事業承継における税理士の役割は?税理士に相談するメリットについて

多くの経営者にとって、最も身近な法律家はおそらく税理士でしょう。
たいていの企業は税理士との顧問契約を結び、自社の会計業務や税務申告を依頼しているからです。

個人事業として創業し、以来数十年間同じ税理士に依頼し続けることもめずらしくなく、そういった意味では税理士は共に会社を大きくしてきた右腕のような存在です。

では経営者が事業承継に取り組むことを決意した時、税理士に何を相談すれば良いのでしょうか?

また、税理士に相談するメリットや、事業承継において税理士が果たす役割とはいったい何でしょうか?

本日は、事業承継における税理士の役割について解説していきます。

事業承継の相談を受けるのは税理士が一番多い

 

事業承継を考えた経営者は、その相談をいったい誰にしているのでしょうか?2017年度版の中小企業白書によると、その順位は

第1位:顧問の公認会計士・税理士

第2位:親族・友人・知人

第3位:取引金融機関

となっています(下図参照)。

出典:2017年度版中小企業白書 第2章事業の承継 より一部抜粋

自社の顧問税理士は、企業の創業時から経営者と付き合いが始まっている場合が多く、社員はもちろん場合によっては経営者以上に会社の財務状況を正確に把握していることがあります。

事業承継を行う前に会社の財務状況を把握しておくことは当然のことですから、多くの経営者がまず税理士に相談するのもうなずけます。

また、事業承継はどのようなスキームで行う場合でも必ずタックスプランニングが必要となるため、事前に相談しておくことで納税の段階でトラブルが起きるのを防ぐことができます。

税理士の業務

そもそも、税理士とは何を業務として行う専門家なのでしょうか?
税理士とは、読んで字のごとく税に関するスペシャリストであり、税に関する業務独占資格を持っています。

業務独占資格とは国家資格の分類の一つで、その資格を有する者でなければ携わることを禁じられている業務を、独占的に行うことができる資格のことを言います。

ちなみに公認会計士は申請して税理士会に登録すれば税理士の資格が与えられるため、独立開業している公認会計士のほとんどは税理士資格も同時に保有しており、税務業務を行う場合は公認会計士としてでなく税理士として業務を行っています。

税理士は、税務に関するアドバイスや申告書の作成などを業務として請け負うことができる唯一の職種のため、事業承継においても税務的なアドバイスや実務的な税務処理などを行うことができます。

事業承継を税理士に相談するメリット

ではここで、事業承継を税理士に相談するメリットについてまとめてみます。
事業承継を税理士に相談するメリットは、大きく分けると以下の3点です。

  • メリット1. 会社の経営状況や経営者の個人資産まで正確に把握している
  • メリット2. 税務的な手続きを依頼できる
  • メリット3. 誰に相談すればよいのか教えてもらえる

メリット1.会社の経営状況や経営者の個人資産まで正確に把握している

税理士の多くは会社の経営状況はもちろんのこと経営者の個人資産や負債まで、また場合によっては個人的な問題までを正確に把握しています。
それらすべてを把握したうえで、事業承継をどうすれば良いのか、どのような方法で行えばよいのかなどのアドバイスを受けることができます。

また多くの場合、税理士は経営者との付き合いが長く月に一度は顧問先を巡回監査しているため、経営者としては事業承継について気楽に質問することができるというメリットもあります。

メリット2.税務的な手続きを依頼できる

事業承継を実際に行う場合、どのスキームを用いたとしても必ず税務や納税の問題が発生します。
それらの相談やタックスプランニングに基づく節税策、そして申告書の作成などの業務の一切を税理士に依頼することができます。

また、数はまだ少ないものの事業承継に精通している税理士も増えています。
自社の顧問先の税理士が事業承継の経験があり、実務にも精通した税理士であれば、税務的な部分だけでなく事業承継そのものを丸ごと依頼することもできます。

