M&Aの裏側では、多くの専門家たちが専門知識を屈指しながら、M&Aの成功へ向けてさまざまなサポートをしています。
税理士は、M&Aを行う場合に最も高額な費用となることの多い「税」に関するタックスプランニングを行い、クライアントのニーズと照らし合わせながら最適な方法をプランニングしています。
公認会計士は、M&Aの対象企業の財務面での監査業務を行い、事業計画書には表出していない潜在的な経営リスクや企業価値についての精査を行っています。
この2者と並び、M&Aとは切っても切れない関係の深い専門家が弁護士です。M&Aはその過程で多くの契約書を結び、その効力は締結後数十年先にまで及びます。
また、M&Aの対象企業の監査は財務面だけでなく法務面についても行うため、法律知識がなければ解決することはできません。これらの業務を行っているのが弁護士です。
そこで本日は、M&Aにおける弁護士の役割について解説し、弁護士に依頼する場合のメリットや費用からその選び方などをご紹介します。
M&Aとは
M&Aにおける弁護士の役割をお話しする前に、まずM&Aに関する基本事項のおさらいをしておきましょう。
M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略語で、狭義的には企業再編のための吸収・新設合併や株式の売買による企業買収を意味しますが、広義的には企業同士の資本提携や事業承継をともなう経営戦略を意味します。
M&Aというと、経済紙などで取り上げられる大企業同士によるものをイメージしがちですが、実際には中小企業同士によるM&Aの方が圧倒的に数は多く、活発に行われています。
M&Aの目的
企業がM&Aを行う目的は、おもに以下の3つです。
- 企業内の組織再編を行い、不採算部門の切り離しや経営資源の集約化により経営の効率化を図る
- 既存事業の強化や新規分野への参入
- 事業承継問題の解決
このように、M&Aによる経営戦略は企業が抱えている多くの問題を解決することができるため、大企業だけでなく中小企業にも積極的に用いられています。
M&Aによるメリット
中小企業がM&Aを行う場合のメリットは、おもに以下のものが挙げられます。
売り手側のメリット
- 事業承継問題が解決する
- 従業員の雇用が守られる
- 社名や法人格を残すことができる(M&Aの手法によっては)
- 創業者利益を確保することができる
買い手側のメリット
- 新規事業への参入リスクやコストを低減することができる
- 一から立ち上げる手間や時間を圧倒的に短縮することができる
- 事業規模の拡大によりコストダウンを達成することができる
M&Aによるデメリット
いっぽう、M&Aのデメリットには、おもに以下のものを挙げることができます。
売り手側のデメリット
- 理想通りの買い手が必ずしも見つかるというわけではない
- M&A後の企業戦略は買い手側が決めるため、社名の維持や従業員の雇用などが本当に守られるかどうかは買い手次第となる
買い手側のデメリット
- M&A後の統合に失敗し、思ったようなシナジー効果が上がらない場合がある
- 事業規模の急速な拡大により、企業経営がうまくいかない場合がある
- のれんの減損リスクがある
このように、M&Aは何でもできる魔法の杖のような存在であると同時に、一歩間違えれば企業の存続そのものを揺るがしな寝ない諸刃の剣としての側面を併せ持っています。こういったリスクを少しでも減らすために、弁護士をはじめとする多くの専門家がM&Aには関わっています。
M&Aの流れ
では次に、M&Aの流れについて簡単に整理してみましょう。同時に、M&A全体の流れの中で、弁護士はどの部分でどのような働きをしているのかも確認しておきましょう。
M&Aはおもに以下の流れに沿って行われます。
- M&Aのための事前準備
- 買い手候補へのアピール
- 買い手候補の絞り込み
- M&Aのための条件交渉
- M&A成立と事業引継ぎ
それでは、それぞれの項目について確認していきましょう。
M&Aのための事前準備
まず、M&Aの目的を整理し、最終目標を設定します。M&Aがスタートすると、通常業務と並行して買い手候補の選定や交渉を行わなければなりません。そうなると、じっくりと考える時間がなくなってしまいますから、はじめにできるだけ時間をかけてM&Aのための準備を行います。
