事業承継における問題の本質とその具体的解決方法【中小企業】

現在日本の多くの中小企業経営者は、事業承継問題に頭を悩ませています。
後継者不在のまま経営者が高齢化し、このまま進むことも戻ることもできず、文字通り「待ったなし」の状態です。

しかし、残念ながらまだ解決の兆しが見えたという話は耳にしません。

そもそも、どうして事業承継が必要なのでしょうか?
事業承継をしなければ何が問題なのでしょうか?
また、事業承継が中小企業にとって必要であるなら、解決するためにはどのような選択肢が考えられるのでしょうか?

本日は、中小企業が抱えている事業承継問題の現状とその解決方法について解説していきます。

事業承継を行わないと何が問題なのか?

そもそも、どうして中小企業にとって事業承継が必要なのでしょうか?
事業承継が行われていないと中小企業にとって何が起こるのでしょうか??

事業承継を行わない問題点① 売り上げが伸びにくい

事業承継を適切な時期に行い、経営者の若返りを果たした企業は売上が伸びる傾向にあります。
いっぽう事業承継が進まないまま経営者が高齢化した企業では、売上の伸びが鈍化してしまう傾向にあります。

出典:平成29年10月「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」経済産業省

上図をご覧下さい。
直近3年間の売上高の増加は、経営者の年齢が30代の時に最も高くなる傾向にあります。
いっぽう経営者が高齢化すればするほど売上高の増加率は減少し、70代以上になると、その伸び率は30代の約1/3にまで落ちてしまっています。

事業承継を行わない問題点② 利益率が伸びにくい

事業承継を適切な時期に行い、経営者の若返りを果たした企業は利益率が順調に増えていく傾向にあります。
いっぽう、事業承継がうまくいかず経営者の高齢化が進んだ企業では、利益率の伸びが少ない傾向にあります。

出典:平成28年11月28日「事業承継に関する現状と課題について」中小企業庁

上図によると、経営者の交代があった会社の経常利益率は6年間で3.62%→5.50%へと1.88%増えているのに対し、経営者の交代がなかった会社では同期間の伸びは1.16%にとどまっています。

つまり、事業承継により経営者が若返った企業は、事業承継をしなかった企業と比べると6年間で経常利益の伸び率が約1.6倍(1.88%÷1.16%≒1.62)にもなっていることが分かります。

これら2つの点から、企業が継続的に発展していくためには適切な時期に事業承継を行い経営者が若返りを図る必要があることが分かります。

もちろんこれ以外にも、中小企業の事業承継には社会的な重要性があります。
中小企業の企業数は日本の全事業所数の約99%(小規模事業者は85%)、従業員の雇用に関しては約70%(小規模事業者は約24%)を占めており、中小企業は地域経済・社会を支え、また雇用の受け皿として極めて重要な役割を担ってます。

経営者の平均年齢が平均引退年齢に近づいており、その半数以上が後継者が見つからないため廃業を考えています
もしそれが現実になってしまうと、日本経済は地方から瓦解してしまうため、何としても事業承継を無事に済ませなければならない社会的重要性があるのです。

中小企業が抱えている事業承継に関する3つの問題点

次に、現在中小企業が抱えている事業承継に関する3つの問題点について説明します。

事業承継の問題点① 経営者の高齢化

前章でも述べたように、中小企業の多くは事業承継が手つかずのままで放置されており、その結果経営者の高齢化が進んでいます。

次の図をご覧ください。

出典:平成28年11月28日「事業承継に関する現状と課題について」中小企業庁

中小企業の経営者の年齢分布図を見てみると、この20年間で年齢の山のピークが47歳から66歳へ19歳ほど後退しています。
このことから、中小企業では事業承継がまったく手つかずのままで放置された結果、経営者の年齢が高齢化してしまっていることが分かります。

また、経営者の高齢化にともない、経営者の平均引退年齢も高齢化しています。

出典:2012年11月「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」㈱野村総合研究所

小規模事業者で62.6歳から70.5歳、中小企業では61.3歳から67.7歳へと平均引退年齢が高齢化しています。

しかし、経営者の年齢分布図のピークと平均引退年齢はすでにかなり近くなっているため、あと数年で多くの経営者が引退年齢を迎え、事業承継か廃業かの選択をしなければなりません

