人事評価制度の作り方と運用のポイントを解説!成功事例や助成金も紹介

「人事評価制度を導入したいけれど、どう作ればいいのかわからない」という経営者の方はいらっしゃいませんか?

また、すでに導入している企業でも「うまく機能していない…」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

必要だとわかっているけれど、範囲が広く難解なのが人事評価制度です。
そこでこの記事では、前半では人事評価制度の作り方と運用のポイントを、後半では評価の種類やメリット・デメリット、助成金についてご紹介していきます。

職場の生産性向上、社員のモチベーションアップを望む経営者の方は、ぜひご覧ください。

人事評価制度とその目的

まずは人事評価制度がどのようなものか、その目的は何かを確認しましょう。

人事評価制度とは

人事評価制度とは、「社員の能力や仕事への意欲、業務の成績などについて評価し、その結果を等級や報酬に反映させる制度」です。

ただし詳細な決まりが特にないため、ルールや進め方にはいくつもの種類があります。それぞれの方法論を記載した関連本も、多く出版されている状況です。

また、「人事考課制度」は人事評価制度と同一と考えて問題ありません。

人事制度と人事評価制度

人事制度とは、「企業の人事における様々なルール全般」のことを指します。

そして人事評価制度も人事制度のひとつです。
人事制度には、ほかにも次のような制度がありますが「策定に最も手間がかかり、困難なものが人事評価制度である」といえます。

  1. 賃金制度
  2. 能力開発制度
  3. 昇格制度
  4. 教育制度
  5. 等級制度

人事評価制度を導入する目的

人事評価制度を導入する目的には、次のようなものがあります。

【目的①】企業の業績を向上させるため

人事評価制度を適切に実施すれば、社員のモチベーションが上がり、職場全体の生産性が向上します。
すると結果として、企業全体の業績も向上していきます。

【目的②】企業の目的・ビジョンを共有するため

人事評価制度で評価基準を明確にすれば、企業の目的やビジョンを社員が理解でき、共有することが可能になります。
ただしそのためには、「企業のビジョンにあった適切な評価基準」を作り上げることが必要です。

【目的③】社員の成長のため

評価項目によって「どんな行動を取れば評価が上がるのか=報酬が増えるのか」がわかれば、それに向けた努力をしやすくなります
そして社員が適切な努力を重ねれば、確実に成長につながります。

人事評価制度の作り方と運用のポイント

人事評価制度をどのように作り、運用するのか。ここでは、人事評価制度の作り方と運用のポイントを解説します。

人事評価制度の作り方

まずは、人事評価制度を作る流れをご紹介します。

大変手間がかかる作業のため、プロジェクトを立ち上げて、最低でも半年はかかると思ってください。
外部コンサルタントに依頼して作り上げる企業もあります。

①人事評価制度を行う目的を明確にする

はじめに「なぜ人事評価制度を行うのか」、その目的を明確にします。

これはつまり、「企業がどのようなビジョンに基づき業務をするのか」につながります。
そのビジョンをかなえるために、人事評価制度で何を行うべきかを確認してください。

ここで目的を明確にしておくと、次項からの「洗い出し」がスムーズに進みます。

②共通となる評価項目を洗い出す

次に、企業内でどの職種にも通じる「共通となる評価項目」を洗い出します。

どのような項目まで含めるのかは、評価制度の目的(企業のビジョン)から考えていきます。

③職種別の評価項目を洗い出す

3つめが、職種別の評価項目を洗い出すことです。

企業の規模や業務内容によっては、こちらは作成せず、前項の「共通項目」だけでも問題ないケースもあります。

④評価項目の難易度を設定する

次に「評価項目の難易度設定」です。たとえば5段階評価なら、どういったことができれば、「1~5」になるかを考えます。ここでも、基準になるのは「企業のビジョン」です。

また、多くの社員が現在どのレベルにいるのかを判断することも重要となります。
この判断がずれていると、ほとんどの社員が「低評価」となってしまうことも。
そのためには、後述する「最初の1年は試運転と考え、評価を給与に結び付けない」方法をおすすめします。

⑤評価の種類を決める

評価にもいくつかの種類があります。そこで、どの種類の評価を行うかを決めるのが5つめの工程です。

詳しくは項目「人事評価制度の「評価」の種類」で解説しています。

⑥社内に周知し、実際に評価する(運用開始)

