育児休暇などの環境整備や、女性の活躍を進める企業を国が支援する「両立支援等助成金」制度。
経営者の方にはうれしい制度ですが、仕組みや要件が複雑なため、
「多くのコースがあるが、違いがわからない」
「何をすれば、いくら支給されるのかよくわからない」
という方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は「2020年度最新版 両立支援等助成金」の特徴と、その全コースについて詳しく解説していきます。
新規に創設された「新型コロナウイルス特例」についてもわかりやすくご紹介します。
社員のための環境整備をお得に進めたい経営者の方は、ぜひご覧ください。
また、両立支援等助成金以外にも中小企業が活用できる補助金・助成金はいくつもあります。
以下の記事でお勧めの13種類を纏めていますので、合わせてお読みください。
【最新】中小企業が利用できる補助金・助成金13選!目的・金額・条件を徹底解説
【最新版】2020年度(令和2年度)両立支援等助成金の特徴
まずは両立支援等助成金制度の概要と、最新となる2020年度版助成金の特徴をご紹介します。
両立支援等助成金とは?
両立支援等助成金とは、「社員が仕事と家庭を両立させるための制度」の導入や、「女性社員の活躍推進の取り組み」を行う事業主に対して、国が助成を行う制度です。
今年度分は当初、次の6コースでしたが「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」が急きょ、創設されました。
- 出生時両立支援コース:男性社員の育児休業取得を促進する取り組みに助成
- 介護離職防止支援コース:仕事と介護の両立支援の取り組みに助成
- 育児休業等支援コース:社員の円滑な育休の取得・復帰、代替要員の確保、 育休復帰後の支援の取り組みに助成
- 再雇用者評価処遇コース:育児、介護などを理由に退職した社員の復職支援の取り組みに助成
- 女性活躍加速化コース:女性が活躍推進するための取り組みに助成
- 事業所内保育施設コース:事業所内保育施設の設置や運営に助成(新規の受付は停止中)
2020年度(令和2年度) 両立支援等助成金の特徴
毎年、支給要件などの細かい変更が行われる両立支援等助成金制度。2020年度版の特徴として、次の2点が挙げられます。
【特徴1】新型コロナ感染症に関連する制度が新設
新型コロナ感染症による休業などに対応するため、関連する制度が新たに創設されました。
- 「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」創設
- 従来の「介護離職防止支援コース」に「コロナウイルス感染症対応特例」創設
【特徴2】従来コースの支給要件が拡充・一部緩和
従来のコースで以下のとおり支給要件が拡充・一部緩和されました。
- 出生時両立支援コース:個別支援加算の新設
- 介護離職防止支援コース:介護休業の取得日数の要件、介護両立支援制度の利用日数の要件を緩和
- 育児休業等支援コース:「子の看護休暇制度」で、取得時間の要件を緩和
- 女性活躍加速化コース:加速化AコースとNコースを統合
2020年度 両立支援等助成金 各コースの内容と助成金額
次に、2020年度両立支援等助成金の各コースの内容と助成金額、支給要件についてご紹介します。
また助成金には、コースごとの支給要件のほかに共通しての要件があります。共通要件はこちらをご覧ください。
1.出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
(1)コースの内容
「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」は、男性社員が育休を取りやすい職場風土づくりに取り組み、育休や育児目的休暇を取得した場合に事業主に対して助成金が支給されるコースです。
(2)助成金額
※:〈 〉内は生産性要件を満たした場合に支給される額
支給されるための、おもな要件は次のとおりです。
《①・②男性社員の育休取得》
- 育休を取りやすい職場風土づくりのための取組(*1)を行う
- 男性社員が、子の出生後8週間以内に開始する連続14日以上の育休を取る
- 個別支援加算:育休の取得前に個別面談を行うなど、 取得を後押しする取り組みを実施する
*1:育休取得に関する研修を実施する、利用促進の資料配布を行うな
《③育児目的休暇の導入・利用》
- 育児目的休暇制度を新規導入し、就業規則などで規定する
- 育児目的休暇を取得しやすい職場風土づくりのため、*1に準じた取り組みを行う
- 男性社員が、子の出生前6週間から出生後8週間の期間中に、育児目的休暇を合計して8日以上取得する
2.介護離職防止支援コース(新型コロナウィルス特例あり)
(1)コースの内容
「介護離職防止支援コース」は、「介護支援プラン」を作成しプランに沿って介護休業の取得に取り組んだ、または介護両立支援制度を導入した場合に事業主に対して助成金が支給されるコースです。中小企業の事業主のみが対象となります。
(2)助成金額
※:〈 〉内は生産性要件を満たした場合に支給される額
支給されるための、おもな要件は次のとおりです。
《A 介護休業》
- 介護休業の取得や職場復帰について、「プランに基づき支援する」ことを社員に通知している
- 介護を行う社員と面談し、その結果を記録。さらに今後の働き方などの希望を確認し、プランを作成する
- プランに沿って、社員が合計5日以上の介護休業を取得する
職場復帰時
- 介護休業を取得した社員に、上司または人事担当者が面談を行い、その結果を記録する
- 原則として原職に復帰させ、復帰後も3ヶ月以上継続雇用している