事業承継の問題点② 後継者不足

日本政策金融公庫が2016年に行った調査によると、60歳以上の経営者のうち、50%超が廃業を予定しており、特に個人事業者においては約7割が「自分の代で事業をやめるつもりである」と回答しています。

出典:2016年2月「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」日本政策金融公庫総合研究所

その廃業理由としては、「子供に継ぐ意思がない」「子供がいない」「適当な後継者が見つからない」との後継者難を理由とする廃業が合計で28.6%を占めています。

出典:2016年2月「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」日本政策金融公庫総合研究所

このように、廃業予定の約3割の事業所は、子供もしくは社内に適切な後継者が見つからないため事業の継続を断念しようとしています。

なおこの調査では、廃業予定企業であっても、約3割の経営者が同業他社と比べ業績は好調であり、今後10年間の将来性につ いても約4割の経営者が少なくとも現状維持は可能であると回答しています。

出典:2016年2月「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」日本政策金融公庫総合研究所

 

出典:2016年2月「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」日本政策金融公庫総合研究所

このことから、事業承継が進まない企業の経営者の何割かは、業績不振や将来性の問題から廃業を選択しているのではなく、後継者がいないため廃業を選択していることが分かります。

事業承継の問題点③ 廃業数の増加

問題点①と②で経営者の高齢化と後継者不足についてお話ししましたが、その結果起きているのが中小企業の廃業数の増加です。

出典:2019年度版「中小企業白書」中小企業庁編

中小企業の倒産件数は2009年をピークに10年連続減少していますが、その一方で上図のように休廃業や解散の件数は年々増加傾向にあり、年間3万件台から4万件台に推移しています。
この最も大きな理由は、経営者の高齢化と後継者不足のためです。

このように、多くの中小企業では後継者不足により事業承継が進まず、その結果経営者の高齢化が進み、結果として休廃業や解散の件数は年々増加していることが分かります。

中小企業の事業承継が進まない理由

それではなぜ、中小企業の事業承継が進まないのでしょうか?
その理由について、おもなものを3点ほどご紹介します。

事業承継を阻害する問題① 債務の個人補償

中小企業経営者の多くは、金融機関からの借入金の個人補償をしています。
借入金が全額返済出来れば債務保証の問題からも開放されるのですが、多くの企業は一定期間ごとに金融機関からの借入金で大型の設備投資を行っているため、金融機関からの借入金は常に減ったり増えたりを繰り返しています。
ですから事業をしている間は当然、経営者は常に個人補償をし続けることになります。

会社に多額の内部留保が現金預金として残っているのであれば借入金の全額返済も可能ですが、多くの場合返済してしまうと事業資金が枯渇してしまうため現実的には不可能です。

借入金の連帯保証人となるのは誰でも当然ためらうため、親族内承継はもちろんのこと親族外承継の場合も、このような債務の個人補償が問題となり事業承継が進まなくなっています。

なお、個人保証については、こちらの記事でも詳しく説明しています。

事業承継やM&Aで経営者の「個人保証」はどうする?「経営者保証に関するガイドライン」も使ってうまく対処する方法とは!

事業承継を阻害する問題② 資金調達

事業承継を行うためには、法人であれば現経営者から後継者が株式を、個人事業であれば現経営者から後継者が事業用資産を買い取らなければなりません。
子供に事業を継がせる親族内承継であれば、贈与や相続などを活用して実質的には0円で事業承継を行うこともできますが、近年増加傾向にある親族外承継の場合は、後継者が実際に購入資金を調達して株式や事業用資産を買い取らなければなりません。

しかし、業績が順調で、誰もが「継いでみたい!」と思うような会社であればある程、株式の評価額は高くなる傾向にあるため、場合によっては後継者個人で数億円を用意しなければならないケースもあります。

