デューデリジェンスとはどんな意味?どんな目的で行うの?
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&Aを行うときに売り手側について調査して実態を把握することです。
買収側(譲り受ける側)が、売却側の企業の財務・税務、法務などの詳細な状況を専門家のもとで詳しく調査します。
M&Aを行う中小企業が増えたことで、あまりM&Aについての知識や経験がない経営者もM&Aに関わることが増えました。
それによって、売却側の経営者に「相手を欺こう」という気持ちがなくても、企業や事業の正しい情報を伝えられていないケースもあります。
そのため、M&Aを行う企業や事業のことを詳しく調査して、双方にとって予想外のトラブルがないようにする必要があります。
あとあと認識違いが露見すると、損害賠償請求のような事態になりかねません。
こういった背景から、近年では、デューデリジェンスの必要性が高まっています。
対象となる企業や事業の価値を適切に双方が認識した上で、M&Aは進めて行くことが重要です。
デューデリジェンスの主な7つの種類
デューデリジェンスは、調査する対象によって種類分けできます。
代表的なデューデリジェンスは、以下の通りです。
- ビジネス(事業)について
- 財務について
- 税務について
- 法務について
- 人事について
- ITについて
- 環境について
このように、いろいろな面から企業や事業について詳しく調査していきます。
しかし、M&Aはデューデリジェンス以外にも多くの手続きを必要とするので、時間やお金の使い方は考えなければなりません。
そのため、買収側が必要に感じたものを選んで調査していきます。
それぞれの意味や目的について、それぞれ確認していきましょう。
「ビジネス(事業)デューデリジェンス」の意味と目的
ビジネス(事業)デューデリジェンスとは、対象となる企業や事業のビジネスモデルや将来性を調査するものです。
マーケット全体の現状を把握した上で、調査対象企業のポジションを考え、M&Aを実施して効果があるのかを検証します。
主に外部環境が売上に与える影響、内部環境がコストに与える影響を調査することになります。
外部環境の場合には5フォースやPEST分析、内部環境の場合にはVRIOやバリューチェーンなどのフレームワークを用いて分析しすることも多くあります。
これらによって、売却側の現状と将来性やリスクを把握し、事業計画の妥当性を明らかにします。
買収を行うことによって想定される、シナジー(相乗効果)について、分析や定量化を行うのも、ビジネスデューデリジェンスの一部です。
「財務デューデリジェンス」の意味と目的
財務デューデリジェンスとは、対象となる企業や事業の財務面について調査するものです。
例えば、財務状態や資金繰りの状況を調査し、買収後に大きなリスクがないかどうかをチェックします。
不正な取り引きがないか、将来的にも収益が期待できるのか、債務の状況に問題はないか、といった財務についての幅広い内容を確認するのが財務デューデリジェンスです。
売却側は、財務関連の議事録や損益計算書、貸借対照表などの書類を買収側に提出して協力します。
「税務デューデリジェンス」の意味と目的
税務デューデリジェンスとは、対象となる企業や事業の財務リスクの有無について調査するものです。
もしもM&Aで企業や事業を買収した後、税金の申告ミスが発覚したら買収側は損をしてしまいます。
そのため、事前に適切に税金を申告して納税をしているのかどうかを確認するのです。
また、繰越欠損金の処理や含み損のチェックまで、幅広い内容を調査することもよくあります。
調査のときに納税し忘れている税金が発覚したら、売却側が申告と納税をするなど対処をしてからM&Aをそのまま進めていくのか話し合うことになるでしょう。
「法務デューデリジェンス」の意味と目的
法務デューデリジェンスとは、対象となる企業や事業の法務面でのリスクの有無について調査するものです。
例えば、債権債務の状況が適切かを見るために、今までに売却側が結んだ契約書を確認するケースが考えられます。
もしも売却側に法務上のリスクがあると、買収側はM&A後に訴訟の対応や和解の手続きなど時間や費用の負担が発生してしまうでしょう。
そのようなことを避け、経営への影響を出さないようにするために、法務デューデリジェンスは行われます。