《B 介護両立支援制度》
- 介護両立支援制度を利用することについて、「プランに基づき支援する」ことを社員に通知している
- 介護を行う社員と面談し、その結果を記録。さらに今後の働き方などの希望を確認し、プランを作成する
- プランに沿って、 介護両立支援制度を社員が合計20日以上利用し、 申請日までの間継続雇用をしている
(3)新型コロナウイルス感染症対応特例
1中小事業主あたり5人まで申請可能。支給されるためのおもな要件は次のとおりです。
- 新型コロナへの対応として利用できる「介護のための有給休暇制度」を設け、その内容を社内に周知する
- 新型コロナの影響で介護のために仕事を休む社員が、前項の休暇を合計5日以上取得する
※休暇の取得期間は令和2年4月1日から令和3年3月31日まで
※申請期限は、支給要件を満たした翌日から2ヶ月以内
3.育児休業等支援コース
(1)コースの内容
「育児休業等支援コース」は、「育休復帰支援プラン」を作成し育児休業の円滑な取得や、職場復帰のための取り組みを行った事業主に対して助成金が支給されるコースとなります。このコースも、中小企業の事業主のみが対象です。
コース内には、以下の3つの助成金があります。
- Ⅰ 育休取得時・職場復帰時:「育休復帰支援プラン」に沿って、社員の育児休業の取得と職場復帰などに取り組んだ
- Ⅱ 代替要員確保時:育休を取得した社員の代替え要員を確保し、育休を取得した社員を原職復帰させた
- Ⅲ 職場復帰後支援:育休復帰後に仕事と育児の両立が困難な社員のため、看護休暇制度などを設けた
(2)助成金額
助成金額の各図の〈 〉内は、生産性要件を満たした場合に支給される額です。
《Ⅰ 育休取得時・職場復帰時》
支給されるための、おもな要件は次のとおりです。
A 休業取得時
- 育休の取得や職場復帰について、「プランに基づき支援する」ことを社員に通知している
- 育児を行う社員と面談し、その結果を記録。さらに今後の働き方などの希望を確認し、プランを作成する
- プランに沿って育休前日までに引き継ぎを行い、連続3ヶ月以上の育休を取得させる
B 職場復帰時
- 育休中に、職務や業務の情報資料の提供を行う
- 育休取得者にその上司または人事担当者が面談を実施し、その結果を記録する
- 育休取得者を原職に復帰させ、6ヶ月以上継続雇用する
- 職場支援加算:代替要員を確保せずに周囲の社員によって業務をカバーした場合に支給
《Ⅱ 代替要員確保時》
支給されるための、おもな要件は次のとおりです。
- 育休終了後、取得した社員を原職に復帰させる旨を就業規則などに規定する
- 社員が3ヶ月以上の育児休業を取得し、休業期間中の代替要員を新たに確保する
- 育休取得者を原職に復帰させ、6ヶ月以上継続雇用している
《Ⅲ 職場復帰後支援》
支給されるための、おもな要件は次のとおりです。
- 育児・介護休業法を上回る「 A: 子の看護休暇制度」または「 B: 保育サービス費用補助制度」を導入している
- 社員が1ヶ月以上の育休から復帰後6ヶ月以内に、導入した制度の利用実績がある
4.再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)
(1)コースの内容
「再雇用者評価処遇コース」は、妊娠、出産、育児、介護、配偶者の転勤などによる退職者について、退職前の評価をされたうえで再雇用された場合に事業主に対して助成金が支給されます。
(2)助成金額
支給されるための、おもな要件は次のとおりです。
- 妊娠、出産、育児、介護、配偶者の転勤などによる退職者について、退職前の勤務実績を評価し再雇用する旨の再雇用制度を明文化し、社員に周知している
- 制度に基づき、離職後1年以上経過している退職者を再雇用している
5.女性活躍加速化コース
(1)コースの内容
「女性活躍加速化コース」は、女性社員の活躍に関する課題分析を行い、「数値目標」とその達成に向けた「取り組み目標」を入れた行動計画を策定し、目標を達成した中小企業事業主に対して助成金が支給されます。
(2)助成金額
47.5万円 〈60万円〉 |
なお、助成は1企業1回限りで、これまで同助成金を受給した企業は対象となりません。
企業における取り組みと、助成金申請の流れは次のようになります。
- 女性社員の活躍状況を把握し、課題を分析する
- 課題解決にふさわしい数値目標と、その達成に向けた取組目標を盛り込んだ行動計画を策定し、女性の活躍推進企業データベースで公表する
- 取組目標を実施する
- 3年以内に数値目標を達成し、達成状況をデータベースで公表する
- 数値目標を達成した日の翌日から2ヶ月以内に、申請書を提出する
【最新版】2020年度(令和2年度)両立支援等助成金の特徴
「事業所内保育施設コース」は、事業所内保育施設の設置・運営費用を助成するコースですが、平成28年4月以降の新規申請受付を停止しています。
現時点で保育施設などの設置を行う場合には、企業主導型保育事業の助成制度の利用をおすすめします。
7.新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金
(1)コースの内容
「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」は、新型コロナウイルス感染症への対応として設けられた制度です。
令和2年2月27日から9月30日までのあいだに、「新型コロナウイルス感染症によって学校が休校になった、または子どもが感染した保護者に対して、年次有給休暇とは別に有給休暇を取得させた事業主」に助成金が支給されます。
夏休みや祝日など、学校の元々の休日は対象外となります。また、学校だけではなく保育園や幼稚園なども含まれます。