売り手にとってM&Aの成功はそれぞれことなります。従業員の雇用を第一に考える場合もあれば、売却金額が希望金額を超えることを第一に考える場合もあります。いずれにしても、ご自身にとって何を最も優先するのかを整理し、M&Aの成功の定義をしっかりと定めておきます。
成功の定義や目標が決まったら、M&Aアドバイザーとの契約を結びます。
買い手候補へのアピール
まず、M&Aアドバイザーとともにショートリスト(買い手候補先リスト)を作成し、自社に関する詳細な情報を伏せた状態でのノンネームシート(匿名情報リスト)を渡して反応をみます。
興味を示した相手とは、守秘義務契約を結んだうえで詳細な情報を開示し、買収を検討してもらいます。
ちなみに弁護士は、この守秘義務契約書の作成やリーガルチェックを行います。
買い手候補の絞り込み
買い手候補からM&Aの条件や価格などをまとめた「意向表明書」を提出してもらい、各候補の責任者(経営者)とのトップ面談を行います。ここでお互いの印象を確認し、M&A後の経営方針などについて話し合いを行います。
面談後、買い手候補を1社に絞り、M&Aに向けた基本合意書を締結します。この基本合意書の作成やチェックも、もちろん弁護士が行います。
M&Aのための条件交渉
基本合意書を締結すると、M&Aの買い手企業は、対象企業の事業実態はもちろんのこと財務や法務に問題がないかどうかのチェックを徹底的行います。これを「デューデリジェンス」といいます。
デューデリジェンスはおもに法務面と財務面で行われ、法務デューデリジェンスは弁護士が、そして財務デューデリジェンスは公認会計士が行います。
弁護士や会計士などの専門家は、対象企業の現時点で抱えている問題や将来のリスクなどを徹底的に洗い出し、その結果を踏まえた上でM&A価格の修正交渉が行われます。
最終的な交渉の結果、細部まで合意ができればその内容を最終契約書に記載し押印します。この契約書の作成やチェックも、もちろん弁護士の仕事です。
M&Aの成立と事業引継ぎ
M&Aの契約を締結したら、社員や関係者に対してM&Aの成立を発表します。また、会社が保有している経営者の個人資産の精算や株式譲渡のための必要書類を準備し、M&Aの成立日までにやるべきことを粛々とこなしていきます。
M&A成立後は事業の引継ぎを行い、場合によっては半年~1年ほどの間売り手側の経営者は「顧問」などの肩書で会社に残ります。
M&Aにおける弁護士の役割
それではここであらためて、M&Aにおける弁護士の役割についてまとめてみます。M&Aにおける弁護士の役割とは、おもに以下の3つです。
- M&Aスキームの検証
- 法務デューデリジェンスの実施
- 契約書類の作成やリーガルチェック
- M&A実行後の支援
M&Aスキームの検証
中小企業がM&Aを行う場合、おもに以下の4つのスキームのどれかが用いられています。
- 単純な株式売買によるスキーム(株式譲渡)
- 分割型分割による会社分割スキーム
- 事業譲渡によるスキーム
- 分社型分割による会社分割スキーム
どのスキームを選ぶべきかの検証について、税務的な面については税理士や公認会計士によって行われますが、法務的な面からの検証については弁護士が行います。
法務デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスを十分に行わないままでM&Aを実施してしまうと、その後対象企業の重大な法令違反が発覚した場合に、刑事・民事での責任を含む予期せぬトラブルに巻き込まれてしまうリスクを負うことになってしまいます。
万が一不測の事態が起きてしまうと、最悪の場合経済的な負担や信用低下により事業の継続が不可能となってしまうことがあります。
このようなリスクを避けるために、弁護士によって対象企業の法務リスクを徹底的に洗い出し、M&A実施後のトラブルを事前に防ぎます。
契約書類の作成やリーガルチェック
M&Aは売り手と買い手の「合意」によって行われるため、その内容を書面化しなければなりません。そのため、M&Aは要所要所で契約書を作成し、その都度締結しながら進めていきます。
これらの契約書は、表明保証や契約事項、賠償責任などの各条項を個別に作成していくため、大変な手間と時間が必要となり、契約書類のボリュームもかなりのものになります。
こういった契約書類の作成やリーガルチェックができるのは、専門家の中でも弁護士だけです。
M&A実行後の支援
法務デューデリジェンスで見つかった法的リスクは、M&A前までにすべてが解消できない場合があります。一定のリスクがしばらくの間残る場合は、M&A後も顧問弁護士として企業に残り、万が一の場合に備えておくことができます。
