会社を売却するには色々な方法があり、それに伴い課される税金の形も様々に変化します。
会社売却の代表的な方法としては、以下の2つがあります。
- 会社自体を丸ごと他社や資本家(個人)に買い取ってもらう株式譲渡
- 会社の業務の一部を買い取ってもらう事業譲渡
また、M&Aで会社を譲渡したり経営権を移行したりするときには、会社分割や第三者割当増資などの方法も利用されています。
それぞれの会社売却方法について、税金はどのように課されるのでしょうか?
こちらの記事では、様々な会社売却(譲渡)の方法とその税金の取扱いについて詳しく解説します。
会社売却の税金①株式譲渡の場合
株式譲渡とは、売却予定の会社の株式を基本的に全部、他社または個人(投資家等)に譲る方法をいいます。
そのため株式譲渡が行われると、会社に属する資産負債、社員、技術、得意先も含む営業権等、全てが買い手に移ります。
一般的に株主は個人または法人ですが、中小企業では個人株主が多数でかつ経営者を兼ねていることも多いです。
株主が株式を売ると、購入者は買った会社の意思決定に参加することができ、売却者は資金が得られます。
会社株式が個人所有の場合の税金
会社株式の所有者が経営者等の個人だった場合、株式を売却して利益が出たとき、その利益には税金が掛かります。
税金の種類は所得税や住民税です。
税額を計算するには、まず株式売却に係る譲渡所得金額を出して、次に税率を掛けて税額を出します。
譲渡所得金額の計算式は以下の通り。
=株式売却額(純資産+営業権)-必要経費(株式取得費+委託手数料等)
またこの項目に係る税率は、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%の合計20.315%です。
ちなみに株式に係る譲渡所得は他の所得と取扱いが異なっており、たとえ株式を売却した個人に給与所得や事業所得など他の所得があっても損益通算できないようになっています。
会社株式が法人所有の場合の税金
一方、会社株式の所有者が法人だった場合、株式を売却して利益が出たときもその利益には税金が掛かります。
たとえば親会社所有の子会社の株式を他社に売却して利益を得たような場合です。
この場合、掛かる税金の種類は法人税です。
このとき税額は、株式の売却益に税率を掛けて計算しますが、売り手そのものが事業しているので、会社の事業から得た利益に株式売却に伴う利益を加えた額で最終的に法人税が計算されます。
通常法人税の税率は実効ベースで30%~35%ほどで、法人税には、法人税本体に加え、法人地方税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税も含まれます。
会社売却の税金②事業譲渡の場合
事業譲渡とは、会社の業務の一部、または複数の部門を他社等に売却することをいいます。
売却対象は色々で、その業務部門が持つ技術、人員、設備、取引先、ブランドなどあり、購入先は対象を指定して買うことが可能です。
また事業譲渡では、一般的に法人が所有していたものを買うので、利用者も同じく法人であることが多く、買い手として個人が関係することは極めて少ないです。
そのためこの章でも、買い手は当初から法人と仮定して話を進めます。
事業譲渡すれば、売り手は売却による資金が得られ、買い手は自社が欲しかった技術や設備、有能な社員や開拓済みの貴重な取引先等が獲得できます。
事業譲渡で掛かる税金は2種類、法人税と消費税
事業譲渡では会社資産の売買が行われるため、売却者に利益が出れば税金が課せられます。
その際、事業譲渡で掛かる税金は法人税と消費税です。
売却者が法人の場合、売却益が出れば法人税が掛かるのは株式譲渡のケースと同じですが、じつは株式譲渡では消費税が掛かりません。
一方で事業譲渡では消費税が掛かります。
なぜ事業譲渡のときのみ、消費税が掛かるのでしょうか?