(2)助成金額
有給休暇を取得した労働者に支払った賃金日額×有給休暇の日数 |
ただし日額上限額があり、令和2年2月27日〜3月31日までの休暇分は8,330円。
4月1日以降取得分は15,000円となっています。
また上限額を超えた部分については、事業主負担となります。
両立支援等助成金の申請書(書き方)と提出先
助成金の要件をクリアしたら、次は申請書の提出です。ここでは、申請書の書き方と提出先について解説します。
両立支援等助成金の申請書と書き方
両立支援等助成金の申請書は、次の厚生労働省HPからダウンロードして使用します。
「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」の申請書はこちらです。
・厚生労働省:小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援のための新たな助成金を創設しました
また「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」については、概要と申請書の書き方をまとめた動画が厚生労働省で作られています。ぜひ参考にしてみてください。
書き方で気をつける点は、各コース共通で次のとおりです。
- 事業主名・署名や記名代表印の記入漏れ、押印漏れがないように
- 育休者・介護休業対象者の署名または記名押印で記入漏れ、押印漏れがないように
- 「面談シート」が必要なコースでは、面談確認者の署名または押印で記入漏れ、押印漏れがないように
- 本社と同一の雇用保険適用事業書番号で一括管理されている複数の事業所がある場合、名称と所在地を記載する
両立支援等助成金 申請書の提出先
「小学校休業等対応助成金」以外の両立支援等助成金 申請書の提出先は、各都道府県労働局の雇用環境・均等部です。相談窓口も同じですので、不明な点があった場合は一度問い合わせてみてください。
最寄りの雇用環境・均等部は、こちらで確認できます。
「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」申請書は、次の私書箱へ郵送となります。不明な点はこちらのリーフレットをご覧ください。
- 〒137-8691 新東京郵便局 私書箱132号 「学校等休業助成金・支援金受付センター」宛て
注意!
当初は「学校等休業助成金・支援金受付センター」へ直接郵送となっていましたが、8月1日から私書箱に変更されました。
助成金の共通要件と割増になる条件
両立支援等助成金を受給するには、コースごとの要件のほかに、共通の要件も満たすことが必要です。また、ある条件をクリアすれば助成金が割増になります。
記事の最後の項目として、ここでは共通要件3つと割増になる条件を解説します。
【要件1】受給できる事業主
助成金を受給する事業主は、次の3点をすべて満たす必要があります。
- 雇用保険適用事業所の事業主である
- 支給のための審査に協力する
- 申請期間内に申請する
【要件2】受給できない事業主
次のいずれかに該当する事業主は、助成金を受給できません。
- 以前不支給決定を受け、5年を経過していない
- 不正受給に関与した役員がいる
- 労働保険料を納入していない
- 過去1年の間に、労働関係法令の違反があった
- 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業を行っている
- 事業主や役員が、暴力団と関わりがある
- 事業主や役員が、破壊活動防止法4条で規定する団体に属している
- 支給申請日・決定日の時点で倒産している
- 不正受給が発覚した際に労働局が行う、「事業主名・役員名の公表」に承諾していない
【要件3】中小企業の範囲
各コースにある「中小企業」の範囲は、次のとおりです。
- 小売業(飲食業含む):資本額または出資額が5千万円以下、または常時雇用する労働者が50人以下
- サービス業:資本額または出資額が5千万円以下、または常時雇用する労働者が100人以下
- 卸売業:資本額または出資額が1億円以下、または常時雇用する労働者が100人以下
- その他:資本額または出資額が3億円以下、または常時雇用する労働者が300人以下
助成金が割増になる条件《労働生産性の向上》
「労働生産性」を向上させた事業所は、助成額または助成率が割増になります。
生産性を計算するのに使用するのは「生産性要件算定シート」で、勘定科目の額を損益計算書などから転記して算定します。
そして算出した生産性が次のいずれかにあてはまれば、助成金が割増となります。
- 3年度前に比べて6%以上伸びている
- 3年度前に比べて1%以上6%未満伸びて、金融機関から一定の「事業製評価」を得ている
申請書や詳細な説明については、こちらの厚生労働省HPをご覧ください。
・厚生労働省:労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます
まとめ:両立支援等助成金で職場環境の向上を
今回は、2020年度最新版 両立支援等助成金と、その全コースについて詳しく解説しました。
支給要件などわかりにくい部分もありますが、要件として実施する制度は社員の働きやすさが向上するものばかりです。
ぜひ両立支援等助成金を活用して、職場環境の向上に役立ててみてはいかがでしょうか。今回の記事がその手助けになれば幸いです。
両立支援等助成金とは?
また、両立支援等助成金以外にも中小企業が活用できる補助金・助成金はいくつもあります。
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