【初心者でもわかる!】中小企業の自社株の算定方法と株価対策を知ろう

中小企業の株式はほとんどの場合株式市場に上場していないため、簡単に売り買いすることはできません。
中小企業では株主が経営者を兼ねている場合が多いですが、株式に流動性や換金性がないため、所有者である本人でさえその価値を意識する機会もあまりありません。

「売ることも買うことも難しいんだから、そもそも値段なんてあってないようなものだろう」とお考えの方もいらっしゃると思いますが、実はそうではありません。

中小企業の株式にも株価はあり、その株価が高すぎたり低すぎたりすると、後々さまざまな場面で多くの弊害をもたらすことになります。

そこで本日は、中小企業の自社株の算定方法と、株価対策についてじっくりと解説してみたいと思います。

適正でない株価の何が問題なのか?

中小企業の株式の株価は、後ほどご紹介する算定方法によって算出することができます。しかし、上場企業のように実際に株式を売り買いしているわけではないため、あくまで理論値にすぎません。

そうであるならば、株価が高かろうが低かろうが企業経営には何の問題もないはずです。しかし、実際には多くの場面でさまざまな問題に直面することになります。

相続税が払えなくなる

会社をコツコツと育て上げ、内部留保を積み上げていくと、中小企業の理論上の株価は気が付かないうちにとんでもない値段になってしまっていることがあります。
なかには、純資産価格が資本金の100倍以上になっている会社もあるほどです。

この状態で株主が亡くなってしまうと、相続人は莫大な評価額のついてしまった株式を相続することにり、場合によっては相続税を払うことができなくなってしまいます。

なぜなら、相続した株式は中小企業の非上場株式のため、それを売って現金化したり、担保に入れてお金を借りることができないためです。

事業承継ができなくなる

事業承継をする場合、基本的には次の経営者が株式を買い取ります。
しかし、その株価が高すぎては、誰も買い取ることができません

あえて安い価格で売ってしまうと、相手が個人であれば贈与税が課税され、法人であれば受贈益が計上され、法人税が課税されてしまいます。

企業経営が難しくなる

では逆に、株価が安ければ良いかというとそういうわけでもありません。
株価を安くするためには、企業内の利益を出来るだけ吐き出せば良いわけですが、やりすぎると会社の体力そのものがなくなってしまいます。

具体的には、資金繰りが難しく、将来の設備投資や通常の運転資金さえも金融機関の融資頼みとなり、綱渡りの企業経営を強いられることになります。

このように、流動性や換金性に乏しい中小企業の株価は、高すぎても低すぎてもさまざまな問題を引き起こす要因となってしまうのです。

中小企業の株式の算定方法について

中小企業の株式を評価する場合、まず、その目的によって2つの計算方法のどちらかを選択します。
相続税などの税金を計算する場合は、財産評価基本通達に基づいた株式の評価額を算定します。
また、M&Aにより会社を売却する場合は、DCF法などに基づいた企業価値評価を算定します。

今回は相続などの税金に関する場合ですから、財産評価基本通達に基づいた株式の算定方法について解説していきます。

原則的評価方式と特例的評価方式

財産評価基本通達に基づいて中小企業の株式を評価する場合、まず評価する株式を原則的評価方式で評価すべきなのか特例的評価方式で評価すべきなのかを決めなければなりません。

どちらの評価方式で評価するかは、株式を所有している人がどの株主グループに属するのかによって決められています。
株式を所有している人がその会社の同族株主グループ(=会社の株式の50%超を所有する一族などのこと)であれば原則的評価方式で評価します。
逆に、少数株主に属する場合は特例的評価方式で評価します。

つまり、同じ会社の株式を評価する場合でも、誰が持っているかによって評価方法が変わるわけです。
これは何故でしょうか?