知的財産権の侵害の有無や、未払い残業代等の人事労務管理についての法的な問題の有無についても入念に調査することが多いです。
どこまでの範囲を調査するのかは、担当の専門家と買収側が話し合って決めます。
「人事デューデリジェンス」の意味と目的
人事デューデリジェンスとは、対象となる企業や事業における組織や人事ついて調査するものです。
例えば、給与体系や評価制度、教育方法、就業規定など、調査する内容は幅広いものがあります。
会社経営をする上で、非常に重要なのが人材です。
特に、経営層や幹部人材の引き止め(リテンション)がM&Aの成功可否に大きく影響する場合には、そのリスクの把握を把握し、適切なコミュニケーションを取る必要があります。
財務や法務のデューデリジェンスに比べて一般的ではありませんが、必要に応じて人事デューデリジェンスを丁寧に行っておくことで、M&Aをしてからの統合作業がスムーズにいきやすくなります。
「ITデューデリジェンス」の意味と目的
ITデューデリジェンスとは、対象となる企業や事業に関係するITについて調査するものです。
例えば、経理税務、人事労務に関する管理系のシステムや、顧客に関するシステムなどの現状を把握し、買収後にどのようにシステムを統合していくのかを考える調査です。
売却側のシステムが複雑でメンテナンスが難しい場合、買収側のシステムとスムーズに統合ができず、予想外の手間やコストがかかってしまいかねません。
M&A後に通常業務を円滑にスタートするために、近年ではITデューデリジェンスを行うことが増えています。
「環境デューデリジェンス」の意味と目的
環境デューデリジェンスとは、対象となる企業や事業に環境リスクがないかを調査するものです。
製造業、運送業等、環境負荷が高い業種の場合に行われます。
環境に関する法律違反がないか、環境によって企業の評判が下がることはないのか、といった幅広い観点から調査します。
いくら収益性の高いビジネスだとしても、近隣住民を騒音や振動で苦しめるようなら良いビジネスだとは言えません。
騒音や振動以外にも、土壌汚染や大気汚染、危険物質の取り扱い方など、さまざまなポイントが調査されます。
もしも問題が見つかったなら、M&A前に売却側が早急に対応しなければならないケースも多いです。
ここまで、デューデリジェンスとしてよく行われる7つの種類を紹介しました。
どの種類をどこまで行うのかは、M&A仲介会社や経営コンサルタントといった専門家とじっくり話し合いましょう。
調査の必要性や種類がわかったところで、ここからはデューデリジェンスを進めていく流れについて確認していきます。
デューデリジェンスを実施する手順・流れ
調査を実施するうえで、基本となる流れを確認しておきましょう。
チェックする内容や関わる人について事前に知っておけば、安心してデューデリジェンスを進めていけます。
デューデリジェンスの主な手順は、以下の通りです
- 買収側が専門家に依頼する
- 専門家が資料によってM&A概要を確認する
- 買収側が専門家と共にデューデリジェンスの内容を決める
- 専門家が必要な追加資料を売却側に要求する
- 専門家がすべての資料を確認し現地調査に備える
- 専門家が売却側の企業に訪問し現地調査・経営陣への質疑応答を行う
- 専門家が買収側に報告書をもとに結果を説明する
もちろん、M&Aの内容によって、細かな手順は異なります。
専門家が書類と現地の状況を調査し、リスクを洗い出してくれるのが基本的なやり方です。
売却側の企業が買収側にとって遠方なら、資料による調査だけで済ませたくなるかもしれません。
しかし、資料だけでは分からず、口頭でのヒアリングを行って初めて課題や問題点が出てくることも多いので、M&Aで予想外のリスクを抱えないためには現地調査もしておいたほうが良いとされています。
以上のように、デューデリジェンスには複数の手続きがあるので、費用や期間についても考えておかなければなりません。
デューデリジェンスの実施のポイント
デューデリジェンスに必要となる費用や期間
調査は専門家に依頼して行うので、費用や期間がかかります。
事前に必要な費用や期間を考えて計画を立てておかなければなりません。
デューデリジェンスはM&Aの中でも、後半の段階で行われます。
具体的には、基本合意契約を結んでお互いがM&Aに前向きであることを確認してから、実施する種類や調査内容を決めることになるでしょう。
中小企業のM&Aなら、書類調査と現地調査をあわせても3日〜7日程度でデューデリジェンスが完了することが多いです。
