新型コロナウィルス対策として、多くの会社で浸透したテレワーク制度。
ですがあまりに急な実施だったため、本来実施すべき就業規則の修正などを行っていない会社も多かったようです。
この記事では、テレワークの基本知識から、制度導入のメリットや課題・やり方・実践事例まで紹介していきます。
正しいテレワーク制度の導入と、社員の生産性を向上させる方法を知りたい経営者の方は、ぜひご覧ください。
テレワークとは?
まずはテレワークの基本知識をご紹介します。
テレワークとは?
テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を利用して、会社などから離れた場所で仕事をする働き方です。
「tele(離れた):テレ」と「work (働く):ワーク」を組み合わせてできた造語として、「テレワーク」という用語が使われます。
新型コロナウィルス対策の非常事態宣言が出されたことをうけ、多くの会社でテレワーク(在宅勤務)が導入されましたが、3割の会社では「テレワーク制度の社内ルール」がない状態での開始でした(エス・ピー・ネットワークの調査より)。
また、緊急事態宣言解除以降は「テレワークをうまく取り入れた会社」と「元の働き方に戻った会社」とで、二極化が生じています(NTTデータの調査より)
テレワークの3つの形態
テレワークは、「働く場所」によって次の3つの形態に分類されます。
【形態1】在宅勤務
自宅を就業場所とする勤務形態が「在宅勤務」です。
社員は会社に出勤することなく、自宅のパソコンやインターネットを利用して業務を行います。
通勤する必要がないため、その分の時間などの負担を軽減することが可能です。
【形態2】モバイル勤務
移動中の交通機関(電車や飛行機など)やカフェ、出張中のホテルなど、自宅以外の場所で状況に応じて業務を行うのが「モバイル勤務」です。
ひんぱんに外出し、出張が多い営業マンに適した働き方といえます。
出張先でも上司や同僚と連絡を取り合うことで、情報の共有や業務の報告が行えるため、わざわざ会社に戻る必要がありません。
ムダな移動時間と経費が削減できます。
【形態3】サテライトオフィス勤務
本来の勤務場所とはべつの、「遠隔勤務用オフィス」に出勤して業務を行うのが「サテライトオフィス勤務」。
自宅が会社から遠い距離にある場合、社員の自宅に近いサテライトオフィスを会社が準備すれば、通勤時間を短くできます。
すると交通費を削減できるだけでなく、社員の疲労も軽減可能です。
また、「サテライトオフィス勤務」はオフィスの契約形態によって、2種類にわけることができます。
- 専用型:
あらかじめ会社が、自社の社員が利用することを想定してオフィスを用意するケース。
「社員の自宅が近い」という理由で利用するほか、出張中や移動中の社員が立ち寄って利用することもある - 共用型:
いくつかの会社がテレワークのためのスペースとして、共同で一つのサテライトオフィスを用意するケース。
「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」とも呼ばれる。
テレワーク制度を導入する会社側のメリット
テレワーク制度を導入することは、会社側に次のようなメリットをもたらします。
【メリット1】社員の生産性が向上する
自宅など静かな場所で仕事をすることで、集中力が高まります。
また通勤がないため、肉体的・精神的な疲労の軽減も。
すると結果的に、社員の効率や生産性が向上します。
またオフィスであれば、急な来客や打ち合わせなどで、集中力をそがれることがありますが、自宅やサテライトオフィスならそのようなことがありません。
会議もZOOMなどのツールで効率的に行うことで、ムダに時間をかけることも減ります。
【メリット2】ウィルスの流行・災害対策になる
2つめの会社側のメリットが、ウィルスの流行時や災害時の対策となる点です。
もしテレワークが一切できなければ、新型コロナウィルス対策として緊急事態宣言が出された際に、多くの会社で業務が継続不可となっていたことでしょう。
また震災が発生した場合、1箇所のオフィスに集中していると、社員のケガや機器の破損によって、業務の継続が困難になることもありえます。
しかしテレワークで社員や機器が分散していれば、災害が起こっても被害は最小限にとどまり、引き続き業務を行えます。
【メリット3】会社のイメージアップにつながる
もともとテレワークは、「働き方改革」のひとつの方法として政府から示されたものでした。
「非正規雇用の処遇改善」・「長時間労働の是正」と合わせ、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の手段として「副業・兼業の推進」とともに推進されたものです。
