事業承継で後継者がいない会社はどうすべき?廃業せず事業承継を成功させる方法

後継者のいない会社が増加しています。

とりわけ中小企業ではこの後継者不足の問題は深刻で、このまま事態を放置していけば、日本経済に影響を与える問題となると言われています。

では後継者のいない会社にとって、現在の経営者引退に向けてが検討できる選択肢には、どのようなものがあるのでしょうか?
会社を廃業せず、何らかの方法で事業を引継いでいくには、会社はどのような準備を行えばいいのでしょうか?

この記事では、後継者のいない会社が取れる事業承継の方法について、その選択肢とメリットデメリット、廃業せず事業承継を成功させるために行うべきことについて、詳しく解説していきます。

中小企業の事業承継における後継者不足の現状

中小企業の後継者不足の現状はかなり厳しいといえます。
以下数字を示しながら、その厳しい実態や、なぜ後継者不足が起こっているのか、その理由について解説します。

後継者不足で事業承継が行えない「大廃業時代」となる可能性も

日本の企業のうち、中小企業の割合はじつにその99%以上を占めています。
そのため地域経済やその雇用を支えているのは、地元の中小企業であるといっても過言ではありません。

ところがその地域経済の核となっている中小企業の多くは後継者問題を抱えており、そのまま行けば近い将来に、後継者不足から大廃業時代となるリスクをはらんでいます。

中小企業経営者の平均年齢はすでに60歳を越えていて、多くが事業承継の時期を迎えています。

しかしさまざまな理由から各社とも後継者不足が深刻化しており、仮に現在、その企業が黒字の状態でも、後継者なしでは近いうちに廃業を選択せざるを得なくなってきます。

そうなると国全体では大廃業時代を迎える可能性が大であり、通産省の試算では、このまま後継者問題が解決しないと、2025年頃までに最大で650万人の雇用と、約22兆円のGDP(国内総生産)が失われるとされています。

後継者不在率は65.2%

この後継者不在の実態を数字で示すと事態の深刻さがさらに浮かび上がります。

大手民間調査会社、帝国データバンクの調査結果によれば、調査に回答した会社27万5千社のうち、じつに65.2%の会社で後継者が不在だと答えています。(2019年調べ)

一方で、経営者の年代別の調査では、2018年以前に比べても全ての年代で後継者不在率が低下しています。
これは後継者不足に対する危機感から、主に国や県、金融機関などが共同して企業に対する事業承継の支援策を進めていることが要因としてあげられます。

しかし依然として実態は深刻で、本質的な問題が解決されていないことに変わりありません。

一方、同調査では別の傾向も読み取れます。

2017年以降に引継ぎができた会社3万4千社からの回答によると、親族内で引継ぎできた割合は全体の34.9%と全項目中、最も数字が高いのですが、基調としては低下傾向が止まらない状況です。

一方で役員・従業員等を後継者とする内部昇格は33.4%、外部から後継者を招く外部招聘(しょうへい)は8.5%といずれも増加基調で、親族間承継から社内外の人材へと承継方法が変化していることが読み取れます。

今後は、親族での後継者不足の現状を背景に、社内外等、第三者への事業承継が進み、会社から会社への売却など、M&A方式の事業承継も新たな選択肢に入ってくるものと考えています。

参照先:帝国データバンク 全国・後継者不在企業動向調査(2019年)PDF版

全国・後継者不在企業動向調査(2019年) | 株式会社 帝国データバンク[TDB]

後継者候補が事業を承継しない理由

では中小企業で後継者が不足している要因について考えてみます。

中小企業の後継者候補といえば、経営者の子息や配偶者、その親族などの親族内承継者と当該企業に勤めている役員・従業員などの親族外承継者が上げられます。

これらの後継予定者がなぜ事業を承継しないか、その理由を、親族内承継者と親族外承継者に分けて、いくつかピックアップします。

親族内後継者候補が事業承継しない理由

  • 経営者から見て次期承継者としての資質や能力を満たす人が親族内にいない
  • 本人がすでに社外の他の仕事に就いている、あるいは本人の家族が反対して後継者となることに同意が得られない
  • 会社規模が零細な上に負債を抱えていて、本人が会社や事業の将来性に不安を抱えている
  • 事業承継時の相続税や贈与税負担に後継者が耐えられない
  • 会社借入金に対する経営者の個人保証の引継ぎに、後継者が難色を示している
  • 後継者となって株式等の相続割合をめぐり親族間での争いに巻き込まれたくない

