【3つの成功事例から学ぶ】中小企業M&Aのメリットと成功パターン

中小企業のM&Aは近年増加の一途ですが、M&Aを契機に大躍進を遂げる企業もあれば、残念ながらM&Aに失敗し最終的には廃業を迎えた企業もあります。

各社それぞれに状況がことなるため、M&Aの成功・失敗を単純に横並びにして比較することはできませんが、それでも成功を手に入れた企業にはいくつかの共通点があることも事実です。

そこで本日は、中小企業のM&Aの中から3つの成功事例を紹介するとともに、その秘訣を探っていこうと思います。

中小企業のM&Aが増えている背景とは

中小企業庁が毎年発表している「中小企業白書」によると、中小企業のM&Aの件数は年々増加傾向にあり、個人事業などの小規模事業者のM&Aでさえその件数が増え続けています。これにはいったいどのような背景があるのでしょうか?まずはその辺りから探ってみましょう。

中小企業の経営課題

中小企業では現在、深刻な人手不足と設備の老朽化が進んでいます。
そのうえ、国際競争の激化により納入単価の値下げを余儀なくされているだけでなく、苦労して開発した新製品でさえ、技術革新による製品ライフサイクルの短縮化によって投資金額の回収すら難しい状況に追い込まれています。

さらに、IoT(Internet of Things)やビッグ データ、AIやロボット等の新技術が 発展しつつあり、今後産業構造が急激に変化する 可能性も指摘されています。

したがって、中小企業がこのような環境の変化に適応できなければ、継継して成長していくことが今以上に難しくなることは容易に予想されます。

引用元「平成30年度中小企業白書」

また、企業規模別にみた1社当たりの売上高の推移を見てみると、大企業を中心として全体的にはここ数年間は増加基調にあるものの、中小企業に関しては、20年前の水準から大きく減少していることが分かります。

中小企業をめぐるこのような厳しい環境を鑑み、事業規模を一気に拡大し大企業に近づく手段として、中小企業間でM&Aが近年活発に活用されていることが推察されます。

中小企業経営者の高齢化と事業承継

中小企業の事業環境が厳しくなっていることに加え、経営者の高齢化と事業承継問題も、中小企業のM&Aを加速させている要因の一つと考えられています。

経営者の高齢化

中小企業経営者の年齢分布をご覧いただくとお分かりのように、1995年には47歳だった経営者年齢のピークは、20年後の2015年には66歳に移動しています。

 

引用元「平成30年度中小企業白書」

また、休廃業・解散企業の経営者年齢構成比を見てみると、70代・80代で休廃業や解散を選択している経営者が増加していることから、経営者の高齢化が進み後継者が不在のまま休廃業などを選択した可能性が高いことが伺えます。

引用元「平成30年度中小企業白書」

中小企業の事業承継

中小企業経営者の平均引退年齢は69歳から70歳前後と言われていますが、下図のように60歳以上の経営者のうち48.7%は後継者不在であることが分かります。

引用元「平成30年度中小企業白書」

このように後継者不在の中小企業のうち一定割合が事業承継問題の解決手段としてM&Aを活用しているものと思われます。

つまり、中小企業を巡る事業環境は年々厳しさを増しており、後継者不在を解決する時間もないまま日々の仕事に追われ、その結果引退年齢に差し掛かった経営者が増えた結果、事業承継問題の解決や老後資金の確保などを目的としたM&Aが中小企業の間で増えてきているものと推察されます。

M&Aのメリット

それではここで、あらためてM&Aのメリットについて整理してみます。そもそも中小企業がM&Aを行うと、どのようなメリットがあるのでしょうか?

