SDGsが2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択され、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられました。SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略語で、豊かさを維持しながら限られた資源や環境を大切にしていく活動が、現在先進国を中心に世界中で展開されつつあります。
日本国内でもその傾向は顕著になりつつあり、政府や自治体などの後押しもあり、限られた資源を再利用するリサイクル業界の市場は規模を拡大し続けています。
リサイクル業といえばハイブリッド車のバッテリーなどに含まれるレアメタル素材のリユースビジネスから個人向けのリサイクルショップまで取り扱う商品は幅広く、個人レベルでも、メルカリやヤフーオークションなどを使ったリサイクル品の売買が活発に行われています。
そこで本日は、リサイクル業のM&Aについて現状の分析や市場の動向を踏まえた上で、今後の展望について考えてみたいと思います。
リサイクル業界の市場規模
一度使用した製品を安く仕入れ、再利用が可能な状態に復元した上で中古品として販売を行っている事業者は、私たちの生活のあらゆる場面で見ることが出来ます。
その中でも、自動車を除き、衣料品・CD・DVD・古本・ゲームソフト・家具などの中古生活用品を仕入れたうえで再販売している業界をリサイクル業界(またはリユース業界)と言います。
リサイクル業界の業界紙である「リサイクル通信」が2020年に発表した2018年版のリユース業界の市場規模推計によると、2018年のリユース市場規模は前年比9.8%増の2兆1880億円で、前年と比べて2ケタ成長には届かなかったものの、9年連続で右肩上がりで成長を続けていることが分かります。
販売経路別で見ると、店舗販売が前年比0.4%増とほぼ横ばいで推移しているのに対し、ネット販売は14.8%増と伸びており、BtoC市場全体で見ると4.2%増と前年の成長率をわずかに上回っています。
事業者の販売の伸びが鈍化している中、マーケット全体を押し上げているのが「メルカリ」を代表とするフリマアプリの存在です。スマホを中心としたネット販売によるCtoCセグメントは、前年比20.8%増の8343億円に拡大しており、ここ数年安定して高い成長率を維持しています。
また、BtoC、CtoCセグメントにおけるネット販売の合計金額は1兆2152億円となり、店頭販売を上回りリユース市場の半分以上を占めています。このことから、今後のリサイクル業界はより一層ネット販売が主体となって市場を拡大していくものと予測されます。
リサイクル業界の将来性
上述の「リユース業界の市場規模推計2020」によると、リユース業界の市場規模は2020年に2兆5000億円、2022年には約3兆円規模に拡大すると予測されており、新型コロナウイルスの影響でしばらくの間は伸び悩む期間があるものの、中長期的には拡大していくものと考えられています。
日本を取り巻く今後の経済環境は、少子化による人口減少と新型コロナウイルスによる世界的な経済不況により非常に厳しいものが予測されますが、いっぽうで若年層の消費行動はリセールバリューを意識した商品選びにシフトしており、リサイクル業界の将来はCtoCセグメントを中心として拡大していくものと考えられます。
苦戦が避けられない店舗販売
CtoCが今後のリサイクル業界を牽引していく反面、苦戦が避けられないのがBtoCの店舗販売です。同じBtoCでもネット販売と比べると家賃や人件費などのコストがかかる上に、フリマアプリの台頭により個人客の買い取り持ち込み数が激減しているため、業者間仕入が中心となり仕入価格が高騰しています。
このように、小規模リサイクル業者の店舗販売が苦戦している中、大手のリサイクル業者は巨大な資本力を背景に積極的なIT投資を行い、店舗運営の効率化やEC化を推進していくことでこれらの課題を解決し、多店舗化しながらサービスエリアを拡充しています。
したがって、店舗販売中心の小規模リサイクル業者は、CtoCセグメントと大手事業者との谷間に挟まれる形で極めて厳しい状況に置かれることが予測されます。
大手企業とのM&Aで苦境を乗り切る