どれだけ期間を短くできるのかは、現地調査以外の書類集めや書類分析がスムーズに行えるかに大きく左右されます。
調査にかかる費用は、行う調査の種類や内容、依頼する専門家によって異なるので一概には言えません。
専門家に依頼すれば数十万円〜数百万円ほどかかるので、事前に見積もりを出してもらうことも大切です。
以上のように、デューデリジェンスには費用や期間がかかるので、行うべきか悩む人もいるはずです。
しかし、M&Aの際に調査をまったく行わないのは問題が生じやすいので気をつけたほうが良いとされています。
デューデリジェンスを行わない場合の問題点
調査をまったく行わない場合、問題が生じるケースが多くなります。
M&Aで一番の問題としては、多額の費用をかけてせっかく買収したのに効果が得られないという状況に陥ることです。
シナジー効果を得られないばかりか、買収が完全に無駄になってしまうこともあるのです。
売却された企業や事業が法務リスクや税務リスクを抱えていることに気が付かずに買収し、大きな損失を被ることも珍しくありません。
M&Aを実施する前に調査をしっかりしておけば、事業計画の妥当性、各種リスクを適切に把握することができ、M&Aの成功確率があがります。
中小企業の場合には、大きな予算をかけて行うことは難しいでしょうが、専門家と相談しながら必要な項目についてはデューデリジェンスを実施することをおすすめします。
デューデリジェンスを行う上での留意事項
デューデリジェンスを行うときには、知っておくと良いポイントがあります。
調査の際に特に重要なポイントは、以下の通りです。
- 調査のタイミングに気をつける
- 調査の事実を不必要に広めないようにする
- 必要な調査だけを行えるように事前に計画を立てる
これらのポイントを押さえておくことで、デューデリジェンスで失敗することが減るはずです。
それぞれのポイントについて、順番に確認していきます。
調査のタイミングに気をつける
まずは、デューデリジェンスは適切なタイミングで行うようにしましょう。
出典:中小企業庁:事業承継ガイドライン 20問20答 問14
基本的にデューデリジェンスは、基本合意契約を結んだ後のタイミングで行うものです。
最終条件交渉の前に調査を行い、双方が納得できる条件を決めていきます。
もっと早い段階で相手企業の抱えるリスクを知ってM&Aの計画を練りたいという人もいるはずです。
しかし、デューデリジェンスが早すぎると、社内・社外にM&Aをすることが知られてしまい、売却側が普段通りの経営ができなくなる可能性があります。
ですので、最終条件交渉の前というM&A成立まで近くなったときに、スピーディーに行いましょう。
デューデリジェンスに時間がかかりすぎると、別の買収希望企業との交渉が始まってしまうなど、別の問題が起きることもあります。
タイミングが来たらスムーズに動けるように専門家と話し合っておいてください。
調査の事実を不必要に広めないようにする
1つ目のポイントと少し重なりますが、調査するという事実を不必要に広めるべきではありません。
特に売却側企業に専門家が訪問するとき、社内の従業員にM&Aのことを知られてしまうかもしれません。
そうならないように、事前に売却先企業への訪問時間や訪問場所については、売却側にもよく考えてもらいましょう。
また、その際、デューデリジェンスに協力してもらう部門や人員についてもきちんと整理する必要があります。
M&Aのことが噂になると、そのまま働き続けることに不安を感じて従業員が大量離職してしまうこともあるのです。
必要な調査だけを行えるように事前に計画を立てる
最後のポイントが、事前に計画を立てておくということです。
デューデリジェンスは種類がたくさんありますが、絞り込むプロセスなしにたくさんの調査を行っては費用や時間が無駄になってしまいます。
事前に資料によってM&A概要を確認した段階で、しっかりと計画を立てましょう。
信頼できる専門家に相談すれば、必要のない調査はしない方向で進めてくれるので安心です。
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M&Aにおいて必要不可欠なデューデリジェンスは、信頼できる専門家に相談しながら適切に進めていくべきです。
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