個人事業主がM&Aを通じて事業を売却するケースが増えています。
どうして個人事業M&Aが増えているのでしょうか?
背景には何か個人事業主特有の理由があるのでしょうか?
この記事では、個人事業M&Aの意義、法人M&Aとの違い、手続きの進め方など、詳しく解説します。
個人事業と法人のM&Aの違い
本章では、まず、個人事業M&Aとは何か、個人事業M&Aが増えている背景、個人事業主と法人でのM&Aの違い、個人事業M&Aに係るメリットやデメリットについて説明します。
個人事業M&Aとは?
個人事業M&Aとは、営んでいる事業の売り手が個人事業主であるケースをいい、その事業規模から「スモールM&A」とも呼ばれる事業売却・承継手法をいいます。
個人事業にはそれが適した業種があり、たとえば学習塾や各種スクール、整体院や民泊施設、イチゴ・ミカン等の特化農業や飲食業、歯科医院などが上げられます。
これらの業種を営んでいる個人事業主がその事業を売却したいとき、個人事業M&Aが活用可能です。
また最近では、情報提供を目的としたWEBサイト運営も個人事業M&Aの対象になっており、ネットを通じて盛んに売買されています。
個人事業M&Aが増えている理由
なぜ個人事業M&Aが増えているかというと、いくつか理由があります。
以下その理由について3点詳しく説明します。
1番目の理由は、後継者のいない個人事業主がM&Aを利用し始めたことです。
以前は個人事業であっても経営者の子息等の親族が事業承継の主たる後継者でした。
しかし価値観の多様化や少子化で、事業規模・体力で劣る個人事業の引継に親族が難色を示して親族承継が難しくなってきたことから、個人事業主も対応策として盛んにM&Aを利用するようになったということが背景にあります。
2番目の理由は、事業拡大を狙う法人や独立して起業するサラリーマンが個人事業M&Aの買い手として現れたことが上げられます。
法人が新たに事業を興さなくても、すでに市場で一定の実績や取引先を持つ個人事業主の事業をM&Aで買えば、事業開始までのコストや時間を節約できるのでメリットが多いです。
さらに特定の事業分野で斯業経験を積んだサラリーマンが起業するとき、一から事業を興すより同分野ですでに市場にある個人事業を買う方が、時間・コストの節約だけでなく、起業に伴う各種リスクも少なくできるので2重にメリットがあります。
個人事業M&Aが増えている3番目の理由として、個人事業M&Aを当初からの目的にわざわざ起業する方がいることが上げられます。
その良い例が情報系WEBサイト運営業者で、ネットを利用していることから個人でも事業として始めやすく、また売却対象として個人事業M&Aとの相性が良いことからマッチングサイトで多く売却されており、買い手も付きやすい業種です。
運営サイトが人気サイトとして多くのアクセスを集めることに成功すれば、M&Aで他社に高く売却することも可能なので、今では個人事業M&Aを当初からの目的に起業する個人も増えているのです。
個人事業主と法人、M&Aの違い
では個人事業主と法人、M&Aの違いはどんな点にあるのでしょうか?