親族外承継者が事業承継しない理由

  • 本人が後継者として会社を引継ぐ意欲や能力に自信が持てない、また後継者家族からの反対もある
  • 後継者として会社株式や事業資産を買い取るだけの資金がない
  • 後継者が従業員では、金融機関及び取引先からの信頼が得られず関係維持が難しい
  • 社内昇格での承継では、他の役員、従業員の士気低下や内紛を引き起こすリスクがあり、社内の理解を得にくい
  • 親族等の社外株主からも承認を得にくい

後継者がいない会社の事業承継における選択肢

後継者のいない会社、とりわけ事業規模が小さく財務体質の弱い中小企業や零細事業主が取れる選択肢には限りがあります。
それだけにできるだけ早めに事業承継対策しておかないと、次第に選択肢が狭まり最終的に打つ手がなくなってしまいます。

経営者コネクト
なお経営者コネクトでは、製造業の親族内承継を経験した中小企業診断士やM&A支援経験豊富な公認会計士のチームによる「事業承継支援」・「後継者育成支援」・「M&A支援」プログラムをご用意しています。
事業承継の方法や後継者が決まっていなくても、まずは無料相談が可能です。
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この章では、中小企業が取れる代表的な承継対策、及びやむなく廃業を選んだ際に事業者が知って置かねばならない項目について、そのメリットデメリットも含めて詳しく解説します。

事業承継の選択肢①親族内承継(親族内に後継者を探す)

親族内承継とは、文字通り、後継者を親族内に求める承継方式で、その対象者は経営者の子息、配偶者、その他の親族となります。
親族内承継を選んだ場合、考えられるメリットやデメリットは以下の通りです。

親族内承継(親族内に後継者を探す)メリット

  • 後継者が子息等の親族なので、その事実を社内外の関係者が心情的に受け入れやすい
  • 後継者が親族だと、いつも経営者の身近にいるので、承継に向けた準備が長期的かつ計画的に進められる
  • 後継者も自分が将来会社を継ぐことが分かっているので、早めに経営者としての心構えや覚悟ができる
  • 経営者が事前にうまく対策すれば、会社の財産や株式が分散しないので、所有と経営の一体化した承継が可能

親族内承継(親族内に後継者を探す)デメリット

  • 経営者の期待する後継者に適した能力や意欲のある人材が親族内で見つからない
  • 子供や親族にも各々就いている仕事や仕事に対する価値観があり、経営者が後継者になることを希望しても望み通りにはならないこともある
  • 相続権のある親族が複数いると、経営者の突然の死亡で経営者の遺産配分をめぐってトラブルが起きやすく、また会社株式が複数の親族に相続されることで、後継者が会社をコントロールしにくくなる
  • 会社の体力に比べて過大な借入金等の債務があると、借入金等に対する経営者の個人保証を後継者に引継がすことに後継者が難色を示して承継がうまく進まない

事業承継の選択肢②親族外承継(企業内外に後継者を探す)

親族外承継とは、会社の後継者をその会社に勤める役員や従業員に求める承継方式です。
また社外の人材にその候補を求める場合もこのカテゴリーに入り、同業他社の幹部役員などもその対象です。

親族外承継を選んだ場合、考えられるメリットやデメリットは以下の通りです。

親族外承継(企業内外に後継者を探す)メリット

  • 親族内承継に比べて対象者が広がるので、リーダーシップや経営能力のある後継者を見つけやすい
  • 会社業務に精通している候補者の中から選ぶので事業分野の教育や訓練が不要
  • 社内から候補者が見つかれば、経営者交替による大きな経営方針や諸制度の変更が少なく、承継が容易になる

親族外承継(企業内外に後継者を探す)デメリット

  • 親族内承継に比べて経営者と血筋のないルートからの承継なので、社内外の関係者が受入れに抵抗するリスクがある、また受入れ後も社内で派閥が発生するなど、権力争いが起こるリスクを抱える
  • 後継者が会社の役員や従業員だと、しょせんサラリーマンなので大きな蓄えもなく、会社の株式や事業用資産を買取りするときの資金を用意できない、また個人保証の引継ぎも困難を極める
  • 後継者が社内昇格のケースでも、親族内承継同様、後継者の家族から反対されて承継がうまく進まない

