「事業承継やM&Aをきっかけに新しいチャレンジをしたい」という中小企業を支援してくれる「事業承継・引継ぎ補助金」。
2つの補助金制度がひとつになり、2021(令和3)年から運用が開始されました。
この記事では、「事業承継・引継ぎ補助金」の基本情報から制度概要(二次公募分)まで、わかりやすく解説していきます。
「事業承継・引継ぎ補助金の申請を検討している」という経営者の方は、ぜひご覧ください。
事業承継・引継ぎ補助金とは?
「事業承継・引継ぎ補助金」とは、事業承継を契機として新しい取り組み等を行う中小企業等や、事業再編・事業統合に伴う経営資源の引継ぎを行う中小企業等を支援する補助金制度です。
2020年まで別々に行われていた「事業承継補助金」と「経営資源引継ぎ補助金」が、2021(令和3)年からひとつになって運用開始されました。
そのため「事業承継・引継ぎ補助金〈経営革新〉」と「事業承継・引継ぎ補助金〈専門家活用〉」の2種類で構成されています。
現在は、「令和2年度 第3次補正予算 事業承継・引継ぎ補助金」が実施されており、7月12日に一次公募の申請受付を終了、7月13日から二次公募の受付を開始しました。
・令和2年度 第3次補正予算 事業承継・引継ぎ補助金 公式ウェブサイト
事業承継・引継ぎ補助金の採択率
「事業承継・引継ぎ補助金」の採択率は、一次公募の申請受付が終了したばかりの現時点では不明です。
一次公募の結果については、2021年8月中旬に公表予定となっています。
ただし、「事業承継・引継ぎ補助金」の前身であり、昨年まで行われていた「事業承継補助金」と「経営資源引継ぎ補助金」の採択率をみると以下のとおり。
事業承継補助金の採択率(2020年)
・Ⅰ型 後継者承継支援型:77%(申請455件、採択350件)
・Ⅱ型 事業再編・事業統合支援型:61%(申請194件、採択118件)
経営資源引継ぎ補助金の採択率(2020年)
・1次採択結果:79%(申請1,373件、採択1,089件)
・2次採択結果:80%(申請690件、採択550件)
どちらも比較的高い採択率となっているため、「事業承継・引継ぎ補助金」も同等となる可能性が高いといえます。
事業承継・引継ぎ補助金の制度概要【二次公募対応】
次に、「事業承継・引継ぎ補助金」の制度概要を、二次公募要領に基づきご紹介します。
[制度概要1]補助金の類型
「事業承継・引継ぎ補助金」には〈経営革新〉と〈専門家活用〉の2種類があり、それぞれに類型が設けられています。
類型と各要件は次のとおり。
〈経営革新〉について
〈経営革新〉は、事業統合を含む「経営者の交代」を契機として経営革新等を行う中小企業者等に対する支援を行うもので、以下の3類型が対象です。
経営革新Ⅰ型:創業支援型
廃業を予定している者から経営資源を引き継ぎ、創業して間もない中小企業者等で、以下の要件をどちらも満たす必要があります。
①創業を契機として、引き継いだ経営資源を活用して経営革新等に取り組む者である
②産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、一定の実績や知識等を有している者である
経営革新Ⅱ型:経営者交代型
事業承継(事業再生を伴うものを含む)を行う中小企業者等で、以下の①~③のすべての要件を満たす必要があります。
①事業承継を契機として、経営革新等に取り組む者である
②産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、一定の実績や知識等を有している者である
③地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業等創業を契機として、引き継いだ経営資源を活用して経営革新等に取り組む者である
経営革新Ⅲ型:M&A型
事業再編・事業統合等を行う中小企業者等で、以下の①~③のすべての要件を満たす必要があります。
①事業再編・事業統合等を契機として、経営革新等に取り組む者である
②産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者等、一定の実績や知識等を有している者である
③地域の雇用をはじめ、地域経済全般を牽引する事業等事業承継を契機として、経営革新等に取り組む者である
〈専門家活用〉について
〈専門家活用〉は、譲渡側・譲受側双方の士業専門家の活用にかかる費用を補助するもので、以下の2類型が対象です。
専門家活用Ⅰ型:買い手支援型
事業再編・事業統合に伴い、「経営資源を譲り受ける」予定の中小企業等であり、以下の要件をどちらも満たすことが必要です。
①事業再編・事業統合に伴い経営資源を譲り受けた後に、シナジーを活かした経営革新等を行うことが見込まれる