株式譲渡の場合、売却対象が株式そのものなので、その区分から消費税は非課税となっています。
消費税の課税対象から土地、有価証券、貸付金、売掛金などが除かれており、株式の場合は有価証券に属することから、その取引は非課税扱いなのです。
一方事業譲渡では、売却対象は個別の事業資産なので、その資産に法律で決められた課税資産が含まれていれば消費税の対象となります。
法人税
事業譲渡で売り手の法人に譲渡利益が出れば課税される税金は法人税です。
税率は実効ベースで課税譲渡所得の30%~40%になります。
税金の考え方や計算方法は法人が株式譲渡したときと同じで、課税譲渡所得に税率を掛けて法人税額を計算します。
課税譲渡所得=売却価格-必要経費(資産取得費+委託手数料等)
ただし資産の取得費に関しては、譲渡する物件ごと、評価方法が異なるので一様に出せないことに注意が必要です。
物件の評価内容によって法人税額そのものが大きく変わってきます。
消費税
前述の通り、事業譲渡においては、経営判断の下、各種の事業資産を売却するので、その資産の中に消費税の課税対象資産が含まれていれば消費税の課税義務が発生します。
一方、譲渡資産に土地、有価証券、債権等が含まれていれば、それらの非課税資産を除いてから消費税を計算する必要があります。
ちなみに消費税の税率は課税譲渡所得の10%です。
たとえば、譲渡資産の全資産価値が5億円で、そのうち1億円が非課税資産とすると、消費税は(5億円-1億円)×10%=4,000万円ということになります。
なお消費税の納税義務者は資産を事業譲渡した側です。
事業譲渡で個人が税金を支払うケース
これまでの説明では、事業譲渡で法人が課税されるケースを見てきましたが、実際の取引では個人が税金を課税されるケースもあります。
ただしこれはあくまで例外的な事例としてとらえて下さい。
個人が税金を課せられるケースとは、たとえば経営者がその経営する法人の事業資産の大半を事業譲渡して、同時に引退するような場合です。
その場合、資産の譲渡代金から経営者に対して退職金等が支払われますが、個人が収入を得るとその所得に対して所得税及び住民税が課せられます。
会社売却の税金③会社分割の場合
会社分割とは、会社法で許されている組織再編方法のひとつで、会社の1つの事業、あるいは複数分野の事業を分割して別の会社に移転する方法です。
またM&Aでもよく利用されている手法のひとつです。
会社分割では、分割先会社は、相手(分割元)に対してその対価として自社財産を差し出しますが、通常差し出す対価は分割先会社の株式が一般的です。
分割元会社に株式の交付で決済すると、別に現金等の資金を用意せず決済できるので、資金繰りに影響することもなく手続きもスムーズに行えます。
もちろん相手の希望により現金等の資金が決済に用いられることもあります。
その際には、決済方法手段によって課税される税金の取扱いも違ってきます。
会社分割の種類とメリット・デメリット
会社分割2つの種類、分社型分割と分割型分割
会社分割には2つの種類があります。
分社型分割と分割型分割です。
まずは分社型分割と分割型分割について、下記にそのイメージを図式化してみたのでご覧になって下さい。
会社分割に当って対象会社は、自社の分割目的や分割後の利便性、税金面等を総合的に判断して、下記のうち適切なタイプを選ぶことになります。
- 分社型分割:
会社分割による分割対価(株式等)の交付先が分割元会社となります - 分割型分割:
会社分割による分割対価(株式等)の交付先が分割元会社の株主となります
会社分割のメリットデメリット
なお、会社分割では利用の面でメリットデメリットがありますので理解しておくことが大切です。
以下、メリットデメリットの順に解説します。
メリット
- 会社分割のメリットの1番目は、決済が株式で行える点です。
会社分割の対価を株式の交付で行えるので、わざわざ別の資金を用意する必要がありません。
ただし取引相手から現金での支払を求められればこのメリットはなくなります。
- メリットの2番目は、事業単位で売買が行える点です。