そのため、テレワークや副業の推進、長時間労働是正を進める会社の姿勢は、「働きやすい職場づくりを目指している」として会社のイメージアップにつながります。
テレワーク制度導入の会社側の課題
前項でテレワークのメリットをお伝えしましたが、導入すれば全てうまくいくわけではありません。
ここでは、テレワーク導入における会社側の課題を解説します。
【課題1】情報漏えいのリスクが高まる
会社外で社員が社内データを開く機会が増えるため、故意・過失を問わず「情報漏えいのリスク」が高まります。
カフェでモバイル勤務を行う社員のパソコン画面を、ライバル会社の社員が肩越しに見て情報を盗むこともあり得ます(「ショルダーハック」とよばれます)。
在宅勤務では、社員個人のパソコンなどを利用する場合が多く、ウィルス対策などのセキュリティ実施は、社員のITリテラシー頼みになることも。
社外でのデータの取扱いや、パソコンのセキュリティ対策についてしっかりとルールを決め、全社員に浸透させることが大切です。
【課題2】管理者の目が届かない
管理者の目が届かないため、プライベートと仕事の線引きがしにくくなったり、労働時間が把握しにくくなることが、2つめの課題です。
オフィスのように監視されることがないため、仕事をする時間や睡眠時間が不規則になり、生産性が下がることも報告されています。
また業務を行う時間を前もって決めておかないと、夜型体質の社員などは夜に業務を行うことが多くなり、深夜残業代など割増賃金が発生することも。
パソコンのログで勤怠管理を行うなど、テレワーク時のルールを前もって決めておきましょう。
おすすめのテレワーク制度導入ステップ
テレワーク制度のメリットと課題を把握したところで、次に、スムーズな導入の方法をご紹介します。
【手順1】社内の現状把握
まずは、社員の業務やICT機器など「社内の現状把握」を行います。
そのうえで「在宅勤務が可能か」、「必要なものは何か」を確認してください。
就業規則の内容について、「在宅勤務実施に矛盾する点がないか」も確認します。
在宅勤務で社員個人のパソコンやインターネット環境を利用する場合には、「社員がどういった機器を使っているか」、「性能的に業務に支障がないか」なども把握する必要があります。
【手順2】対象範囲の決定
次に、テレワークを行う対象者・対象業務・実施する頻度といった、「対象範囲」を決定します。
このとき、いきなり「すべての業務」を対象としてはいけません。
まずは、パソコン利用がメインのデスクワーク業務など、小さい「対象範囲」にすると導入を進めやすくなります。
また対象社員も、はじめは少人数からスタートすることがおすすめ。
いきなり全員が在宅勤務となって、慣れない環境で生産性が低下しては、業務に支障がでます。
少人数からスタートし、うまくいくようなら対象者を増やしていきます。
【手順3】就業規則・ICT機器など環境整備
手順1の現状把握において、不足とされた就業規則などの修正やICT機器などを整備します。
在宅勤務というと、自営業者のように「社員が自由な時間で働く」イメージがあります。
しかし会社の上司の指揮命令に従って仕事をする場合は、もちろん「労働法が適用」されます。
そして在宅勤務で就業時間などが変更になる場合には、就業規則を変更する必要があります。
そのほか次のような取り決めを行い、「在宅勤務規程」を作成すれば、テレワーク開始後に混乱することがありません。
- テレワーク実施時の労働時間
- テレワークの対象者
- テレワーク実施時の通信費の負担
- 業務報告の方法
- トラブル時の連絡体制
このようなルール作りの際は、次の厚生労働省ガイドラインが参考になります。
・厚生労働省:情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン
また、テレワークには次のツールが必須となります。どのツールを利用するのかも、この時点で決めておきましょう。
- 勤怠管理ツール:始業時間や就業時間を管理する
- 在籍管理ツール:社員が就業時間内に業務を行っていることを確認する
- 情報共有ツール:社員間で情報を共有する
【手順4】社員の教育
テレワーク導入のための就業規則や機器がそろったところで、対象社員に対して教育を実施します。
教育では、次のような項目を盛り込んでください。
- テレワーク制度導入の目的
- 導入後の勤務体制・時間
- 使用するICT機器とその取り扱い方法
【手順5】テスト運用
半年ほどの期間を設けて、テスト運用を実施します。
少人数の社員、複数の業務についてテスト運用し、現時点での課題を可視化します。
いきなり本格導入を行うと、必ず問題は発生します。