②事業再編・事業統合に伴い経営資源を譲り受けた後に、地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれる
専門家活用Ⅱ型:売り手支援型
事業再編・事業統合に伴い、「自社が有する経営資源を譲り渡す」予定の中小企業等であり、以下の要件を満たすことが必要です。
①地域の雇用をはじめ、地域経済全体を牽引する事業等を行っており、事業再編・事業統合により、これらが第三者により継続されることが見込まれる
[制度概要2]補助金額と補助率
「事業承継・引継ぎ補助金」の補助金額と補助率は下表のとおりです。
〈 経営革新 〉
類型 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
創業支援型 | 400万円以内 ※1 | 2/3 以内 |
経営者交代型 | 400万円以内 ※1 | 2/3 以内 |
M&A型 | 800万円以内 ※2 | 2/3 以内 |
※1:廃業費用を活用する場合は「600万円以内」
※2:廃業費用を活用する場合は「1,000万円以内」
〈 専門家活用 〉
類型 | 補助金額 | 補助率 |
---|---|---|
買い手支援型 | 400万円以内 ※3 | 2/3 以内 |
売り手支援型 | 400万円以内 ※3、※4 | 2/3 以内 |
※3 :補助事業期間内に「経営資源の引継ぎ」が実現しなかった場合は、上限額が「200万円以内」に変更
※4:廃業費用を活用する場合は「600万円以内」
[制度概要3]補助対象者
「事業承継・引継ぎ補助金」の補助対象者は、次の9点すべてを満たしたうえで、〈 経営革新 〉では「事業承継の要件」を、〈 専門家活用 〉では「経営資源引継ぎの要件」を満たす中小企業者等です。
- 日本国内に拠点もしくは居住地を置き、日本国内で事業を営む
- 法人の役員が、暴力団等の反社会的勢力でない
- 法令順守上の問題を抱えている中小企業者等でない
- 事務局から質問・追加資料等の依頼があった場合は適切に対応する
- 事務局が必要と認めるときは、各事項につき修正を加えて通知することに同意する
- 補助金の返還等の事由が発生した際、各種費用について事務局が負担しないことについて同意する
- 経済産業省から補助金指定停止措置・指名停止措置が講じられていない
- 補助対象事業に係る全ての情報について、公表される場合があることに同意する
- 事務局が求める補助対象事業に係る調査やアンケート等に協力できる
(〈 経営革新 〉では、さらに「地域経済に貢献している中小企業者等であること」が必要)
〈 経営革新 〉の事業承継の要件
〈 経営革新 〉の補助対象事業となる「事業承継」は、以下の期間に中小企業者等間における「事業を引き継がせる者」と「事業を引き継ぐ者」の間でM&Aなどの「事業の引き継ぎ」を行った、または行うこととし、公募要領の「6.2. 事業承継形態に係る区分整理」で定める形態が対象です。
・期間:2017年4月1日 ~ 補助事業期間終了日または2021年12月31日のいずれか早い日
〈 専門家活用 〉の経営資源引継ぎの要件
〈 専門家活用 〉の補助対象事業となる「経営資源引継ぎ」は、補助事業期間に「経営資源を譲り渡す者」と「経営資源を譲り受ける者」の間で、「事業再編・事業統合」が着手もしくは実施される予定であること、または「廃業を伴う事業再編・事業統合」が行われる予定であることとし、公募要領の「6.2. 経営資源引継ぎ形態に係る区分整理」で定める形態が対象です。
[制度概要4]補助対象となる経費
「事業承継・引継ぎ補助金」の対象となる経費は下記のようになります。
〈 経営革新 〉
人件費、外注費、委託費、設備費、謝金、旅費、廃業費用等(廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費等)
〈専門家活用 〉
買い手支援型:謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料
売り手支援型:謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、廃業費用等(廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費)
[制度概要5]交付までの流れ
「事業承継・引継ぎ補助金」の交付までの流れは、それぞれ以下のとおり。
〈 経営革新 〉
〈専門家活用 〉
〈 経営革新 〉のみ、事業計画などについて「認定経営革新等支援機関の確認」を受けることが必須となります。
締切直前に認定経営革新等支援機関に依頼しても、間に合わない場合があるため、余裕をもって依頼しておきましょう。
事業再構築補助金でも必須の「認定支援機関(認定経営革新等支援機関)」とは?利用メリットや検索システムも解説!