これは経営資源を全て相手に渡す株式譲渡に比べてとても効率が良く、自社の譲渡目的に沿って弾力的に活用できます。
- メリットの3番目は、会社分割の一定の条件を満たせば税金を軽減できる点です。
(この点に関しては以下の章で別に詳しく解説します)
- メリットの4番目は、株式譲渡や事業譲渡に比べても各種手続きが比較的簡単なことです。
このように急いで自社目的を達成したいときには、会社分割という手法はとても便利な選択肢のひとつといえます。
デメリット
一方会社分割にもデメリットはあります。
- そのデメリットのうち、最も大きな点は、会社分割に対して株主総会の特別決議が必要な点です。
会社分割の承認に株主総会を開いて株主総数の2/3以上の賛成を得なければなりません。
もし否決されれば会社分割が使えなくなります。
- さらにデメリットとして、関係事業を全部引き受けてしまうと、場合によっては余計な債務まで引き受けてしまう点が上げられます。
本来なら必要な事業資産だけ引き継げればいいのですが、その資産と切り離せない債務があるときには、会社分割ではやむなく債務を引き受けざるを得なくなります。
「会社分割」採用時の会社売却の税金
この章からは会社分割2種類のそれぞれに掛かる税金について解説します。
会社分割には、分社型分割と分割型分割がありますが、それぞれがまた税制に係る「適格要件」と呼ばれる条件を満たすか否かで、それぞれ適格か非適格かが決まります。
適格要件とは、以下のような諸条件をいいます。
- 会社分割に当たり、金銭資産等の支払がない
- 移転事業の資産負債を引継ぐ
- 8割以上の社員を引継ぐ
- 事業を継続して行う
- その他
これらの要件を満たせるかどうかで課税される税金の種類も税額も大きく違ってくるのです。
分社型分割の税金
分社型分割は、上記で示した適格要件を満たせるか否かで「適格分社型分割」と「非適格分社型分割」に分けられます。
このうち適格分社型分割では、会社分割の決済手段である株式の譲渡が「簿価」で引き継げるので課税関係が生じません。
関係者のいずれにも法人税や所得税が発生しないのです。
一方会社型分割が適格要件を満たせず、非適格分社型分割に分類されると、課税が発生します。
なぜなら非適格分社型分割の場合、株式の譲渡を「簿価」でなく「時価」で引継がなければならないからです。
その際、分割元会社から移転する資産負債等の含み損益の計算が行われるので、計算結果によって課税されることになります。
なおこの際の課税義務は分割元会社に発生します。
分割型分割の税金
同じく、分割型分割でも、上記で示した適格要件を満たせるか否かで「適格分割型分割」と「非適格分割型分割」に分けられます。
適格分割型分割では、株式の譲渡が「簿価」で引継ぎできるので、課税関係が生じず、関係者のいずれにも法人税や所得税は発生しません。
一方非適格分割型分割に分類されると、株式の譲渡を「時価」で行わねばならず課税が発生します。
この際、分社型分割の非適格分社型分割とは、税金の取扱いが異なるので注意が必要です。
非適格分社型分割では、対価の株式を受け取るのは分割元会社の法人ですが、非適格分割型分割のケースでは、税務上、会社間で非適格分割型分割が行われたと同時に、その対価の株式の配当が株主に支払われたとして処理されます。
その結果、分割元会社に対しては、移転した資産債務等の含み損益計算が行われ、計算結果に対して法人税が課されます。
また同時に、みなし配当が発生したとして、株主が法人の場合は法人税、株主が個人の場合はそれぞれ所得税が課されることになります。
特に個人のケースでは、所得税の累進税率が適用され、みなし配当金額によってはかなりの額の税金が課されますので、非適格分割型分割の際にはくれぐれもご注意下さい。
会社売却の税金④第三者割当により経営権を実質的に移転する場合
第三者割当とは、正式には「第三者割当増資」のことをいい、売り手の会社が買い手に対して発行済みの株式を売却するのでなく、第三者(法人・個人)に対して新たに株式を発行して出資金と引き換えに株式を引き取ってもらう方式をいいます。