すると多くの社員は「やっぱりウチのような会社には、テレワークは向いていないんだ」とネガティブな印象を持つことに。
しっかりテスト運用を行い、課題を解決し、そのうえで本格導入すれば、会社にも社員にもメリットがあるテレワークが実施できます。
テレワーク制度に関する助成金や無料事業
テレワークの導入には、ICT機器の購入などの費用が発生します。
ですが国や地方自治体による、多くの助成金制度があります。
あなたの会社に適合する助成金を見つけて、ぜひ利用しましょう。
厚生労働省:令和2年度 働き方改革推進支援助成金(テレワークコース) ※受付終了
残念ながら今年度分の受付は終了してしまいましたが、厚生労働省の「令和2年度 働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」は、テレワークに取り組む中小企業事業主に対して、費用の一部を助成する制度です。
厚生労働省:働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース) ※受付終了
新型コロナウィルス感染症対策のためにテレワークを新規導入した中小企業事業主への助成を行うのが、「働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)」です。
現時点では受付は終了していますが、2次募集まで行われているため、今後も追加募集が行われる可能性があります。
追加募集がないか、厚生労働省のサイトで確認してみましょう。
・厚生労働省:働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)
経済産業省:IT導入補助金「特別枠」
中小企業等の生産性改善を目的に、IT機器の導入を支援するのが「IT導入補助金」です。
テレワーク導入については「特別枠」が対象となり、補助額は30~450万円。
8次締切分の受付は2020年11月2日です。
制度についてくわしくは、下記の公式サイトをご覧ください。
総務省:令和2年度 テレワークマネージャー相談事業
テレワークの導入を検討する企業に対して、テレワークの専門家である「テレワークマネージャー」が、無料で助言や情報提供を行うのが「テレワークマネージャー相談事業」です。
支援の実施期間は、2021年3月31日まで。
通常はテレワークマネージャーの現地派遣も行いますが、今年度分は新型コロナウィルス対策として、Web会議や電話での相談のみとなる場合があります。
利用を希望する方は、下記サイトから申請を行ってください。
地方自治体における補助金
地方自治体でも、テレワーク導入の補助金を策定しています。例として東京都の補助金を取り上げましたが、ほかの多くの都道府県でも補助金制度が設けられています。
【東京都】テレワーク定着促進助成金
中小企業のテレワーク環境整備に係る経費を助成するのが、東京都の「テレワーク定着促進助成金」です。
助成金額は最大250万円で、受付締切は令和2年(2020年)12月25日。
都が実施する「2020TDM推進プロジェクト」に参加などの条件があるため、くわしくは次の公式サイトをご覧ください。
テレワーク制度の実践事例
記事の最後に、テレワーク制度の実践事例をご紹介します。
総務省公式サイトでは、ここでご紹介した2社のほかにも、多数事例が記載されています。ぜひ参考にしてください。
【事例1】ディーシーティーデザイン〈青森県〉
青森は豪雪地帯のため、冬場は通勤に2時間以上かかることも。
そこで、通勤・移動時間短縮のためにテレワーク制度を導入したそうです。
2人のスタッフは事務所から100km離れた地域で、さまざまなツールを活用して業務を実施。
仕事の効率が良く、生産性が向上したとのこと。
また外注件数が2~3割減り、人材選択の幅が広がるというメリットがありました。
【事例2】向洋電機土木株式会社〈神奈川県〉
慢性的な人手不足と、高齢化が進む建設業界。
会社の成長と可能性を広げるために、テレワークを導入したそうです。
導入後は、移動コストや電気料金などのコストが大幅に圧縮され、生産性も向上。
また時間を自由に組みやすくなり、働く場所の選択肢が増えるなど、働きやすい企業に生まれ変わったことで、女性社員が増え活躍するというプラスの面が生まれました。
まとめ:テレワーク制度を上手に導入して社員の生産性向上を
今回は、テレワークの基本知識から、制度導入のメリットや課題・やり方・実践事例までご紹介しました。制度の導入に必要な手順なども、ご理解いただけたかと思います。
テレワーク制度がうまく実施できれば、間違いなく社員の生産性が向上します。
ぜひ補助金などを活用して、テレワーク制度を取り入れてみてください。