ここまで決めたことをまとめ、社内に周知して、運用を開始します。

ただし、たとえコンサルを入れて作った制度だとしても、この時点で完全な仕上がりということはあり得ません。
企業の事業内容や風土、人数によって、求められるルールは微妙に異なるからです。

評価を開始したからといってプロジェクトは解散せず、運用して出てきた問題を改善し続けることを意識してください。

人事評価制度の運用のポイント

人事評価制度の運用のポイントは、「運用しながらつねにフィードバックを行い、より良い制度にブラッシュアップしていく」点です。
制度が成功するかどうかは「運用にかかっている」といっても過言ではありません。

作ったばかりの人事評価制度は、まだまだ不完全です。
さらに評価者の評価スキルもまだ低く、制度自体が社員に理解されてもいません。

少なくとも、最初の1年は試運転の期間と捉え、人事評価制度について挙がった問題は、小さなことでもフィードバックしましょう。この期間は「評価と給与を結び付けない」ことをおすすめします。

また社員に対しては、「なぜ人事評価制度を取り入れ、どのように評価が行われるのか」をしっかり周知することも必要です。

いきなり本格導入しようとは思わず、少しずつ改善しながら、企業にあった仕組みを作ってください。

人事評価制度の「評価」の種類

前項で解説したとおり、「評価」にもいくつか種類があります。
制度を成功させるためには、作成した評価内容に応じた適切な「評価」を選ぶことも大切。
ここでは、人事評価制度の一般的な「評価」3種類をご紹介します。

①目標管理(MBO)

1つめの「評価」の種類が、「目標管理(MBO:Management By Objective)」です。
マネジメントの父 ピーター・ドラッカーが提唱したことでも知られます。

「目標管理」とは、期のはじめに各社員が目標を立て期末に達成結果を検証し、その達成度で評価する方法です。

2013年に労務行政研究所が行った「目標管理制度の運用に関する実態調査」では、普及率は88.5%
多くの企業が導入しています。

②コンピテンシー評価

「コンピテンシー評価」が、2つめの「評価」の種類です。
「コンピテンシー評価」とは、「成績優秀な社員の行動特性(コンピテンシー)を基準として、評価を行う」方法。

行動特性から評価基準を明確にしているため、公正な評価を行いやすい点が特徴です。
社員も評価に納得しやすくなります。

ただし、行動特性から評価基準を作ることが大変困難
また業務の進め方などの変化があれば評価基準を作り直す必要があるなど、「環境の変化に弱い」こともコンピテンシー評価のデメリットといえます。

③多面評価(360度評価)

3つめの「評価」の種類が「多面評価」です。
一人の上司だけでなく、複数の人によって行う評価で「360度評価」ともよばれます。

複数の視点で行うため、「評価が客観的で公平になる」点がメリットです。
ただし評価者が多いために手間がかかる、評価者によって評価の質にバラつきがあるなどのデメリットも。

万能の評価方法ではありませんが、「社員の現在の状態を検証する」際には効果的な手法です。

人事評価制度を導入するメリット・デメリットと問題点

ここまで人事評価制度の作り方などをご紹介しましたが、それでは導入することでどんなメリット・デメリットがあるのでしょう。

ここでは人事評価制度を導入するメリット・デメリットと、よく挙げられる制度の問題点を解説します。

人事評価制度を導入するメリット

人事評価制度を導入するメリットは次のとおりです。

【メリット①】生産性が向上する

「評価されることが報酬につながる」ことが明確なら、社員のモチベーションも上がります。
その結果、企業全体の生産性向上につながります。

【メリット②】上司と部下のコミュニケーションが活性化する

部下は、上司が自分の働きをみてくれることで「報われた」と感じます。
上司は、部下をよく見ることで、これまで気づかなかったことにも気づくことも。
こうして、互いのコミュニケーションが活性化していきます。

