M&Aで会社を売買するとき、費用って一体どれくらいかかるのでしょうか?
かかる費用の大小で売り手の手元に残るお金の額も違ったり、買い手にとって買収効果も変わったりするので、M&Aに係る費用は売り手、買い手どちらの側にとっても重要な項目です。
また費用の内容とその目安を詳しく知っておけば、M&Aの交渉の場でも、費用の必要性と金額の妥当性を臨機応変に判断できます。
本記事では、M&Aにかかる費用について、売り手側、買い手側、それぞれの立場から詳しく解説します。
M&Aの費用に対するメリット、デメリット
M&Aに係る費用を検討するとき、同時にそのメリットデメリットも理解しておかねばなりません。
なぜならM&Aの費用について考える時には、その費用に対して得られるメリットと、反対に発生してしまうデメリットを理解し、費用と天秤にかけることが重要だからです。
M&Aにおける買い手・売り手それぞれにとってのメリットとデメリットを、それぞれ説明していきます。
買い手のM&A費用に対するメリットデメリット
M&Aで買い手が得られる主なメリットは以下の7点です。
多額の費用を払う買い手にとって、M&Aはそれだけ大きなメリットが期待できます。
- 独自に新規開業するより事業展開のスピードアップや時間短縮が図れる
- 新規開業よりローリスクで事業拡大が図れる
- 事業多角化にも対応できて新たな収益源ももてる
- 有能な人材や自社にないスキル、ノウハウ、のれん(営業権)などが一度に手に入る
- 事業譲渡等のスキームを使うと自社の弱い部門を強化できる
- M&Aで同業他社を取り込みいち早く市場を抑えることで、製品の値下げ競争から抜け出し安定した利益を確保できる
- M&Aで繰越欠損金を抱える会社を買収すれば、黒字になるまで向こう10年間、自社の利益と損益通算でき節税可能(欠損金発生年度が2018年4月1日以降の場合、また発生年度によって欠損金を繰り越せる期間は異なる)
一方、買い手がM&Aで抱える主なデメリットは以下の4点です。
費用がかかる分、期待していた効果が得られ無いと大きなデメリットとなり得ます。
- 当初期待していたようなシナジー(相乗)効果が思うように得られない
- M&Aを契機に買収先の優秀な人材が退職してしまい買収効果が半減した
- 買収先から移籍してきた社員と買い手側社員の融合がうまくいかず、全体としての士気が大きく落ちた
- 各デューデリジェンスを細かく行ったにも関わらず、買収後、大きな問題点が発覚して解決に大きなコストを払わされた
売り手のM&A費用に対するメリットデメリット
M&Aで売り手が得られる主なメリットは以下の5点です。
売り手企業の経営者は、事業の継続や発展、そして経営者の利益を目指して会社売却を決断しています。
- 経営者は会社売却により大きな創業者利益が得られる、また個人保証というくびきから解放され安心した老後が送れる
- 経営者は後継者不在という問題から解放されるとともに、事業が継続することで会社の理念、創業者の思いを売り手に託せる
- M&Aで経営の先行き不安が解消できるとともに、当面、会社(事業)の存続が図られ従業員の雇用維持もできる
また雇用に安定感が生まれ、本人の努力次第でさらにキャリアアップが期待できる - 買収後、シナジー効果でさらに会社の発展が期待できる
- 事業譲渡等のスキームを利用すれば、会社の不採算部門だけ売却でき、自社の得意分野、あるいは収益性の高い分野に特化した事業展開ができるようになる
一方、売り手がM&Aで抱える主なデメリットは以下の5点です。
- 費用をかけてもなかなか理想的な買い手が見つからず時間とM&A仲介会社等に支払う費用だけが膨らんでいく
- 費用をかけただけの期待する売却額にならず、むしろ損をしてしまった
- 事前にM&Aの動きを社内が知った結果、大きな動揺が起こり社員の大量退職を招いてしまった
- 交渉中、買い手に秘密保持を期待していたが、買い手からM&Aの動きが自社取引先に漏れてしまい、信用不安から重要な取引先を失ってしまった
- 買い手の意向が強くM&Aの条件に反映され、売り手の思い通りの売却ができない
M&Aの主な費用の支払先と料金体系
M&Aでかかる費用はさまざまです。
この章では、M&Aでかかる主な費用の支払先と、M&Aのプロセスでかかる料金体系について簡単に紹介します。
M&Aで係る費用の支払先
M&Aでかかる費用の主な支払先としては以下の先が上げられます。