以下、2点に絞りその違いについて詳しく解説します。
個人事業M&Aの特徴① 事業譲渡は活用できるが株式譲渡は利用できない
個人事業M&Aでは事業譲渡は活用できるが株式譲渡は利用できません。
一方、法人を対象としたM&Aではどちらも利用可能です。
これが両者の大きな違いです。
株式譲渡は、株式を発行している法人のみ活用できるM&A手法なので、個人事業主では利用したくてもできません。
その結果、個人事業主がM&Aを活用するときには、手法としては事業譲渡のみとなり方法自体が制限されるのです。
一方事業譲渡はM&Aの対象がその事業となるので、事業の全部譲渡から一部譲渡まで売却できる対象範囲を自由に設定できる弾力性があります。
株式譲渡では法人そのものを売却するのでこのような自由はありません。
個人事業M&Aの特徴② バリエーションによってM&A成功率が大きく変わる
法人を対象としたM&Aだと、その会社の持つ資産や事業が持つ価値を株式に置き換えて売買できます。
そのため買い手がその譲渡価格に納得すればすぐにM&Aが成立します。
一方個人事業を対象としたM&Aの場合、事業内容そのものが主として評価されるので、買い手の業種やそのニーズによって評価価値(バリエーション)は大きく変動します。
そのため、売り手の売却希望額と買い手の評価に大きな違いが発生しやすく、M&Aの成功率が法人M&Aと比べてどうして劣りがちになるのです。
個人事業M&Aのメリット
ここでは個人事業M&Aのメリットとして主に4点紹介します。
個人事業M&Aのメリット① 売却金額が小さく取引しやすい
法人M&Aと比べて個人事業M&Aはその事業規模から売却金額も小さく、少ない例なら数百万円から取引できます。
これも最近、個人事業M&Aが盛んに行われている理由のひとつです。
個人事業M&Aのメリット② 後継者問題を解決できる
事業承継における法人の後継者問題は、個人事業主も抱えている同じ悩みです。
親族に対する事業承継がますます難しくなっている状況では、個人事業M&Aは後継者問題を解決できる切り札となるでしょう。
また個人事業M&Aを通じて事業を売却できれば、個人事業主として経営を続けるストレスから解放されるメリットもあります。
個人事業M&Aのメリット③ 個人保証や担保提供の解消が可能
個人事業M&Aを通じて事業を売却することができれば、売却先にもよりますが、債務と引き換えに事業主が抱えている個人保証や借入の見返りに金融機関等に出している担保を解消することも可能です。
個人事業M&Aのメリット④ 創業者利益が得られる
事業を個人事業M&Aを通じて売却することで、売却額にもよりますが、個人事業主が創業者利益を得ることができます。
その利益は事業主の老後の生活資金に使えるほか、別の事業を起業する際の資金としても活用可能です。
個人事業M&Aのデメリット
個人事業M&Aではメリットだけでなくデメリットもあります。
個人事業M&Aにおいて考えられる主なデメリットは以下の2点です。
個人事業M&Aのデメリット① 経営者が変わると事業が成り立たないリスクがある
法人経営と異なり、個人事業はその個人事業主と深く関わりがあります。
個人事業の関係者である取引先や顧客もその個人事業主が気に入って長らく取引を続けているかもしれません。
しかしM&Aを通じて個人事業主が事業を売却してしまうと、同時に経営者も代わってしまうので、これまで忠誠心や親近感から取引してくれていた取引先や顧客も一斉にその事業から離れるリスクもあります。
個人事業M&Aのデメリット② 法人M&Aに比べて買い手が限定される
個人事業M&Aでは法人M&Aに比べて買い手が限定されるデメリットがあります。
法人の場合、組織的にも確立されており、決算毎に事業実績を示す資料もそろっているので、買い手も安心して取引できます。
そのため法人を対象としたM&Aでは買い手の数も多いのです。
一方個人事業主の場合、経営も個人単位で行われていることから、買い手等の外部者から見て分かりにくい点が多々あります。
さらに法人だと複数の事業を経営していることもありますが、個人事業主だと特定の事業しかやっていないので、M&Aを実施してもその事業に関心を持つ相手が少ないことは当初から予想できます。
特に個人事業の中身があまりに一般的過ぎると、M&Aに出しても誰も全く関心を示さない可能性もあります。
これも個人事業M&Aが成立しにくいひとつのネックといえるでしょう。
個人事業主のM&Aの流れ
この章では個人事業のM&Aの流れについて詳しく紹介します。
流れとしては法人を対象としたM&Aと大きく異なる点はないものの、個人事業主特有の点もあり、それらに注意して手続きを進めることが肝心です。