更にこれだけでなく、会社を購入した場合、購入後に支払わなければならないさまざまな税金などの負担も高額となります。

このように、事業承継のための資金調達が難しい場合が多いため、業績が良い会社であっても事業承継が難しくなっています。

事業承継を阻害する問題③ 少子化や価値観の多様化により後継者になりたがらない

日本の戦後の出生率は、第一次ベビーブーム(昭和22年~24年)の4.32を頂点に、第二次ベビーブームを除いて下がり続けており、直近では1.44にまで落ちています(下図参照)。

出典:「人口動態統計」厚生労働省

これから事業承継を行う予定の中小企業の半数以上は親族内承継を希望していますが、出生率の低下とそれにともなう少子化により、そもそも親族内で後継者を見つけることが困難になっています。

また、昔は「子は親の仕事を継ぐのが当たり前」でしたが、価値観が多様化した現在では親の会社を継がないで自分で選択した人生を歩む子供が増えています。

このような理由により、家業を継ぐ後継者を見つけることが困難になっています。

経営者コネクト
経営者コネクトでは、製造業の親族内承継を経験した中小企業診断士やM&A支援経験豊富な公認会計士のチームによる「事業承継支援」・「後継者育成支援」・「M&A支援」プログラムをご用意しています。
事業承継の方法や後継者が決まっていなくても、まずは無料相談が可能です。
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中小企業が抱える事業承継問題の解決策

では最後に、中小企業が抱えている事業承継問題の解決策のうち代表的なものを3つほどご紹介します。

事業承継問題の解決策① できるだけ早めに取り掛かる

企業経営者は多忙な毎日を過ごしているため、事業承継をつい後回しにしがちです。
しかし、多くの経営者が後回しにしてしまった結果、平均退職年齢がすぐそこまで来ているにも関わらず、現時点でも後継者候補を見つけられないでいます。

事業承継を済ませた元経営者へのアンケート調査(下図参照)によると、後継者教育のための期間を3年~5年ほどかけている企業が最も多く、また中小企業経営者の平均引退年齢が約70歳であることから逆算して考えると、遅くとも65歳までには事業承継に取り掛からなければなりません。

出典:2019年度版「中小企業白書」中小企業庁編

逆に言えば、事業承継に早めに取り掛かることができれば、後継者候補を探す時間がじっくりと取れるため、事業承継問題を解決する確率を上げることができます。

事業承継問題の解決策② 資金面の対策を行う

近年の事業承継では、従業員に事業を継がせる親族外承継を選択する経営者が増えています。
親族内承継では後継者の選択肢がどうしても少なくなってしまうため、親族外承継の方が事業承継を成功させるには望ましいのですが、どうしても株式や事業資金を買い取るための資金調達で壁にぶつかってしまい、あきらめざるを得ないケースが後を絶ちません。

そこで、後継者選定および後継者教育と並行し、後継者の資金面調達のスキーム作りと支援を積極的に行い、後継者の株式購入資金の準備をサポートし、資金面での対策を行います。

事業承継問題の解決策③ M&Aを視野に入れる

親族内承継や親族外承継が難しい場合、M&Aを視野に入れることにより事業承継の選択肢を増やすことができます。

M&Aに成功すれば従業員の雇用は維持され、得意先との取引も継続されます。
また、オーナーである経営者も株式の売却により創業者利益を獲得することができるため、リタイア後の生活に何の心配もなくなります。

事業は好調であるにもかかわらず後継者不在により廃業を選んでしまっては、経営者はもちろんのこと多くの関係者が不幸になり、ひいては日本全体の損失にも繋がってしまいます。
ですから廃業を考える前に、是非一度M&Aを視野に入れるべきでしょう。

ただし、M&Aの仲介会社との相性によってはM&Aそのものが不成立に終わる可能性もあります。
仲介会社を選ぶ場合には、必ず3社以上の中から経営者ご自身に合った会社を選ぶようにしてください。

まとめ

中小企業が抱える事業承継問題は、日本が抱えている地域経済の構造的問題とリンクしており、このまま放置しておくと誰にとっても良いことは起こりません。

少子化により親族内承継は難しくなってはいますが、それ以外の方法も考慮に入れれば、選択肢の幅はかなり広がります。

経営者一人一人が事業承継の大切さを理解し、できるだけ早く取り掛かることができれば、この困難を乗り切ることも決して不可能ではないでしょう。

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