リサイクル業界の今後の動向は、店舗販売を中心としている小規模リサイクル業者にとって非常に厳しいものが予測されます。しかし、これからやって来る厳しい時代も、決して乗り越えられないわけではありません。
廃業だけは避けるべき
「赤字が出る前に廃業して別のビジネスを始める」と考えるオーナー経営者の方もいるかもしれません。確かに今まで積み上げてきた利益を取り崩しながら赤字経営を続けるよりは、新しい分野へ進出した方がリスクは高くとも成功確率も上がるはずです。
しかし、一見合理的に見えるこの経営判断は、残念ながら決して最善と言えるわけではありません。なぜなら単に廃業してしまうだけであれば、これまで積み上げてきたものが経済的価値に換価されず、すべてゼロになってしまうからです。
また、廃業を選択してしまうと、従業員は雇用を失い路頭に迷うことになってしまいます。
売り手にとっても買い手にとってもメリットの多いM&A
このような状況の中で、多くのリサイクルショップが活用しているのがM&Aです。リサイクルショップのM&Aというと在庫商品の一括売却をイメージされる方が多いかもしれませんが、それはまったく違います。単に在庫商品を売却するだけであれば、売り手から見た場合M&Aを選択しても大したメリットにはなりません。
売り手にとってのM&Aのメリット
M&Aで売り手企業の企業価値を算定するための方法はいくつかありますが、比較的規模の小さい企業では、多くの場合以下の式で算出した金額を理論上の評価額としています。
- 会社の評価額=資産・負債の時価評価額+(経常利益×3~5年分)
仮に、在庫商品が1,000万円で、それ以外には資産や負債がなく、毎年100万円の経常利益を上げている会社であれば、評価額は以下のようになります。
- 会社の評価額=1,000万円+(100万円×3~5年)
上述の計算式をご覧いただけばお分かりのように、単に在庫商品を一括売却するよりも、M&Aで売却をした方が売り手が手に入れる手取り額は増えます。また、経常利益以外にも、店舗の立地の良さや地元での知名度、従業員の人数や質などによっても企業価値は上がる傾向にあります。
買い手にとってのM&Aのメリット
買い手側にとっても、M&Aのメリットは計り知れません。新店舗を自力で出店する場合は、まず出店計画のためのリサーチを行い、次に不動産屋を回り、さらに金融機関からの融資を受け、そして店舗設置のための設備投資を行います。また、並行して従業員の募集と教育も行わなければなりません。
無事オープンした後は、広告宣伝に力を入れ、知名度を少しづつ上げ、利用客を増やしていきます。また、初年度から黒字を出すのは難しいですから、数年間は赤字でも耐えられるだけの体力も必要です。このような努力を何年か繰り返し、利益を出さなければなりません。
しかし、M&Aであればこれらのプロセスのほとんどをショートカットすることが出来ます。
また、M&Aにより店舗数が増えると、さまざまなスケールメリットを出すことも出来ます。たとえば、在庫管理やECコマース用のシステム導入費用の平均単価が下がるため、経費が下がり、結果的に店舗ごとの利益を上げる事が出来ます。
それ以外にも、店舗数が増えればデットストックとなっている在庫を売り切るチャンスも増え、個人客からの買取点数を増やすことも出来ます。
このように、M&Aを上手に活用すると、売り手にとっても買い手にとっても多くのメリットを見出すことができます。
リサイクルショップのM&A事例
では、実際にリサイクルショップのM&Aがどのように行われているのかを確認してみましょう。
中小リサイクルショップのM&A
はじめに、中・小規模のリサイクルショップのM&Aが実際に行われているかどうかを確認してみましょう。
M&Aマッチングサイト大手の「TRANBI(トランビ)」で確認してみます。
こちらをご覧いただけばお分かりのように、数多くのリサイクルショップが売り手として登録されており、その中の何件かはすでに成約しています。
1店舗だけのものから複数店舗までさまざまで、場所も日本中の多くの場所から登録されています。
これはもちろん売り手希望企業のごくごく一部に過ぎませんが、実際にこのような案件は日々掲載されており、実際にその中の何件かはクロージングまでたどり着いています。
中小ばかりでないリサイクルショップのM&A
次に、もう少し大きな規模のリサイクルショップによるM&A事例を確認してみましょう。