事業承継の選択肢③会社売却

会社売却とは売り手側からの言葉で、買い手側からは会社買収となりますが、会社売却はM&Aの一種として、近年、事業承継の大きな選択肢になっている方法です。

代表的な買い手は同業他社、異業種他社、大企業、あるいは個人(資本家)などです。

会社を売却する方法として、株式を売却して会社を他者に丸ごと売ってしまう株式譲渡と、会社業務の一部あるいは全部を売却する事業譲渡があります。

会社売却に伴うメリットデメリットは以下の通りです。

会社売却のメリット

  • 親族や社内に適切な後継者がいなくても、広く候補を社外に求めることができ承継確率が上がる
  • 会社売却により売り手経営者が創業利益を得られる
  • 他の承継方法に比べて、会社売却なら、株式譲渡、事業譲渡、会社分割など、自社の都合を踏まえて、さまざまな方法から選べる
  • あくまで使う手法にもよるが、経営者の個人保証や担保の(根)抵当権等を外すことも可能
  • 会社売却に成功すれば、他社のコントロールの下、事業の更なる発展、社員の雇用維持が期待できる

会社売却のデメリット

  • 会社売却が必ずしも自社の期待通り進むとは限らず、希望より低額での譲渡となることもある
  • 会社売却のうわさが事前に社内に漏れることで従業員の大量退職を招くリスクがある、同様に取引先に知れると信用不安から取引停止の憂き目を見る可能性もある
  • PMI(承継後の経営的統合)がうまく進まず、シナジー効果も薄まってしまう

①~③の選択肢が選べない場合:廃業

経営者がいくら方策を駆使して事業承継の努力をしても、最終的に適切な承継相手が見つからず、廃業を決定しなければならないケースもあります。

廃業とは、会社が抱える負債等を全て精算した後に、会社経営を辞めることをいいます。

しかし廃業を選択する場合でも決して手続きは楽ではありません。
そこには廃業に至るまでの高いハードルが待ち受けています。

この章では廃業に係るデメリット(ハードル)やメリットを紹介します。

廃業のデメリット

  • 廃業に伴い、長年、会社経営に貢献してくれた社員を解雇しなければならない
    ・・・これは経営者にとってつらく最も精神的負担が伴う手続きになります。
  • 社員に対する退職金も別途必要
  • 廃業で長年取引してきた取引先を失う
    ・・・取引先だけでなく、同時に社内で培ってきた経営ノウハウやスキル、のれん等も失います。
  • 商売で店舗を借りていたら、元に戻す費用がかかる(原状回復費)
  • 設備や在庫の廃棄費用、事業用不動産の処理費用等もかかる
  • 廃業しても精算後、会社に借金が残っていたら、借入を個人保証していた経営者が個人の財産から引き続き返済しなければならない

結局、廃業でも手続き完了までに一定の費用はかかるので、費用額にもよりますが、せっかく事業で貯めた貯蓄を吐き出して老後の生活に必要なお金を失うリスクもあるのです。

廃業のメリット

一方廃業によるメリットもわずかですがあります。

  • 廃業により後継者問題から解放される
  • 事業を無理に存続する必要がなくなり精神的負担から解放される

後継者がいない会社が事業承継を成功させるポイント7つ

事業承継の方法やメリットデメリットを理解した上で、最後はそれらの方法を使い、事業承継を成功させるためにやるべきことを解説します。

①事業承継は経営者が元気なうちに早めに取りかかる

事業承継は経営者が元気なうちに早めに取りかかると、成功させられる確率が高くなります。

親族内承継や従業員承継なら時間をかけて後継者を探し育成することができますし、M&A承継でも企業価値を高めつつ落ち着いて適切な買い手を探すことができるからです。

事業承継では経営者の焦りが最も危険です。
焦って事業承継しても結果もろくなことになりません。

やはり早めの取りかかりが大切なのです。

②親族内承継が難しいなら積極的に外部からの人材を登用する

経営者(創業者)なら長年苦労して育ててきた会社をできるだけ身近な親族に譲りたいと思うのは自然の感情でしょう。

しかし前章までに繰り返し述べてきたように、少子化や価値観の多様化等で今は自分の子どもでもなかなか親の思い通りに行かないのが現実です。
まして自分の後継者に据えるとなると、その難易度ははるかに上がってきます。

そんなときには、頭を切り替えて、事業承継の候補者を外部人材に求めるのも一計です。

同業者の中には、オーナー経営者の力が強すぎて、経営幹部のまま、長年一定のポジションに据え置かれて活躍の機会がない幹部もいることでしょう。

でもそのような方に自社の後継者として声をかければ、「待っていました」とばかり、新天地を求めて移籍してきてくれる幹部もいるはずです。

そのような外部人材なら、もともと業界知識も豊富な方なので、あらためて業界の知識を教育して付ける必要もないし即戦力として役立ちます。

③M&Aで売却相手が早く見つかるよう、会社に磨きをかけておく

M&Aで売却相手が早く見つかるよう、日頃から会社に磨きをかけておくのも、事業承継を成功に導くための一手です。

会社を磨くとは、会社の債務を減らしておく安定した利益を出す将来の発展に向け綿密な事業計画を立てておくなど、すなわち日頃から企業価値を高めておく行為をいいます。

そうすれば無理して会社を売却しなくても、買い手が「この会社には魅力がある」「買えば必ずシナジー効果が見込める」と判断して、M&A市場に出せばすぐに多くの競争相手が現れ、期待以上の高値で買ってくれるでしょう。