- M&A仲介会社
- FAアドバイザリー
- 弁護士、公認会計士、税理士等
- 国及び地方自治会(税金納付先)
M&A費用の料金体系
M&Aのプロセスで売り手、買い手に対して主に関わってくるのは、M&A仲介会社やFAアドバイザリー等の仲介及びコンサルタント業者です。
またときには弁護士や公認会計士・税理士等の専門家がこの役割を担う場合もあります。
M&Aのプロセスではさまざまな費用がかかりますが、M&A仲介会社等が売り手買い手に対して提示してくる料金体系も色々です。
M&Aのプロセスで段階的にかかった費用の精算を求めてくる業者もいれば、最終、取引が成立した段階で一括請求してくる業者もいます。
一般的にM&A仲介会社等に対する報酬として、以下の4つの料金体系があるといわれています。
- 着手金+中間金+成功報酬
- 着手金+成功報酬
- 中間金+成功報酬
- 最終一括完全成功報酬型
それぞれ料金体系として特徴があり、どれが有利ともいえません。
売り手買い手それぞれ、自社のM&Aに対する考え方、会社の規模や将来性も含めて、適切な料金体系を判定して業者を選ぶ必要があります。
M&Aで買い手にかかる費用とその目安
M&Aのメリット・デメリットを理解したところで、いよいよM&Aでかかる費用とその目安について、買い手、売り手の順に解説していきます。
まずは買い手側にかかる費用です。
買い手のM&A費用①買収資金
M&Aで買い手にかかる費用のうち、最も大きな額を占めるのは売り手の会社または事業を買い取るときの買収資金です。
株式譲渡、事業譲渡等の対価として、買い手が売り手に支払う費用です。
買収資金は、専門家による企業価値算定、デューデリジェンス等の結果をベースに相対交渉を行い、最終的に決まった価格で売り手に支払されます。
また中小企業のM&A では、買収額を出す際、法人の価値を時価で出した純資産価額に営業利益の3~5年分をのれん代(営業権)として加算して出す方式がよく使われます。
しかしこの方式も、あくまで算定上の目安に過ぎず、全ての中小企業に応用できる方式ではありません。
現在会社が赤字でも、将来性があると買い手が判断すれば営業利益に対する倍率はさらに高くなりますし、逆の評価なら低くなります。
あくまで買収価格は相対交渉の結果、決まるのです。
買い手のM&A費用②(着手金、成功報酬等)
買い手の費用には買収金の他に、各種のM&A手数料があります。
具体的には着手金、中間金、成功報酬等です。
以下個別に内容と目安について詳しく解説します。
着手金
着手金とは、M&A仲介業者等にアドバイザー業務やマッチングサポートを依頼したとき、最初の契約時点でかかる費用です。
中小企業を対象としたM&Aの場合、相場は50万円~300万円ほどになります。
ただし近年はM&Aもブームで、業者の新規参入で競合状態になっており、着手金無料対応の先が多くなっています。
着手金支払のリスクは、たとえ最終的にM&Aが成立しなくても支払済みの着手金は戻らないことです。
したがって、着手金がある業者を選ぶときには、そのリスクを納得済みで契約する必要があります。
また過去には着手前、相談料を取る業者もいましたが、これも近年は取らない業者が増えています。
ただしこちらは払っても1万円程度までなので特別大きな負担にはなりません。
中間報酬
M&Aでかかる費用には中間報酬というのもあります。
M&Aの交渉相手と基本合意契約書が交わされた時点でM&A仲介業者に支払う費用です。
これは後で解説する成功報酬費の一部前払い的な性格の費用とも解されています。
相場は30万円~300万円ほどで、最大でも成功報酬額の10%までです。
ただしこの費用も、着手金同様、最近は取らなくなっている業者が増えています。
また着手金同様、M&Aが成立しなくても戻ってこない費用です。
成功報酬
成功報酬とは、売り手買い手でM&Aの正式な契約が完了して、クロージングが行われたとき、M&A仲介業者に支払われる費用です。
この費用については、M&Aの取引価額(売却額)によって額自体が増減する性格を持っています。
なぜなら成功報酬費の額の計算はレーマン方式を採用している仲介業者が多いからです。
(レーマン方式については以下の章で詳しく解説します)
通常、成功報酬額は取引価額(売却額)の1%~5%の範囲で計算されます。
リティナフィー・月額(定額)報酬