また申請は、補助金の電子申請システムであるjGrantsでのみ可能で、郵送での申請はできません。
jGrantsでの申請には「gBizIDプライム」アカウントの取得が必要となりますので、補助金申請を検討されている方は、早めに取得しておきましょう。
電子申請システム jGrants(Jグランツ)とは?申請手順や注意点、使用する補助金も紹介
[制度概要6]二次公募申請スケジュール
二次公募の申請スケジュールは下表のとおりです。
申請はシステム上で行うため、締切は「8月13日の18時」となっています。
交付決定から12/31までの「補助事業期間」で、〈経営革新〉では「経営革新等」に、〈専門家活用〉では「M&A」に取り組みます。
[制度概要7]事前着手制度
「事業承継・引継ぎ補助金」では、事前着手制度が認められています。
事前着手制度とは、事前着手の届け出を申請し事務局の承認をうけることで、通常は「交付決定日」である補助事業の事業開始日を、「事務局が認めた日」とすることができる制度。
「交付決定日」より前に、補助対象経費についての契約・発注を行う予定がある企業には効果的な制度といえます。
ただし、事前着手が承認されたからといって「補助金の採択が保証されるわけではない」点には注意が必要です。
事前着手を希望する場合は、交付申請時に事前着手の届出事項(「事前着手予定日」、「事前着手を行う専門家等」、「事前着手しなければならない理由」など)を記載してください。
[制度概要8]審査と加点事由
「事業承継・引継ぎ補助金」の審査と加点要件は以下のとおりです。
審査について
〈 経営革新 〉と〈専門家活用 〉の両方で、「資格審査」と「書面審査」の2つの審査が行われます。
・資格審査
主に、公募要領における「5. 補助対象者」および「11. 補助上限額、補助率」に適合しているかを審査します。
・書面審査
「資格審査」を通過した交付申請について、事務局・審査委員会が下記の点について審査を行ない、採択を決めます。
〈 経営革新 〉の「書面審査」
① 経営革新等に係る取組の独創性
② 経営革新等に係る取組の実現可能性
③ 経営革新等に係る取組の収益性
④ 経営革新等に係る取組の継続性
〈専門家活用 〉の「書面審査」
Ⅰ型 買い手支援型
・経営資源引継ぎの計画が補助事業期間内に適切に取り組まれるものであること
・財務内容が健全であること
・買収の目的・必要性
・買収による効果・地域経済への影響
Ⅱ型 売り手支援型
・経営資源引継ぎの計画が補助事業期間内に適切に取り組まれるものであること
・譲渡/廃業の目的・必要性
・譲渡/廃業による効果・地域経済への影響
加点事由について
審査に必須ではないものの、実施すれば加点され、審査が有利になるのが「加点事由」です。
〈 経営革新 〉の加点事由
(1)公正な債権者調整プロセス等を経て、2017年4月1日から交付申請時までの間に、各プロセスの支援基準を満たし、債権放棄等の抜本的な金融支援を含む事業再生計画を策定した場合
(2)「中小企業の会計に関する基本要領」又は「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けている など
〈専門家活用 〉の加点事由
(1)経営力向上計画の承認を得ており、経営力向上計画の承認通知を交付申請時に提出した場合
(2)経営革新計画の承認を得ており、経営革新計画の承認通知を交付申請時に提出した場合 など
[制度概要9]パンフレット・公募要領など
「事業承継・引継ぎ補助金」の二次公募におけるパンフレットや公募要領などをまとめましたので、申請時にお役立てください。
なお、公募要領はそれぞれ72ページ・50ページと大変分量が多くなっていますが、「資格審査」で落とされることのないように、要件などをしっかりチェックしましょう。
〈 経営革新 〉
・パンフレット
・公募要領
・交付規程
・認定経営革新等支援機関による確認書
・必要書類チェックリスト
・被承継者が複数の場合の入力シート
・jGrantsの申請フォーム項目一覧
〈専門家活用 〉
・パンフレット
・公募要領
・交付規程
・必要書類チェックリスト
・jGrantsの申請フォーム項目一覧
まとめ:事業承継・引継ぎ補助金の有効活用を
この記事では、「事業承継・引継ぎ補助金」の基本情報から二次公募の制度概要まで、わかりやすく解説してきました。
ぜひ記事を参考に、「事業承継・引継ぎ補助金」を有効に活用してください。
なお、経営者コネクトでは「事業承継・引継ぎ補助金」と同様に承継後の設備投資等を支援する「事業再構築補助金」の「無料相談サービス」を行っています。
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