます。
給与支払いと保険料納付までの具体的な会計処理をみてみましょう。

 

設例

  • 従業員Aに給与250,000円を支払うとき、以下を天引きする

    【健康保険料】11,880円
    【厚生年金保険料】21,960円
    【雇用保険料】750円
  • 一方、企業は従業員Aに対し、以下の法定福利費を負担する

【健康保険料】11,880円
【厚生年金保険料】21,960円
【雇用保険料】1,500円

仕訳

  • (1)給与支払い時

    借方科目「給与」250,000
    貸方科目「普通預金」215,410

    「預かり金」 34,590
  • (2)保険料の納付時

    借方科目「預かり金」    34,590 
    貸方科目「普通預金」69,930

    「法定福利費」35,340

上記のように、給与支払い時に従業員負担部分の社会保険料を「預り金」として天引きし残額を支払い、保険料を納付するタイミングで企業負担部分を「法定福利費」として、あらかじめ天引きしておいた「預り金」とあわせ、社会保険料として納付します。

労働保険料の特殊性

もっとも、全ての保険料がこのような会計処理を行うわけではありません。

保険料のうち、社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金の4つ)は、「毎月保険料を納付する」形式ですので、前述した設例の会計仕訳の通りになります。

一方、労働保険(雇用保険、労災保険の2つ)は、「年1回、年度末に概算の保険料を納付し、翌年に実際の納付額を確定させて、概算の納付額との差額を精算する」形式です。

毎月の給与支払い時に従業員負担部分を給与から天引きし、企業の負担部分も計上することに変わりはありませんが、毎月の納付処理が発生しない為、企業の「法定福利費」を勘定科目「前払い費用」に振り替えておく必要が生じます。

 

仕訳

  • (1)毎月の給与支払い時

    借方科目「法定福利費」35,340
    貸方科目「前払い費用」35,340
  • (2)概算保険料の清算時

    借方科目「預かり金」    34,590
    貸方科目「普通預金」69,930

    「前払い費用」35,340

 

法定福利費の発生のポイント



ここまでは「法定福利費とは何か」「どのように支払うのか?」を順次確認してきました。
ここからは、それぞれの保険制度について「どのようなときに支払う必要があるのか?」に焦点をあてます。

保険制度はいずれも、従業員の雇入人数を主な要件として、要件を満たす場合に強制加入することになり費用負担する仕組みとなっています。
ただし、ここでも社会保険と労働保険で取扱いが異なりますので、この点を中心にみていきましょう。

社会保険への加入とは

健康保険厚生年金保険については、企業は業種や規模を問わず、「常時1人以上」の従業員を雇用する場合に強制加入となります。

加えて、従業員が厚生年金保険に加入している場合、企業は、子ども・子育て拠出金を負担する義務を負います。
厚生年金保険に加入している従業員の子どもの有無は関係なく、法律に基づき企業が負担することとされているものです。

また、個人事業主でも、一定の業種で「常時5人以上」の従業員を雇用する場合は強制加入となります。
一定の業種とは、例えば農林水産業のような家族経営的な色彩の強いものを指し、このような業種や、4人以下での小規模事業では加入義務はありません。

介護保険は、健康保険に加入している従業員を対象として40歳から加入し、64歳までの間、健康保険料と一緒に介護保険料を徴収する仕組みとなっています。

社会保険の加入要件の緩和

パート・アルバイト従業員に関しては、「週30時間以上」働く場合に加入することになっていましたが、2016年10月からは従業員「500人超」の企業について「週20時間以上」働くほか一定要件を満たす場合にも加入となり、対象が広がりました

こうした社会保険の加入要件の緩和は今後いっそう進む見込みです。
2020年5月29日に改正法案が可決されたことで、これまで対象となっていなかった業種やパート・アルバイト従業員でも加入義務が生じるようになりますので、注意しましょう。

労働保険への加入とは

労働保険は社会保険と異なり、労災保険と雇用保険で強制加入の要件が異なります。

労災保険、雇用保険とも、事業規模等に関係なく「常時1人以上」の従業員を雇用する場合に強制加入となりますが、加入対象者の範囲に違いがあります。
労災保険は、正社員だけでなくパート・アルバイト従業員も当然に加入対象となるのに対し、雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込みがある者が加入対象者となります。

 

法定福利費の計算



最後に、法定福利費を支払う必要がある場合に、「いくら支払うのか?」を確認していきます。

企業で事業計画を検討する際、人件費の概算計算が必要になります。
その際、企業において人件費を構成する各種費用の概算額を積み上げることとなりますが、法定福利費のみを考慮した人件費の概算は「給与×1.16+諸手当」で求めることができます。

企業の負担率「0.16(16%)」の内訳

法定福利費のみを考慮した人件費概算で用いた係数「1.16」を分解すると、このうち「0.16(16%)」が、企業の法定福利費の負担率合計を表しています。
では、法定福利費の負担比率の内訳はどのようになっているのでしょうか?

まず、社会保険料は企業と社会保険に加入している従業員がほぼ折半して負担していますが、企業側の負担率の合計は「15.32%」となります(保険料率は次の通りです)。

参考:令和2年度 健康保険・厚生年金保険の保険料率

  1. 健康保険料率     合計: 9.870%     折半負担:4.935%
  2. 介護保険料率     合計: 1.790%     折半負担:0.895%
  3. 厚生年金保険料率 合計:18.300% 折半負担:9.150%
  4. 子ども・子育て拠出金                企業のみ負担:0.340%

次に、労働保険料について企業側の負担率の合計は「0.0085%」となります。

なお、労働保険料率は事業の種類によって別々に設定されている為、ここでは最も保険料率の低い事業を想定しています。

参考:令和2年度 労災保険・雇用保険の保険料率

  1. 労災保険料率(製造業/電気機械器具製造業の場合)  企業の負担:0.0025%
  2. 雇用保険料率(一般の事業の場合) 合計:0.009% 企業の負担:0.0060%

これら社会保険と労働保険の企業負担部分の保険料率を合算した上で、計算の便宜上、小数点以下を切り上げて「0.16(16%)」としています。

人件費の概算計算例から分かること

最後に、下記設例を使用して法定福利費のみを考慮した人件費の概算計算をしてみましょう。

設例

基本給3,600,000円
賞与900,000円
残業代843,750円
通勤手当600,000円

(いずれも年間での支給額とする。)

基本給と賞与はいずれも給与に該当しますので、これらを合算した上で、法定福利費を含む人件費係数「1.16」を乗じます。
そして、そこに諸手当に該当する残業代と通勤手当を加算すると、人件費の概算計算が完了します。

計算

(3,600,000+900,000)×1.16 +(843,750+600,000円)=6,663,750円

もし、法定福利費だけを求めたい場合は「給与の16%」で計算が可能です。
設例に沿って計算すれば、「(3,600,000+900,000)×0.16=720,000円」となります。

この計算から分かることは、ある従業員に年間給与(額面)480万円を支払おうとすると、企業はこれに加えて法定福利費72万円を同時に負担することになる、ということです。

また、給与を受け取る従業員の側では、社会保険料と雇用保険料の個人負担部分がこの480万円から控除されます。
更に、ここから所得税と住民税が控除され手取り額が減っていきます。

人件費の概算計算からは、単純な人件費の規模感だけでなく、「給与としていくら支払うと、法定福利費などの付帯する人件費がいくら増えるのか」を読み解くことができます。