M&Aの仲介業者に対する費用では、着手金や成功報酬費以外に、リティナフィー、あるいは月額(定額)報酬と呼ばれる費用もあります。
こちらはFAアドバイザリーや仲介業者が活動を行うときの人件費や実費として毎月支払費用と位置づけられています。
相場は月数万円から最大でも100万円までですが、こちらもM&Aが成立しなくても払っていれば戻ってこない費用のひとつです。
またM&Aの交渉期間が長引けば長引くほど費用増大の要因となる項目です。
ではリティナフィーが不要の完全成功報酬型の業者がよいかというと、必ずしもそうではなく、月額報酬型の業者を選んだ方がよい場合もあるので注意が必要です。
買い手のM&A費用③手続きにかかる費用(デューデリジェンス等)
M&Aの費用では、各プロセスでかかる費用以外に、手続きでかかる費用も無視できません。
その費用のうち、大きな割合を占めるのが各種デューデリジェンスにかかる費用です。
デューデリジェンスとは、買収監査とも呼ばれ、買い手が売り手の申告内容や提出された資料等に基づき、弁護士等の専門家に依頼して、会社の内情や将来性、内在するリスクなどを多面的に調査してもらう手続きのことをいいます。
その調査分野は、会社の事業規模や業種によって多岐にわたり、法務、財務、税務、人事、ビジネスからITまで広範囲です。
それだけに調査範囲が広がれば広がるほど、かかる費用が膨らむ特質を持っているため、どこかで制限をかける必要もあります。
一方でデューデリジェンスの費用は、買い手が買収価格を決めるためにかける重要なコストであり、ケチるだけが能ではありません。
下手にケチってデューデリジェンスを手抜きすると、あとで簿外債務や偶発債務など、予定外の問題点が見つかり、解決のため余計なコストを払わねばならなくなったり、売り手の取引相手から損害賠償金を求められたりするなどのリスクもあります。
デューデリジェンスにかかる費用としては、調査内容ごとに個別に支払が必要で、相場は各デューデリジェンス当たり30万円~300万円程度と捉えて下さい。
M&A・事業承継の支援経験豊富な公認会計士・中小企業診断士のチームが丁寧にご相談をお受けします。
初期相談は無料ですので、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
M&Aで売り手にかかる費用とその目安
次は売り手にかかる費用とその目安についてです。
売り手についても、かかる費用は仲介業者に支払うM&A手数料が主になりますが、そのほかにも売り手は税金に注意しなければなりません。
税金は売り手に取り大きな費用となるので、事前にいくらぐらいかかるか、専門家とも相談して、納付金額の目安を把握しておきましょう。
売り手のM&A費用①手数料
M&A仲介手数料は買い手だけでなく、売り手も支払う必要がある費用です。
また成功報酬費は、売り手が関わったFAアドバイザリーや仲介会社に対して支払い、買い手同様、レーマン方式で計算されます。
ただし中小企業のM&Aでは、売却金額が非常に少額の場合もあり、そのようなケースでは報酬に対してはレーマン方式でなく、当初に業者と取り決めした最低報酬額が適用されることもあります。
売り手のM&A費用②税金
売り手にとって税金は主要な費用項目です。
この章では株式譲渡と事業譲渡に分けて費用面からかかる税金を説明します。
株式譲渡の税金
株式譲渡とは、売り手が買い手に自社株式を譲渡して、会社丸ごと買い手に経営権を移行するM&A方式をいいます。
かかる税金としては、売却株式の所有者が売り手経営者(個人)のときは、費用控除後の譲渡所得に対して計20.315%の所得税及び住民税がかかります。
一方、売却株式の所有者が法人だったときには法人税がかかり、他の法人所得と損益通算した結果の譲渡益に対して、実効税率で30%~40%の法人税の納付義務が発生します。
事業譲渡の税金
事業譲渡とは、売り手の会社が買い手の会社に対して、会社業務の一部あるいは全部を売却するM&A方式で、通常、売り手の会社を残しつつ業務の一定部門を譲渡します。
会社から会社に対して事業譲渡するので、税金としては法人税や消費税がかかり、売り手に譲渡益が出れば法人税として譲渡益の30%~40%かかります。
一方消費税は買い手が負担する必要があり、事業譲渡で得られる事業資産のうち、土地、有価証券等の非課税資産を除く課税資産に対して消費税が10%課せられます。
M&A仲介費用の料金体系・レーマン方式とは?