労務問題の解消
M&Aを行う場合、売り手企業の従業員との間で残業代の未払いや不当解雇などに関するトラブルや訴訟が起こる場合があります。弁護士であれば、こういったトラブルに対して対応することができます。
このように、M&Aにおける弁護士の役割はかなり広範囲に渡っており、要所要所で必要な法的業務のほぼすべてを担っています。
M&Aにおける弁護士の選び方とその費用について
最後に、M&Aの業務を弁護士に依頼する場合の選び方とその費用について解説していきます。まずは弁護士の選び方についてです。
M&Aにおける弁護士の選び方
弁護士は法律全般に関する幅広い知識や経験を持っていますが、すべての弁護士がM&Aの業務に精通しているわけではありません。そこで、M&Aの業務を依頼するための弁護士選びの基準について、いくつかご紹介します。
基準① M&Aの知識と経験が豊富である
医師に専門分野があるように、弁護士にも得意な分野とそうでない分野があります。M&Aに関する依頼を弁護士にするのであれば、できるだけM&Aの経験が豊富な弁護士を探して依頼した方がよいでしょう。
基準② 自社と同規模のM&Aの経験が豊富である
M&Aといっても、大企業の案件と中小企業の案件とでは進め方や内容がまったくことなります。したがって、自社と同規模のM&Aの案件をこなした数が多い弁護士に依頼した方がよいでしょう。
基準③ M&Aのサポートを一貫して行える
「M&Aの契約書の作成のみ」や「法務デューデリジェンスのみ」しか受けてもらえなければ、別の分野はまた別の弁護士を探さなければなりません。そのようにならないために、弁護士の関わるすべての分野を一貫してサポートすることができる弁護士を探しましょう。
基準④ 自分との相性が良い
どれだけ優秀な弁護士であっても、自分との相性が合わないと感じたら依頼するべきではありません。肝心な部分で意思の疎通が上手くいかなければ、M&Aそのものが失敗に終わってしまう可能性もあります。
自分との相性が良く、「何でも話せて頼りがいがある」と感じることができるような弁護士に依頼しましょう。
弁護士に依頼した場合の費用について
M&Aは案件の大きさや複雑さによって、弁護士に依頼した場合の費用がことなります。したがって、ここでは費用の概算をご紹介します。
費用① 初回相談
初回の相談費用は、無料~数万円(相談時間や時間単価による)ほど必要となります。
費用② 着手金
弁護士に依頼することを正式に決めた場合は、まず着手金を支払います。契約によっては着手金無料の場合もありますが、多くは数十万円~数百万円程度を着手金として支払います。
費用③ 法務デューデリジェンス費用
デューデリジェンスに必要な時間によって費用は大幅に変わります。小規模のものであれば数十万円程度で済みますが、大型の案件になると数千万円程度が必要となります。
費用④ 契約書作成料
デューデリジェンス費用と同様で、作成する契約書の内容や量によって費用はことなります。小規模のものであれば数十万円程度で済みますが、数が増えると数百万円程度は必要となります。
費用⑤ 顧問料
M&Aの期間中に弁護士と顧問契約を結ぶ場合には、月額で数万円から数十万円程度の費用が必要となります。
費用⑥ M&A報酬
弁護士とM&Aのアドバイザリー契約を結んでいる場合には、レーマン方式によって算定された成功報酬を支払います。報酬はM&Aの規模や契約によってことなりますが、報酬率はM&Aの規模が大きくなればなるほど小さくなります。
このように、弁護士に依頼する場合は、依頼内容によって報酬額が細かく変わるように設定されてる場合がほとんどです。ですから、ご自身にとって必要な部分をまず洗い出し、その部分だけはしっかりと依頼するのが最も高率の良い依頼方法となるでしょう。
まとめ
M&Aの専門家というと、企業価値評価や財務監査などで活躍する公認会計士を連想する方が多いと思いますが、実は公認会計士に負けないほど弁護士も活躍しています。
頼み方によっては報酬が高額になってしまう場合もありますが、複数の契約を交わすM&Aにおいて弁護士の存在は欠かすことができません。
後悔しないM&Aを行うためにも、ご自身が安心して任せることができる弁護士に依頼するように心がけましょう。
事業承継の方法や後継者が決まっていなくても、まずは無料相談が可能です。
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