④M&A承継ではできるだけ多方面に紹介窓口を広げておく

M&A承継ではできるだけ多方面に紹介窓口を広げておくことも、事業承継を成功に導くコツのひとつです。
それには以下のような方法があります。

  1. 信頼できる弁護士・公認会計士等の専門家やM&A仲介会社に早めに相談する
  2. ネットのM&Aマッチングサイトに登録する
  3. 国の外郭機関である「事業引継ぎ支援センター」に相談する

会社売却の意図をむやみやたら公にしすぎると、そこから情報が漏れて信用不安につながるリスクもあります。

しかし信頼できる相手を絞り込み、また秘密保持契約(NDA)により情報漏洩リスクを避けた上で、上記のM&A関係諸機関に相談や登録すれば、事業承継の成功率は上がってくるでしょう。

参照先:中小機構「事業引継ぎ支援センター」

中小企業事業引継ぎ支援全国本部|中小機構 (smrj.go.jp)

⑤M&Aではベストのタイミングを図って会社を売却する

M&Aでは、できるだけベストのタイミングを図って会社を売却するのも事業承継を成功に導くための方策です。

買い手が強く買収の意思を示しているにも関わらず、売り手がM&Aに大きな影響を与えるでもない些細なことにこだわりすぎて、せっかくの売却のチャンスを失ってしまうこともあります。

多少売却条件に問題があっても、まさに売りタイミングと売り手が判断したときには、思い切って売却を意思決定しましょう。

通常レベルの中小企業では売却の好機はそれほど多くはありません。
くれぐれも売却のベストタイミングを見誤ることのないようにして下さい。

⑥相続税贈与税負担軽減のため、事業承継税制を利用する

事業承継を成功に導くためには、事業承継を円滑に行うことを目的として国が用意してくれている制度を活用することも大切です。

事業承継税制がそれに当ります。

事業承継税制とは、承継時に発生する相続税や贈与税の負担の軽減を目的として作られた制度で、承継関係者が一定の条件満たすことで、相続税や贈与税の支払を猶予できたり軽減できたりします。

また平成30年度の税制改正において事業承継税制がさらに拡充されたので、関係者にとってとても使いでが良くなりました。

なお事業承継補助金について詳しく知りたい際は「経営者コネクト」の以下のページもご覧ください。

贈与税・相続税を抑えられる「事業承継税制」とは?メリットから条件・手続きまで解説!

⑦事業承継の補助金や助成金を利用する

事業承継を成功に導くためには、事業承継税制の活用を図るとともに、事業承継に係る補助金や助成金の利用もおすすめです。

事業承継補助金には、代表的なものに中小企業庁が行っている補助金制度があります。

またこの制度では、後継者承継支援型(Ⅰ型)と事業再編・事業統合支援型(Ⅱ型)があり、後継者承継支援型(Ⅰ型)は主に後継者へ事業承継することを想定した制度なので、親族内承継や親族外(役員・従業員)承継のケースが補助金を利用できます。

一方事業再編・事業統合支援型(Ⅱ型)は、第三者によるM&Aの利用を前提に作られています。

さらに事業承継補助金は、国だけでなく、県ベースでも募集している先もあります。

他にも事業者が承継目的に応じて利用できる助成金も多く用意されているので、関心ある方はぜひネットで検索してみて下さい。

国の事業承継補助金に関しては、「経営者コネクト」の以下の記事で詳細に解説しています。

事業承継補助金とは?補助金額・条件から必要な手続きまで詳しく解説!

まとめ

後継者がいない会社の取れる選択肢として、親族内承継、親族外承継、M&Aによる会社売却、そして最終手段としての廃業を取り上げ、それぞれの対応やメリットデメリットを詳しく解説してきました。

また後継者のいない会社が事業承継を行う際、成功させるためのポイントも7点取り上げ、詳しく紹介しました。

これから事業承継を検討の経営者、あるいは現在取組中の経営者の方々の参考になれば幸いです。

経営者コネクト
経営者コネクトでは、M&A支援経験豊富な公認会計士や製造業の親族内承継を経験した中小企業診断士のチームによる「事業承継支援」・「後継者育成支援」・「M&A支援」プログラムをご用意している他、企業価値評価・デューデリジェンスのご依頼にも対応します。
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