レーマン方式とは、M&A取引専門の仲介会社等で通常活用されている成功報酬の料金体系をいいます。
その特徴は、取引される金額によって成功報酬の乗率が増減する報酬体系となっていることです。
そのため、一般的に取引額(売却額)が高くなればなるほど、乗率が下がっていきます。
以下がレーマン方式による取引額(売却額)と乗率の一覧表です。
売却価額 | 料率 |
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超10億円以下の部分 | 4% |
10億円超50億円以下の部分 | 3% |
50億円超100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
レーマン方式の活用事例
上記のレーマン方式の表に沿い実際の成功報酬額を計算してみます。
仮にM&Aでの売却額を15億円とすると、まずそれぞれ売却額を5億円ずつに分割して、次に個別に乗率をかけて計算します。
- 最初の5億円…5億円×5%=2,500万円
- 次の5億円…5億円×4%=2,000万円
- 最後の5億円…5億円×3%=1,500万円
→成功報酬額合計;2,500万円+2,000万円+1,500万円=6,000万円
以上のようにレーマン方式では、成功報酬費を出すのに、売却金額に一度に同じ乗率をかけるのでなく、一覧表の各区分に沿って取引金額を分割して、それぞれに対応した乗率を順にかけて合計額を出します。
また算出基準となる売却金額も、「移動総資産(株式価格+負債総額※1)」「企業価値(株式価値+有利子負債※2)」「株式譲渡対価」など、M&A業者によって出し方がバラバラなので、十分業者との契約内容に注意する必要があります。
※1…負債総額には、会社の買掛金等の負債項目が全て含まれます
※2…有利子負債には、会社が借りている銀行からの借入金や役員・従業員からの借入金が含まれます
M&Aの費用を抑える方法
最後にM&Aに係る費用を抑える方法について解説します。
ただしM&Aでは費用を抑えてよい場合と悪い場合があり、デューデリジェンスにかかる費用や各種契約書にかかる費用をケチると、後で予定外の問題が発生して余計な費用がかかる可能性があることはすでに説明したとおりです。
したがって費用を抑える方法については、あくまでM&Aに影響しない範囲で、十分配慮して行って下さい。
M&A費用を抑える方法①…完全成功報酬型の業者を選ぶ
費用を抑える方法の一つめは完全成功報酬型の業者を選ぶことです。
また近年は顧客ニーズも踏まえ、着手金やリティナフィーを取らず、M&A成功後に一括して報酬を受け取る完全成功報酬型の業者がかなり増えてきています。
M&Aでは成約までにかなり期間を要する事例もあり、着手金やリティナフィーを必要とする仲介会社と契約していると、期間が長引けば長引くほどコストが増大します。
その点、完全成功報酬型の業者と契約しておくと、その間にかかる費用がいらないので、最終的な費用が軽減できます。(ただしあくまで可能性の話です)
M&A費用を抑える方法②…M&A業者を2~3社に絞り、手数料以外の項目も検討する
費用を抑える方法の二つめは、M&A業者を2~3社に絞り、同時に手数料以外の項目も検討することです。
M&A業者を2~3社に絞ることで、各社間の競争原理を働かすとともに、各社から相見積もりを取ることで費用に関して比較検討できます。
また手数料以外の項目も併せて詳しく検討する必要があります。
費用だけでは測れない重要な判断要素がM&A案件には多くあり、総合的判断の結果、納得できる取引相手を見つけることができれば、M&Aにかかる費用の節約にもなります。
M&A費用を抑える方法③…M&Aスキームを組み合わせて税率を下げる方法を検討する
費用を抑える方法の三つめは、M&Aスキームを組み合わせて税率を下げる方法を検討することです。
M&Aの手法はなにも株式譲渡や事業譲渡ばかりでありません。
そのほかにも会社分割も方法として使えて、会社分割のスキームを株式譲渡や事業譲渡と組み合わせることで、かかる税率を下げる方法もあります。
ただしそれには専門家のサポートと十分な検討時間が必要です。
視野を広げて節税の観点から色々なM&Aスキームを検討してみて下さい。
M&Aにかかる費用まとめ
M&Aにかかる費用について、売り手買い手の立場からそれぞれ詳しく解説してきました。
費用については、最終的に売り手の手元に残る資金額、買い手の買収効果やかけたコストの回収期間にも直接関わってくるので重要な項目です。
また交渉次第では大きく費用の額も変化します。
それだけに当事者として、費用に対する知識はないよりあったほうがよいことはいうまでもありません。
売り手買い手どちらも、費用に関して事前に徹底的に勉強して、知識として身につけておくことが、業者の示す費用と金額に対してその是非を判断するためにも何より必要だと考えています。
M&Aの費用に対するメリット、デメリット
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