メリット3.誰に相談すればよいのか教えてもらえる

税理士は税のスペシャリストではありますが、必ずしも事業承継のスペシャリストであるわけではありません。
一部には事業承継を専業として行っている税理士もいますが、まだまだその数は決して多くはありません。

しかし、多くの税理士はM&Aの仲介会社と業務提携をしているため、税理士を窓口にして信頼できる仲介会社を紹介してもらうことができます。

また、会社の財務内容などに関する細かい説明は税理士にしてもらうことが出来るため、安心して任せることができます。

事業承継に求められる能力について

「事業承継」とひと言でいっても、その形態によって求められる能力はことなります。
そこで、事業承継の形態ごとにどのような能力が求められるのかについて解説していきます。

親族内承継に求められる能力

親族内承継とは、子供や兄弟などの親族に事業を承継させる事業承継の方法の一つです。
零細から中規模企業までの事業承継では、最も選択されている方法がこの親族内承継です。

親族内承継を行う場合承継者はすでに決まっていますから、改めて候補者を探す必要はありません。
また、身内同士で承継を行うため、親族外承継やM&Aの場合のように契約書を交わして承継していくことも基本的にはありません。

法人の場合であれば、株主である経営者が株式を次の経営者である子供などに譲渡することによって事業承継を行なうわけですが、生前に譲渡する場合でも亡くなった後相続する場合でも、税務的な判断や業務を行なう能力が必要となります。

親族外承継に求められる能力

親族外承継とは、自社の従業員や役員など親族以外の人間を事業承継者に登用することにより事業承継を行う方法のことをいいます。

親族外承継によって事業承継を行う場合、まず事業承継者を探さなければなりません。
社内から登用するのであれば経営者だけで探すことができますが、社外から探そうとする場合には、M&Aの仲介会社などの力を借りて適性のある人物を探さなければなりません。

次に、承継者が決まったら、承継者が株式を買い取る資金の準備を行わなければなりません。
事業承継者の資金調達方法については、金融機関もしくはM&Aの仲介会社に相談し、最適な方法を探さなければなりません。

また、親族内承継とは違い他人同士の契約となるため、法的に効力のある契約書を作成し、契約を交わさなければなりません。

最後に、親族外承継が完了したら旧経営者は株式の譲渡所得の申告を行わなければなりません。

M&Aに求められる能力

親族内承継が手だけで行うボクシング、親族外承継が足技主体のキックボクシングだとすると、M&Aは何でもありの総合格闘技です。

M&Aに求められる能力は大変幅広く、税務的な能力以外にも、買い手を探す営業能力、契約書のリーガルチェックや法務デューデリジェンスを行うための法務的能力、財務デューデリジェンスを行うための監査能力、相手と交渉するための交渉能力、そして最終的にM&Aをまとめるためのマッチング能力など、ありとあらゆる能力が総合的に必要となります。

事業承継における税理士の役割

前章でお伝えしたように、事業承継で求められる能力を踏まえた上で、事業承継における税理士の役割について事業承継の形態別にまとめてみます。

親族内承継における税理士の役割

親族内承継の場合、法務的な知識の必要な契約書や仲介会社のマッチング能力などは必要ありません。
また、親族の承継者に株式を譲渡する場合、生前の贈与でも亡くなった後の相続であっても事業承継税制を活用すれば株式の購入資金を用意する必要がありません。
従って、金融機関に資金調達の相談をする必要もありません。

このような事情により、中小零細企業で最も活用されている親族内承継の場合は、顧問税理士に依頼すれば基本的にすべての手続きを完成させることができます。
そういった意味では、親族内承継は顧問税理士の独壇場とも言うことができ、事業承継の中で税理士が最も活躍することができる承継方法と言えます。

親族外承継における税理士の役割

親族外承継の場合も、基本的に最も活躍するのは会社の顧問先税理士です。
株式を譲渡した経営者の譲渡所得の申告や、経営者変更後の会社の税務書類の届出業務などはもちろんのこと、事業承継者に株式をいくらで売却するのかの価格決定プロセスにも積極的に関わることができます。