M&Aの売り手と買い手に分けて、考えてみましょう。

M&Aの売り手側のメリット

M&A売り手側が何を最も望むのかは経営者それぞれによって違いますが、売り手側のメリットとして共通するものとしては、おもに以下の5つが挙げられます。

  1. 会社を存続させることができる
  2. 後継者不在問題を解決できる
  3. 売却によって創業者利益を確保できる
  4. 従業員の雇用を守ることができる
  5. 個人の債務保証から開放される

①会社を存続させることができる

中小企業がM&Aによって会社を売却する場合、用いるスキームによっては社名や法人格をそのまま残した状態で買い手に引き渡すことができます。

会社の経営権は経営者の手から離れることになりますが、先代やご自身が苦労して育てた会社を消滅させることなく、大手企業の傘下に入ることにより、安定した基盤の下でより一層飛躍させることができます。

②後継者不在問題を解決できる

会社の所有権が買い手企業に移るため、今後も引き続き事業が継続されます。これで後継者不在問題を解決することができます。

③売却によって創業者利益を確保できる

M&Aで会社や事業を売却すると、オーナー経営者はそれに見合っただけの代金を手にする事になります。したがって、長い間苦労して育ててきた労力が報われるとともに、老後資金や次の事業資金の確保ができます。

④従業員の雇用を守ることができる

M&Aによって買い手に経営権が移っても、売り手側の従業員の雇用は引き続き維持されます。したがって、従業員やその家族を路頭に迷わすことなく安心して会社を引き渡すことができます。

⑤個人の債務保証から開放される

事業を行うには金融機関からの借り入れは不可欠ですが、それと引き換えに経営者は債務の個人補償を行います。ですから、経営者はどれだけ個人的に蓄財しても、会社が倒産してしまえばそれらもすべてなくなってしまうリスクに常にさらされています。

しかし、会社を譲渡する場合はその前に個人の債務保証を外すため、経営者が会社の債務を背負うことはなくなります。

M&Aの買い手側のメリット

では次に、買い手側のメリットについて見てみましょう。M&Aによる買い手側のメリットは、おもに以下の4つとなります。

  1. 新規事業の成功確率が自力で行う場合と比べると高い
  2. 事業が軌道に乗るまでの時間が短い
  3. 市場のシェアを拡大し、シナジー効果を発生させることができる
  4. 技術力が向上する

①新規事業の成功確率が自力で行う場合と比べると高い

中小企業が新規事業を立ち上げた場合、その成功率がどれくらいかを資料をもとに推察してみます。まずは下図をご覧ください。

引用元「平成29年度中小企業白書」

新規事業を展開した中小企業1,020社に対して行ったアンケート調査において、「成功した」と答えた会社は292社ですが、そのうち経常利益が増加したのは51.4%となっています。

つまり、新規事業を展開して経常利益を増加させたのは、全体のうち292÷1,020×51.4%=14.7%ということになります。

いっぽう中小企業のM&Aの買い手の成功率は、一般的に2~3割前後と言われていますから、自力で新規事業を立ち上げた場合の成功率と比べると、M&Aの成功率の方がかなり高いと言えます。

②事業が軌道に乗るまでの時間が短い

M&Aは、すでにある程度の実績のある企業を買収対象とする場合がほとんどのため、M&Aを行った翌月から売り上げを計上することができます。

いっぽう新規で事業を立ち上げた場合は、試行錯誤を繰り返しながら知名度を高め、信用と実績を積み上げていかなければなりません。これにはかなりの時間がかかります。

したがって、M&Aによって事業を拡大した方が、圧倒的に時間を短縮することができます。

③市場のシェアを拡大し、シナジー効果を発生させることができる

同業他社をM&Aによって買収することができれば、あっという間に市場のシェアを一気に拡大させることができます。また、同じ事業であれば材料仕入や販売管理を一元化することができるため、コストダウンにより利益率を上げ、シナジー効果を生み出すことも可能になります。

④技術力が向上する

企業が技術力を蓄積していくためにはかなりの時間を要しますが、M&Aにより技術力の高い会社を自社の傘下に置くと、一気に技術力を向上させることができます。

M&Aの成功事例3選

それでは最後に、多くのM&Aの成功事例の中から参考となりそうな事例を3例ほどご紹介します。

成功事例① 従業員の雇用継続を第1条件としてM&Aが成立

売り手側企業・・・A社

  • 業種・・・メッキ加工業
  • 売上高・・・2億円
  • 従業員数・・・10名
  • 社長の年齢・・・80歳

買い手側企業・・・B社

  • 業種・・・溶接加工業
  • 売上高・・・年商10億円
  • 従業員数・・・30名
  • 社長の年齢・・・55歳

熟練の職人を抱えメッキ加工業を営むA社の社長は80歳を迎えましたが、親族内・外ともに事業を引き継いでくれる人物は見つかりませんでした。そこで顧問税理士に相談し、M&Aプラットフォーム(M&Aマッチングサイト)を活用したM&Aにより株式譲渡を行うことを決断。