個人事業M&Aの得意な仲介会社を見つける
個人事業を売却することを決めたら、まずは複数のルートを通じて個人事業M&Aの得意な仲介会社を探します。
探すルートとしては、個人事業M&Aの実績と経験がありそうな仲介会社をネットで検索して相談してみる、マッチングサイトに登録して反応を待つ、事業先のある地域の事業引継センターを活用するなどがあります。
いずれにしても個人事業M&Aの成功実績がある業者を見つけることが肝心です。
そして仲介会社が見つかれば、最初に業者と秘密保持契約(NDA)とアドバイザリー契約を巻きます。
また契約締結後には、買い手を募るため、個人事業主は事業の内容が分かる書類を準備して、仲介会社には買い手に見せるための企業概要書を作成依頼します。
企業概要書の作成では、仲介会社に事業の内容はもとより、事業の優位性や将来の収益性も鑑みた売り手の譲渡希望額を盛り込んだ打診書類としてまとめてもらいます。
M&A先の選定と交渉
次の手続きとして仲介会社から買取り候補先を紹介してもらいます。
M&A先の選定では、仲介会社等が持つネットワークや保有する登録先から広く買い手を探し、最終自分の事業に興味を持ってもらいやすい相手を数社絞り込みます。
同時に選んだ複数の買い手に対して、仲介会社経由、ノンネムシート※を示して打診を行い、良い感触とコンタクトを得られた先から順番にさらに詳しい資料(企業概要書)を提供して具体的な交渉へと移っていきます。
この際、M&Aによる情報漏洩を防ぐため、ノンネムシートを見て興味を持った会社とは必ず事前に秘密保持契約(NDA)を締結しておく必要があります。
※ノンネムシートとは、社名が特定されない範囲で企業情報をまとめた匿名資料のこと
売却先、買取り候補先で経営者面談を行う
確実にコンタクトが得られ買い手が絞り込まれた時点で、仲介会社が音頭を取って、売り手買い手の経営者面談を実施します。
この面談では、具体的なM&Aの条件を話し合うのでなく、実際に経営者同士が顔をつきあわせて、事業の将来性や相互の価値観などを確認するとともに、今後のM&Aの交渉相手としてふさわしいかどうか見極めます。
そして交渉相手として相互に納得できれば次の段階へと手続きを進めます。
基本合意書を作成・締結
基本合意書は現時点での交渉内容に相互の合意が得られていることを確認するための契約書です。
そのため基本合意書を締結することで、今後、話し合いがスムーズに行われる効果が期待できます。
またあわせて、M&A成立までのスケジュール、M&A後の従業員等の処遇など、基本的なことを取り決めます。
ただし基本合意書は法的拘束力を持たない文書ですので、今後の交渉やデューデリジェンスの結果次第では、交渉内容が変更される可能性を残しています。
デューデリジェンス(買収監査)を実施
基本合意書が締結されると、次に買い手は売り手に対してデューデリジェンス(買収監査)を実施します。
デューデリジェンスでは、買い手から依頼された財務・税務・法務等の専門家が売り手の個人事業主を訪問して、譲渡側から提示された資料が正しいものか、事前に報告されていない潜在的リスクはないか等、詳しくリスクを洗い出す作業を行います。
デューデリジェンスの結果、開示情報と判定結果に開きがあったときには、事前合意された条件の内容に変更が加えられる場合や、最悪、その場でM&Aが中止されることもあります。
最終契約書の締結
デューデリジェンスで特に問題がなかった場合、いよいよ最終契約書を締結します。
最終契約書とは、基本合意書の内容にさらにデューデリジェンスの結果を反映させた文書のことで、締結することで、最終、全ての条項に法的効力を持つことになります。
一度文書を締結すれば合意内容を元に戻すことが難しくなるため、最終契約書の締結前には、今一度専門家の立ち会いを得て内容を慎重にチェックする必要があります。
クロージング・事業の引き渡しと対価の支払
最終契約書の合意内容に基づきクロージングを行います。
法人M&Aにおける株式譲渡では、最終契約書の締結と譲渡対価の決済が同時に行われることもよくあります。
しかし個人事業M&Aで事業譲渡するときには、事業の引継準備等で最終契約書の締結と決済の間に一定の期間を空けることが一般的です。
そして全ての引継ぎ準備が完了すれば、事業の引き渡しと対価の支払を行って全ての手続きが完了します。
まとめ
個人事業主のM&Aに関して、法人M&Aとの違いやその手続きの流れなどを核として詳しく解説してきました。
本解説が、これから個人事業M&Aを通じて事業売却や事業購入を考えている双方の関係者に参考となることを願っています。
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