ただし親族内承継と違うのは、承継者が親族外であるために法的に効力のある契約書を作成し、契約を締結するプロセスが必要となる点です。
これらの作業はについては、M&Aの業務に精通している弁護士に依頼することになります。

また、事業承継者が株式を買い取るための資金を用意するため、金融機関や場合によってはM&Aの仲介会社などと協議し、買い取り資金調達のためのスキームを組まなければなりません。

親族外承継の場合このようなプロセスが加わるため、親族内承継と比べると税理士の果たす役割がやや低くなります。

M&Aにおける税理士の役割

中小企業がM&Aを行う場合、多くは仲介会社に依頼して行います。
顧問税理士が窓口となって仲介会社を紹介する場合もありますが、紹介後は基本的に仲介会社がM&Aのためのプロセスをサポートしていきます。

契約書の依頼は弁護士に行い、買い手企業による売り手企業のデューデリジェンスは買い手企業が依頼した公認会計士や弁護士によって行われます。

M&Aに関しては、その工程の中で顧問税理士が直接関係することは少ないですが、M&A後の税務申告や税務関係の手続きに関しては、引き続き顧問税理士に依頼することになります。

親族内承継や親族外承継と比べると、M&Aの場合税理士が積極的に活躍する場面は少なく、仲介会社の紹介とM&A後の税務申告や手続き業務が中心となります。

税理士に事業承継を依頼する場合の注意点

最後に、税理士に事業承継を依頼する場合の注意点について解説します。

注意点① 事業承継の経験が豊富かどうかあらかじめ尋ねておく

先ほどお話ししたように、税理士の専門は会計や税務です。決して事業承継が専門ではありません。
もちろん、中には事業承継を専門的に行っている税理士や事業承継の経験豊富な税理士もいます。
しかしすべての税理士がそうではありません。

自社の顧問税理士が事業承継が得意な税理士であれば良いのですが、必ずしもそうとは限りません。

そのため、事前にその旨を説明し、事業承継に経験が豊富かどうかをあらかじめ尋ねておきましょう。

注意点② できるだけ大手の会計事務所に依頼する

会計事務所とひと口に言っても、税理士が1名であとは無資格の補助員が数名の小規模事務所から、税理士や公認会計士だけで数十名、それ以外にも司法書士や社会保険労務士、場合によっては弁護士まで揃えている巨大会計事務所までさまざまです。

小規模な会計事務所を経営している税理士の場合、どうしても事業承継のすべてに一人で対応するのは難しいですが、大手会計事務所であればほとんど何でもできるといっても過言ではありません。

ですから、もし改めて事業承継を税理士に依頼するのであれば、できるだけ大手会計事務所の税理士に依頼するのが良いでしょう。
豊富なスタッフを揃えているため、問題なく事業承継を行うことができます。

注意点③ 依頼する場合はできるだけ早い段階で依頼する

事業承継は、経営者が想像している以上に時間が必要となります。
事業承継に慣れている仲介業者に依頼した場合でも最短で半年くらいは必要で、長ければクロージングまで数年間かかることも決してめずらしくありません。

誰に相談するかを迷っているうちに時間だけが経過し、土壇場になってから依頼するのでは、たとえ事業承継に慣れている優秀な税理士であったとしても期待通りの働きをしてもらえる可能性は低くなってしまいます。

もし自社の顧問税理士に依頼するのであれば、できるだけ初期の段階から依頼するように心がけましょう。

まとめ

経営者にとって税理士は、自社の経営状況や税務について相談できる税務のスペシャリストです。
事業承継を考える場合も、税理士に相談すれば適切なアドバイスを受けることができるでしょう。

ただし、税理士の専門は税務のため、すべての税理士が事業承継の経験が豊富なわけではありません。
そのような場合は仲介業者を中心に事業承継を進めつつ、セカンドオピニオンとして税理士に意見を求めるのが良いでしょう。

事業承継の相談を受けるのは税理士が一番多い

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