少数株主が特例的評価方式で評価する理由

特例的評価方式で評価する場合、配当還元方式という評価方法で株式の評価を行います。
配当還元方式とは、詳しくは後ほどご紹介しますが、株の配当金からその価値を算定する方法のことをいいます。

会社の50%以上の株式を取得している同族株主グループは経営権を掌握しているため、株主に有利な経営方針などを株主総会で提案することができます。
しかし少数株主の場合、株主総会で議決権を行使しても会社の経営を左右することは出来ず、かといって株式を売買することもできないため、実質的な株式の価値はせいぜい配当がもらえる程度のものです。

そのため、株式の所有者が少数株主の場合は特例的評価方式として配当還元方式が採用されているわけです。

原則的評価方式は3種類

株式の所有者が発行済み株式の50%以上を占めている同族株主グループに属している場合、その評価方法は以下の3つのどれかになります。

  • 類似業種比準価額方式
  • 純資産価額方式
  • (両者の)併用方式

ちなみに、類似業種比準価額方式の方が多くの場合純資産価額方式よりも株価が低くなる傾向にあるため、株式の評価額は評価方法によって以下ようになります。

  • 純資産価額方式>併用方式>類似業種比準価額方式

株価を低く評価できるのであれば誰でも類似業種比準価額方式で評価したい所ですが、残念ながらそういうわけには行きません。

原則的評価方式の場合の評価方法の決め方

では、株式の所有者が同族株主グループである場合の株式の評価方法について、順を追って説明していきます。

手順① 会社規模の判定を行う

非上場株式の評価を原則的評価方式で行う場合、はじめに会社規模の判定を行います。会社規模は従業員数や売上高により以下の5段階に分類されています。

  • 大会社
  • 中の大会社
  • 中の中会社
  • 中の小会社
  • 小会社

まず、対象会社の規模が5つのうちのどれに該当するのかを確認します。

手順② 純資産価額方式か併用方式かどちらかを決める

会社の規模によって、どの評価方式で評価できるのかが決められています。

  • 大会社の場合・・・「純資産価額方式」もしくは「類似業種比準価額方式」
  • 中の大会社・・・「純資産価額方式」もしくは{(類似業種比準価額方式×0.9)+(純資産価額方式×0.1)}
  • 中の中会社・・・「純資産価額方式」もしくは{(類似業種比準価額方式×0.75)+(純資産価額方式×0.25)}
  • 中の小会社・・・「純資産価額方式」もしくは{(類似業種比準価額方式×0.6)+(純資産価額方式×0.4)}
  • 小会社・・・「純資産価額方式」もしくは{(類似業種比準価額方式×0.5)+(純資産価額方式×0.5)}

会社の規模により、純資産価額方式か、もしくは類似業種比準価額方式との折衷方式かどちらかを選択します。

ただし、多くの場合折衷方式の方が株価が低くなる傾向にあります。

このような手順により、非上場株式の評価方法を決定します。

3つの評価方法について

それではここで、3つの評価方法についてもう少し詳しくご説明します。

類似業種比準価額方式とは

類似業種比準価額方式とは、上場している同業種の会社と比較して、会社の株式を評価する方法です。

具体的には、利益額や配当額、そして純資産価額などを比較し、対象となる非上場株式の評価額を算定します。

この方法で評価すると、一般的に株価を低く評価することができます。
理由は、非上場企業の株式は株価対策をしていない企業が多いためです。

非上場企業の株式は上場企業のように時価がないため、気が付かないうちに株価がどんどん高くなっているものが多く、同業種の上場企業と比べると株価が高止まりしている傾向にあります。
類似業種比準価額方式を用いると株価を低く抑えることができるのは、そのためです。

純資産価額方式とは

純資産価額方式とは、「今会社を解散させた場合、株主にいくら戻って来るのか?」を基準に株価を決める方式のことをいいます。

会社の資産を現金化(=時価評価)し、負債も同様に現金化し、それらを差し引きした金額を発行済み株式総数で割ることにより、1株あたりの金額を算出します。

会社の決算書の純資産を発行済み株式総数で割れば、ざっくりとした数字を出すことができます。

ただし、有形固定資産に土地が含まれていた場合は注意しなければなりません。
莫大な含み益がある場合は、その分を時価に換算して計算しなおす必要があります。

配当還元方式

配当還元方式は、上述のように少数株主グループに属する人が所有する株式を評価する場合に用いる評価方法です。
ざっくり言うと、(過去の配当金の実績から)この先10年分の配当金の推定合計金額を株式の評価額とします。