新潟県新発田市に本社を置き、中古品のリユース販売業をフランチャイズ方式(一部直営)で全国に展開しているハードオフコーポレーション(東証一部)は、2020年4月1日に、同じく中古品のリユース販売を行う株式会社エコモードに対してM&Aを行い、100%完全子会社化しています。
それ以外にも、元Jリーガー(ガンバ大阪)の嵜本晋輔氏が代表を務めるブランド品などの買い取り販売を行っているバリュエンスホールディングス株式会社(マザーズ)は、同年8月にブランド品・貴金属など中古品買取のNEO‐STANDARD(東京都墨田区)をM&Aにより子会社化しており、同様の事例は以下を含め数多く散見することができます。
- 株式会社オークネット(東証一部)・・・2020年8月、ブランド品買取・販売、オークション運営のギャラリーレア(大阪市)をM&A
- 株式会社ヤマノホールディングス(ジャスダック)・・・2020年4月、和装品リサイクルショップ運営の東京山喜(東京都江東区)をM&A
- 株式会社BuySell Technologies・・・2020年8月、ブランド品買取・販売、オークション運営のダイヤコーポレーション(東京都渋谷区)をM&A
このようにリサイクル業界では、中小企業だけでなく上場企業によるM&Aも活発に行われています。
M&Aにおける企業価値の評価方法について
自社の売却を検討する場合、おそらく一番気になるのは「いったいいくらで売れるのか?」でしょう。最後にこれについて、ざっくりと概略をご説明します。
「いくらで売れるのか?」は相手との交渉次第
M&Aによる会社売買の値段は、まったく知名度のない画家の絵を画廊に売る場合のそれと似ています。相手がこちらを高く評価し、また相手の事業計画などの理由により「この会社をどうしても売って欲しい!」と思ってもらえれば、たとえ割高な価格だったとしてもM&Aは成立します。
逆に、相手がそれほど乗り気でなければ、どれほど素晴らしい会社であっても期待するほどの値が付くことはありません。
つまり、「会社」という一点もののオンリーワン商品は他との比較が難しいため、結局のところ最終的にはお互いのニーズに基づく交渉によって決定されるのです。
交渉の基となる企業価値評価額
会社の値段は交渉次第とはいえ、交渉するベースとして、ある程度の企業価値評価は必ず必要です。その場合にもっとも頻繁に用いられるのが、先程もお伝えした以下の算式です。
- 企業価値評価額・・・会社の清算価額+営業利益の3~5年分
「会社の清算価額」とは、簡単に言うと、今会社を閉めた場合手もとに残る金額のことを言います。リサイクルショップには、棚卸商品や預貯金などの資産があり、いっぽうで金融機関からの借入金や商品仕入れの買掛金などの負債があります。これらを差し引きして正味で残る金額が会社の清算価額になります。
「営業利益」は、決算書の損益計算書を眺めてみると見つけることが出来ます。直近3年分の決算書を用意し、営業利益の平均値を出します。これを3年から5年程度積み上げます。
最後に、会社の決算書では数値化できない(その地域での)知名度や販売網、特殊なノウハウや質の高い従業員などをプラスアルファします。
この3つの条件を合わせた評価額を下敷きとして、交渉が行われます。最終的な売買価格は上述のように交渉次第となりますが、一般的には、この企業価値評価額からあまりにもかけ離れた金額でM&Aが成立することはありません。
まとめ
若い人たちの消費動向や市場の流れを考えると、リサイクル業界は「メルカリ」などを活用したCtoCセグメントが今後の中心となっていくものと考えられます。この流れにリサイクルショップが対応するためには、M&Aによる業界再編は避けられません。
リサイクル業界の今後の企業運営は、M&Aも視野に入れ、より多角的な経営判断が求められる時代が来るようになるでしょう。そのためには、チャンスがあればM&Aを行うための準備が必要です。
M&Aの評価額は、会社の「磨き込み」などを行うことにより、一段も二段も評価額を上げることが出来ます。万が一場合に備え、今のうちから準備だけは行っておく方が良いでしょう。
事業承継の方法や後継者が決まっていなくても、まずは無料相談が可能です。
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