第三者とは、会社にとって日頃の取引等で関係のある先で、具体的には取引先、金融機関、役員・従業員の親族等が該当します。
会社が第三者を指定して新株式を割り当て、第三者からの出資金と交換するので「第三者割当増資」と呼ばれているのです。
この方式を使うと、会社が発行済みの株式を所有したまま、新たに株式を発行するので、第三者も100%相手株式を獲得できないものの、多く株式を取得することで実質的に経営権を得ることもできます。
一方税金面では、この取引は出資金と新株式の交換になるので、税務上も単なる増資取引と見なされ税金は発生しません。
この取引では贈与税が発生するときもあるので注意
第三者割当増資では、原則、課税される税金はありません。
ただし第三者割当増資後に、発行済みの株価が上昇したようなときには、その上昇分について税務署が贈与と判断して贈与税を課してくるリスクがあるので注意して下さい。
たとえば、資本金5,000万円、発行済み株式総数5,000株(1株1万円)の会社が、第三者に対して新たに1株2万円で5,000株割り当てて発行したとします。
すると会社全体としてのできあがりは、資本金1億5,000万円、発行済み株式総数1万株となります。
それを第三者割当増資後の1株当たりの株価で出すと1万5,000円となり、当初から株式を所有していた方にとっては、1株当たりの株価が実質5,000円上昇した結果になります。
第三者割当増資の結果、株価が上がったので、この増加分について、税務署が第三者側から既株主に対して贈与が行われたと見なした場合、既存株主は贈与税の課税対象になってしまいます。
これを避ける唯一の方法は、第三者に引き受けてもらう株式を時価で新規発行することです。
そうすれば少なくても贈与税の問題は避けられます。
しかし新株式を時価で発行して第三者に引き受けてもらえるかどうかはそれとは別問題です。
株式を引き受けてもらえるかどうかはあくまで相手次第ということを理解しておいて下さい。
会社売却に伴う税金を軽減する方法
最後は会社売却に伴う税金を軽減する方法についてです。
M&Aで会社を売却する場合、会社が中小企業で好業績を維持し資産に含みがたくさんあれば売却額も大きくなり、それに伴い税金の額も過大になりがちです。
売却でできるだけ手元に残る額を大きくするためにも当事者は税金にも関心を持つべきでしょう。
節税策にもいくつか方法はあります。
ここではその代表的な方法を2点ほど紹介します。
会社売却に伴う節税策①株式譲渡の場合
株式譲渡では株式の売却益に対して税金が課税されます。
この際、株式の評価額は中小企業の場合、会社の規模や利益、配当等でルールにより自動的に決まってくるので大きく変えられません。
一方取得費に関しては、いくつか節税につながるルールがあるので、そのルールを駆使して取得費を大きくできれば、売却益を下げて税金を少なくできます。
- 税務上、もし株式の取得に掛かった費用がよく分からないときには、株式の取得費は売却額の5%で計算できるというルールがあります。
- また実際の取得費が売却価格の5%を下回っていても、5%まで取得費を引き上げて計算してもよいというルールもあります。
これらのルールをうまく駆使し、取得費を引き上げて計算すれば売却益を下げられるので、最終的には支払う税金を少なくできます。
会社売却に伴う節税策②事業譲渡の場合
事業譲渡の場合、株式譲渡と比べて、事前に譲渡する資産を相手と交渉できるので、譲渡資産の中身を変えたり、より多くの非課税資産を混ぜたりすることで、全体としての課税額を下げることができます。
交渉の自由度が高いという意味では、株式譲渡に比べて、事業譲渡は節税の方法が多くあるといえるでしょう。
まとめ
これまで見てきたように、会社売却や譲渡の方法は様々ですし、また選ぶ方法によって掛かる税金の種類も色々です。
一方、売却方法や税金の処理を間違えてしまうと、2倍以上余計な税金を支払わねばならないケースも出てきます。
税金を払い過ぎてあとで後悔しないためにも、事前に会計の専門家にきちんとレクチャーを受け、色々なケースについてしっかりシミュレーションも行い、正しい選択をするようにして下さい。