具体的には、過去2年間の配当金額を10%の利率で割り戻して算出します。

株価を下げるメリットと方法について

では最後に、株価を下げるメリットと方法について解説していきます。

株価を下げるメリット

株価を下げる最大のメリットは、相続税対策です。
株価対策を行わないまま放置してしまうと、莫大な相続税を支払わなければならなくなってしまいます。
オーナー経営者の相続人はもちろんのこと、オーナー以外の株主の相続人にも迷惑をかけてしまう場合もあります。

たとえば、父親から譲り受けた会社を長男が経営している場合で、株式の一部を次男が持っているケースを考えてみましょう。
次男は会社経営には関わっておらず、一般の会社員として他社で働いています。

堅実な性格の長男が経営している会社は内部留保をどんどん積み上げ、結果株価がとんでもない値段で放置されている状態で次男が亡くなってしまったらどうなるでしょうか?

次男にもし株式以外の財産らしい財産はなく、その株式が数億円の評価額だったらどうでしょうか?
相続税などとても支払えません。
かといって株式を売ることも買い取ることも高額過ぎて誰もできません。

こうなってしまうと、長男が自社株の評価額に無頓着だったため、次男の家族は滅茶苦茶になってしまいます。

実はこのようなリスクは、目に見えないだけで多くの中小企業に内在しています。
このようなリスクをなくすために、株価を適正な価格まで下げる必要があるのです。

株価を下げる方法

非上場株式の評価方法は、類似業種比準価額方式と純資産価額方式と配当還元方式のどれか(もしくは折衷)を用います。
であれば、それぞれの評価方式から評価額が低くなる方法を逆算して考えます。

方法① 1株あたりの配当金額を引き下げる

1株当たりの配当金額を引き下げることにより、類似業種比準価格方式を用いた場合の株価を下げることができます。
もちろん配当還元方式による株価も下がります。

方法② 利益金額を引き下げる

利益金額を引き下げることにより、類似業種比準価額方式を用いた場合の株価を下げることができます。
利益金額を下げるためには、以下の対策などを行います。

  • 保険金の一部損金算入が可能な生命保険を活用して退職金の積み立てなどを行う
  • 適正な範囲で役員報酬を増額する
  • オーナー経営者が名誉会長などに退き、退職金を支給する

方法③ 簿価純資産を引き下げる

含み損の出ている資産の売却や不良債権の貸倒れを実施し、資産の帳簿価格を引き下げます。
これにより、類似業種比準価額方式や純資産価額方式による評価額を下げることができます。

方法④ 会社規模を変更する

従業員数や取引高などを増やしていくと、会社規模の判定が大会社に近づいていきます。

大会社に近づけば近づくほど、併用方式を採用した場合の類似業種比準価額方式の割合が高くなるため、株価を低く抑えることができます

まとめ

中小企業の株式は上場企業の株式ように日々取引きされている訳ではないため、その株価はついつい忘れられがちです。
しかし、多くの(特にこつこつと真面目に経営されてきた)中小企業の株式は、株価対策をしていないため想像以上に高い値段で放置されているケースが多いです。

このままにしておくと、相続や事業承継で大問題を引き起こしてしまう可能性があるため、できるだけ早い段階から手を打っておくべきです。

本記事でご紹介したように、株価対策を行なうことは十分に可能です。
しかし専門性が非常に高く、また時間もかかるため、自社の株価対策をまだ行なっていない方は、できるだけ早い段階から税理士などの専門家に相談した方がよいでしょう。

適正でない株価の何が問題なのか?

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