ほどなく、溶接加工業を営むB社が買い手候補として名乗りをあげました。B社はA社の熟練工員の技術力を高く評価し、自動車用金属部品を加工しているB社の技術力にシナジー効果が発生すると考えました。

A社社長は従業員の雇用継続を譲渡のための第一条件としたため、譲渡額はB社の提示条件を受け入れ、無事にM&Aが成立することとなりました。

M&A成立後にA社従業員は雇用条件のヒアリングを受け、より待遇の良いB社の条件で継続雇用されることに決まりました。

成功事例② 廃業を選択していたものの支援機関からM&Aを提案されたことを期にM&Aに挑戦し無事成功

売り手側企業・・・C社

  • 業種・・・製造業
  • 売上高・・・5億円
  • 従業員数・・・20名
  • 社長の年齢・・・78歳

買い手側企業・・・D社

  • 業種・・・製造業
  • 売上高・・・30億円
  • 従業員数・・・100名
  • 社長の年齢・・・55歳

創業以来40年間製造業を営んでいるC社の社長には子供がおらず、事業を譲る予定の後継者候補もいませんでした。
そんな中、創業以来二人三脚で会社を支えてきた妻が亡くなり、事業継続の気力をすっかりなくしてしまった社長は廃業を検討し始めました。

そんな折に、知人から紹介されたM&A仲介業者から、夫婦二人で作り上げてきた思い入れのある会社をM&Aによって今後も継続させていくプランを提案されました。
もともと社長は廃業で従業員や取引先に迷惑を掛けたくないと思っていたため、熟慮の末M&Aに挑戦することを決断しました。

C社は地元では名のある社歴の長い会社であったため、すぐに買い手候補としてD社が見つかり、無事にC社はD社グループの系列会社として事業を継続していくことになりました。

成功事例③ 赤字であるにもかかわらずM&Aに挑戦し無事成功

売り手側企業・・・E社

  • 業種・・・ホテル事業
  • 売上高・・・10億円
  • 従業員数・・・20名
  • 社長の年齢・・・75歳

買い手側企業・・・F社

  • 業種・・・インターネットメディア運営
  • 売上高・・・20億円
  • 従業員数・・・35名
  • 社長の年齢・・・45歳

E社は社長が1代で築き上げたホテル事業を経営しており、高級感あふれる丁寧なサービスが評判を呼び、業界でも有名なホテルとなりました。
しかし近年では外資系ラグジュアリーホテルの建設ラッシュにより3期連続赤字を計上しており、客足も徐々に遠のいていました。

後継者候補であった長男が昨年事故で亡くなってしまったこともあり、顧問税理士に相談したところM&Aによる事業承継を提案され、まだ体が動くうちにホテル事業の売却を決断しました。

3期連続で赤字であったため同業者の買い手候補は見つかりませんでしたが、異業種を営むF社が買い手候補として手を挙げました。
E社はブランド力はあるもののインターネットによる集客に苦戦していたため、F社の集客技術を転用すればシナジー効果を十分にあげられると考えたためです。

また、E社は3期連続赤字であったため、F社から見ると割安価格で買い取ることができる点もポイントとなりました。

その後M&Aに向けた話し合いは順調に進み、最終的にE社社長は株式の譲渡金額と退職慰労金を受け取り、悠々自適の引退生活を送ることとなりました。

まとめ

中小企業のM&Aは、競争力を高めるたりシェアを伸ばすためだけでなく、後継者不在問題の解決方法としても今後ますますその件数を伸ばしていくことは間違いありません。

今回ご紹介した事例のように、無事成功すれば、売り手側にとっても買い手側にとっても満足のいく結果を手に入れることができますが、必ずしもすべてのM&Aが成功するわけではありません。

M&Aの成功率を少しでも高め、売り手も買い手も満足できるM&Aを行うためには、できるだけ早い段階から準備をはじめ、何でも遠慮なく相談できるアドバイザーを見つけることが大切です。