人事評価制度を導入するデメリット

人事評価制度を導入するデメリットは次のとおりです。

【デメリット①】手間と時間がかかる

導入にはとにかく手間がかかります。
また前述のとおり、制度を作るだけではなく運用でブラッシュアップする必要があるため、完成には時間もかかります。

そのため運用しても改善が行われないケースが多いようです。
すると、せっかく制度は作っても、企業の目的をかなえることには繋がらなくなってしまいます。

【デメリット②】モチベーションが低下することもある

人事評価制度は作った時点では完全ではなく、運用しながら改善していく必要があります。
企業が改善をしっかり行わないと、評価制度に対しての不満が出ます

その結果、納得できない評価制度で頑張れず、報酬が下がることもあるため、社員のモチベーションが下がってしまうこともあり得ます。

人事評価制度の問題点

人事評価制度を運用するうえでの問題点として、次のことが挙げられます。
これらが起こらないような運用を行ってください。

【問題点①】評価にバラツキがある

同じ働きをしているのに、自分より同僚の評価が高い。
このように評価者によって評価にバラツキがあると、当然部下は納得できません

防止するためには、評価者研修を行って全体的な評価スキルを向上することが第一。
また適切な評価を行うためには、「明確な評価基準を作り出すこと」が必須条件となります。

【問題点②】制度が改善されていない

人事評価制度は作るだけでも大変な手間がかかるため、そこで満足してしまうことが多いようです。
すると不完全な制度で、評価者もあいまいなまま評価し、部下はその評価に納得できず、組織のモチベーションが低下してしまうことに。

何度も繰り返していますが、制度は作って終わりではありません
運用しながら改善していくことが、最も大切です。

【問題点③】仕組みが複雑で運用しづらい

人事評価制度の仕組みが複雑で運用しづらく、改善したくてもできない。
これは外部コンサルタントを利用して、制度を取り入れたときに起こりがちです。

コンサルに言われるがまま、よくわからずに導入。
企業の担当者もよく理解しておらず、当然改善も進まない
これではなんのために高いお金を払ったのかわかりませんね。

対策としては、まず「何のために人事評価制度を導入するのか」を明確にすることです。
そして、その目的を実現するための制度構築の手助けをコンサルに依頼します。

そのためにも業界を理解しており、わかりやすい説明をしてくれるコンサルを選びましょう。

人事評価制度を導入することで支給される助成金

人事評価制度導入に関連して、支給される助成金があります。
支給要件などを確認して、ぜひ利用しましょう。

人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)

人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)は、「人事評価制度と賃金制度を整備し、生産性の向上・賃金アップ・離職率の低下を図る事業主」に助成する制度です。

助成金額は次の2種類。

  1. 制度整備助成 50万円:生産性向上のための人事評価制度と2%以上の賃金アップを含む賃金制度を整備し、運用した場合に支給
  2. 目標達成助成 80万円:項目1に加え、3年後に人事評価制度を適切に実施し、生産性の向上・賃金アップ・離職率の低下についての目標を達成した場合に支給

助成制度について詳しくは、厚生労働省のウェブサイトをご覧ください。

厚生労働省:人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)

人事評価制度の導入事例

記事の最後に、人事評価制度の導入事例をご紹介します。ぜひ参考にしてください。

【事例①】㈱アスペック(システム開発)

「賃金規定が現状にマッチしていない」、「内勤者用の人事評価シートがない」などの課題があったアスペック。

導入した制度のポイントは「職務別の評価シートを新たに導入」、「評価項目を『できなかったこと』ではなく『できたこと、取り組んでいること』に見直した」とのこと。

導入した効果は「評価シートを職務別にしたことで、細やかな評価ができた」そうです。

評価項目が「加点主義」だと、「失敗」よりも「挑戦」を意識しやすくなります。
仕事へのモチベーションがあがるでしょうね。

【事例②】社会福祉法人ひまわりっこ(保育園)

保育園の共通の問題として「保育士の採用数が不足」していたひまわりっこ。
導入した制度のポイントは「『新しい専門知識や技術への取り組み』や『業務改善、工夫提案』など意欲の評価項目を設定」したこと。

制度導入の効果として、「人事評価シートを本人が自己チェックすることで、仕事の振り返りができ、業務改善につながった」そうです。
また有給休暇を取りやすくして、働き方改革にも取り組んでいます。

以上2社の事例のほかにも、厚生労働省のウェブサイトでは導入事例が公表されています。ぜひ参考にご覧ください。

厚生労働省:人材確保等支援助成金 活用事例

まとめ:運用と改善を繰り返す人事評価制度を

今回は人事評価制度の作り方と運用のポイント、評価の種類、メリット・デメリットなどについてご紹介してきました。「運用しながらの改善が大切」という点がご理解いただけたかと思います。

制度を導入には大変がかかりますが、職場の生産性向上と社員のモチベーションアップにつながります。
助成金もありますのでぜひ利用しながら、人事評価制度の導入を検討してみてください。

この記事が、あなたの企業経営のお役に立てれば幸いです。